| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

うどん

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章


第四章

「ひょっとしたら」
「近所にあったかしら」
 ワンダも夫の言葉を聞いてそのことを考えた。
「和食のお店って」
「その前にうどんがある?」
「さあ」
 実はマークしていない。だからわかる筈もなかった。
「見たことないわね」
「参ったな。じゃあ食べられないよ」
 彼はそのことを思ってそれだけで困り果てた顔になってしまった。
「近所にないんじゃ。どうしよう」
「作る?」
 ワンダはふと夫に対して言ってきた。
「作るって?」
「だから。自分達でよ」
 こう夫に提案するのだった。
「このおうどんを。どうかしら」
「僕達で作るの」
「なければ作るしかないわ」
 また随分と積極的な意見であった。
「そうでしょう?だからよ」
「作るんだ」
 その言葉を聞いて今一つ積極的でなさそうなアレンだった。
「できるかな、僕に」
「ウッディ」
 ここでワンダは優しい笑みを浮かべて夫に対して言ってきた。ベッドの上に二人並んで座っているのでその顔が実によく見える。
「弱気は駄目よ」
「駄目なんだ」
「それよりもやってみることよ」
「やってみるんだね」
「そういうことよ。最初は駄目でもいいじゃない」
 あえて失敗を述べてみせるのだった。
「それでもね。やらないとね」
「そうかな」
「そうよ。どうかしら」
 ここまで言ってアレンの顔を覗き込んできたのだった。
「やってみるってことで」
「そうだね。じゃあそれで」
 アレンも納得した顔で頷いくのだった。
「ニュージーランドに帰ってみたらやってみようか」
「そうね。是非にね」
 こう言い合って約束するのだった。そうしてニュージーランドに帰ると実際に。二人は早速材料を買い集めて自宅でうどんを作り出したのだった。
 アメリカ風の見事なキッチンにおいて。二人は並んで立って仕事にかかるのだった。キッチンには既にうどんの材料が全て置かれている。
「はじめるんだね」
「ええ。まずは」
「だしを取ってうどんをこねて」
「はじまりから随分大変ね」
 ワンダは困ったような笑みを浮かべて言葉を返すのだった。
「手間がかかるっていうか」
「手間がかかるのが和食なのよ」
 また夫に対して述べる。
「それはね。どうしてもね」
「やれやれって感じだけれど」
「どうしたの?」
「これはこれで楽しいね」
 こう述べるアレンであった。
「何かね。大変でも」
「そうね、確かにね」
 アレンはうどんをこねワンダはだしの用意をしていた。用意をしつつ話をしていたのである。水を入れた鍋に煮干に昆布が入れられていっている。
「楽しいわ」
「そうだね。何か好きになってきたよ」
 額に汗をかきつつ妻に言葉を返す。汗を左手でぬぐう。
「少しずつだけれど」
「好きこそものの上手なれだったかしら」
 ワンダはふとした感じで言ってきた。
「日本の諺、いえ言葉で」
「日本のだった」
「日本の料理を作っているからやっぱり日本の言葉よね」
 夫にまた述べてみせる。
「そうじゃないかしら」
「そうだね。日本のだしね」
「そういうことね。じゃあ少しずつね」
「作っていこうね」
 こう言い合ってうどんを作っていく。こうしてうどんを完成させた。二人はテーブルで向かい合って座りそのうえで食べ合う。まずはそれぞれ箸を手に取った。
 うどんは和風の丼に入れられている。黒っぽいつゆの中にうごんがありそこに切られた蒲鉾と葱が置かれている。雰囲気も出ていた。
 そのうどんを見てアレンは。感慨を深くさせて言うのだった。
「いや、かなり美味しそうだね」
「そうね。日本のうどんと同じね」
「そうだね。茹で加減はこれでよかったわよね」
「多分ね」
「そう。だったら」
「ええ。食べましょう」
 こう言い合ってから箸を手に食べはじめた。まずは麺を口に入れた。するとその瞬間にアレンの顔色が微妙に変わってしまった。
「あれっ!?」
「何か違うわね」
「うん、違う」
 ワンダも同じものを味わった。そのうえでの二人の言葉だった。
「美味しいけれど何かがね」
「どうしてかしら」
「茹で加減はこれでいいし」
「だしもちゃんと取れているわ」
 二人は事前によく勉強して打ち合わせもして料理をしたのだ。そのかいあって味自体は悪くなかった。しかしそれでも。何かが違っていたのだ。
「何だろう、おかしいよね」
「そうね、どうしてかしら」
「あの味じゃないね」
 アレンはまた言う。
「日本の味じゃないわ」
「どうしてかな。これって」
「わからないわ。ただこれじゃあ」
 ワンダも言葉を続ける。
「あの味じゃないから。駄目よ」
「そうだよね。どうしてなんだろう」
 二人は顔を見合わせて言い合うのだった。それがどうしてかは全くわからない。これは何度作っても同じだった。それで二人は思い詰めてしまっていた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧