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徒然なるバカに

作者:節子
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素直な人間が全て善良な人格者だとは限らない



先ほどの彼の発言から、意図的に防犯カメラに映らないよう犯行に及んだことは間違いない。

まさかこの白皇学院に設置してある防犯カメラの場所を全て把握しているとでもいうのだろうか。

「ここに通い始めてもうすぐ1年になるしな、防犯カメラの場所くらいわかるよ」

呆れた。

まさかのまさかだ。まさか本当にすべて把握しているとでも言うのだろうか。

「あなたね、それを自慢気に言うのはやめなさいよ」

「別に自慢気になんか言ってねえよ。おれは自分のプライベートを脅かされないようにしてるだけ」


人のプライベートは脅かしているのによく言うわよ。

相変わらずヘラヘラしている彼を横目に、私は先日泉から渡された防犯カメラの録画記録に目を通す。なにか見落としていたところがないか、と再度目を通すが対した情報も得れず、謎は深まるばかりだ。


「それか?防犯カメラの記録って」

ヒコッ、と彼が顔を覗かせ、画面に目をやる。

「そうよ」

「へー。おまえよくこんなつまらないもの延々と見てられるな」

「見たくて見ているわけじゃないわよ。仕方なくよ」

そう言う私を他所に、画面に目をやる彼はいつになく真剣な表情だ。

このくらい真剣に授業を受けてくれればなにも言うことはないのだけれどね。

彼の授業態度は良くない。授業全般、全てにおいて寝ており、たまに起きていると思えば、なにやら奇妙な行動をしている。幾分、生活態度よりは幾分許し得るところがあるのだが、周りに迷惑をかけているのは間違いない。


「随分と真剣に観ているのね、なにか気になる点でもあるの?」

普段の彼からは感じられないほどの真剣さに疑問を抱き、口にする。

「いや、なんも」

真顔でそう言う。

「気にしようにも情報が少なすぎる」

と、彼も困ったという表情。

「でもまあ……大体の目星はついたかな」

「え?」

虚を付かれた私は続けて言う。

「でもあなた、なにもわからないって……」

「わからないとは言ってねえよ。でも情報が少ねえのは確かだし、確証なんて微塵もねえけどな」

そう言う彼の表情は相変わらずのヘラヘラ顔。

気に食わない。

「勿体ぶらずに言いなさいよ」

「勿体ぶるぶらないも、確証がもてないって言っただろ?確かじゃない情報なんて百害あって一利なしじゃないのか?」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

めずらしく痛いところを付かれた。

確かに、あの映像を見ただけで有益な情報が得られるとも思えない。けれど、

「それでもなにか思うことがあるなら言いなさいよ!」

千里の道も一歩から。どんなに小さな情報だろうと、今この状況を打破するには必要なことなのだ。

「思うこと、か……」

意味有り気に言葉を濁す彼。

「危険かもしれないぞ?」

「構わないわ」

そんなこと百も承知だ。

泥棒。犯罪者を相手にするというのだ、危険が伴うことくらいわかっている。

「相変わらずたくましいこと」

嫌味っ垂らくいう彼は何処か満足気。

「まあ、行動に移すのは放課後、んー夜中の方がいいかな」

「夜中!?」

「そ、夜中」

何故そのような時間帯を。わけがわからない。

「……説明しなさいよ」

彼に説明を求めるのはなんとも屈辱的なことなのだが、こうなったら仕方ない、恥を偲のんで聞くことに。


「説明もなにもねえって。なんとなくだよ、なんとなく」


彼はそれだけ言うとエレベーターのボタンに手を掛ける。

「ちょっ!なんとなくって……なんとなくで納得なんて出来るわけないでしょ!?」

「だから何度も言ってんだろ?おれだってまだ確証も確信も持ってねえんだって」


ーーおれだってなんとなくで動くんだよ


彼は上ってきたエレベーターに乗る。

「まっ、その固い頭で精々考えてな」

最後に彼はそう捨て台詞を吐いて、下って言った。


「んーーッ!!」

彼がいなくなったせいか、このどうしようのない感情を何処かへぶつけるわけもなく、押し殺す。

相変わらずなにを考えているかわからない。

短絡的に物事を考えていると思えば、そうでもない。だからといって反証的かと言えば、そうでもない。ただ自分が感じたことを感じたまま行動に移しているだけなのだろう。俗に言う、素直、ということだろうか。

性格は素直どころか捻くれてるけどね。

彼のさきほどのなにかわかったであろう物言いが頭によぎる。

「あぁ……むかつく」


私はイライラしながら時計に目をやる。

時刻は午前8時。

もうすぐ朝のHRの時刻だ。

急ぐ必要はないのだけれども、ひとまずこの件に関しては保留にし、私は自分のクラスへと向かうことにした。 
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