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自殺をしたら魔王になりました

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第一部 異世界よこんにちは
第一章 僕は死んだはずなのに
  第二話 神様よこんにちは

 
前書き
第一話から既に、かなりの時間がたっているのですが、ようやく更新です。

鈍亀更新にもほどがあるのですが、ようやく第二話です。

そして、低クオリティー(TT) 

 
「ここが、死後の世界か?」

 気が付くと、僕は見知らぬ場所に立っていた。

 あたり一面が真っ白で、何にもない空間。立っていると思っていた地面もそこにはなく、どうやら浮かんでいるような状態だ。

「自殺したんだから、ある意味で本物の地獄が見られると思ったんだけど」

 期待はずれかな、なんて笑ってみると不意に視線を感じた。さっきまで誰も居なかったはずなのに、そう思いながら視線を感じた後方へと振り返る。

 そして、こちらを伺っていた視線の主に、僕は思わずこう聞いてしまっていた。

「……だれですか?あなたは」

 そこにいたのは、共に長い白髪と白髭を生やし、いかにもな感じの杖をもったお爺さんがいたからだ。よくよく、漫画とかに出てきそうな神様だとか仙人とか、そんなお爺さんだ。

「ふぉふぉっふぉ」

 訂正。耳が遠くなってきた老人が一人いた。きっと、こちらの質問は聞こえていないのだろう。そう考え、僕は老人を思考から追い出し、再び元の方向へと向き直る。と言うか、ふぉふぉっふぉ、ってなんなんだろう。普通はふぉっふぉっふぉ、とかじゃないんだろうか。

「これも、地獄の一つなのかな?」

 何もない空間に、僕と見知らぬ老人が一人。それも、どうやら耳が遠いようで会話は成立しそうにない。ここが本当に地獄かは分からないが、心地のいい空間でないことだけは確かだ。

 それともこのまま、ここにいれば順番に閻魔様のところに呼ばれていくのだろうか。それなら、ここは一時待機場所ってことになる。いや、閻魔様のところに行くのなら、賽の河原から三途の川を渡り、その後に会うことになるはずだ。そう考えると、今の考えは間違っていることになる。まあ、そもそもこの話自体が本当かは知らないけれど。第一に、これまで聞いてきた死後の世界なんてものは、死んだことのない人たちが考えているものなのだし。生きている人間が、死んだ後のことなんて分かるはずがないのだから。

「これこれ、無視するもんじゃなかろうに」

 僕が思考の海に沈みこんでいると、先ほどの老人から声をかけられた。ただし、しっかりと会話が成立するかは怪しいが。

「何か用ですか?お爺さん」

 振り向きざまにそう声をかけると、用があるから呼んでいるんじゃ、と言われてしまった。そして続けざまに。

「お主は、生き返りたいと思うかの?」

 自殺した人間に対して、普通ならありえないだろう質問を投げかけてきた。だから。

「いえ。思わないです」

 もちろん、即答でそう返事を返した。なぜ、こんなことを聞いてくるのか全く意味が分からない。この老人は、また生きたいと思っているのだろうか。だから、この歳で死後の世界と思われるこの場所に来た僕に、ある種の仲間意識でも持ってしまったのか。あるいは、ただの哀れみか同情か。後者ならば勘弁願いたいところだ。死んでまでこんな感情に晒されるのは不愉快極まりない。

「もう一度、以前のように、いや、それ以上に格闘技が出来るようになると言ってもそう答えるかの?」

「っ……なにを言ってるんですか?」

「ふぉふぉっふぉ。僅かに、間が空いたの」

 僕が一瞬言い淀んだのを、この老人は見逃すことなく突いてくる。

「なら、生き返りたいと言ったら生き返してくれるんですか?」

 生き返せるのなら、やってみればいい。人間にそんな力はないし、それに、どうせもう身体はスプラッターな状態になっているんだから、生き返った瞬間にここへ舞い戻るのがオチだ。

「じゃがお主の身体は、なんとも惨い状態になってしまっているようじゃの」

「なら生き返っても、格闘技どころか生きることすらできませんね」

 僕が指摘をする前に、老人自ら僕の身体のことについて触れてきた。けど、なんでこの老人は僕の死んだ姿を知ってるんだ。

「身体が使い物にならないなら、もう一度作り直せばいいだけじゃ」

 今のようにな、と老人は僕を杖で突きながら言う。

 身体を作り直すといったか。この老人は、僕の身体はもともと作り物だったとでも言いたいのだろうか。小説やゲームならともかく、僕は父と母の間に生まれたれっきとした人間だ。僕が人間でないとしても、人間を媒体としたホムンクルスなんてものは夢物語もいいところだ。そんな技術は存在はしないし、まず、人道的に認可されることもありえないだろう。クローン技術というものは実際にあるが、それでさえ、人間への転用は認められていない。たしかに日本国内では植物や動物の実験で成功したと、何年も前のニュースで取り上げられたこともあったがそれだけだ。人間への転用については、今も昔も代わらずに根強い反対意見があり禁止されている。つまり、僕は人間以外の何者でもない、紛れもなく人間だということだ。

「お主は、もう少し頭が切れると思っていたんじゃがな……」

 盛大な溜め息と共に、また杖で僕を突いてくる。

「さっきから、ツンツンと何なんですか?さすがに、鬱陶しく感じてきましたよ」

 ボソッと、分からんのか、と言って肩をすくめて見せた老人は、今度は僕にハッキリと聞こえるように言葉を発した。

「お主は、立っておるのか?」

「地面があれば立つんでしょうね」

 足場がないのだから、浮かんでいるような状態だとは理解している。

「お主は、ワシと話しておるのか?」

「今まさに会話していると思いますが?」

 意味が分からない。話しているのは誰が見ても明らかだろう。

「お主は、生きておるのか?」

「死んでますよ」

 生き返りたいかと、老人のほうから聞いてきたのだから、死んでいるのは老人も知っている。つまり、無意味な質問。

「お主は、死んでおるのか?」

「質問の意味が重複してますね」

 自殺したばかりなのだから、生きているはずがない。先ほどと同様に無意味な質問。

「ならなぜ、実体としての身体を持っておるのかの?」

「っ!なにを言って……」

 老人の言葉が耳に入った瞬間、僕は一瞬で血の気が引いたように感じた。コンクリートの地面に直撃し、身体がひしゃげ、骨々が砕け散り、脳髄を撒き散らした僕にはありえない感覚。しかし、実際には顔は青ざめていることだろう。僕には今確かに身体があるのだから。

「ふぉふぉっふぉ。青ざめてしまったのう」

「ど、どういう事ですか。これは」
 一度死に、ないはずの身体が僕にはあり、僕の生前を知っているこの老人は何者なのか。その答えを、僕は持ち合わせてはいない。持ち合わせていないからこそ、そう質問する以外に選択肢なんてなかった。

「先ほども言ってであろうに。転生じゃよ、生き返りじゃよ。そのために、お主の身体を作り直したのじゃからのう」

 僕を突いていた杖を戻しながら、老人はさらに言葉を続けていく。

「お主を生き返らせて転生するのじゃ。本来は輪廻転生にまかせ次生が決まるのじゃが、自殺しよったからのう。餓鬼道に落ちて行くところを捕まえておいたのじゃ。最近、自殺する者が多すぎるんじゃよ。このままじゃと、餓鬼道界から魂が溢れてしまうでのう。自殺者は無理やり転生させてバランスを保っとるのじゃよ。そもそも、お主らのいう輪廻転……」

「つまり、僕の転生は決定事項で、すでに身体は作り直したと」

「人の話を聞かぬのうお主は」

「それはお互い様ですよ。僕の意思を聞いてきたのに、それを尊重する気は皆無でしょう」

「ふぉふぉっふぉ。それはそうじゃのう、たしかにお互い様じゃのう」

 僕が指摘しても、老人は長い白髭をさすりながらのん気に笑っている。

「ただし、お主を元いた場所に返すことはできんからの。あの世界でお主は死んだんじゃ、それは変わらぬ事実じゃからの」

 老人がそういった瞬間、僕の足元になにやら幾何学模様の円形が現れる。そのさまは、アニメや漫画で見るような魔方陣そのものだ。それが今まさに出現し、なにやら青白い光を発しながらゆっくりと回転している。

「ふぉ?これはこれは、なかなか愉快じゃのう。ふぉふぉっふぉ」

「なにが愉快なんですか。また説明もなく、なにかするんですか?」

 老人に質問している間にも、魔方陣のような何かは光を強めながら加速していく。

「これに関してわしは関係ないのう。どこぞの者が、お主を召喚しようとしておるだけじゃよ」

「召喚?」

「そう召喚じゃよ。転生が気に入らなければ、そのまま応じれば良いではないかの?どこに通じておるかは分からんがのう。ふぉふぉっふぉ」

 この老人に無理やり転生させられるのが嫌なら、召喚に応じろということか。これも、老人の仕込んだことなのかと勘繰ってしまうが、魔方陣が出現したときの反応を見る限りでは、予想外の出来事のはずだ。まだ、聞かなくてはいけない事は多々あるのは事実だろう。だけど。

「召喚に応じますよ。これ以上、掌の上で踊らされるのは趣味じゃないですから」

 この、召喚に老人が関係していないのなら、召喚先が分からないという言葉が真実なら、これで老人との関係は終わるのだ。本来は、もう一度死を選びたいがそれを許すとは思えない。それなら、老人が何か仕込む前に、さっさと召喚されてしまいたい。

「ふぉふぉっふぉ。そうかの、そうかの。ならば“汝が求めに応じる”と唱えれば召喚されるからのう」

「汝が求めに応じる」

 聞くが早いか、僕がそういった瞬間。魔方陣はより一層光を強め速度を上げていく。そして、青白い光に視界が遮られていくのと同時に、足元から身体が魔方陣に飲み込まれていく。特別、恐怖というものはないが、自分の身体が消えていくさまは不思議な感じがある。早々と飲み込まれた脚は感覚だけはあるというのに脚自体を認識できない。そして、残っていた感覚も薄れていく。それはまるで、捕食されていくような気分にさせられるのだ。

 そして、ついに後は頭だけとなったとき、先ほどまで黙っていた老人の声が聞こえてきた。

「おぬしの身体は、これまでの身体ではないからのう。まずは慣らすようにの、いろいろと」

 そんなことを老人が言ってくるということは、身体を作り直したというときに何かしらの細工を施したのだろう。それはつまり、何かを仕込まれる前に召喚に応じてしまおうという僕の計画は最初から破綻していた。ここでもやはり、僕には運がなのだ。 
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