道を外した陰陽師
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第七話
「・・・ま、こんなもんか」
俺は朝食一式を準備し終え、制服の上からつけていたエプロンを外し、鍵を持って玄関から出る。
今はもう既に一月。制服だけでは少し肌寒いのだが、大した距離を移動するわけではないので気にしない。
そして目的地・・・すぐ隣の、仕事用の部屋をノックし、返事がなかったため鍵を使って開けて中に入る。
そのまま奥にある休憩室を開け、そこで寝ている人間の布団をはぐ。
「おーい。朝だぞー」
「Zzz・・・」
が、声をかけても起きない。
「いいから起きろー!さっさと起きろー!!」
ゆすりながら声のボリュームを上げてみるが、やはり起きない。
これでダメだった場合は、最終手段を一通りやってみることにしている。
「結界形成。発射」
お札を一枚、こんなくだらないことに消費して小型の結界を指先に作り、呪力を爆発させることでそいつの額にぶつける。
が、起きなかったので次は右手の動脈に指を当て、呪力を流し込む。
大体、ザコの妖怪なら一瞬で消し飛ぶ、一般人なら気絶、陰陽師なら一時間立ち上がれないくらいの量を。
「うぅん・・・あ、おはようカズ君」
「おう、ようやく起きたか。もうお前を起こすことが日課になりつつあるぞ」
勝手なイメージだが、普通は逆な気がする。なぜ男が女を起こしにくるのか。
と、向こうの呼び方でもう分かったかもしれないが、俺が起こしにきたのは殺女だ。
あの自体の解決策として、寝起き、風呂はこの仕事部屋で過ごし、それ以外の時間は俺の部屋で過ごすという、慣れるまでは色々と大変な生活を送ることになった。
慣れすぎた結果、俺が殺女を起こすことにもはや何も感じなくなったし(せいぜい、またか、と感じるくらい)、殺女も俺に起こされることをなんとも思わなくなっていた。
俺のほうはともかく、殺女の方は女としてどうかと思う。修学旅行で俺が起こしに行ったときは、さすがに辛かった。
「まあまあ、最初のころのギクシャクしてたのに比べたらましじゃない?」
「ましではあるが、よくはないだろ。ほら、メシ食ってさっさと学校に行くぞ」
「は~い」
俺が元の部屋に戻ってからしばらくして、殺女が制服姿になってこちらに来たので、朝食一式をよそって並べ、二人で食べる。
なんだかなぁ・・・ラノベとかなら、逆なんだろうなぁ・・・と、もう何回思ったことやら。
「今日って、何かあったっけ?」
「そうだな・・・たしか、個別の進路相談があったぞ」
「あ、そっか~。話の内容としては私立の?」
「のはずだ。つっても、もうドコを受けるかとか皆決まりきってるが」
一応、学校側としても確認のためにやらないといけないのだろう。
面倒でしかないが、授業をされるよりはよっぽどましだ。
「そういえば、カズ君は高校とかどうするか決まってるの?」
「全く決まってないな」
「あ、そうなんだ?」
殺女が少し意外そうに聞いてくる。そこまで意外か?
「いや、カズ君っていっつも、何にも考えていないようでかなり考え込んでる感じがするから」
「それこそ誤解だぞ・・・俺は基本、かなり行き当たりばったりだ」
「でも、それにしてはどんな事態にも対応できてない?」
「たいていの事態には対応できるからな、俺の能力」
たいていのことは出来る上に、陰陽術や妖術の類ではないので、その辺りを封じられても使える。
「まあ、普段からそんな感じなんだから、高校なんて決まってるはずがないだろ?通学も、飛べば時間なんて大差ないし」
「そっか・・・カズ君は、ここから通えるところ、が日本全国だもんね~」
そう言うわけだから、これといって決まっていないのだ。
公立高校なら安く済むし、私立高校なら、学園祭とかが楽しそうだ。その辺りについて考えると、かなり悩む。
「ちなみに、殺女は?」
「私も決まってないかなぁ・・・ほら、席組みのことでかなり有名になっちゃってるから・・・」
「選ぶ高校も、その辺りがどうにかなるところじゃないといけないか・・・」
となると、かなりの名門校か歴史が異常なほどに深いところにいく、もしくは陰陽師や妖怪について学べるところでないといけない。
席組みが通っていても、何もおかしくないところでなければ。今みたいに隠して過ごすのも面倒だし。
「・・・ま、なるようになるだろ。特に、オマエの方は」
「うん、そうだね~。どこを受けるか決まったら教えてね?場所によっては、私もそこを受けたほうが違和感はないだろうし」
「一応、表向きはパートナーってことになってるからな、俺達」
そして、そのまま食事を終え、食器を片付けて俺と殺女は学校に向かった。
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「・・・今、なんて言った?」
「なんてって・・・まだ決まってない、そう言ったけど」
「ふざけてるのか?」
「超本気」
で、進路相談。
俺は担任にそう、はっきりといっていた。
「・・・いま、どういう時期か分かってるか?」
「中学三年生の一月。もうとっくに私立どこを受けるか決まっているべき時期。ただし、陰陽師や妖怪はその特殊な事情により、願書の締め切りがギリギリまで持たされている」
「だからって、ここまで先延ばしにする人はいないぞ・・・」
そうは言われてもなぁ・・・今朝はああ言ったけど、俺って、実際には殺女以上に複雑な事情だし。
ほら、正体不明の第三席とか、全滅したことになってる鬼道の生き残りとか、光也が後見人なこととか。
「とはいえ、まだ決まってないし・・・ん?」
「どうかしたか?」
「仕事用の携帯に電話。それも、この振動のしかたは・・・陰陽師課から直接だ」
「そうか・・・出ていいぞ?」
「はーい」
ディスプレイを見ると、光也からの電話だった。
「なんか用か、光也」
『挨拶くらいは普通にしませんか?』
「やなこった。早く内容に入れ」
担任が心配そうな目で見てくるが・・・まあ、向こうからすれば一介の陰陽師が、そのトップに対してこんな口調を、それも、後見人までしてくれている人に、使ってるんだから、当然といえば当然か。
『では、入らせていただきますね。その辺りに誰か他の人間はいますか?』
「担任がいるよ。進路相談中だ」
『では、一部一部伏せて話を進めます。こちらの方に学校在留陰陽師を一人、腕のいい人間を、という依頼が入りまして。来年度からです』
「で?」
『その高校名は、“私立零厘学院”です』
「ああ、あの名前の由来が一切分からない、謎過ぎるところか・・・」
そこは、色々な意味で有名な学園だ。
特徴を並べていくと、まず一つ目が中等部と高等部が存在することだ。だが、これくらいなら他にもたくさんある。二つ目以降の方が、かなり目立つ。
二つ目は、一学年辺りのクラスが、なんと二十クラスある。二十クラスだぞ、ありえるか?
三つ目に、特殊な学科があるのだ。陰陽師がその能力や知識を深めるための学科、“陰陽課”。妖怪が妖術を高めるための学科、“妖怪課”。ただの人間が妖怪と深く関わりをもつ職につくための“境界課”。普通の文系、理系コースもあるし、妖怪が人間に紛れて暮らすためのコースもあるが、先に上げた三つのコースはかなり珍しいので、こちらに属する人が多い。
最後に四つ目は、その学科ごとにクラスが分かれていないのだ。意図的にバラけさせ、どの仮定でも必要な過程や行事はそのメンバーで行う。コースごとの授業のみ別れて行うのだ。これは非効率的だが、気楽にそういった人たちと関われるために、意外と好評である。
ついでに言うと、うちから通うにはそこそこに楽な位置にある。
「で?それがなんだって?」
『あ、いえ。あなたについてもらおうかと思いまして、在留陰陽師』
在留陰陽師とは、その学校に生徒がいる間は常にいるか、式神を置くことによって学校の生徒、職員を妖怪から守る仕事である。
普通、プロの、奥義を習得した陰陽師がなる。
「何割冗談だ?」
『ゼロ割ですね』
「・・・向こうには、俺についてどこまで知らせるつもりだ?」
『場合によって変わりますね。トップシークレットについては、絶対に話さない予定です』
となると・・・鬼道関係については絶対に話さない。席組みについては事情が事情なら話す、といったところか。
「でも、俺でいいのか?」
『向こうとしては、学生でも実力さえあればいいそうですよ。それに、給料についても楽ができそうですしね~』
「楽?」
『はい。向こうが現在出している条件としてはですね・・・入学許可を出し、学費、教科書代、その他もろもろについて免除する、でどうかと』
「あ~・・・そういうことか」
一人分の学費で雇えるのなら、安いもんだろう。それも、公式にはランク持ちの第十五位。席組みを除いた日本での五位、ということになっている人間を雇えるなら。
でも、正確には日本三位なんだし・・・
「割に合わなくないか?」
『そう言うと思って、もう少し交渉してきました。テストの点さえ取っていれば、ほかの事は一切免除して進級、卒業できます』
「もはや、日本の教育方針に喧嘩を売ってるな」
『ああ、その辺りについてはこちらで黙らせます』
職権乱用だ・・・俺が言えたことでもないけど。
「じゃ、そんな感じで。今すぐ式神か何かに資料を送らせてくれ」
『そろそろ届いてると思いますよ』
「ああ、確かに届いた」
言われたときには、窓際に止まっている一羽のはとがいた。
窓を開けてそいつの足についていた資料を取り、軽く呪力を補充してから書かないといけない資料だけ書いてくくりつけ、送り出す。
「今、たった今進路が決まった」
「また急だな・・・どうなったんだ?」
「こんな感じに」
俺はそう言いながら手元に残った資料を渡す。
それに目を通した担任は・・・一瞬で顔色を変えた。
「おい・・・これはマジか?」
「マジみたい。ま、今の電話を聞いてれば分かるだろ」
「まあ、分かったが・・・こんなの初めてだぞ・・・」
「今までにあったら、むしろ驚きだよ」
こんなこと、俺以外にありえないはずだからな。
「まあ、これなら俺から口を出せることはないな。よし、もう行っていいぞ。この資料はどうすれば?」
「それは、そっちで貰ってもいいみたいだ。俺のはここにあるし」
そんな感じで、進路相談は終わった。
史上初じゃねえかな・・・進路相談中に、進路が確定したのなんて。
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