リメイク版FF3・短編集
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もし君が生きていたなら
前書き
サロニア解放後の、もしもエリアさんが生きていて行動を共にしていたら………の、お話。
「エリア……!おれと、その………これから二人きりで、サロニア観光……っ」
「エリア~、女同士であたしとサロニア巡りしましょー!」
「 ────はい? わたしは、どちらでも構いませんよ」
水の巫女、エリアは急に誘って来たルーネスとレフィアに美しく眩しい笑顔を向ける。
……出会った当初は衰弱していたが、水のクリスタルの力を解放して地上世界の時が戻ってからの彼女の足取りは軽く、微笑みを絶やさない程に回復していた。
「こういう場合、あたしと行くべきなの! ルーネスなんかと二人きりになったら、この猿に何されるか分かったもんじゃないわっ」
「あ、レフィアさん……!?」
エリアは、半ば強引に手を引かれて行ってしまう。
「ウキーっ、何だよそれ!」
「 ────お前、猿だったのか」
「あのな~イングズ、そこ真顔で突っ込まなくていいだろっ」
「あ……、僕は図書館で本読んでるから、何かあったら呼びに来てよ」
アルクゥは、ルーネスとイングズにそう云って別方向へ行く。
「 ────イングズ、あの二人………、エリアとレフィアの後付けるぞっ」
「私はそのような不謹慎な行為には付き合わん」
「いいから一緒に来い!……付けてんのバレないよーに、地味な色のフード付きマント着てくぞっ」
「はぁ………仕方ないな」
結局付き合わされるイングズはルーネスと二人、地味な旅人用のフード付きマントを羽織り、レフィアとエリアが行ったと思われる場所へそそくさと向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ────やっぱりエリアはただでさえ人目引くわね~、さっきから男女問わず道行く人が振り向いてくるものっ」
「そうですか? わたしはレフィアさんが人目を引いていると思いますが………」
「ふふ、エリアったら自覚ないんだから……。そんなに綺麗でかわいいのに!」
「そうでしょうか……。かわいいのはレフィアさんですよ、スタイルも素敵ですし」
「あら、ありがとねっ!」
(いや、エリアの方が断然カワイイ!!)
( ………それをレフィア本人に云ってみたらどうだ、何が返って来るやら)
後を付けて来たルーネスとイングズ。
「ねぇ、エリア………そろそろあたしの事"さん付け"で呼ぶのやめない? あれからこうして、一緒に旅してるんだし………それに、女同士でしょっ?」
「そう……ですね。ではレフィア───しゃん。……ぁ」
「ごめん、無理に呼び捨てにしなくてもいいわ………」
(うは~、エリアかあい~♪ おれの事、"ルーネしゃん"とか呼んでほし~~!!)
( ────馬鹿だろ、お前)
「………さぁエリア、ここ入るわよっ」
「え? お洋服のお店……、ですか?」
(あ、おれ達も入るぜ!)
(このフードを被ったマント姿で、か? 怪しまれると思うんだがな………)
「 ────ほら、このフリフリのブラウスとかかわいい♪ こっちのミニスカと合わせたら、きっとエリア似合うわよ~! ほらほら、試着して? 手伝うからっ!」
「え、え? わたしが着るんですか……!?」
着せ替え人形の如く、様々な服装にレフィアがエリアをコーディネートしてゆく。
(うおぉっ、アレきゃわいい! のあっ、それ際どい……?! うひゃ~、ヤバい………鼻から何か出そおっ)
(ティッシュでも突っ込んでおけ、馬鹿者)
華やかな店内に、不釣り合いで地味なフード付きマント姿の怪しい二人組がチラチラと盗み見ているが、レフィアとエリアは気付いていないらしい。
「 ────せ、せっかく色々選んで頂きましたが、わたしはやっぱり、いつもの方が落ち着きます………」
「ん~、エリアがそう云うならいいわ。じゃ今度は、向かいのアクセサリーショップよ!」
「あ、は、はい……?!」
「このイヤリング、素敵ね……! 新しいのに買い替えようかしら?」
「えぇ、とても似合いますよレフィア」
「あ、ほら! この大きくて紅いリボン、その長くてキレイなブロンドの髪に絶対似合うわよ! あたしが付けてあげるっ」
「 ────ど、どうでしょうか……?」
「ん! 文句なしっ、それ買いましょ! 付けたままでいいからね」
(レフィアってセンスいいな~、一応女子だったんだなっ!)
(お前………レフィアを何だと思ってるんだ)
「ん~、何だか甘い物欲しくなってきたわね……。あら? あの辺りにスィーツのお店があるみたいよ! エリア、そこでひと休みしましょっ」
「甘味処、ですか? いいですね……!」
「 ────えーっと、あたしはイチゴパフェにしようかしら。エリアは何にする?」
「わたしは……ですね、餡蜜を頂きたいです」
「じゃあ頼んだの来たら、シェアしましょ!」
「ふふ………了解です、レフィア」
「あ~ぁ、いいな~。おれもエリアと"しぇあ"したいなぁ?……せっかくだし、おれも何か頼もっ」
気付かれなさそうな席を選び、エリアとレフィアの様子を窺うルーネスとイングズ。
「イングズも、何か頼めば?」
「私はコーヒーでいい」
「何だよ、甘いもん苦手? おれ割と好きだけどな~。……んじゃ、チョコパフェ!」
「 ──── 子供だな 」
「何か云ったかっ?」
「 ……空耳だろう」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スィーツにご満悦なレフィアとエリアは自然と噴水広場へやって来て、ベンチに腰掛けた。……ルーネスとイングズはちょうどその背後の少し離れた木立に身を潜め、女子二人の会話に聞き耳を立てる。
「 ────お店だと別の事に集中しちゃって肝心な事話せなかったけど……、エリアとしてはどうなわけ? ルーネスのことっ」
「はい? ルーネスさんが、どうかなさったんですか?」
「……ごめん、云い方変えるわ。エリアから見て、ルーネスの事をどう思ってるか聞きたいのっ」
(ぬぁに?! おれに対するエリアの気持ちが聞けるのか……!?)
( ……あまり身を乗り出すな、気付かれるぞ)
「 ────とても純真でお茶目な思いやりのある優しい人ですよ、ルーネスさんは」
混じりけなくにっこり云うエリアに、レフィアはたじろぎながらも何か間違っている気がする。
「お茶目、なら分からなくもないけど、純真ってのは違うんじゃないかしら………。思いやりのある優しい人って云ったら、アルクゥの方が当てはまるわねぇ」
(エリア………おれの事、そんな風に想っててくれたのかぁ……! 見る目あるなぁっ)
( ────いや、逆だと思うぞ)
イングズにそれとなく貶されようと、ルーネスはフードの中で顔をデレデレさせている。
「 わたしは好きです、そんなルーネスさんが」
( っっ!!! )
(ほ、本気か……ッ?)
「 ………冗談でしょっ」
あくまで、にこっと云うエリアにレフィアとイングズは唖然とするが、当のルーネスは固まってしまい思考停止する。
「でも………その優しさに甘えていていいのか、正直迷っています」
( ────え? )
その憂えた言葉に、ルーネスはすぐ我に返る。
「やはりわたしは、生き残った"水の巫女"として神殿に戻るべきなのでは、と────」
「………そうねぇ、元々ルーネスが『この先も一緒に行こう』って連れ出したんだものね」
「それに、光の戦士はあくまであなた達。彼はわたしを必ず守ると云ってくれましたが、このまま付いて行っても、少し補助ができる程度で、足手まといになるばかりじゃ………」
「そこのカワイ子ちゃん達~、俺らとアソばねぇ?」
「 ────え? 」
「 は………? 」
エリアとレフィアが顔を上げると、いつの間にか目の前にガラの悪そうな男3人組がいて、ニヤニヤと見下ろしてくる。
「何よあんた達、こっちは今大事な話してんの。ナンパなら余所でやんなさいよ」
「うほ~、勝ち気な子だなぁ? 俺のタイプ~」
「こっちの子はすげ~美人だぁ、目が冴えるぜぇ!」
「そ、そんなに見つめないで下さい………」
「恥じらってる場合じゃないわよ、こんな連中ほっといて行きましょっ」
「待てって……! オレらがいい遊び教えてやっからさぁ、付いて来いよッ?」
「ちょっ、腕掴まないでよ……?!」
「は、放して下さい……!」
「 ────くおらぁてめーらっ、汚ねぇ手でエリアとレフィアに触れんじゃねーー!!」
フード付きマントを纏った二人組が颯爽と現れ、レフィアとエリアの腕を掴んだ男2人を鋭い足蹴りとパンチで直ぐ様伸してやる。
「な……?! 何だテメーらッ」
「何でもいいだろ………1人残ったてめぇも何発か、喰らってくかっ?」
「嫌ならとっとと失せろ。────目障りだ」
フードの中から鋭い眼光で二人組に睨まれたもう1人の男は戦々恐々し、よろめきながら立ち上がった他2人を引き連れ逃げるようにその場を後にする。
「もう大丈夫だぜエリア、レフィ……っ?!」
─────バシイィッ
振り向いた瞬間、フードが反り返り脱げる勢いでレフィアから平手打ちを喰らうルーネス。
「バッカじゃないのあんた達! すぐ近くにいたんならもっと早く出て来なさいよ! エリアをあんな奴らに触れさせる前にね!!」
「す、すまん………出るタイミングを間違えた。────やはりレフィアは、気付いていたか」
自分からフードを取って顔を現すイングズ。
「当たり前じゃないの、エリアは気づいてなかったけどっ。イングズはルーネスに付き合わされただけなんでしょうけど、女の子二人を付け回すなんてさっきの3人組と似たようなもんよ、あんた達!!」
「「す、すみません………」」
「いいじゃないですかレフィア、お二人のお陰で連れて行かれずに済みましたし。────それにしても、ルーネスさんとイングズさんは仲がいいですね」
「「 ………は?? 」」
エリアの言葉がよく飲み込めない二人。
「だって、わたしとレフィアのようにさっきまで二人でいたんでしょう? どこを巡っていたんですか?」
レフィアの云った通り、エリアは二人に付け回されていた事に全く気づいていないらしい。
「え、え~と、服屋とかアクセサリ屋とか、パフェ食べたり………?」
「あら? 奇遇ですね! わたしとレフィアもですよ。会わなかったのは、行き違いのせいでしょうか………」
「いや、そういう訳では……ッ」
「そ、それよりさエリア! 今からでもおれと二人きりで……っ」
「いいえ? せっかくですが、お断りします。邪魔をしちゃいけないと思うんです、わたしの方が。────ルーネスさんはイングズさんとデートを続けて下さいね」
「 へっ────? 」
美しい微笑みに目を奪われつつも、その言葉に目が点になる。
「そうよねぇ、心配いらないわルーネス。あたしがエリアとデート続けるから、そっちも"よろしく"してたら? 今度ガラの悪い奴にナンパされても、戦士系のジョブであたしがエリアを守るから!……さ、行きましょエリア!」
「 はい、レフィア 」
長く美しいブロンドに映える紅いリボンが、目の前を鮮やかに通り過ぎゆく────
「フラれたっ、おまえのせいだ、イングズ……!」
「いや、元々お前があの二人を付け回すような真似を────」
「こーなりゃ図書館にいるアルクゥ呼び出して、焼き肉でもやけ食いしちゃる!!」
「 …………。私はもう付き合わなくていいだろう、アルクゥと二人で行け」
「 ────は? 1人でどこ行くんだよ」
「武器屋で品定めでもする」
「つまんないだろ、1人じゃ?」
「………うるさい奴が傍にいるより増しだ」
「あーそーですか~! んじゃあなーっ」
「 ────── 」
ルーネスは頭の後ろに両手を組んで背を向け別方向へ行くが、イングズはふとその後ろ姿を見つめ─────
「ルーネスさん、イングズさん……!」
「 ───ん? あれっ、エリア……!?」
そこへ、先程レフィアと二人サロニア巡りを再開した筈のエリアが、1人息を弾ませながら足早にやって来る。
「やっぱり、デートしましょう皆さんで! 今レフィアが、図書館へ向かってアルクゥさんを呼び出しに行ってますから……!」
「で、デートというのは大人数でするものでは─────」
「堅いこと云いっこなしだぜ、イングズ! ……だよなぁエリア、みんなで楽しまなきゃさっ!」
「はい………その想い出があれば、わたし1人でも大丈夫ですから、きっと」
「 ──── へ?」
「わたし……、やはり神殿に戻る事にします。水のクリスタルはその力を取り戻し、水の神殿自体に戻っているんですから、やはり誰かが………いえ、水の巫女であるわたしが傍にいなくては」
「エリア……、けどそれじゃ君は……!」
「短い間でも、時の戻った地上世界を巡れた事はとても有意義な時間でした。
────ありがとうルーネス。あなた達は光の戦士として………わたしは水の巫女として、それぞれの役目を果たしましょう」
煌めく海のように蒼く清んだ瞳で毅然としたエリアを、正面から受け止めきれずにルーネスは下向く。
「顔を上げろ、ルーネス。何も二度と会えなくなる訳じゃない。定期的にでも………光の戦士として役目を終えた後でも、すぐにノーチラスでこれから何度だって会える。
彼女を────信じてやれないのか?」
イングズが、そっと肩に手を置いてくる。
「し、信じてるよ……! けど、たった1人じゃ……っ」
「大丈夫ですよ、あなた達のお陰で力の戻った水のクリスタルが………わたしを守ってくれますから。────それは、あなた達に守られているのと同じ事。信じて下さい、ルーネス」
「 ………わかった、信じるよ、二人の云うこと! じゃあみんなでのデート、楽しもうなエリアっ!」
「 はい……! 」
彼女の笑顔は、とても眩しかった。
End
後書き
クリスタルタワーで5匹の魔竜に呪われた時、助けに来てくれた人の中で、幽霊でもいいからエリアさんも出て来て欲しかったなぁと、思ったりしてました。
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