Fate/EXTRA IN 衛宮士郎
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毒と鞘と夫婦剣
前書き
短いですがなんとか出来ので更新します。戦闘描写が相変わらず難しい
《二回戦7日目》
ついにダンさんとの決戦の日が訪れた。二度目の7日目を迎えると流石にすれ違う他の参加者も心なしか顔つきが変わっている。しかし、一回戦の戦いを未だに受け取れていない人もいるようでその顔は恐怖で青ざめていた。
用具室の前に来ると前回同様に言峰が立っている。
「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て整えたかね?」
「お前に心配されることはない」
「では、存分に殺し合いたまえ。君の無事を祈る事にしよう」
前回と同じように言峰に言われるままにトリガーデータの入った端末を扉に近づけると、前回の時の様に鎖が剥がれおち、用具室の扉は決戦場へ続くエレベーターになった。これの行き先にはダンさんと緑アーチャー、そして彼らと戦うコロッセオの様な決戦場が待ち受けているのだろう。
前回の慎二との戦う前とは違い足取りは重くない。覚悟はとうの昔に決めた。俺はこれから生き残るためにダンさんと戦う。そして、歩みを止めずに突き進む。
「ではいくぞ」
「ああ」
実体化したアーチャーとともにエレベーターに乗り込む。エレベーターの中には敵である二人も当然のごとくそこに立っていた。
静かにたたずむダンさんと、その横で力を抜き立っている緑アーチャー。一回戦の時とは違った雰囲気が狭い空間の中を包み込んでいる。
「ふむ、話す気はないということか」
そんな沈黙を破ったのは、珍しいことにアーチャーだった。すると、緑アーチャーも釣られるように口を開く。
「はっ!そりゃそうだろお前らはここで負けんだから会話する意味もない」
随分な勝利宣言だ。少しは思うところがあったのかなかったのか、それに関してはスルーの方向らしい。……挑発優先ってことなのか?
「ほう、それにしては随分不満そうだな」
「あ、わかる?実際退屈なんだよ。うちのダンナは無駄がなくてねぇ。たまにゃ茶飲み話といきたいんだが」
「それはまた悲しいことだ。余裕のないマスターと当たるなんて同情をかくせない」
「弱い犬程よく吠えるって聞くけど本当らしいな。でもま、一理あるっちゃある。そっちのマスターうちのマスターと話す気とかは」
いや、いきなり話せって言われても。だけど、話を振られたなら、とりあえずなにか言わないと。この場合なにを喋ったらいいんだ?
「あの……ご趣味は」
…………………咄嗟に出て来たことがこれかよ。自分のボキャブラリーのなさにショックを受ける。いくらなんでもこれから戦う相手にこれはない。
「貴様はなにを考えている………」
横にいるアーチャーも出会った当初のような目つきでため息をつく。いや、流石に自分でもこんな時に何を聞いているのかと思うけど。
「ふむ戦場で敵から質問を受けたのは初めてだな……趣味、そうだな……」
「ちょいダンナ!?別に答えなくってもいいやつだよ今の」
ダンさんが俺に同情してくれたんだろうか今の返しは。………………普通に返してくれただけなのに卑屈な考えに至ってしまう。そのようなやりとりがあったが長く続かず再び俺たちは口を閉ざし、沈黙が訪れる。しかし、今度はダンさんの方から沈黙が破られた。
「詮索するようだが、士郎君、君は年のわりに随分と戦い慣れているな」
「……………ええ、ここに来る前に色々とありましたから」
戦い慣れているかどうかはわからないが、聖杯戦争が終わって倫敦に渡った後でも色々とあったからな。内容は思い出せないが、冬木市でも争いごとが起きたっけ。
「時間があったらぜひ聞きたいものだ」
「そうだったらいいですね」
今から片方の死が確定している試合をするとは思えない程、さっぱりとした会話だった。それを聞いていた緑アーチャーはよほど自分の主がフランクに話した事が意外だったのか、大きく目を見開いている。
「おいおい、旦那も随分舌が回るんだな」
「集中しろアーチャー。これより赴くのは戦場だぞ」
「……俺には厳しいねぇ」
「まったく、マスターが立派なのにサーヴァントがコレとはマスターとサーヴァントの立場がまるで逆だ」
遠回しに俺は立派じゃないって言いたいのかこいつ。?自分でもわかっているが、やはりこいつにだけ言われると腹が立つ。俺も立派じゃないとわかっているからなにも言わないが。
「逆であるならどんなに楽か!うちの旦那はちょいと潔癖すぎてね、英霊らしからぬオレとしちゃあ困りもんだ」
緑アーチャーは冗談とも本気とも取れる態度だが、本心は俺にはわからない。緑アーチャーは俺の方を向き問いかけて来た
「なあそっちのマスターさんよ、闇討ち不意打ち騙し討ちは嫌いかい?」
「……………否定は、したい」
緑アーチャーの質問に少しだけ考え答えを出す。できることなら正面からといきたいけれど、正直一回戦をその卑怯なやり方ともいえる遠距離からの不意打ちで突破したなんとも言えない。……闇討ちも、不意打ち、背後からなんて結構当てはまってるな。
「私は賛成だ。結局のところやらなければこちらがやられるだけだ」
「おっ!意見があったな。無防備な背中を後ろからシュッパーンっとね。アーチャーの面目躍如ってワケ。理想やら騎士道やら、そんなの重苦しいだけで、死に際は身軽じゃなくっちゃね」
弓兵というクラスだけあるのか2人は何処かにている気がする。だが、似ているだけで同じというわけではない。敵対している上に緑アーチャーは言動から察するにニヒリストだ。アーチャーとは相容れないと思う。
「楽しいそうだなアーチャー。しかし、この戦いでは儂の流儀に従ってもらうぞ」
「げ、やっぱり今回もっすか。はいはい、分かってます。了解ですよ。オーダーには従いまっす」
アーチャーはダンさんの言葉に渋々了承する。
「かっこいいねぇオレのマスターは。こんな相手でも騎士道精神旺盛と来た。……けどなあ。誰でも人生に誇りを持てるわけじゃねえって分かってほしいんだが……」
そう、アーチャーが言った瞬間体に大きな振動が伝わった。エレベーターが動きを止め、決戦場への扉が開く。エレベーターを出て、決戦場の土を踏む。
「マスター、準備はいいか?」
「大丈夫だ。覚悟を決めたからな」
「さぁ始めるぞ、アーチャーよ」
「何時でもどうぞっと!!」
戦いの火蓋は切って落とされた。最初に動いたのは緑アーチャー。右手を地面にたたきつけ、弓に絡みついているツタがそこに撃ちこまれると、俺たちに向かって地面が隆起して行く現象が起きた。
「いきなり不意打ちか」
アーチャーはその場を離脱すると、元いた場所に無数の茨が突き出て来る。弓だけじゃなくこんな遠距離の技があったのか。
「ならこちらもいかせてもらう。マスター援護を頼む」
干将・莫邪を手にし、緑アーチャーへと突っ込む。緑アーチャーは弓矢を得意とするなら、接近戦の方がこちらに部がある。
「させるかよ、旦那ぁっ!」
「任せろ。【gain_str(16)】」
ダンさんがコードキャストを使用すると緑アーチャーは赤い光に包まれる。効果はわからないが恐らくサーヴァントの能力を一時的に上げる物だろう。
緑アーチャーから矢が放たれる。相変わらず正確無比の上、その速度は以前よりもかなりのものだ。先ほどのコードキャストはサーヴァントの筋力を上げる物だったか。
しかし、そんな攻撃でも真正面からの攻撃を抵抗無く受けるアーチャーではない。
「はっ!」
その矢を弾き、緑アーチャーのすぐ傍にまで跳ぶ。そのまま切りかかるが、寸前の所で回避された。
「投影開始」
おれはすぐさま、弓を投影し無名の剣を矢にして緑アーチャーに追い打ちをかけるが、この攻撃も緑アーチャーは回避。
「ヒュー、なかなかの腕してんじゃん、っと!!」
剣で切りかかっていくアーチャーから距離を取る緑アーチャー。一撃を与えられていないのは、それだけ緑アーチャーの実力があるという事か。行動を起こさないダンさんもそうだが、未だあのサーヴァントは本領を発揮していないように思える。油断は一切できない。
「はっ!」
アーチャー再び距離をつめ干将・莫邪で切りかかった。そこにまたも矢を放つ緑アーチャーだが、それはアーチャーの肩を掠めるだけに終る。
攻撃が当たらないと分かると回避に移ろうとしたが、一瞬間に合わなかったようで、頬に一筋の傷ができた。一撃だけの攻防を終え再び2人は距離を取り、対峙。
「どうした?動きが鈍くなってるぞ?」
アーチャーの挑発に緑アーチャーは頬の傷から流れる血を片手で無造作に吹きながら睨みつける。今までとは違い纏う雰囲気が変わった。
「……………言ってくれるじゃねぇか。旦那、こっからは弓兵らしい戦いをさせてもらうぜ」
「よかろう。同じ弓兵同士、腕を競い合うがいい」
「ああ、無貌の王、参る」
緑アーチャーはダンさんの肩を掴むと着ている緑のマントで自分たちを覆うと二人とも消えてしまった。あのマントは他人にも効力があるのか。
「アーチャー、頼むぞ」
「任せろマスター。邪なシャーウッドの森、草の一本も残さず刈り取ってやろう!」
前回同様、アーチャーは数本の黒鍵を投影すると構えをとった。投擲しようとした瞬間、複数方向から矢が撃ち込まれるが、手にした黒鍵で弾いていく。
「投影開始!」
干将・莫邪を手にし叩き落としていくが一本一本矢を落としていくたびに腕がしびれる。強化されているため一本の矢の衝撃が重たい。
いつの間にかアーチャーも矢が撃ち込まれた複数の方向に黒鍵を投擲。
前回の時同様壁に突き刺さった瞬間
「おおぉぉぉ!?」
直撃はしなかったが、緑アーチャーのいる近くに刺さったようで叫び声が聞こえた。
「そこか!」
叫び声が聞こえた方向に向かって俺は数本の矢を撃ち込んだ。しかし、矢は空を切り壁に突き刺さっただけであった。
「こっちだ。間抜け」
俺の後ろから数本の矢が打ち込まれる。しまった!?罠か!咄嗟に剣を投影しようとしたが
「だろうな」
緑アーチャーの攻撃を読んでいたのかアーチャーはすぐさま手にしている干将・莫邪で矢を撃ち落とす。
「あら〜読まれてた?」
「このような低レベルなトラップが引っかかるのはうちのマスター位だ」
ぐうの音も出ないな。アーチャーの言う通り自分でもあんな単純な罠に引っかかるとは情けない。
「そうかな。もう罠にかかってるぜ」
「っ――!?」
突然アーチャーが倒れたのはその時だった。すぐに体勢を立て直し、一旦戻ってくるが、その顔は青ざめている。
「どうしたんだ、大丈夫!?アーチャー!」
「大、丈夫、だ……!」
確かにまだ戦う力は残っていそうだが、明らかに普段のアーチャーとは違う。緑アーチャーから、何か攻撃を受けたのだろうか。
(攻撃……………!)
と、そこで思い出す。俺が緑アーチャーから受けた攻撃に【生き物はこれだけで死ぬもんだ】という前回の戦いでの台詞。ここまでの戦いを思い出してみると
「あの掠った一撃か」
「マスターの言う通りだ。くっ、私としたことが…………」
肩を掠めた矢に毒が塗り込まれていたんだろう。アーチャーが気づかなかったのも無理はない。恐らく今回は遅効性の毒の可能性が大きいからだ。
「おーおー、やっと効いてきたか。軽いもんだけど、生き物ってのはこれだけで死ぬもんだよ」
サーヴァントならば、俺みたいに直ぐに倒れる事はないだろうが、どこまで耐えられるか。
「旦那ぁ、やらせてもらうぜ!」
「良いだろう。仕留めるがいい、魔弾の射手よ」
右腕に装着した緑と紫の弓に魔力が集まっていく。アーチャーの宣言は、それの真価の使用だった。
「毒血、深緑より沸き出ずる!」
放たれた矢は毒々しい魔力の尾を引きながらアーチャーへと迫る。手にしている干将・莫邪で叩き落とそうとするが矢の勢いを弱めることも無く矢に砕かれ消滅する。そして避けることもままならず、アーチャーはその矢を腕に受けた。
「があああああああぁぁぁっ!」
アーチャーは苦痛を隠さない叫び。普通の矢が直撃しても、こんな叫びは出ないだろう。
どうやら今の一撃こそ緑アーチャーの宝具祈りの弓の真の能力。見たところ敵の毒を体内で爆発させ、瞬間的に大きな損傷を与える。
そしてその毒の回りを早めることで敵の死期を格段に早めるってところか。
「意外としぶといなぁ。ま、その状態なら動けねぇし、死ぬのも時間の問題だな」
「アーチャーよ。油断するな」
「了解。サーの旦那」
何処からともなくダンさんと緑アーチャーが姿を現す。最初の時と同じように四人が再び集まった。だが、状況は明らかに此方が悪い
まずいな、コードキャストを使われる前にアーチャーの毒をなんとかしないと。………………使う機会が全くなかったからかなりの不確定要素があるけどこの際これにかけるしかない。
「【cure()】」
昨日購買で手に入れた礼装【癒しの香木】に付属している魔術を発動させる。アーチャーは緑色の光に包まれ顔色も元に戻る。アーチャーはすぐさま干将・莫邪を投影し走り出す。
「いかん、下がれアーチャー!」
「へ?うおおっ!!」
斜め上から振り下ろされる干将・莫邪を一瞬でダンの指示に従った緑アーチャーは手にしたナイフで斬撃を受け流した。
傷を与えることはできなかったがアーチャーの様子見る限り成功だ。この礼装の魔術の能力は呪いなどの解除。毒も一種の呪いと同じだからもしやと思ったが、上手くいった。
「こりゃあ参った。俺の毒を解呪したってわけか。ははは!」
俺がアーチャーに解呪したのを理解したのか腹を抱え大笑いをする緑アーチャー。一見、ただ笑っているように見えるが
「………………おもしれえ」
黒い笑みを浮かべ俺たちを睨みつける。緑アーチャーの視線に射抜かれ鳥肌が立つような寒気を感じた。
「気をつけろマスター。どうやら彼方も火がついたようだ」
アーチャーの言う通り立ち振る舞いや表情など変化はないが緑アーチャーの纏う雰囲気が明らかに変化した。緑アーチャーにとっては毒を解呪されたのは自分のプライドを踏みにじられたのだろう。
「サーの旦那、魔力を廻してくれ」
「………………まさか【アレ】をやるつもりか」
「旦那ここは戦場だ。どんな手を使っても勝つことに意味があるんっスよね?」
「むっ………」
緑アーチャーの言葉にダンさんは黙り込んでしまった。ダンさんにとってもこの戦いに負けるわけにはいかない。勝つためにはダンさん達にとって最も有効な手段といえば………………。
(アリーナの時に仕掛けた樹だ)
「させるか!」
俺より先にアーチャーが投影した干将・莫邪を緑アーチャーに向けて投げつける。左右から弧を描きながら緑アーチャーに向けて迫ったが、地面から茨が伸び、干将・莫邪を叩き落とした。
「これならどうだ!投影開始」
数本の剣を投影し一回戦のとき同様に矢として撃ち込む。干将・莫邪を叩き落とした為茨は脆くなっていたのか矢は突き抜け、緑アーチャーに迫る。
「ッ!ダンさん!?」
「君が戦うのを見て、私も何かできることは無いかと思ってな」
しかし、ダンさんの両手にいつの間にか握られた西洋剣によって、俺が撃ち込んだ矢が落とされていた。数本の矢を一瞬で叩き落したのか!?
「老練の姿をしていても此処は電脳空間。敵のマスターの身体能力が全盛期の時と同じ感覚で発揮されたようだな」
「くっそ!ただでさえ能力が厄介なのに…………」
これで互いにマスターとサーヴァントが戦い合うことになったわけか。その上いまの攻撃が防がれてしまった間に緑アーチャーに膨大な魔力が流れ込む。状況は悪くなる一方だ。
「アーチャー、力及ばずながら、共に戦わせて頂こう」
「…………元気なご老体で。無茶だけはせんでくださいや、旦那」
緑アーチャーは標準を誰もいない方向に向けて合わせる。
「我が墓地はこの矢の先に……」
緑アーチャーから放たれた矢は遥か遠くに向けて放たれた。矢は地面に突き刺さると矢は一本の若木へと変化する。
「森の恵みよ……圧政者への毒となれ」
若木は急速に成長していき巨大な樹木へと成長。巨木からは紫色の薄紫色の霧が辺りを覆う。以前アリーナに仕掛けてあったものよりも巨大だ。あんなものがあったら直ぐに毒でやられてしまう。
「おたくらが使ってるコードキャストは体内にある毒に効果的だ。外からの毒は防げねえだろ」
「………………なるほど。こちらの対策が潰されたわけか」
本当にこのコードキャストは体内のみ有効だろうか?口ぶりからして一回戦で似たようなことをされたに違いない。ハッタリかもしれないがここで無駄に魔力を消費するのもダメだ。
早くあの巨木を破壊しないと俺たちの身体が毒に汚染されてしまう。だが、壊すにしても今のダンさん達に隙を見せたらやられる。
「アーチャー、こうなったら正面から行くしかない」
「………………それしかないようだな、マスター」
「「投影開始」」
アーチャーは弓と数本の剣を、俺は干将・莫邪を投影し強化をかけた。互いに戦う相手はわかっている。後は対処できるかどうかだ。なんとかして隙を作る。
「はっ!」
アーチャーは緑アーチャーに数本の剣を撃ちこむと
「シッ!」
緑アーチャーも同じように矢を放つ。互いの矢はぶつかり合い弾かれるのを合図に弓兵同士の撃ち合いが始まった。互いに寸分違わない正確さで矢を相手の急所を狙う。
「はあっ!」
「フン!」
一方、互いに剣を手にし切り結んでいる俺とダンがいるのだが、ダンさんも全盛期の力を出し続けれる事が分かったからか、繰りだす刃の数々にひるむことなく応戦してくる。
こちらも巨木の破壊を試みるが、緑アーチャーが繰り出す茨とダンさんのコードキャストにより妨害され、決定打がないまま、時間だけが過ぎていく。
「ほらほら、どうした!」
拮抗していた撃ち合いが徐々に緑アーチャーの方が優先になっていく。何本かの矢を撃ち落とせずにアーチャーに迫っていくが、これをライダーがやったように上体だけそらしてかわすがアーチャーの顔に焦りの色がみえる。アーチャーも限界がきているな。
「ハァ…………ハァ…………」
という俺も意識が朦朧としてきたアリーナに入っただけで吐血をしたくらいの毒だ。動き回ったせいか、体に回るのも早い少しずつであるが毒が体を蝕んでいくのが手に取るようにわかってしまう。
「は、ゴホッ!ごほっ!」
ただ吐き出す吐息に混じって、生温い何かが噴き出す。
「はあっ!」
「ぐっ!?」
そこに一瞬の隙ができてしまった。ダンさんの一撃を両手の剣を使い受け止めるが、毒のためか踏ん張ることができず体勢が崩される。距離をとるがダンさんの追撃がない。
「…………すまんな。これで終わりだ」
ダンさんはその場から動かずに呟く。なぜこんなことを言ったのか直ぐに理解が出来た。視界の端に緑アーチャーが俺に標準を合わせている。右腕に装着した緑と紫の弓に魔力が集まっていく。その弓に込められた魔力は、先ほどの恐ろしい威力の攻撃を再び行うためのものだと予想がつく。
(くそっ!?)
戦いにおいて弱った方を狙うのは常套手段だ。この場合アーチャーではなく俺を狙うのを選択するだろう。そして確実な死を与えるため祈りの弓を使う気だ。
「マスター、っ!?」
こちらに駆けつけようとするアーチャーだが、膝が地面に崩れる。ダメだ、アーチャーも毒やダメージでもう体が限界だ。自力でなんとかしようにももう体が……………
あの矢を人間の使う魔術では防ぐのは不可能だ。例えあったとしても衛宮士郎が使うことはできない。
「毒血、深緑より沸き出ずる!」
矢が放たれ一直線に俺に迫ってくる。瞬間、今までのことが頭の中を駆け巡った。
『いいか。お前は戦う者ではなく、生み出す物にすぎん。余分な事など考えるな。お前に出来る事は一つだけだろう。ならば、その一つを極めてみろ』
『貴方が私の………………』
(……………これが走馬灯というものだろうか)
いや、どれも違う。頭にあるイメージが浮かんだ。あの黒い騎士の槍を防いだ時に出てきたイメージ。黄金の光に照らされたある一つの何か。
光に照らされているが、あの時は霧がかかったかのようにその姿を見ることができない。けれど、今の俺にはそれが何か理解できた気がした。
「投影…………開始…………」
呟くと同時に意識を奥深い所に潜っていく。深く、深く、もっと深く、魂の、精神の、肉体の底まで、深く、探り出す。全てのものがありながら、何も無い世界を。何千何万という、墓標の如く丘に突き刺さる剣の群れ。その更に奥。衛宮士郎にとって最も強く残るイメージ。
精神集中も工程もすっ飛ばして作り上げたそのカタチを手にする。瞬間、周囲は黄金の光に包まれた。
アーチャー視点
(……………バカな)
それはその瞬間に、衛宮士郎の手の中に現れた。この衛宮士郎では再現することなど不可能なもの。
しかし、衛宮士郎の身体にとって、それはまさに自らの半身と呼ぶべきもの。心強い騎士を象徴する、本来彼女が有する最強の守り。
全て遠き理想郷
彼女が死後に辿り着くとされた、王が夢に見た……決して辿り着く事の出来ぬ理想郷。
「は、はは。なんだよそれ…………」
「バカな…………ありえん」
敵陣営2人も驚愕している。矢が届くまで一秒もかからない。その一瞬で宝具が防がれた。サーヴァントではなくマスターに。
その上鞘から放たれた黄金の光は周囲の毒までも消し飛ばしていく。当然だ。この鞘は人類60億の呪いをも防ぎきるもの。この程度の呪いなど造作もない。
だが、あちらにとっては奥の手を潰されたのだ。動揺し大きな隙が生じる。
(数々の疑問は残るが、今はこの戦いを終わらせるのが先決だ)
こちらも行かせてもらおう。干将・莫邪を投影し、ロビンフッドに投擲し、詠唱を唱える。
「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ」
干将・莫邪は弧を描きながらロビンフッド迫るが、
「しまっ………!?チッ!」
弓矢や茨で落とすのではなく隠し持っていたナイフで迫りくる二本の剣を弾く。ほう、咄嗟にしてはよい動きだ。だが、まだだ。
「―――心技、泰山ニ至リ」
2本目の干将・莫邪を投影し今度は私自身がロビンフッドに向かって斬りかかる。
「弓が叶わないから、接近戦なら勝つってか?舐めんじゃねえ!」
「―――心技 黄河ヲ渡ル」
右手に持つ莫邪の剣でロビンフッドを突き刺す。私の剣に合わせてすかさずナイフで防ごうとしたが
「ッ!?がっ!」
私の剣を防ぐことなく自らの体に莫邪が突き刺さった。防ぐことは出来ずに私の攻撃を受けたのは1本目に投げた干将が私の手にしている莫邪に引き寄せられロビンフッドの背中を斬りつけたからだ。
陰と陽の夫婦剣。干将莫邪は離れた時に互いが互いに引きあうという特性を利用させてもらった。
「 ―――唯名 別天ニ納メ」
同じように左手に持つ干将を突き刺す。再び1本目の莫邪がロビンフッドの体を斬りつけた。
「くっ、こ、こんなもん………」
体に突き刺さった剣を抜くため距離を取ろうとするが、生憎もう逃がすきはサラサラない。
「 ―――両雄、共ニ命ヲ別ツ」
三本目の干将・莫邪を投影し追撃。しかし、1本目と2本目とは違い、衛宮士郎に教えたように強化をかけて双剣をより巨大かつ強力に肥大化させた。
「鶴翼三連、叩き込む!」
殺傷力を格段に上昇させた双剣で斬りつけるが、ロビンフッドは防ぐことなく斬撃を喰らい、胸には鮮血の花が咲く。
「んだよ…………そりゃあ」
わけわかんねぇ、と呟くとロビンフッドは膝から崩れ地面にうつ伏せになって倒れた。
後書き
読んでいただきありがとうございます。何ヶ月も更新ができないくらい忙しかった。相変わらず駄文でツッコミたい所があると思いますが寛大な心でスルーということでお願いします
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