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徒然なるバカに

作者:節子
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チートキャラって本当どうやったら倒せるのか。

「おい!瀬川!」

「ほえ?」

昔のことを思い出し、振り返っていた時、彼の声でふと、我に帰る。

「ほえ?じゃねーよ、どしたのよ?また立ち止まったりして」

気持ち悪りぃな、と続けて言う彼はいつもと変わらない様子。

「むむ。女の子に気持ちが悪い、なんて言うもんじゃないよ、優太くん」

「だって事実だったし。それに急に立ち止まって、にへらーっとした表情浮かべてたら気持ち悪いだろ」

「に、にへらー、なんてしてないよッ!」

してたよ、と彼は一言。

「それに、なんか今日変だぞ?急にうわの空になったと思ったら、にへらーってするし」

この彼の歯に着せぬ物言いは、たまに本当にイラッとくる。誰のせいでうわの空になるのか、少しは自分の行動を見直して欲しいものだ。

「だからにへらー、なんてしてません!」

そうか?と彼は怪訝な顔で言う。

「ちょっと昔を思い出してたの。そう!思い出し笑い!」

「昔?」

「そう、昔。優太くんが入学して来た時のこと」

「は?どして?また急に」

と、不可思議な顔をする彼。

「どうしてって……どうしてかな?」

「いや、質問に質問で返されても」

「まあ、いいじゃないか♪ふと、思い出したのだから♪」

そうかいそうかい、と興味がなさそうが言ってくる。

むッ?その対応はないんじゃないかな?

明らかにあたしの話を右から左へと流しているようす。相変わらずのその態度、出会った時から同じであろう適当放漫なその仕草を見ていると、なぜこのように人をあたしは、気にかけているのか不思議に思う。

「おまえらとつるんでからろくなことありゃしねえよ」

「え?なんで?」

さっきほどの話の続きだろうか、興味なさげにしていると思えば、急に話を戻してきたり、意味ありげな態度をとっていると思えば、特に意味がなかったり。相変わらず掴み所のない人だ。

「いやだって、おまえらとつるんでから厄介ごとが増えた」

「……」

相変わらず彼の言う言葉には度肝を抜かれる。

「楽しいことをするのはいいけど、面倒ごとに巻き込まないで欲しいよ、まじで」

もうなにを言っているのかわからない。

「ん?どした?」

「いや、白皇学院の歩くトラブルメーカーがなにを言っているのかな〜、って思って」

苦笑いを隠せていないであろうあたしは、頬をポリポリ書きながら言う。

「だからなんども言うように、おれはトラブルを起こすのは好きだけど、トラブルに巻き込まれるのは嫌いなわけ。わかる?」

と、得意げに言うもんだから本当に困ったものだ。

「いや、優太くん……。それはよくわからないし、たぶん一生わかりえないことだと思うよ……」


ーートラブルに巻き込まれるのは嫌だ。

と彼はよく言う。

その他にも彼がよく口にする言葉がある。どれをとっても天邪鬼な人がいうような言葉だ。だが、その言葉でさえ、彼が言うと信念に聞こえ、貫き通すだろうと、思えてします。

彼の言葉には他の人とは違う何かがある。それは友達の美希、理紗、それに雛菊ですら気がついている。傍若無人の彼の対応、唯我独尊の彼の行動、歯に着せぬ物言い、どれをとっても人と分かち合えるはずのない自己中心的なはずの彼なのだが、不思議と彼の周りには人が集まる。

雛菊曰く、お山の大将でも気取ってるんじゃないの?とのことだが。大将、という言葉が彼には当てはまらない。人の上に立ち、手本になり、導く、そんな人格者ではないのだ。リーダーシップなんて微塵も存在しないし、ましてや協調性のカケラもない。自分の興味のないことならば1ミリたりとも自分からは行動せず、関わろうとしない。

なのに周りには人が集まる。

なぜか?

それは至って簡単な話なのだ。

なぜなら、彼、高橋優太は、他の人が面倒、と思うことを率先し、やろうとするのだ。本当に根っからの天邪鬼気質なのだろう。周りからしたら願ったり叶ったりのその気質、あたしは疑問に思い、聞いたことがあった。なぜ、そのような面倒ごとばかり引き受けるのか。そして、彼が答えた言葉は至って簡単。


ーーだって、そっちの方がおれを止める奴いないじゃん


空いた口が塞がらないとはこのこと。企画外れの思考の持ち主。彼は自分からする、といったことの全てに対してトラブルを起こす過程として考えているのだろう。

彼がここ、白皇学院で起こしてきたであろう事件、トラブルはすでにかなりの数になっているであろう。数十件、もしくは数百件は起こしいる。些細なものから大掛かりなもの、小規模なことから大掛かりなことまで。ありとあらゆる手段、方法で周りを巻き込んでいる。

周りの教師は呆れ果て、手の施しようがないなく、傍観に回っている。

「にしても、本当に優太くんはびっくりすることばかりするよねぇ」

「そりゃ、するからには全員、全ての生徒の度肝抜かないとな」

と、当たり前のようにいうのだからすごい。

「でも、最近じゃ教師たちがなんもしてこねぇからつまんねえんだよなー」

「いや、そりゃ年がら年中監視、なんて真似できないしねぇ……」

「別に年がら年中監視なんてしなくていいんだよ。てか、年がら年中監視なんかされたら溜まったもんじゃねえわ」

嫌そうな顔をして言う彼。

「先生たちに止めて欲しいの?」

「そんなわけねえだろ。でも教師たちが少しでも止めに入らないとおれの起こした問題は全て桂に処される。それが気に食わない」

「あぁ〜!なるほど!」

「あんな化け物と対1で戦ってみろ。希望も野望もあったもんじゃない」

「現に優太くん、ヒナちゃんから逃げ切ったのなんて最初の何回かだもんね」

過去のことを振り返り、笑みを交えて話す。

彼曰く、逃げ切ってこその勝利、だそうだ。問題を起こしといて勝利もへったくれもありはしないのだが。それが彼の美学なんだろう。

「だから教師たちには少しでも頑張ってほしいわけよ」

あんな化け物より普通の教師たちの方が遥かに勝率が高いしな。と言葉を続ける彼。それには関しては否定しない。

もちろん教師、一般生徒からしたら大の大人たちだ、真っ向勝負で分が悪いのは生徒のほうにあるのは一目瞭然。だがしかし、普通の教師と問題を起こすためだけに学校に来ている生徒なら、どうだろうか。それはなんとも言えない。時と場合にもよるだろう。だからこそ高橋優人が有利なのだ。自分の好きな場所、タイミングで問題を起こされ、すぐさま雲隠れされてしまっては溜まったものではないのだ。教師たちと言えど普通の人間、超人的な肉体、頭脳を持ち合わせていないと不利だ。だからこそ彼は教師たちにわざわざ出向いて欲しいのだろう。

彼が入学してから怒涛の1ヶ月が流れた。白皇学院であちこちで起こるトラブル。その8割が、彼、高橋優人が起こしたものだからだ。問題を起こしては周りを煽り、自分という人間の存在を周りには知らしめ、逃げ切る。そのようなことをやっていたのですぐさま彼のことは学院内ほぼ全域に広がった。教師との壮絶な鬼ごっこをしては余裕綽々で、最後は逃げ切る彼を周りは囃し立てた。入学して1ヶ月あまりで、彼はすでに英雄気取りだった。

だが、学校とは本来勉学に勤しむ場。教師たち以外に彼のことを快く思っていない生徒が少数でもいたのは事実だ。そして、そのひとり、白皇学院生徒会の頂点に君臨し、生徒の頂点にも君臨する生徒、桂雛菊は快く思っていない生徒のひとりだった。彼の行き過ぎた行動、言動には彼女からしたら目に余るものがあるとのこと。たまたまクラスも同じ、ということで幾度と注意をしていたが、彼はあの性格の持ち主、そんな注意などには聞く耳を持つわけもない。

そんな彼と彼女がぶつかるのは時間の問題だった。彼の問題の後始末は教師たちに変わり、彼女がすることに。

後に彼はこう、彼女のことを語る。


ーーあれはずっこいって。チートの域だろ、あんなの。


最初の方こそはなんなく逃げ切れていた彼だが、それがいけなかった。負けず嫌いの彼女の心に火をつけてしまったのだ。それはというもの彼女は決して彼を捕まえては始末書を書かせている。その数はすぐさま3桁は越えたであろう。


「でも優太くん、あれだよね?始末書はきちんと書くもんね」

あたしは素直に思った疑問を彼にぶつける。彼なら始末書なんてものを書くとは思えなかったからだ。

「そりゃ、おれが負けたんだから書くもんは書かんと、フェアじゃないだろ」

「優太くんが言うとなんかすごい違和感を感じるね……、あはは」

彼の言葉はいつにもましてズレており、理解に苦しむ。

そんなこと思うなら端から変なことしなければいいのに、と。

彼の中ではあの暴動、喧騒も雛菊との勝負の一環なのであろう。だからこそ、勝ち負けがついた時点てやることはやり、約束は守り、素直に負けを認めるのだろうか。

「まあ、始末書は書くけどおれは負けたとは一度たりとも思ってねえけどな」

前言撤回。彼も雛菊と同じ、極度の負けず嫌いだったのだ。


負けず嫌いで、傍若無人で、デリカシーがないけれど、子供みたいに笑う彼を見ていると、やはり気にかけている自分がいるのがわかる。


「あッ!そうだ、瀬川!おれ用事思い出したから帰るわ。あとは任せた」

と言うと否や、彼は逃げ去るようにあたしの前から姿を消す。


あたしは制止を求める言葉を発することもできず、彼の姿を見失ってしまった。

「あはは……、なんであたしはあの優太くんのことを気にかけているんだろう……」

声にするはずのなかった言葉が口から漏れた。

 
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