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賭鬼

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第三章


第三章

「!?おう」
 誰かと思い彼に声をかけた。
「便所今なら空いてるぜ。行きな」
「便所!?」
 しかしその影は留蔵の言葉にこう返してきたのだった。
「便所!?そんな所には行かないぞ」
「!?じゃあ何でこんなところにいるんだよ」
 思わぬ返事に首を捻る留蔵だった。
「酔い醒ましかい?それとも気分展開かい?」
「留さんは何処だい」 
 影は急にこう尋ねてきたのである。
「ちょっと用があるんだがね」
「留さん!?」
 影のその思わぬ言葉に留蔵は首を捻ってしまった。
「留さんっていうとあれかい?八百屋の岩上留蔵さんかい」
「そうだよ」
 影はこう留蔵に返してきたのだった。
「その岩上留蔵さんだよ」
「そうかい」
「その人を探してるんだけれどね」
「そりゃ俺だよ」
 こう言うのだった。
「俺だよ。何か用かい?」
「ああ、あんただったか」
 影は留蔵のその言葉に納得した顔で頷くのだった。
「あんただったか。いや済まない」
「済まない?」
 これまた留蔵にはよくわからない言葉だった。
「何が済まないんだよ」
「いや、実はもっと早く来るつもりだったんだよ」
 何故かこう言うのである。
「あんたがここに来る時にな。ところがな」
「ところが?」
「皆色々あってね」
「おいおい、そこにいたのか」
「岩上の留さんかい」
「そこだったのか」
 すると廊下の前後からどんどん出て来た。見ればどれも同じ影であった。
「そんな所にいたのか」
「そこに」
「そこに?」
 留蔵にとってはわからない話が続く。
「訳わかんねえな。大体あんた等何だ」
「わし等か?」
「わし等のことか」
「そうだ、そもそも顔も見えないしな」 
 こう言い合うのだった。留蔵と彼等の間で。
「あんた等。博打をしに来てるんだよな」
「如何にも」
「わし等にとって博打は命だ」
「じゃあ何なんだよ」
 また彼等に対して問うた。
「あんた達。顔も見えないしな」
「鬼だ」
 影のうちの一人が言ってきた。
「わし等は鬼だ」
「左様、鬼だ」
「賭鬼だ」
「鬼!?」
 留蔵は彼等の名乗りを聞いて目を顰めさせた。これまでの中で最もよくわからない話だった。少なくとも彼等には何が何なのかわからない。
「鬼!?あんた等がか」
「そうだよ。鬼だよ」
「だから賭鬼だ」
 影達は次々に留蔵に対して言う。
「わし等はな」
「それであんたを探していたのだよ」
「鬼が俺をかい」
 またしても首を傾げる留蔵だった。
「っていうか人間じゃねえのかい」
「その証拠にほれ」
「よく見るのじゃ」
 正面にいたその鬼が顔をぐい、と前に出してきた。
「この顔を。よくなっ」
「うわっ」
 留蔵は前に突き出してきたその顔を見て思わず声をあげた。何とその顔は真っ黒で目も口も鼻もない。ただ肉団子みたいな顔がそこにあるだけだった。その顔を見た留蔵は失禁こそしなかったがそれでも酔いを完全に醒ましてしまったのであった。
 
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