少年と女神の物語
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第八十五話
「疲れた~・・・」
「あはは・・・お疲れ様です、武双」
座り込んだ俺に対して、アテが飲み物を渡してくれたので、ありがたく受け取る。
「本当に、お疲れ様でした。フォークダンス十七回」
「まあ、楽しかったからいいんだけどね。それに、一人とだけ踊っておいて他は断る、ってのもあれだし」
家族全員と踊るのはもう毎年のことだけど、人数が増えてきたのと生徒会の人たちとも踊ったから、なかなかに疲れたなぁ・・・
「ってか、わざわざそんな衣装まで準備してたんだな」
「何人か、さっきまでの格好では踊りづらい人もいましたからね。武双の衣装に合わせてみました」
それにしても、よくもまあ全員分そろえたもんだ。
「そういえば、他の皆は?」
「そうですね。狐鳥はここで寝ています」
「うん、それくらいはさすがに分かる」
狐鳥は踊った後、疲れて眠ってしまった。
今は、アテの膝の上で眠っている。
「他の人たちは、男子の方々に呼び出されて行きましたよ。これももう、毎年のことですね」
「なるほどなるほど。文化祭での告白、定番だな」
少しイラッとするが、まあこれは仕方ない。
「・・・って、そう言えばアテは?いつもは呼び出されてるのに」
「私は、ほら。狐鳥が寝ていますから。さすがに、それくらいは考えてくれたみたいです」
「で、今は俺がいるからなおさら、か。それなら、まだ当分の間狐鳥のことよろしく」
俺はそう言って立ち上がり、軽く伸びをする。
「どちらまで?」
「桜と氷柱の様子を見に行って、必要そうなら助けてくる。あの二人は、男性恐怖症だったり人見知りが激しかったりするから」
「あー・・・確かに、必要でしたね。今年もごくろうさまです」
アテにそう見送られながら、俺は権能で位置を把握してそちらに向かった。
俺が手を出さずに済むなら、それが一番なんだけどな~・・・
と、そんなことを考えていたら携帯にメールが入った。
「ん・・・あ、ジェンナーロからだ」
珍しい相手からのメールに驚きながら、内容を読んで・・・
「・・・来週の金曜、日本を出てそっちに向かう・・・と」
そうメールを打って、俺は二人の元へ再び向かいだした。
◇◆◇◆◇
「どうも、お久しぶりです、神代の王よ」
「まあ、確かに久しぶりだな、パオロ。とりあえず、呼び方変えろ」
ジェンナーロからのメールで指定された場所に行ったら、パオロ率いる赤銅黒十字の人たちが集まっていた。
「では、神代殿、と」
「・・・ま、いいか。日本語わかるやつも少ないだろうし」
どうにも、外国の魔術結社のやつらは頭が固くて困る。
日本なら、馨みたいに軽めで対応してくれるやつもいるんだけどなぁ・・・
まあでも、イタリアで日本語を使うなら、中々分かるやつもいないだろ。
「・・・で?件の神様関係については何かわかった?」
「何もありませんね。あれから、一切のおとさだがありません」
今回呼び出されたのは、どうにもあの日に神が出てきたらしく、それについて調べてほしい、というものだ。
まあ、いくつか気になることもあったのでこうして来たんだけど。
「つまり、ほんの数時間だけ存在が確認されて、それ以降は何にも感じられないと?」
「そういうことになりますね。一応、水神のたぐいであるという霊視は得られています」
とはいえ、それでも見つからないと。
あー・・・となると、可能性は三つ・・・いや、四つか。
「なんだか、面倒そうだなぁ・・・」
「どうかされましたか?」
「いや・・・何が起こったのか、可能性が四つほど浮かんだ」
と、そこで例の神が確認されたという場所についたので、車から降りてから説明を始める。
「まず一つ目に、その神が何らかの理由で力を失った」
「何らかの理由、ですか・・・」
「ああ。実際に、アテはゼウスとの戦いで一度、神性を失ってる・・・とはいえ、何にもなくそうなることはまずない。二つ目の可能性の幽界に行った、っていう可能性も除外していいだろうな」
「それが事実であるのなら、とても助かるのですがね」
残念なことに、そうなるんなら苦労していない。
あいつらは基本、やりたい放題やる連中だ。
「二つ目。その神だけでなくもう一柱別の神も顕現していて、相打ちになった」
「なるほど・・・それなら、可能性はなかなかにありますね」
「少なくとも、前二つに比べたらな。それに、中々に平和的だ」
そして、最後の一つ。
一番可能性が低いやつ。
「最後の一つは、俺たちの同類が誕生した」
全員が驚いた表情になっていた。
まあ、思いつきもしなかったのかもしれないな。
「ちなみに、だけど。他のカンピオーネがこれをやった可能性はないぞ。側近とかの頭の中をのぞいてみたから」
と、そこでなんかいやな感じがした。
「・・・どうなさいました?」
「いや・・・全員、伏せろ!」
俺はそう言いながら全なる終王を発動し、肩当てを装備してから飛んできた雷を片手で受け止める。
これは・・・人間の術によるものじゃないな。それに、アレクのとも違う。
となると・・・犯人は神か。
「神代殿、今のは・・・」
「どっかの神が、俺に喧嘩を売ってきたんじゃないか?」
そう言いながら知に富む偉大なる者で周りの人間の目撃情報を探る。
が・・・全員が、突然飛んできた雷へ驚きを見せるだけだ。何にも重要な情報はない。
「・・・駄目だな。見つからない」
「そう、ですか・・・雷神の類、ということですか?」
「少なからず、その属性を持ってはいるんだろうな。・・・まあでも、あの神による被害はお前たちは気にしなくていいんじゃないか?」
一切理解できない、という表情をされた。
「つまり、だな・・・さっきの攻撃にどんな意図があるのかは分からないけど、それでも俺が神殺しだってことは理解しただろ。なら、まつろわぬ神が次にとる行動は?」
「・・・あなた自身を標的にする、でしょうか?」
「正解。まあそういうわけだから、この国で神と神殺しの戦いは起こらないと思うぞ・・・もう帰るし」
あ、でも。
そう、最後の仕事を頼んだ。
「日本には、お前たちで送ってくれ。さすがに・・・一般人乗ってる飛行機落とされるのは、いろいろと面倒だ」
◇◆◇◆◇
「ほう・・・やはり、あれは神殺しであったか」
この世界に顕現し、わが存在を望むものへと確立させようと放浪しておったが・・・
「いまだ、我が存在は我が望むものにはなっていない。が、しかし・・・」
神と神殺しが相見えた。そして、少なくとも我自信はまつろわぬ神として確立している。
「ならば、一柱の神として神殺しと雌雄を決する他にはあるまい!来るべき時、再び相見えようぞ!」
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