少年と女神の物語
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第八十六話
日本に帰ってきました。
すると、千葉県周辺の沿岸部が石化していました。
・・・何この状況。
「えっと・・・」
「あ、もう帰っていいぞ。俺はもう、ここから戻るから」
そう言って窓を開け、ジェット機から飛び降りる。
途中でペガサスを呼び出して、それに乗って降り立つ。
「さて、と・・・とりあえず、現状の把握からだな」
そうきめて携帯を取り出し、確実に知っているだろう相手に電話をする。
『どうしたんだい、武双?こっちは忙しいのだけれど』
「ああ、いま日本に帰ってきたところなんだけどな・・・何で石化してんだ?」
『ああ、そのことか。いや、ちょっとアテナが権能を発動したんだよ』
どこか疲れ切った、そして開き直ったような声でそう言ってきた。
うん、間違いなく疲れてるな。
「そ、そうか・・・色々と頑張ってくれ」
『そうだね。いっそ、護堂さんが決意してくれれば簡単に解決するんだけど・・・』
「ん?・・・ああ、そういうことなのか」
話の流れを読み解くために馨の頭を覗き、情報を得る。
えー・・・何この面倒極まりない状況。
「確かにそれなら、護堂次第なんだけどな」
『とはいえ、そのご決断をしてくれる人ではない・・・面白いからいいんだけどね』
「それはよかった。ただでさえ、これ以上に仕事を増やすんだからな」
その瞬間、馨が絶句した。それこそ、息すら止まっていそうな勢いで。
『・・・なにをする、つもりで?』
「外国で神に攻撃された。たぶん、追いかけてきてると思う」
『・・・それ、一切の冗談はないのかい?』
「ないぞ。まあ、俺の推測だけど」
『・・・・・・最低限、その神のことだけはお願いするよ』
「了解了解。俺が殺すよ、ちゃんと」
そして、俺はそのまま電話を切った。
はぁ・・・面倒そうだなぁ・・・神の正体も分からないし。
◇◆◇◆◇
「と、言うわけで。今回の神の招待について探ってみたいと思います」
「急に何を言っているんだい?」
「まあまあ、ナーシャちゃん。しといたほうがいいのは間違いないんだからさ」
「・・・そうは言っても、彼らはその場のノリで戦う生き物じゃないのかい?」
「・・・まあ、否定はできないけどね」
否定してくれよ、崎姉。と思う俺と、だよなぁ・・・と納得してしまう俺がいた。
「それに、今分かっている情報が少なすぎる。どれだけ該当する神がいると思うんだ?」
「数えきれないくらい、じゃないのか?俺が初めて殺したゼウスも、雷の属性を色濃く持った神だ」
「そうなるわよねぇ・・・」
そう、今分かっている情報が雷一つだけなのだ。
そこからどうやって、神の特定をしろと?
「・・・変更します。特にすることもないので、何か起こるまではのんびり過ごしましょう」
「それもそうね。何にしても、直接会えればナーシャちゃんが霊視できるかもしれないし」
「・・・本来、霊視というものはそこまで期待するようなものでもないのだが・・・」
とは言われても、相手の正体を知るのに一番楽なのは霊視だし。
名乗りでもあげてくれればどうにかなるんだけど・・・俺が相手するまつろわぬ神、大抵何も言ってくれないからなぁ・・・すぐに名乗ってくれたの、ゼウスに、蚩尤、シヴァくらいじゃね?
「まあ、武双君の権能は数があるんだし、相手について分からなくても何とかなるんじゃないかしら?」
「分からないと使えないのも二つくらいあるけどね」
それも、片方は最後の切り札・・・火の知恵者の仕掛けなんだけどなぁ・・・破壊者の方も、中々に便利だし。
とはいえ、分からないなら分からないなりに戦うしかない。それに、戦うための権能は、まだいくつかあるわけだし。
「・・・ま、そういうわけだから。馨から何か情報が渡されるまでは、こうして過ごそう・・・折角、いいホテルに泊まってるんだから」
「それも、正史編纂委員会に出費で、ね。他の子も来ればよかったのにね~」
「とはいえ、アテ君はギリシアの神に近づくのは危険。他のみんなは、ここに来ても出来ることが少ない。・・・これは、ボクたちにも言えることだが」
「そうね。まつろわぬ神との戦いで人間に出来るのは、本来、祈ることだけだもの」
「それは、俺がおかしいという意味か?」
「そうだ」
「ええ」
二人から肯定された。
はぁ・・・俺も、二年ちょい前までは同じ意見だったんだけどなぁ・・・その立場になってみると、中々に複雑なものだ。
人間やめたみたいに言われるから否定したいし、とはいえ否定できないだけのことをした&否定できないだけの力があるから、何も言えない。
はぁ・・・もういいや。って、毎回この葛藤してるな。
「そう言えば、武双君ってまだ掌握してない権能がなかった?」
「ああ・・・使えすらしないのが一個あったな。玉龍から簒奪した権能」
「それより後に殺した神の権能は、使えるようになってるのにね」
「確か、無三殿大神だったか?」
「あの、読みがよくわからない神な」
本当に、初見では読めやしない。
それにしても・・・本当に、掌握する気配がないな。無三殿大神は水にかかわる神。
あの時、同じ水に深くかかわる神から簒奪したあの権能も、掌握できても良かったもんだけど・・・あの時使えるようになったのは、オオナマズの権能、髭大将。
本当に、カンピオーネの権能というものはよくわからない。
「と言っても、怪力何だけどな」
「シンプルかつ、便利な権能だな・・・荷物運びに便利そうだ。今度、ボクたちの買い物についてこないかい?」
「荷物持ちしろ、と?」
「なんだ、君はボクたちと一緒に出かける代償がまだ足りないというのかい?変なところで謙虚なものだな」
「はいはい、分かりましたよ。・・・って、ボクたち?」
何か引っかかったな・・・もしかして・・・
「今度、十三人でショッピングに行くことになっているんだ。・・・荷物持ち、任せたよ?」
「うっわー・・・すんごい量になりそう。いっそ、蚊帳吊り狸で異世界に落とすか」
「本当に、日常生活で役立つ権能の数々だな・・・そこまで乱用するカンピオーネ、君くらいじゃないのかい?」
「確かにそうね。他の方々、戦うことしか頭にない人ばかりだし」
「俺からしてみれば、使える権能がないだけな気がするけどな」
それこそ、戦闘向きの権能しか持ってないイメージがある。
それか、ドニのいにしえの世に帰れみたいな、迷惑をかけることにしか役に立たないタイプか。
「まあ何にしても、そんな家庭的な権能でもコントロールを誤れば世界を脅かす脅威にしかならないんだけど」
「確かに、冷静に考えてみるとそんなものばかりだね・・・君も結局、魔王ということか」
「その言い方やめて」
かなりマジで俺はそう言った。
「そう言えば、武双君あだ名みたいなのができてたっけ?」
「な、なぜ知っている・・・」
「この間、正史編纂委員会の人たちが言ってるのを聞いたの」
うっわー・・・日常的に使われるくらい広まってるのか、あれ。
「ああ、ボクも聞いたことがあるな・・・『天災の王』だったか?」
「あ、そっちがメジャーに変わったんだ」
「雷、地震がそろったからじゃない?後は、そうねぇ・・・洪水、とか?」
「後は台風とかの天候もだな。それがあれば、今度こそあだ名は消えないんじゃないかい?」
「早いところ消えてほしいんだけど・・・はぁ」
そして、その後も他愛のない話をして過ごして・・・
次の日の朝、馨から電話が来た。
太平洋側から、巨人が進撃してきた、と。
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