少年は旅行をするようです
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少年は剣の世界で城を上るようです 第六層
Side 愁磨
ビィィィッィィィィィィィィィィッィィィィィィ――――――――――!!
「ズェアァ!」
「そぉい!」
「ぬぅううん!!」
ボスが【the Queen of variant】化してから10分。
ドラゴン系や他の昆虫系モンスターと戦った経験を活かし、飛行しつつ高速移動を続ける女王に
戦略的攻撃を続け、その後更に30分集団と個人で攻撃を続けたのだが・・・。
「あったんねぇぇ!ふざけてんのかこいつ!?」
「初代モン○ンのリオだってもう少し降りて来たぞ!」
これが当たらないのだ、ただの一発も。惜しい一撃すら無く。その代わりに、こちらの陣営にも一切被害が
無い事が救いだ。HPバーは、だが。しかし、このSAOでは精神的な疲れは反映されてしまう。
ここまで戦い抜いて来た攻略組だが、先の見えなさにイライラしている奴が少なくない。
アリアに至っては"剣舞"を止めて、攻撃に加勢してしまっている。
28層のボス以来だろうか?・・・あいつは異常に堅かったが、少しずつは減って行ったからまだマシか。
スカッ!
「チィィィイイ!!ヒースクリフ、何とかならんのかあいつ!?動き止めるなり飛び乗るなり!」
「さて、困ったものだ。ここまで速いとは少々予想外でね。
飛んでいるルートは一定だが、複数あり順番はランダムのようだ。法則さえ割り出せれば……。」
「何言ってるかしら、この子ったら。ルートが複数あるのなら一番被る所を教えなさい、よっ!!」
こいつが予想外とか冗談甚だしいな。つーかデスゲーム作るんだったら一枚岩になっとけよ!
まぁ、俺達も解析出来ていない自身も予想外のルートを40分で割り出すとは流石GMだが、まだまだ。
誰よりもイライラしつつ一番攻撃を繰り出すノワールの進言にハッとして、即座に重複地点の洗い出しに
かかり、すぐさまその地点を割り出す。
「"死神一家"!10m前方・3m右・11m上!"血盟騎士団"第一隊!4m前方・1m左・2m上!
第二隊!5m前方・11m右・4m上!"聖竜連合"!第三・四隊!6m後方・5m左!そこに来る時は直線だ。
奴の翅を捥ぐ事に全力を注げ!他の者は四方に散らばり、落ちて来た所を最速で叩け!!」
「待ってましたぁ!」
『『『おおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
ヒースクリフの号令に、消沈していた全軍が決起しそれぞれ言われた持ち場に走る。
・・・俺達だけ持ち場が上空11mってなんだよ。構わないんだが、まさかスキルを把握されていないよな?
だが今は・・・!
―――ゥゥゥウウウウン!
「早速来たぞ!ノワール、合わせろよぉ!!」
「勿論よ、ぜぇぇったい外さないわ!アリア、カウント!」
「ん。・・・・・・いち、にの。」
「「さぁんっっ!!!」」
ドンッ!
号令に合わせ、ノワールがアリアと俺を"投擲"。その先は、飛んで来た女王の寸分違わず真正面。
どうやら決められたルート以外を飛ぶ事が出来ないらしい女王は羽音とも金切声ともつかぬ声を上げ、
今まで後ろに伸ばしていた鎌腕を前に向けると同時。その腕が――黄色に光る。
「両手長剣スキル?……はんっ!」
「・・・む、だ。」
キィィィ――!
鼻で笑った俺の鎌を足場に、同じく両手の武器を銀のライトエフェクトで包んだアリアが前に出る。
―――無限の剣技を内包したと言われるSAO。特にエクストラスキルと呼ばれている、ごく少数のみが
習得している数種のスキルには謎が少なからずあるのだが、アリアの"鉄扇"は最たるものだろう。
何故なら、熟練度800の時点で覚えたスキルは12。その半分以上が――
『キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「・・・"凪枯"。」
シャリンシャリン
「ナ~イスだ娘よ!"色即是空-是"!!」
ザザンッ!
特殊スキル。攻撃上昇バフの"剣舞"、ソードスキルを受け流す"凪枯"。他、特殊な技が5つある。
そしてソードスキルを受け流された女王は強制的にブレイク・ポイントを作られた時と同じく硬
直。
その隙に空中ジャンプしアリアと交代し、羽を狙いX字に切り裂く。
相手の攻撃を弾く・攻撃を防御させる・・・方法は様々あるが、戦闘中に態と"間"を作り、仲間と連携する
高等テクニック、それが『スイッチ』だ。それを空中でやるなど、狂気の沙汰ではあるが。
さて、その沙汰によって・・・。
ドズゥン!
『ガァアッ!』
「早っ!!軍勢別けた意味無くねぇ!?」
「兵は拙速を尊ぶってな!!そら、殴れ殴れ!!」
『『『ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』
ドガドガドガドガドガ! ボコバキズガバゴドズガキッ!
『――――キ』
落ちた女王に50名全員が群がり、今までの鬱憤を晴らすかのようにソードスキルを連発する。
幾らボスとは言えども、そこは昆虫種。女王が踠いていた僅かな間でHPゲージを3割以上削った。
そして起き上がる挙動が見えたと同時、全員が後方に飛び退き、陣営を立て直す。
『キィィエァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「おーおー、怒ってる怒ってる。こんな時はアレだな。『ねぇねぇww今どんな気持ち?wwww』っと。」
「正にそれな。さっきと立場が逆転したなぁ、女王様よぉ!」
「・・・気をつける。こうげき、わからない。」
「アリアちゃんの言う通りだぞ!気を抜くな!」
ボスを煽ってスッキリしてみたが、アリアの言う通り今まであいつは一度も攻撃をして来なかったから、
攻撃パターンが一切分からない。さーて、どう出て来るか――
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
『ァァァアアアアアアアアアッキィェァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
「「「ぉぉおあぁぁ!!?」」」
叫び声を上げて走って来た女王に驚き、戦略など全く考える事無く飛び跳ね避けをする。
さ、最初の攻撃がただの突進ってボスとしてどうよ!?初期層のイノシシ以来でびびったわ!
だがこうなった場合の攻撃は、糸吐きと後ろ手でのソードスキルくらいだと思うんだが・・・。
キィィィ――!
『ギ、ギィ………!』
そう思った矢先、最後部以外の六本の足が赤く光る。矛先が下を向いたままで槍のソードスキル?
両手槍・投擲槍熟練度MAXのノワールが使った事の無いスキル・・・ボス専用スキルなのか!?
ドウッ!
「飛ん――「全員離れなさい!!シュウ、キリト!飛ばすから六本全部迎撃するのよ!」
「良く分からんが了解!」
「あ、ああ!」
残りの二本と鎌腕を使って、飛行中よりも高い位置までボスが跳躍。
全員が迎撃しようと身構えたが、ノワールの喝に反応し広間の端まで離れる。
あそこまで焦るとはとんでもないスキルかと勘繰るが・・・言われた通り仕事しないとな!
「行くわよ!2・1!」
ドンッ!
「キリト!俺は右半分だ!」
「ったく、ボスのスキルを迎撃しろとか無茶言いやがるなぁ!」
キィィィィィィ――――!
冷や汗をかきながら、しかし俺と同じく獰猛な笑みを浮かべ、片手剣から眩い青いライトエフェクトを
放つキリト。こいつも好き者だな!そりゃそうか、こんなゲームのトップを好き好んで突っ走っているんだ。
狂っていないとやってられないよなぁ!
「ハッハァ、行くぜ!"色即是空-空"!!」
ザゥンッ!
「人に乗ってスキル撃つとか頭おかしいぜ…!"バーチカル・スクエア"!!」
ボボボボッ!
『ギィイイイ「叫んでいる暇があるのかしらぁ?"ディル・アーバレス"!!」
ズドォン!!
「"クライスト・クロス"!!」
ドズゥン!!
ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーー!!』
俺の縦一閃、キリトの四連撃で六撃を受け切り、落ちて来るだけの的となったボス。
そこへ打ち合わせ通りのノワールの大砲の様な一撃と、瞬時に合わせたヒースクリフの盾の打撃が入る。
超速の重攻撃とアッパーを受けた巨体が予定より長く滞空した事により、スキルを打ち込みやすくなった!
ダンッ!
「肩借りるぞキリトォ!!」
「使ってから言うんじゃねええぇぇぇ――――」
フェードアウトして行くキリトに自分でも分かる意地の悪い笑みで返し、上昇が止まった所で、こちらも
僅かな滞空。ボスの美女顔より少々高い位置で対面したところで、今度は最高の微笑をプレゼントしてやる。
「やぁ、こんにちはお嬢さん。今度お茶でm『バァァァアアアアアアッ!』……お断りか、残念。」
キィィィィィィ――――!
お誘いの言葉に裂帛の気合で答え、女王は勢い良く左右の鎌を振りかぶり、今度は薄紫のエフェクトに
包まれる。鎌スキル、ね。まぁ形状から言って予想はしてたが。
「アリアー、応援よろしくなー!」
「・・・もう、やってる。」
「いい子だ!」
ギィィィィィィィィィィィィィィイ――――
ボスのスキルは"輪廻転生"、本来ならば回転しつつ360度を切り裂くスキルで、空中では範囲半減だ。
とは言え二本の鎌で左右から迫るそれは、差し詰め猛獣の咢だろう。
対する俺はアリアの応援を受け、血塗られたような真紅のエフェクトに包まれた鎌を、死の宣告と高々と
振り上げる。スキルの発動モーションを認証した戦鎌は、今までよりも濃い紫のライトエフェクトと
発動音を放つ。先にアリアの"鉄扇"を特殊と呼んだが、俺の"戦鎌"を表すなら・・・幻想だろうな。
「"奥義"―――!」
―――ィィンッ
エフェクトが鎌に吸い込まれ、3m超の巨大な紫のビームサイズと化す。
"戦鎌"熟練度900で習得した二つの"奥義"の一つ。"色即是空"シリーズを対応した順に発動して行く事で
使用可能になるソードスキル。ノワールが天よりの一撃、ヒースクリフが聖剣、アリアが可愛いならば、
この一撃は・・・決まっている。
『ァァァアアアアッ!』
ヒュヒュンッ
「"真・色即是空"!!!」
ド ン ッ ッ ! !
死神の判決と評すべき一撃は蟲の抗いをも切り裂き、その体を頭から貫いた。更にそのまま地面へ落とし、
縫い付ける。チラリと見たHPバーは先の攻撃もあって、もう一合すれば消し飛ぶだろう。
さて、どう挙動が変化すr
ドガッ!
「ぐぅっ!?」
「シュウマ!?」
離れようとしたとほぼ同時、認識出来るギリギリの速度の攻撃を受け、入口付近まで吹き飛ばされる。
神速と言えよう横からの一撃を防げたのは勘以外の何物でもなかったが、HPが半分になった。
・・・全く、生身なら一回死ぬだけで済んだものを。いや、そもそも効かないか。
「ちょっと、幾らVIT無視のステ振りだからって防御して半分は無いでしょう……。」
「速度補正ありあり過ぎんだろ……殆ど見えなかったぞっとぉ!!」
ボッ!
再度高速で吐き出された蜘蛛の糸玉を横っ飛びで避け、彼我の距離を測る。
―――大凡40m。速度重視のノワール(このボスパーティの中で最速だろう)でも攻撃範囲に近づくには
1.5秒以上かかる。奴が相手を発見し迎撃するには十分な時間だ。
「残り一割……ノワールの投擲槍がクリティカルか弱部ヒットで一撃だな?」
「流石に隙の一つも無いアレに中てる自信は無いわよぉ?困ったもの、ねっ!
誰か私の為に犠牲にならないかしらぁ?犠牲になられてもそれは困るのだけれど!」
ガキンッ!
随分優しいなこの女王様はと思ったが、まさかそんな奴がこのパーティに居る筈も無く。
どうしようか悩んだその時、後ろの扉が開いた。まさかの事態にヒースクリフさえ目を向ける。
そこから走り込んで来て集結する・・・その数実に30名以上。姿は漆黒、立ち込める気は昇り龍。
重装兜の間から見える目は修羅の様相。そしてその装備には一様に黒い翼の印。まさか、こいつら!?
ザンッ!!
「彼の日より暗影冥漠と化したこの世界に絢爛と現れた、我らが赤星!ノワール様の一槍の白業とならん!
今こそ我ら此岸より彼岸へ渡る!須臾の働きなれど、武功は千代八千代と語られよう!」
『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』
「我ら"華厳金剛夜叉明王"、これより参陣致す!」
一見して最上級相当と分かる装備を総員に装備した、攻略組と同等の力を持ったギルド。
こいつらが噂に聞いていたアイドルプレイヤーギルドの"ノワール親衛隊"・・・本当に存在しているとは。
全員が重装備でノワールに心酔・・・取れる作戦は―――
「シュウ!アリア!キリト!アスナ!ヒースクリフ!エリゴール!そして私の槍達!
それ以外は全員下がって防御陣形!行くわよ、者共。全員構えなさい。」
『『『イエス・ユアハイネス!!』』』
「………このテンションについて行かなきゃダメなんですか?団長。」
「気にするな、アスナ君。アレについて行けたら色々終わりだよ。」
ヒースクリフが失礼な事を言ったが、テンションが上がったノワールは全く聞こえていない様子だ。
そして、最前線に残った攻略組きっての上位7名と黒鎧の集団が、ボスへ突撃をかける。
「各々好きにやりなさい、攻撃は私達が防ぐわ!アリア、剣舞!」
「・・・はい。」
「いっくわよぉ!突撃ぃぃぃぃぃーーーー!!」
『『『うおおおおぉぉあおおあおあぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』
キィィィィィィ――――!
『ヒェギュァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
――ォウッ!!
各々が武器を光らせ突撃を仕掛けると同時、女王蜂も脚を全て使って高速の体当たりを仕掛けて来た。
先頭を走っていた俺とノワールが左右に分かれて、鎌と槍をバットの様に振りかぶる。
発生したライトエフェクトは共に薄い青。"体術スキル"と"杖術スキル"を習得している事により
使用出来るようになる技・・・!
「「"ガウハル・サドマ"!!!」」
ガギィン!
『ガグッ……!ゲ、ガァァァ「"サンドライト・マーガットォォ"!!」「"スター・スプラッシュ"!!」
ザザザザザザザザンッ!
「"ソレムネ・サザンクロス"!」「"エクス・レヴァンティン"!!」
『『『"ソニック・ストライク"!!!』』』
ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!
所謂フルスイングで撃ち返されたボスは僅かに後退し、そこへキリトとアスナの八連撃が同時に入る。
続けてヒースクリフの十字とエリゴールのX字の斬撃が押し留め、槍の四連撃が複数のガトリングが
発射されたが如く、女王を貫いた。そして、終劇。
『―――ァァァァアア!』
パキャァァァァァァァン
ついに女王のHPバーは消え、洪水と思えるほどの青いポリゴンとなって消え去った。
最後の一欠片が消えるまで広間は暫く静まっていたが、誰からとも無く溢れたのは―――
「「「ぶっはぁぁぁぁぁあぁあああーーーー!!疲れたぁーーー!!」」」
「しんっどぉ!あと二日はモンス見たくも無いよぉー!」
溜息を皮切りに、出て来るのは愚痴・文句・罵倒・愚痴・愚痴愚痴愚痴愚痴………。
俺だってしこたま疲れたのだから同感だ。モンスター、特に蟲系は一ヵ月も見たくない。
さーて、なんか良いものドロップ・・・・・・してないか。
このゲームに物欲センサー実装されてないだろうな?武器いい加減店物から代えたいんだけどなぁ。
「つーか、お前……さっきの技、なんだよ?ビームだろ、ビーム。」
「空中でスキル撃ってた、しなぁ……!バグキャラかよお前は。」
「”戦鎌”の奥義スキルと”曲芸”のスキルだよ。”体術”と”軽業”持ってれば習得できる。」
「簡単に言うけどなぁ………。」
グッタリ疲れながらも俺にスキルのネタバラシを迫ってくるキリトとエリゴール。
戦力が合って困る事は無いから、明かせるところは全部明かしているんだがな。
ノワールとアリアの方にも武器が落ちていない事を確認し溜息をついた所で、近づく姿が一つ。
「シュウマ様、少々よろしいですか?」
「様、て……いや、俺にはそんな呼称いらないけど。何か?」
ノワール親衛隊・・・もとい"華厳金剛夜叉明王"の先頭に立っていた男が俺に話しかけて来た。
兜を外すと、そこから金髪ロングの綺麗な髪が広がり、現れた顔は実に端正な・・・
・・・・おん、な、の子ですかそうですか。名前も良く見れば雪って女の子ですね。
「実は先程ドロップした中に……如何なされましたか?」
「や、このゲームってフルフェイスタイプの兜被ると声が口籠るんだなーって新発見しただけ。」
「?そうですか。それで、先程のドロップ品の中にボスドロ武器らしきものがありまして。」
戸惑いつつアイテムをストレージからドロップすると、彼女の手に淡い光が現れ、武器の形になる。
まず左右に棒状のものが伸び、次にその両端から僅かに湾曲した長短の鋸の様な刃が生える。
濃い紫色を基本色に、妙にカラフルなそれこそ―――
「か、鎌じゃないですかーー!!」
「ぅえっ!?え、ええ。名前は"フェガリケラヴノス"となっています。現状、あなた以外使えない
武器ですし宜しければ差し上げますが……?」
「マジで!?ホントに!?やったーー!ネージュたん愛してるーー!」
新武器が手に入った嬉しさでそこら中をスキルの力も借りて飛び跳ねていると、トレードウィンドウが
現れる。勿論OKを押して、所持金の半分を叩き込む。ネージュたんは額を見て驚いたのか吹き出し、
俺とノワールの顔をあわあわと見比べる。それに気づいたノワールは微笑一発。
顔をそれこそ暁の如く真っ赤に染め、ロボットのような動作でokを押した。
早速ストレージに入った武器を装備フィギュアに移動し、今装備している鎌と交換する。
背に現れたそれを抜き、我流の型を一通り試してみる。
ヒュンッ!
「うん、最高に重くていい鎌だ!これなら……。」
「おーい、49層のアクティベート終わったぞー!」
新しい鎌の手応えを試していたら、気の早い奴らが次層への転移門を開いて次の街へ転移して行く。
ネージュたんにそれぞれフレンド申請を送って、俺達もそれに続き転移門へ入る。
表示されている名前は・・・『ミュージェン』か。音楽っぽい街だと楽しそうだな。
「さーて、行くか!」
「元気ねぇ……。しばらく休んでも問題ないと思うんだけど?私もうぐったりよ。」
「・・・むし、いないなら・・・いい。」
乗り気なのはどうやら俺だけのようで、うちの女性陣は渋々な上非難囂々といった感じだ。
それもいつもの事なので、生返事で済ませて転移する。
視界が光に包まれ、次に晴れた時に見えた風景は飽きるほど見たボスの間とは打って変わり、
赤と白が基調の派手な街並みに、タンゴでも踊れそうな軽快な音楽が響いている。
「あら、中々いい所ね。ただ……今の気分ではないわね。」
「それには超同意。街の名前も分かったし家に帰るか。」
「・・・ん。」
アリアが眠たげに目をこすったのを合図に、来たばかりの転移門を使いミーシェに戻る。
そのゆったりしたBGMに俺達も眠気を誘われたのと同時、崩れ落ちたアリアをキャッチ&おんぶして、
牧場道を歩いて行く。・・・あまりの平和さに、先程の戦闘すら忘れてしまう。
「戦うのも楽しいけれど、こうしてるのも良いわよねぇ。そのうち何処か遊びに行きましょうか?」
「あぁ、それもいいな。後でサチに聞いて見よう。」
「ど、どうせなら水場が良いわよね?水着作れる職人ってどこかに居るわよね!?」
「はいはい、そういう魂胆ですか……。そっちはエギルにでも聞くよ。」
だらしなくなった顔のノワールを少々置いてけぼりにして、アリアを寝かせるべく早足で帰る。
嵐の前の静けさ、とな。まぁ、一度通ったのだから少しくらい待って欲しいものだ。
願わくば、だけど。
Side out
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