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Fate/EXTRA IN 衛宮士郎

作者:トドド
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教会

《二回戦 六日目》
目に移るのはこの世のものとは思えない黒く濁った泥。
そして、それを背に笑う言峰と頭を鷲掴みされ動かないエミヤシロウ。

「教会に凛と現れたお前を見て、切嗣の再来を喜んだものだが……………所詮は使い物にならぬ、できそこないの贋作だ」

首が体という振り子を支え、その重さに耐え切れずにギリギリと悲鳴を上げている。
鷲掴みにされた頭も、痛みと壊れ行く過程を宣告していた。
なにしろ、人一人を片手で持ち上げる程の握力だ、この後に想像するのは割れた卵。

「だが、ここ十年退屈を、一時とはいえ愉しませたのもお前という存在だ。 褒美をやるぞ、衛宮士郎。 お前には、切嗣と同じ末路を与えてやろう」

鷲掴みしていたエミヤシロウを投げ飛ばし、後ろにある泥を手に集める言峰。あの泥はなんだ?
見ているこっちが不安や恐怖に押しつぶされそうだ。サーヴァントと対峙した時も恐怖などがあったがそれとは比較できない。
これは根源的恐怖と言ってもいいくらいだ。あれに関わってはいけない。

「いくぞ。受け取るがいい」

言峰の言葉に反応したのか、後ろの泥は何本かの触手のようなものになり、エミヤシロウに襲いかかる。

この世全ての悪(アンリ マユ)

その泥にエミヤシロウは、飲み込まれると同時に俺の目の前も真っ暗になった。頭の中に声と映像が流れ込む。




…………………せ。



道端にゴミをポイ捨てしている奴の腕を折る。 電車の中で電話をしている相手の耳を引きちぎる。 カンニングしている目を抉り出す。 人を殴った手を握りつぶす。 虫を踏んだ足を切り刻む。 通りすがりにブツカッタ肩を叩き潰す。 盗みを働く指から爪を引き剥がす。 道を塞ぐ集団の背骨を砕き割る。 陰口を叩く口を引き裂く。 詐欺を為す頭から髪をこそぎ落とす。 強姦を犯すソレを切り落とす。






…………………こ…………せ








金を拾った者の頚動脈を切る。 占いで良い結果を得られた者の首を絞める。 生活に不自由がない者を轢く。 試験で満点を得られた者の突き落とす。 昇進できた者に火をつける。 恵まれた容姿を得たものを深海に沈める。 友人が多い者の血液を抜き取る。 よい女を連れた者の体を切り刻む。 勝利を得た者を殴り倒す。





………………ころ………。




幸せそうな家族を、街中を颯爽と歩く女を、力強く駆ける男を、 純真に泣く赤子を、親に玩具をねだる子供を、子を連れて歩く母親を、 家族のために働く父親を、生きる気力を無くした中年を、余生を楽しむお年寄りを、 笑う者を泣く者を悲しむ者を喜ぶ者を怒る者を叫ぶ者を寝る者を歩く者を皆ミンナ みんなミんなみんなミンなミンナスベテ――――――――――!!!!!




ーーーーーー殺せーーーーーー



殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ



コロセ!!!!













「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

そんな光景に耐えきれずに叫び声を上げながら飛び起きた。

「ハァ…………ハァ………」

頭がズキズキと痛み全身からべっとりとした汗が吹きだす。気持ちが悪い上に吐き気がしてしょうがない。あの夢は何だったんだ?思い出すだけで鳥肌が立つ。

「悪い夢でも見たのか?顔が真っ青になっているぞ」

叫び声で目を覚ましたのか、アーチャーが様子を尋ねてきた。………………あの夢は恐らくこいつが体験したことだ。あんなものをこいつは耐えることができたのかよ。正直、あと少しでもあれを見ていたら気がおかしくなりそうだ。アレは一体…………。

「アーチャー……うぷっ」

アレのことを考えてしまったせいか、吐き気がさらにこみ上げてきた。や、やばい、吐きそうだ。

「…………人の顔を見てそのような態度とはいい度胸だな?」

「ち、ちがう。本当に気持ちが悪い」

勘違いをするアーチャーに慌てて言い訳をするとアーチャーは、やれやれ、と呟き

「冗談だ。どうやら、本当に気分が優れないようだな。保健室に行くか?」

「そうするよ」

俺はマイルームを飛び出ると、保健室に向かった。保健室の前まで来た時には頭痛がさらにひどくなり、気分もさらに悪くなっていく。本当なら入る前に一言言わないといけないのが礼儀だが、勘弁してもらおう。

「ど、どうなさいましたか?」

何も言わず扉を開け、飛び込むような勢いで保健室に入るといつも通り白衣をきた桜が迎えてくれた。しかし、俺の様子を見て驚いた顔になる。

「ちょっと調子が悪いんだけど…………見てもらえないかな?」

「は、はい。ではこちらに」

診察用であろう丸椅子に座ると白野の時のように桜が何かをつぶやく。すると、吐き気がすぐに収まってきた。

「お体の方はもういいですか?」

「ああ。スッキリとしたよ。ありがとう桜」

「いえ、お礼なんて。ところでこんな朝早くから、どうして体調を崩されたのですか?」

「いや、あの〜」

桜が不思議そうに質問をしてきたが、どうしよう。夢のことを話すべきかな?アーチャーのことだ。

『自分のことをペラペラと喋るとは、九官鳥のようだ。いや、九官鳥に失礼か』

とかなんとか皮肉を込めてきそうだよな……………でも、桜なら大丈夫だろう。桜なら人の秘密を喋ることはないと思うし、立場的に中立だしな。

「実は、ひどい悪夢を見たんだ」

俺は今朝見た夢の内容を桜に説明する。流石に、全部を話すわけにはいかないので、人物などは適当に代役をたてた。桜は俺の話を聞き終わると

「………………それはおかしくありませんか?」

「おかしい?何がだ?」

「衛宮さんが見ていた夢です。霊子虚構世界であるムーンセルでは夢を見ることはありえません」

「そうなのか?」

「はい。この世界にいること自体が夢と同じカテゴリのようですから」

つまり、桜の言うことは夢の中では消して夢を見ることはないということだろう。じゃあ、なぜ俺だけ夢を見ているんだ?何か俺だけ問題が発生しているのだろうか。
アーチャーの過去をみるのはパスが繋がっているためだ。一番最初に考えつく問題点は、アーチャーとの魔力供給のパスに何か不備があるということになる。

(しかし、困ったな…………)

こういう繊細な魔術関係は俺はもちろんアーチャーなどには、手が負えない。こういう時に遠坂がいればいいんだけど、いない人のことを言ってもしょうがないし、この世界の遠坂は………………

「なんで私が敵であるあんたに協力しないといけないのよ!」

というような答えが返ってくるだろう。頼んだところで断られるのが目に見えてる。気が重くなってきた。

「誰か魔術に詳しい人いないかな……………」

思わず、肩を落としため息をつきながら呟く。この世界でそんな都合のいい人なんているわけないか………………。

「あの〜よくわかりませんが、魔術に詳しい人なら教会に行けばいいかと………」

教会?

「そんなものこの学校にあったか?」

初日にこの学校を探索したが、そんな建物どころか部屋なんかは見当たらなかった。それになぜ教会が学校に?
キリスト教などを授業で教える学校には礼拝堂があるや教会学校というものは聞いたことがある。しかし、教会が丸ごと学校にあるなんて聞いたことがない。目立つからすぐに見逃すわけがないと思うが………………。

「普通に探したらまず見つかりません。保健室を出て右にある非常口から進まないと教会にいけないんです」

「あっ、そうなんだ」

言われてみると非常口が確かにあった。非常口なんて日頃開けないから盲点だったな。

「行ってみるよ。ありがとう桜」

「いいえ、お礼なんて。頑張ってください衛宮さん」



















































「ここか」

保健室を後にした俺はアーチャーと共に教会へと足を運んだ。教会の周りには花が咲き誇り、噴水の水が綺麗なアーチを描いている。

「ほぅ、綺麗なものだ」

「ああ、俺たちの知っている教会とは大違いだ」

教会と聞いて思いつくものは、礼拝堂全体から不穏なオーラがにじみ出ているあの教会や薄ら笑いを浮かべたエセ神父。いいところが何も思いつかない。

「ろくな思い出がないな……………」

アーチャーは何処か遠くを見つめながら、ぼそりと呟く。こいつはこいつで教会に嫌な思い出でもあるのだろう。一体どんな内容なのか少し気になる。いずれ俺も体験するかもしれないしな

「ま、まあ、とりあえず入ろうぜ」

俺は扉の取っ手に手をかけられようとした瞬間

「マスター!」

アーチャーはいきなり俺の後ろ襟首を掴み、引っ張ってきた。いきなり何を……………!引っ張られると同時に扉は突然開き

「出てけ!このクソガキ!!」

女の人とも思われる怒鳴り声とともに一人の男が飛んできた。飛んできた男は地面を数回転がり、慌てて立ち上がると

「ご、ごめんなさい!!」

涙や鼻水を垂らしながら、そのまま校舎へと逃げて行った。何か怖いものでも見たかのような反応だ。この奥に一体何が………………。開かれた扉から中を覗き込むと

「うわっ!」

咄嗟に鼻をつまんだ。教会の中にはタバコの臭いが充満している。匂いがかなりきつい。匂いに慣れるまで鼻をつまんでおこう

「す、すいません。誰かいませんか?」

鼻をつまんだ状態で教会の中へと足を運んだ。奥に進むと二人の女性が椅子に座っていた。

「お?これまた可愛いマスターね」

先に声を掛けて来たのは赤い長髪が特徴の女性だ。隣にいる青い短髪の女性は無言で煙草を吸っている。声からして、さっきの怒鳴り声はこの赤い長髪の女性からのようだ。

「此処に来たって事は【改竄】しにきたのかな?」

改竄?

「何をですか?」

俺は首を傾げると、赤い長髪の女性が顔を顰める。突然、俺の中のセンサーが反応をした。俺の経験上このセンサーが反応する時は、遠坂やセイバーにわけもわからず怒られるときだ。

「そんなことも知らないでここに来たってわけ?何、冷やかし?」

「ぞ、そんなつもりは…………」

「だったら何の用?用がないならさっさと消えなさい」

な、なんで初対面なの怒らせてしまったんだ。何かしたかな俺?必死に考えてみるが、心当たりがない。

「すまないな。今のこいつは虫の居所が悪いんだ。改竄について私から説明しよう。先ほど言った改竄とは、正しくは魂の改竄というものだ。まぁ、言ってしまえば。サーヴァントとの魔力供給を良くしたり、その過程でサーヴァントが使えなかったスキルなんかを取り戻したりする手助けみたいな物かな」

戸惑う俺を見兼ねてか黙っていた青髪の女性が色々と説明してくれた。つまり、車で例えるなら整備のようなもので、この二人は整備士みたいなものか。

「これくらいも説明しろ。それくらいもできないのか」

手にした煙草を吸うと、挑発するかのように煙を赤い長髪の女性に吹きかけた。煙を浴びた赤い長髪の女性は、体を震わせギロリと青髪の女性を睨む。

「姉貴ィッ!あんたいい加減にしなさいよっ!!何百、いや何千本タバコ吸えば気が済むのよ!?」

赤い長髪の女性が言う通り、青髪の女性から少し離れた位置にタバコの山ができている。何本とかそういうレベルじゃない。常人なら直ぐに肺ガンになるくらいの量だ。

「うるさい。校舎全体禁煙で唯一吸える場所がこの教会内しかないんだ。だったらここで吸えるだけ吸うのは当たり前だろう。それくらいもわからないのか?」

「けど限度ってもんがあるでしょうがっ!!」

赤髪の女性に怒りがどんどん募っていくのがよくわかる。一触即発の雰囲気が場に流れる中

『マスター。ここ一度外にでよう。この二人の戦いに巻き込まれたら確実に死ぬぞ』

アーチャーの言う通り、ここにいるのはまずいような気がする。俺は二人に気づかれないように出口へと向かう。

「相変わらず怒りっぽいな。そんなんだから先ほど失敗して、ムーンセルから苦情が来るんだ。マスターに暴行をするしな」

「ちょっ!?アレはマスターが悪かったんだってば!違法スレスレで改竄してくれ、って言うから、スキルを幾つか付加しただけじゃない!それで、ぶちぎれて私に殴りかかってきたから反撃したの。つまり正当防衛よ!」

「なんだそれは?キレられてもしかないだろう。弱体化させて宝具永久封印。私ならもっとうまくできただろうに、どっちにしても役にたたないな」

「働かないくせによく言うわね!そんなに休みたいなら永久やすませてやろうかーーーーーーーーーーっ!!」

「できるものならやってみろ!このビーム女がぁーーーーーーーーっ!!」

俺が出口にたどり着くと、赤髪の女性は手からビームを出し、青髪の女性は巨大な使い魔を使役し戦い始めた。

「止めなくていいのかな?」

『やめておけ。あの二人の間に入るということは、何も装備せずにエベレストに登るより無謀だ。絶対にやめておけ』

「じゃあ、けりがつくまで、待つしないか………………」

何時もの俺なら、止めに入ったかもしれないが、あの二人の間に入るのはアーチャーの言う通り絶対にやめた方がいいと感じた。俺は教会の扉を閉め、近くにあったベンチに座り、終わるのを待つ。

(なんか、時計塔のことを思い出すな…………)

そういえば、遠坂もこんな感じでルヴィアと喧嘩してたな……………………俺やセイバーがいつも止めても全然収まらなくて何度も死にかけたっけ。

(今頃、遠坂やセイバーはなにをしているだろう?)

空を見上げながら、そんなことを考えていた。そして、一時間ほどして、教会の中が静かになったので、再び足を運んでみると、喧嘩していた張本人たちは椅子に座っている。

「あっ、先は、悪かったわね。ちょっとイライラしてたから、貴方に八つ当たりしちゃって…………」

俺に気づいた赤髪の女性は、先ほどのことを謝ってきた。どうやら、暴れて落ち着いたようだ。

「大丈夫です。それよりパスのことを調べて欲しいんですが」

「ええ。それくらい簡単よ」

そういうと、赤髪の女性は立ち上がる。すると、彼女の前に青いディスプレイが現れ、彼女が何か操作すると、彼女の後ろの空間が青く光った。

「この光りの中にサーヴァントが入るの。ちょっと時間がかかるわよ」

「………………………承知した」

実体化したアーチャーは無言で青い場所に向かう。あれ、気のせいか嫌がっているように見えるのは俺だけか?

「それじゃ、行くわよ」

「お願いします」

ポキポキと指を鳴らした後、ディスプレイを操作し始めた。俺はそれを見ていると、あることに気づく。

「額のその怪我大丈夫ですか?治療しないと」

先ほどの喧嘩のせいで青髪の女性の額から血が流れている。ちゃんと治療しないと傷が残りそうな上、見ているだけでこっちまで痛くなりそうなくらいだ。

「君が心配しなくても特に問題は無い。どうせ事が終わったら、この体は破棄するつもりだしな」

「破棄?」

その表現は何か気にかかる。破棄というものなら体を全て捨てるということ。つまり、どういうことなんだ?疑問を浮かべている俺を見て青髪の女性はケラケラと笑いだす。

「聖杯を手にしなければムーンセルから生きて出られないことは。知っているだろ?」

「はい。でも、あなた方はNPCじゃありませんよね?」

一回戦の時に図書館で色々と調べたがNPCは、ここから出られないため聖杯戦争ごとに新しく作製され、聖杯戦争が終結すれば破棄されるという。
作っておいて一方的に破棄するのは納得いかないが、それについては今は置いておく。この人たちは見たところ人間だ。破棄というのはおかしい。

「ああ、君の言う通り私達二人が人間だ。ここにいられるのはムーンセルと締約を結び、マスターたちへの手助けを条件に永続権を得ている。その条件は普通のマスター達と変わらない。だから死んでもかまわない自分を作って来ているんだ」

ここから出られるのは優勝の一人だけ。そのためにこの人は自分を作った。そんなこと魔術でできるのか?

「あー、気にしなくていいからそこ。とっくに自分が本物(オリジナル)複製(コピー)の差なんて分かんなくなってる変人の言葉だから。深く考えるのは止めた方がいいわよ?」

「…………………」

気づくといつの間にか改竄が終わっており、赤髪の女性は椅子に座り、アーチャーも空間から出てきていた。

「どうでしたか?」

「隅々まで調べて特に問題はないわよ」

「そうですか……………」

レイラインに何かあると思ったが異常なしなら、なんで俺は夢を見るんだろう?う〜ん、あと思いつくものがない。本当に問題がなかったのかな?

「腑に落ちないようだな。少年?悩みがあるなら話してみろ」

青髪の女性が悩む俺を見て、面白いものでも見つけたかのように言う。

「……………………相談するかどうかは、マスターに任せた」

アーチャーは背を向けて決定権を俺に委ねた。やはりここに来てから何か違和感がある。関わりを持ちたくないような態度がうかがえるな。

「はい。実はサーヴァントの過去を夢として見るんです」

「ほぅ、夢だと?」

俺の言葉を聞いて青髪女性は興味深そうな表情になる。しかし、どこか面白いおもちゃを見つけたような表情にも見えるのは気のせいか?
青髪の女性は笑みを浮かべると吸っていた煙草の火を消すと部屋の隅っこに投げ捨てて、立ち上がった。

「それは興味深い。何か問題があるかもしれない。私が調べてよう」

「何よ、嫌味。私の診断にケチつける気?」

赤髪の女性が不満そうな表情を浮かべる。問題ないと言った手前、ケチをつけられたのが嫌なんだろう。でも、こっちの青髪の女性の方がこういう細かいことが得意そうに見える。

「嫌味じゃなく、純然な事実だろう。私の方がうまくできる」

「チッ!はいはい、そうでございましたね。どうせ、私は下手くそですよ〜だ」

子供のように不貞腐れたようにそっぽを向く赤髪の女性。理解しているが認めたくないと言った感じか。

「ともかく、何かあったらまた教会に来るといい。今度は私が見てやろう」

「あ、はい」

特に何もしていないが、妙に気に入られたようだ。これ以上ここにいても特に何かあるわけでもないため協会を後にした。

「……………まさかあの2人がいるとは」

「知り合いか?」

教会を出るとアーチャーが頭を押さえ大きくため息をついた。さっきから様子がおかしいと思っていたが、どうやら教会にいたあの2人を知っているらしい。

「貴様も知っているだろう。青髪の女性の名前は蒼崎橙子。赤髪が蒼崎青子だ」

「あの蒼崎姉妹!?」

希代の人形師にして、封印指定の魔術師【蒼崎橙子】とマジックガンナー、ミスブルーの異名を持つ【蒼崎青子】。魔術師の世界のバランスにかなりの影響力を持つ2人だって!?
二人の噂はよく耳にしており、ものすごく姉妹仲が悪いらしくて顔を合わせるたびに殺し合いをしてるとか。
二人が出会うと、周囲に跡形も残らないとか。
姉の方は死んでも死なないとか。
美少年を囲ったり、男を飼ってたりとか。
色んな噂を耳にするが俺が倫敦で一番最初に叩き込まれたことは、【蒼崎にけしてかかわるな】と言うほど、2人に関わるのはマズイらしい。

「この世界でどのような人物かはわからんが根本は凛同様に変わらんのなら、必要以上に関わらないことをだ」

「わ、わかった」

とりあえず、アーチャーの忠告を頭に刻みこんだ。なんか、この世界に迷い込んでからアーチャーに対する印象がかなりの変わった気がする。まあ、そんなことより、これから時間をどのように過ごそうか。
アリーナに行くのも時間的には早いし、もう少しこの辺りを見て回ろうかな。

(それにしても………)

校舎とは違い人の気配がないためか、辺りは噴水の水の音以外聞こえない。何処と無く奇妙な雰囲気を感じる。

「ん?」

すると、視界の隅に人影が目に入った。好奇心からか近づいてみるとそこには

「………ああ、士郎君か」

「こんにちは。ダンさん」

対戦者であるダンさんが地面に膝をつき教会に向かって祈りをささげている姿が在った。

「なにをしているんですか?」

「日課である神に祈りをささげていたんだ。こんな場所で悪いがね」

それなら教会に入れば………と言いかけたが、理由は何と無く察しがつく。恐らくあの姉妹がいるためできないのだろう。

「明日はいよいよ戦いの時だ。互いに全力を尽くそう」

「はい」

再び祈り始めたダンさんに、これ以上語り合う事など出来ない。おれはダンさんに背を向け立ち去ろうとすると

「士郎君、一つ質問がある」

突如呼び止められ、振り返る。ダンさんが俺に質問?

「構いませんが……………なんですか?」

「奇妙な質問をするが、君と私は何処かで顔を合わせなかっただろうか?」

「えっ?」

予想外のダンさんの質問に思わず間抜けな声を出してしまった。俺と以前何処かであった?記憶力に自信があるわけではないが、それはないと思う。

「いや、多分人違いだと………」

「そうか。どうもここ数日、既視感を感じてしまってな…………呼び止めてすまなかった」

何か引っかかる言い方だが、追求する必要もない。俺はダンさんに背を向けて校舎へと歩き出した。























































































「おはよう士郎!」

「良い天気であるな!」

校舎に入ると白野と赤セイバーと鉢合わせになった。レオを除く全ての参加者がサーヴァントを霊体化させているのに、白野は真名を隠す気があるのだろうか?

「二人ともおはよう。どうだ、情報集めは順調か?」

「バッチリさ!セイバーと俺にかかれば問題なし」

「余と奏者の共同作業だからな!」

「そ、そうか…………」

なんだろう?この酔っ払ってハイテンションの藤ねえを相手にしているようなめんどくさい感じは。

『やれやれ、別の意味で厄介だ。ひょっとして、一種の精神攻撃ではないのか?』

霊体化して姿が見えないがアーチャーも俺と似たようなものを感じてるようだ。まあ、アーチャーの言う通り一種の精神攻撃かもしれないな。

「ところで其方達はどうなのだ?」

そんな俺たちのことなどを尻目に赤セイバーが質問を投げかけてくる。白野の腕に抱きつきながら…………。

「俺の方も問題なくやれてる」

「それは良かった。あっ、そういえば購買部で新商品が入ったから一緒に見にいかない?」

新商品か…………ダンさんのサーヴァントロビンフットのイチイの毒対策に何か役に立つものがあるかもしれない。もう決戦まで残り時間は少ないし、早くあの毒に対策を立てなければ、戦いの時かなり不利だ。

「いいものがあるかもしれないし、行ってみようか」

「オッケー、それじゃあ、行こうか」

白野は意気揚々と俺の前を歩き俺もその後に続くようについていく。赤セイバーが白野の腕に抱きついているため、後ろからついていこう。

『役に立つものがあるかもと言うのは希望的観測に過ぎんぞマスター』

「分かってるさそれくらい」

しかし、あの毒の矢の効力は受けた俺がよく知っている。状態に異常をきたすものにたいして、俺とアーチャーの投影は役に立たない。
購買部に到着するとアーチャーの言う通り希望的観測かもしれないが、確認を行う。

「いろんなものが増えてるな…………」

前回来た時とは比べ物にならないくらい品物が増えている。主に雑貨とか。俺の目に着いたのは彫刻をするための鉋・金槌・鑢などの道具一式と彫刻用の石が買える【彫刻セット】と呼ばれるものだ。

(…………こんなもの誰が買わないだろう)

「奏者、この彫刻セットが欲しい」

「セイバーは頑張ってるからな〜ご褒美に買ってあげる」

キラキラと目を輝かせる赤セイバーと即決で品物を買う白野。すぐ隣にいた………………

「奏者よ、部屋で早速作るぞ!」

こんな調子であの2人大丈夫かな?何処か、ゲーム気分なように感じる。ひょっとしてまだゲーム感覚だと思ってるのか?でも、弓道場での態度を見るとそんな風には………………よくわからないな

「なにをしている。私たちは私たちのことをやるぞ」

アーチャーもわざわざ実体化して、品物を物色し始めた。アーチャーの言う通り、俺たちは自分のことをやろう。品物を見ていくと気になるものが、目についた。

「……………アーチャーこれ」

「ふむ、足りないものは他所から持ってくるのが魔術師とはよくいったものだ」

俺は早速その品物を買い、決戦への準備をする。この買った物が使えるかどうかぶっつけ本番だがやるしかない。 
 

 
後書き
ありがとうございます。久しぶりに更新しましたが、今までガラケーだったためスマホに変えましたが打ちづらくやりにくい。
最後らへんもう少し書きたかったですが、断念。違和感ありまくりだと思いますがスルーと言うことで 
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