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うどん

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第七章


第七章

 暫くしてその天麩羅うどんがやって来た。それは。
「うわ・・・・・・」
 まずはうどん自体を見て驚く。碗が大きくうどんの量もかなり多い。しかも天麩羅がその上に所狭しと置かれているのだ。その量にまず驚いたのだ。
「多いですね」
「ニュージーランドですから」
 ワンダはまたこれを言ってきたのだった。やはりにこやかに笑って。
「多いんですよ」
「ニュージーランドだからですか」
「皆大きいですよね」
「ええ、まあ」
 これが体格のことを言っているとわかるのですぐに頷くことができた。
「確かに」
「だからですよ。それに」
「それに?」
「後は食べてからです」
 ここから先は今は言おうとはしなかった。
「ですからどうぞ」
「はい・・・・・・あっ」
 ここで娘はまた一つのことに気付いた。うどんの側に置かれているのは。
「お箸とフォーク、スプーンですか」
「お箸使えない方も多いので」
「ですね」
 やはりニュージーランドだからだ。これもわかったことだ。
「それはやっぱり」
「そういうことも踏まえまして」
「ええ」
「どうぞ」
「わかりました」
 こうして箸を手にしていただきますの後でうどんを口に入れた。すると。
「!?」
「美味しいですか」
 ワンダは微妙な顔になった娘に対して尋ねてきた。
「如何でしょう」
「美味しいです」
 微妙な顔であったがこうは答えてきた。
「ですが」
「ですが?」
「少し味が違いますね」
 そのうえでこう述べるのであった。
「何か。日本のおうどんとは」
「味付けが違うんですよ」
「そうですか、やっぱり」
「油っけを強くしています」
 そういうことだった。
「あと味も全体として濃厚に」
「だしとかは日本のですよね」
「ええ、それは」
 昆布に鰹にいりこだ。これは押さえてあった。
「唐辛子もありますよ」
「けれどニュージーランド風なんですね」
「ええ、ニュージーランドのうどんです」
 にこやかに笑って娘に答えた。
「ここにあるのは」
「そうですか。そういえば」
「味が違いますね」
「はい」
 今のワンダの言葉には素直に答えるのだった。
「何か前に叔父が言ってたように」
「叔父!?」
 今度はワンダが声をあげる番であった。
「叔父といいますと」
「実はですね」
 ここで彼女は言うのだった。うどんを食べながら。
「叔父はニュージーランドにいていまして」
「ええ、この国に」
「それで以前ある御夫婦にうどんを御馳走になってお話させてもらったそうなんです。ニュージーランドにはニュージーランドのうどんがあると」
「まさか」
 今の話を聞いてワンダはピンと来た。それで娘に対して尋ねるのだった。
「その叔父さんの御名前は」
「浜崎といいます」
「やっぱり・・・・・・!」
 ワンダはその名前を聞いてはっと声をあげた。予想した通りだったのだ。
「そうだったんですか。あの人が」
「あの人っていいますと」
「その人に教えてもらったんですよ、このうどんを」
 そのことを娘に対して言うのだった。
「実は」
「そうだったんですか」
「はい、本当に奇遇です」
 満面の笑顔になっていた。その笑顔で語っていた。
「まさか。こんなところで」
「そうですか。叔父が」
「叔父さんは今でもここにおられますよ」
「はい、知っています」
 にこりと笑ってワンダの言葉に頷いてみせた。
「ここに来たのは会いに来たのも理由ですし」
「そうだったんですか」
「奇遇ですね」
 娘の顔が穏やかな微笑みになった。まるで女神の像の様な。
「こんなところで御会いできるなんて」
「そもそも私達がうどんに出会ってこうして作っていることこそが」
「うどんに出会ったことも」
「ええ、そうですよ」
 アレンも出て来た。そのうえで娘に話すのだった。
「本当に。世の中何があるのかわかりません」
「そうですね。それは」
「それでですね」
 アレンはさらに言うのだった。
「今度はですね」
「今度は?」
「叔父さんと御二人で来て下さい」
 こう声をかけるのだった。
「是非共御二人で」
「今度は御馳走しますよ」
 またワンダも言ってきた。
「きし麺を」
「きし麺もあるんですか」
「ニュージーランドのきし麺ですけれど」
 そこはにこりと笑って前置きされた。
「そうですよ」
「では。是非二人で」
 娘もまたにこりと笑って二人に応えるのだった。
「お邪魔させてもらいます」
「それで最後に御聞きしたいのですが」
 アレンが娘に尋ねてきた。
「はい?」
「貴女の御名前は」 
 聞くのはそのことだった。
「宜しければ教えて頂けませんか」
「今後の為にも」
 ワンダもそれを尋ねる。
「宜しければ」
「凛子です」
 娘はこう名乗ってきた。
「私の名前は。浜崎凛子です」
「凛子さんですね」
「はい」
 アレンの言葉に頷く。
「そうです」
「わかりました。じゃあ凛子さん」
 アレンはその凛子に対して言ってきた。
「今度は御二人でニュージーランドのきし麺を」
「楽しみにしています」
 もう凛子のうどんは奇麗になくなっていた。麺も天麩羅も見事になくなっていた。ニュージーランドのうどんもまた美味いということだった。そして今度はニュージーランドのきし麺に期待を寄せるのであった。次の御馳走に向けて。奇遇が重なってできていったうどんを。


うどん   完


                  2008・5・31
 
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