道を外した陰陽師
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第五話
クソ、あいつら・・・口を出せないからって好き放題言いやがって・・・誰が問題児だ・・・
「俺か・・・」
「どうしたんだ、一輝?」
「いや、なんでもない。弁当食おうぜ」
さきほどの発表あった日の昼放課、翔が弁当を持って俺の席まで来ていた。
「そういや・・・さっきの放送、あれってガチなのかな?」
「ああ・・・どうなんだろうな?」
事実を知ってるから話しづらい・・・・いっそ、目の前にいますよー!と言えたらどれだけ楽だろうか・・・
「ただの卵なら、席組みになんて入れないと思うんだけど・・・」
「いや、そうでもないだろ。実力さえあれば、つけるんじゃないか?少なくとも、今のトップの方針はそんな感じだと思うけど」
これは、就任の取材のときに光也が言ってたから間違いない。
どこまで話していいかのラインが難しいな・・・
「う~ん・・・だとしてもさ、教えることが出来ない、ってのは怪しくないか?」
「少し怪しい、のは確かだな。それに、その卵からしたら家の名前、っていう後ろ盾がなくなったんだから、名前を広げれるチャンス、使いたいと思うし・・・」
「仕事がないんじゃ、飯も食ってけないよな・・・あれだろ?天涯孤独に近い感じなんだろ?」
気がつくといつものメンバーが集まってきていた。
やっぱり、こうなるよな・・・試しにネットで検索をかけてみたら、色んなところが同じ話題で盛り上がっていた。
「いや、それくらいは陰陽師課が何とかするんじゃないか?ほら、そっちから依頼を出して報酬を渡せばいいんだし」
「ああ、それなら別に名前は売れてなくてもいいのか」
「そういうこと。それに、正体不明の第三席として世間を騒がしておいて、奥義を会得してから実は私がそうでしたー、って出てきた方が印象的じゃね?」
俺の説明にここにいるメンバーは納得してくれたようだ。
まあ、実際には明かしたらうるさそうな人たちもお偉いさん達の中にはいたし、いい気がしないやつらが俺のところに来るかもしれないし、何より俺が面度くさかった、というだけなのだが・・・
「じゃあさ。その正体は席組みとお偉いさん達しか知らないんだから、俺たちも気がつかないうちに町ですれ違ったりしてるのかな?」
「いや、むしろ同じ学校にいたりして」
「お、じゃあ学校にいる卵を徹底的に洗うか?」
笑いながら、冗談で言っているけど・・・スイマセン、目の前にいます。
「そういや、一輝も卵だったよな?」
「・・・まあ、そうだけど・・・」
内心を隠すのに、必死だった。
おかげで表情にも出てないし声もおかしくないけど・・・変なところで弄ってきやがって・・・
「でも別に、俺はさっき言った事情に当てはまらないぞ?元の家も、名前は出せないけど普通の封印を奥義とする陰陽師だし」
その辺りは、鬼道の体質をごまかすためにでっち上げた。
いい感じに誰も知らないような封印を奥義とする滅びた一族があったので、そこの名前を借りているのだ。
「そうだけど、もしかしたらってあるじゃん?ライセンス見せてよ」
ライセンスには、席組みなら席順と登録コードが記されている。
他にも、ランク持ちならその順位が記されているし、なにか事情があって日常生活で陰陽術を使わないといけない人は、その旨が記載されていたりする。
「はぁ・・・まあいいけど。ほら」
そう言いながら、俺は財布から光也に渡された、偽物のライセンスを渡す。
「うむ・・・何もかかれてな・・・くない!?」
「え、うそ・・・15位って・・・」
この二人の声が大きいせいでクラスの全員がこっちを見ている。
くそ・・・これもこれで面倒だから、隠しておきたかったのに・・・
「あーそうだよ。これでも、卵でランク持ちなんだよ、俺は。第三席さんには及ばないけどな」
「マジか・・・」
「もういいだろ。ライセンス返せ」
俺はひったくるようにして取り返し、財布にしまう。
確かに、席組みとして与えられてる権限のうち一部はランク持ちにも与えられてるから、その辺りを誤魔化すのにはちょうどいいんだが・・・これはこれで目立つ。
まだ、前例があるだけましだけどな!
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「ほら、席付けー」
そんなこんなの弁当の時間も終わり、五時間目になって大竹先生が入ってきた。
五時間目はなんだったか・・・やけに大竹先生が緊張してるけど・・・
「えー。突然だが転校生を紹介する」
「・・・それって、普通朝のSTで紹介するものじゃないのか?」
「そうなんだが、彼女も忙しくてな。この時間になって、ようやく学校にこれたんだ」
「彼女ってことは、女子ですか!?」
「そうなんだが・・・頼むから、これ以上聞かないでくれ・・・先生も混乱してるし、緊張してるんだよ・・・入ってください」
「はーい!」
教師が生徒相手に敬語使ってるよ・・・ってか、今の声、どっかで聞いた気が・・・
「えー皆さん始めまして!知っている人が多いとは思いますが、私は土御門殺女です!今日から同じクラスで過ごすことになりました。二学期、三学期の間よろしくお願いします!」
その瞬間、クラスから音が消え、俺は机に突っ伏していた。
確かに、午前中は忙しかっただろうな・・・!
「えー、土御門さんはご自身のお仕事の都合で転校してきました。皆さん、仲良くして差し上げてください」
大竹先生は緊張して話し方がおかしくなってるし・・・緊張で震えてるし・・・
「あの、先生・・・せめて前もって伝えておいて貰えると・・・」
「先生も今日、十分前に知らされたんだよ・・・おかしいとは思ってたんだ。校長先生がたっかいお茶菓子を準備してたから・・・」
大竹先生とその目の前に座っていた委員長の会話が聞こえてきたけど・・・不憫だな、あの人も。
そして、殺女はこっちに笑顔を向けてくるな。この空気を作ったのはお前だろうが。自分でどうにかしろ。
が、そんな俺の願いは・・・
「ねえカズ君?この空気はどうしたらいいのかな?」
聞き届けられることはなかった。
このクラスで、名前にカズと入るのは俺だけで、必然的に俺を指しているのだとすぐに分かる。実際、クラスにいる全員の視線が俺のほうに向いているし。
二学期初日に転校してきたヤツが、二学期になってから少したった今日転校してきた席組みと知り合い、興味が湧かないわけが無い。
「おーいカズ君。聞こえてるー?友達が聞いてるんだから、何かしらリアクションくらいはするべきじゃないの~?」
「・・・もう頼むから、一回黙ってくれ、殺女・・・」
俺の席の前まで来た殺女が指の先を机に引っ掛けてしゃがみ、俺を下から見上げるようにして尋ねてくるので、もう限界だと考えた俺はそう答えた。
何て疲れる日だ、今日は・・・
「えっと・・・寺西君。きみは、その、土御門さんと・・・」
「あー・・・仕事の都合で、まあ友達です。ハイ」
話をあわせろ、と机に書きながら、俺は説明を始める。
「えっと・・・稀に、席組みの人がランク持ちの人を仕事のパートナーにして仕事をすることがあるのは知ってますよね?」
さっきクラスの人間には言ってしまったし、大竹先生にもそのことは教えてある。
だから、クラスの全員が俺がランク持ちだと思っているこの状況だけは、良かったな。
「ああ、知っているが・・・かなり稀なケースだと聞いている」
「そうなんですけど・・・それが、俺と殺女に当てはまるんですよ」
一応、それで納得してくれたようだ。
そして、委員長と大竹先生はホッとしたような表情をしている。
「じゃ、じゃあ。土御門さんのことは君に任せてもいいかな!?」
「・・・別にいいですよ。殺女もそれでいいか?」
「うん、よろしくねカズ君!」
「後でなんでこうなったのか、説明しろよ・・・!」
「あ、席も替えようか?この席でよければ、どうぞ」
「ホント!?ありがとう!」
そう言いながら殺女が俺の隣の席だった女子に抱きついた。
ああ・・・残りの中学生生活、かなり大変そうだなぁ・・・
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