絶対の正義
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第四章
第四章
「悪事を働いても容易に隠せそうですね」
「悪事ですか」
「そうですね。リンチとか」
言いながらちらりと横に並んでいる古館の方を見る。するとだった。
まるで蛇に睨まれた蛙の様になっていた。実際には目の前にそんなものは全くないのにだ。そうした顔になってしまっていたのである。
「そうしたこととかは」
「そ、そうですかね」
古館は震える声で彼に対して応えたのだった。
「そう思われますか」
「私の気のせいでしょうか」
「だと思いますよ」
何とかその声を冷静なものに戻しながらの返答であった。
「私は」
「だといいのですけれどね」
「ええ。それで後は」
「あっ、何もありません」
これで終わりだというのだった。
「では今日は有り難うございました」
「それではお見送りさせてもらいます」
「はい、それでは」
こうして彼は学園の内部を一旦一通り見終えたのだった。その時に実は服の胸のところに密かに備えさせていた隠しカメラを始終動かしていた。しかしそれもまた内密であった。
校門を出る時学校の駐車場を通り掛った。そこで白い奇麗な乗用車を見たのだった。それは明らかに日本の車ではなかった。それはであった。
「セフィーロですか」
「あっ、私の車です」
ここで古館の顔に笑顔が戻ったのだった。
「私の宝物なのですよ」
「そうですか。大事なものなのですね」
「命みたいなものですね」
満面の穏やかな笑顔での言葉であった。
「大学時代ずっと苦労してお金を貯めて買ったもので」
「そうなのですか」
「それで隣のラファーガが教頭先生のです」
ここでまた彼は言ってしまった。しかしやはりそのことに気付いていないのだった。
「あの黒いのがです」
「わかりました」
ここで密かにまた隠しカメラを動かした岩清水であった。
「どちらもいい車ですね」
「有り難うございます」
「それでは。そうだ」
ここで彼は去ろうとしたところでふと思い出した素振りで。古館に対して振り返ってそのうえで尋ねたのであった。
「一つお伺いしたいことが残っていました」
「はい。何ですか?」
「弟がこの学校に入ったならそのクラスになるかも知れないので」
やはり何も知らない素振りの言葉であった。
「御聞きしたいことがあります」
「何ですか?」
「先生はどのクラスにおられましたか?」
このことを尋ねるのだった。
「一年の時は何組におられましたか?」
「何組ですか」
「はい、何組に」
ただ尋ねただけといった素振りを演じている。しかしそれに対してクラスを聞かれた彼はまたしても顔を強張らせているのだった。
「おられましたか」
「それはですね」
暫し目を伏せ逡巡を見せた。しかしそれを止めてそのうえで答えてきたのだった。
「二組でした」
「一年二組でしたか」
「はい、そこでした」
強張り緊張した面持ちでの言葉であった。
「そのクラスでした」
「わかりました」
穏やかな顔で頷いてみせた岩清水であった。
「有り難うございます。それでは」
「はい、これで」
こう言葉を交えさせ別れの挨拶をして学校を後にする。しかし彼はこの日彼と話したこと、そして見たものを全て頭の中にインプットさせていた。そのうえ写真も撮っていた。
そうしてであった。サイトに寄せられて来る情報を確かめてそのうえで既に掲載されていたデータを観直す。そこには自殺した生徒のクラスまで載せられていた。
ページ上へ戻る