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Meet again my…

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Ⅲ マザー・フィギュア (3)


〈麻衣side〉



 起きた時はベッドで寝てました。

 いくら寝汚いあたしとはいえ意識のないままナルのベッドを占領するなんて恐ろしいマネはできないよ。きっとナルがソファーで寝ちゃったあたしを運んでくれたんだろう。

 てことは、ナルは外から帰ってきたってことだ。よしよし。

 ここで起きるのも、もう2回目になるなあ。この世界に来てから3日か。
 みんな、心配してるだろうな。ナルは……心配とかより、疑問に思うんだろうな。途中で変にナルと分かれた形になっちゃったから、あは、簡単に想像できるや。

 ごろりと一回転。

「今、何時だろ……?」

 目を擦りながら起き上がって気づいた。
 この部屋、時計もカレンダーもない。よく見たら隅に開封前のダンボールが何個もある。来日したばかりってことは、ここにも入居したばっかりなんだ。

 あたしは着けっ放しだった腕時計を見る。……10時過ぎてる。

 ナルはあのまま外で夜明かししたのかな? あのナルならそのくらい普通にやりそう。朝ご飯、ちゃんと食べたかしら。




 居間に出ると、ナルがソファーで寝てました。あわわ。ごめん!

 寝室にとって返して毛布を取ってくる。リビングに戻って寝てるナルにそっと毛布をかけた。ナルは起きない。初日は近寄っただけで飛び起きて飛びかかってきたのに。ひょっとしたら夜に外に出てから徹夜してて、疲れてるのかも。

 今なら起きない、かな?

 そっと。本当にそっと、ナルの頬に手を添えてみる。冷たい。
 ……そらそーだ。2月のリビングが寒くないわけなかった。暖房点けよう。
 ええっと、リモコンリモコン。あ、あった。ポチッとな。

 よっと。眠るナルのとなりに腰を下ろす。昨日のこともあるし、念のためちょっと距離を空けておく。

 寝こけてたあたしを運んでくれたナル。昨日も食事をしろと言ってくれたナル。



 なぜなの?
 なぜこんなふうに優しさのある人が、人殺しなんてするの。
 それとも、優しいから、家族を殺した奴を許せないの?


 実の親の仇を憎み続けてきたナル。
 人殺しになるんだって言ったナル。


 考える。考える。ぐるぐるぐるぐるぐる――――ぐぅ。

 ……シリアスぶち壊しだよこんちくしょうめ。

 こんな状況でも人間って空腹になるからやんなっちゃう。

 あたしは台所へどかどかと向かった。冷蔵庫を開ける。昨日買い足した食材がいっぱい。こんだけあれば大体のものは作れる。寒いし、野菜いっぱいのスープでも作ろうかな。

「――あれ?」

 なーんか引っかかる。
 あたしが見た日、冷蔵庫にはほとんど食べ物がなかった。あたしはいつも通りの考え方として、ナルだから食に興味がないんだろうと思った。

 本当にそうなの?

 考えを最初に戻してみろ。あのナルはあたしの知ってるナルじゃない。家族の仇を10年も一心不乱に追ってきた男だ。

 極端に食べ物と調理器具のないダイニング。未開封の引越し荷物。個人の持ち物が並んでない部屋――

「帰らないつもり、だったの?」

 何もかも、彼がここを「家」じゃなく「住居」としてしか見なしていないことを示してるみたいで。

 そうだよ。ジーンが殺されたってことは、ナルだってもちろんそうなる可能性はあるわけで。むしろ、修業してるって言ったって、学者と陰陽道のプロじゃ戦って負けて殺される確率のほうが高いじゃないの。

 ぺたん、と冷蔵庫の前で床に座り込んだ。
 じわじわ視界がにじんでく。あたし、泣きそうなんだ。だって。だって。分かっちゃったんだもん。



       自分が手を汚さなければ自分を守れないケースもあるんだ。



「……ウソツキ」

 だったら何であたしを庇った。匿った。危険だと分かってて外出した。

 あたしを守るために貴重な法具を使い捨ててくれたナル。
 日高を殺すって発言に怯えたあたしから距離を取ったナル。

 ――どうやったって、あたしの好きな人。




       麻衣は僕が黙って日高に殺されるのを待てと?





 それはつまり、何もしなきゃあのナルのほうが死んでしまうということ。
 あたしのナルとは違うけど、でも、ナルが死ぬことはすごく悲しい。あってほしくない。だから、泣きそうなんだ。

 ……あたしは、バカだ。

「あたし、ほんとにナルが好きだなあ」

 今になってそんな当たり前のことに気づくなんて。
 好きだから、死んでほしくない。
 死なせないために、安部日高って女が代わりに死ななければいけないなら、あたしがどっちを取るべきか、最初から決まってた。

「こんな簡単なことも分かんなかったなんて」

 立ち上がる。冷蔵庫から野菜とお肉を引っ張り出す。

 謝るのは、ちょっと無理っぽい。やっぱり人殺しはイケナイコトだから。謝ってあげられなくてごめんね、ナル。
 それでも、あたしはあんたが好きだから、あんたを生かす側に回るよ。

 
 

 
後書き

 ちょっと麻衣っぽくないかもしれません。展開が強引なのは自覚しておりますがこのままゴーマイウェイで。
 次からまた「彼」視点です。
 余談ですが、タイトルは一応意味重視でつけております。特にこの章なんかネタバレタイトルです。 
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