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第三章
「全く、のどかにも程があるぞ」
「駄目か、それは」
「駄目じゃ」
その尖らせた口での返答だ。
「全く、御前さんはのんびりし過ぎじゃ」
「性分だからなあ」
「大体カンボジア人はのどかか」
「そうかも知れないな」
「それがいいところかも知れんがな」
「過ぎるっていうんだな」
「御前さんみたいにな」
まさにだ、そのノドムの様にというのだ。
「それが過ぎるのではないか?」
「ううん、だから俺もか」
「そうじゃ、相手がおらぬのじゃ」
折角いい田畑を持っていてしかも魚を獲ることが出来てもだというのだ。少なくともノドムは大きな家も持っていて食べる分には困っていない。
「そんなのだからな」
「ううん、しかし」
「それでもか」
「焦らないんですよ」
性分的に、というのだ。
「俺は」
「わかっておるがな。しかし相手はな」
「見つけないとですね」
「そこはしっかりするのじゃ」
こう言うのだった。
「よいな」
「それじゃあ」
「さて、相手は」
「誰かいますかね」
「それは御前さんが探すのじゃぞ」
爺さんは口を尖らせてノドムに言った。
「本来なら一人でな」
「それをなんだよな」
「そうじゃ、わしと御前さんの仲だからな」
それでだというのだ。
「手伝うのじゃ、よいおなごのう」
「それもまだ結婚していない」
「全く、いそうでおらんな」
「世の中そういうものかな」
「そうじゃ、世の中は欲しいもの程手に入らぬ」
爺さんはここでは人生訓も述べた。
「そしてどうでもいいと思った時にふらりとやって来るものじゃ」
「それじゃあ俺が嫁さんいいって思ったら」
「冗談でも思うでないぞ」
爺さんは口を尖らせたまま言った。
「そんなことは」
「やっぱり駄目か」
「とにかく誰か探してな」
「結婚しないとか」
「そうじゃ、そうせよ」
「じゃあ探すか」
こう話してだ、そして二人でその隣村の中を見回っていた。しかしこの村も結婚している人か子供か婆さんしかいない、だが。
その中でだ、不意にだった。
村から帰って来た娘の一人とすれ違った、その娘はというと。
農家の服だが顔はあっさりとしていて動きは軽やかだ。しかも。
後ろで束ねた黒髪が綺麗だ、その人とすれ違ってだ。
ノドムの方からだ、こう老人に言った。
「爺さん、今の人な」
「ああ、さっきの若いおなごじゃな」
「どう思うんだい?爺さんは」
「いいと思うぞ」
爺さんもこう彼に答えた。
「あの娘はな」
「それじゃあ」
「ああ、声をかけてみるか」
「そうしろ、これはな」
「これは?」
「たまたますれ違ったがな」
それでもだというのだ。
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