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一つ一つの力

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第二章


第二章

 その麻紀について行くとその白いあちこち薄汚れた猫の前にしゃがみ込んでいた。そしてすぐにその猫を抱きかかえたのであった。
 それを見て美幸は。困り果てた顔で彼女に言うのであった。
「制服が汚れてしまいます」
「汚れたっていいわ」
 しかし彼女はにこりと笑って美幸に言葉を返した。
「別に」
「いいと言われましても」
「だって服が汚れても洗えばいいだけでしょう?」
 その猫を抱きかかえての言葉である。見れば大きく特に可愛くもない。しかし彼女はその猫の可愛さやそういったものを見ているのではないのであった。
「それだけで済むでしょう?けれどこの猫の命は」
「それでは」
「私が育てるからいいでしょう?」 
 そして今こう言ったのである。
「御飯だって私が買うし」
「それでは本当に」
「この猫はどう見ても困ってるから。だから」
 言葉を続ける麻紀であった。
「お家にね。連れて行くわ」
「そうですか。わかりました」
 ここで遂に美幸も折れたのであった。少し溜息を吐き出したがそれでも頷いたのであった。
「いいでしょう。旦那様と奥様には私からお話しておきます」
「有り難う、美幸さん」
 麻紀は笑顔で彼女に言った。そうしてそのうえでその猫を自分の家に連れて行った。すぐにその身体を洗いそれから乾かして。御飯もあげるのだった。
「途中にペットショップがあって何よりでした」
「洗えたし御飯も買えたし」
 その女の子そのものの広い部屋の中であの猫を見ながら美幸に言う麻紀だった。洗われた猫は今はその麻紀が差し出した奇麗な容器の中の御飯と水を一心不乱に食べ飲んでいる。どうやらこれまでかなりお腹が空いていたらしい。見れば身体はかなり痩せている。
「これでいいわね」
「そして旦那様と奥様に携帯で連絡したのですが」
「何て仰ってるの?」
「いいそうです」
 こう麻紀に述べたのであった。
「その猫を家で飼っても」
「そう。よかった」
 その言葉を聞いて満面の笑みになる麻紀だった。
「御父様も御母様もわかって下さったのね」
「はい。ではその猫は」
「私が責任を持ってね」
 育てると言うのだった。ここでも。
「そうさせてもらうわ」
「そうですか」
「お小遣いはいつもたっぷり貰ってるし」
 お金には不自由していないのであった。
「だからね」
「それではその猫の名前は」
「白いからホワイトにするわ」
 言いながらそっとその首に首輪もかけるのであった。だがまだそこに名札は付けられてはいなかった。そうした意味でこの猫にはまだ名前がなかった。
「それでどうかしら」
「いいと思います」
 名前については特に何も言わない美幸だった。
「それでは。そのように」
「これから色々買わないといけないわね」
 麻紀は優しい目でまた言うのだった。
「ホワイトが寂しかったり退屈しないように」
「はあ。そうですか」
「猫の為の遊び道具とかベッドとか」
 ペットショップでちらりとみたそうしたものを思い出しての言葉である。
「そうしたのもね。買ってね」
「お嬢様が全部お一人でですか」
「だって私が飼うって決めたから」
 その決意はあくまで忘れないのであった。
「絶対にそうするわ」
「わかりました。それでは」
 美幸は彼女のその言葉を受けて頷いたのであった。
「お嬢様が思われるままに」
「ええ」
 こうして彼女はそのホワイトと名付けた猫を飼いはじめた。しかしそれはそのホワイトだけに留まらず次から次に猫を拾ってきたのであった。何時しか屋敷の中は猫だらけになってしまったのだった。
「美幸さん、これはまた大変ですね」
 屋敷の中に仕事で入って来た町田は苦笑いを浮かべて美幸に告げてきた。灰色の運転手の制服とズボンが彼女のそのプロポーションによく似合っている。
 
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