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絶対の正義

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第九章


第九章

「駄目だけれど」
「駄目なんだ」
「悪いけれどね」
 眉を少し顰めさせて彼に答えた。
「それはちょっとね」
「ああ、それでもだよ」
 ここからだった。岩清水はあえて声を大きくして総務部全体に聞こえるようにして言った。だがさりげなくは装い続けていてである。
「人にぶつけたりとかね。そういうのはしないから」
「えっ!?」
「あくまでバスケをするんだよ」
 びくっ、となった小笠原に対してさらに言うのだった。
「バスケだから。相手にタックルしたりさ。足をかけたりはしないから」
「そ、そうなんだ」
「うん、やっぱりあれだよね」
 目もであった。さりげなくである。彼は演技を続けていた。
「そういうことをするのって人間として最低だよ」
「だよね」
 小笠原は彼の言葉に青い顔で頷いていた。本当に蒼白であった。
「そういうことはね」
「ましていじめでそれをやる人間なんてスポーツをやる資格がないし」
 岩清水は何でもないふうを装って言っていく。
「社会で生きる資格もないんじゃないかな」
「ちょっと岩清水君」
「そんな人間なんていたら最悪じゃないか」
 総務部の人達がここで笑いながら彼に言ってきた。
「いじめなんてする人間ってあれよ」
「最低だよ」
「そうそう、総務部にそんな奴はいないよ」
 こう口々に彼に告げるのだった。ただしこの言葉は小笠原の耳にも入っている。彼は自分の顔を蒼白にさせたまま一連の話を聞いていた。
「絶対にね」
「それはいないわよ」
「そうですね。けれどですよ」
 総務部の反応は岩清水の想定していた状況の一つであった。そして彼はその場合に用意していた言葉をここで出すのであった。
「若しもそういう人間が総務部にいたらどうします?」
「馬鹿を言っちゃいかんよ」
 如何にも温厚だがそれでいて重厚そうな面持ちの総務部長が席を立って岩清水に言ってきた。
「そんな人間は総務部にいてはいけない」
「部長はそう御考えなんですね」
「当然だよ。総務部は会社の縁の下の力持ちだよ」
 そうだというのであった。
「そこにいる人間がいじめなんかしたら」
「会社は持ちませんか」
「いじめなんてする奴は絶対に許さん」
 部長は断言した。
「そんな奴は人間の屑だ。成敗してやる」
「そうですよね。最低ですよね」
 少しぼんやりとした感じで部長の今の言葉に頷くのだった。
「やっぱりいじめは」
「総務部にいじめはない」
「そうですよ」
「それは絶対に許せませんよ」
 上司もそうなら部下達もだった。総務部の面々はここでそれぞれ言うのだった。
「そんな人間は何があろうともよ」
「やっつけてやるよ」
「その通りだよ」
「ですよね。安心しました」
 岩清水は今度は微笑を作った。
「その御言葉を聞いて」
「それで岩清水君」
「悪いけれどバスケットボールは」
「すいません」
 総務部の彼等の言葉に申し訳なく謝った。
「僕も変なこと言ってしまって」
「いいよ。わかってくれたらね」
「それでね」
「はい」
「そういうのは自分達で御願いね」
 こう告げられるのだった。
 
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