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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第3話 「カードローダー」

「これは夢のスーパーマシン!」
「その名も《カードローダー》だよ!」

 手で対象を注目させながら言われた言葉に少女達は声を漏らす。俺はなぜふたりで言う必要があったのか、と首を傾げる。
 ……ふと思ったが、俺はアリシア側に立っていなくていいのだろうか。これといって質問されるわけでもなければ、話しかけられるわけでもない。そもそも異性の年上に話しかけるなら、アリシアやエイミィに話しかけるほうが少女達は気楽だろう。やはり俺がこの場にいる意味はないのではないだろうか。

「まずはなのはちゃんからやってみようか」
「あっ、はい」
「ここにカートリッジを入れてみて」

 エイミィの指示に従って高町はカードローダーへと入り、カートリッジを差し込んだ。初めて経験する彼女は不安だったのかエイミィに確認を取る。

「これで大丈夫ですか?」
「うん、おっけー。そしたら次に……」

 確かこの後は身長に体重、年齢、性別を入力するはずだ。
 高町の年代なら身長や性別、年齢も気にしないだろうが、女子は男子よりも早熟と言われている。彼女達も体重を人に知られたくないはずだ。カードローダーは周囲から見えないように作られているが、少し離れていたほうが確実だろう。

「あっ、ショウどこに行くの?」
「別に少し離れるだけだよ」
「何で?」
「何で……って、他人の個人情報を知る趣味はないからだけど」

 俺の言葉に何を思ったのか、アリシアの笑顔が一段と明るくなった。別におかしなことは言っていないはずだが。

「うんうん、良い心がけだね。さすがわたしの彼氏」

 アリシアの言葉によって一瞬全員の動きが止まった。そして、一斉に視線が俺に集まる。
 ――こいつ、いったい何を言うんだ。高町あたりは反応が薄いが、バニングスって子は疑いの眼差しで俺のこと見てるぞ。エイミィなんか……いや、考えてないで耳を塞がなければ。

「か、かかか彼氏!? いいいつから、プププレシアさんは……!」
「エイミィ、落ち着け」
「お、落ち着けるわけないよ。かなりの一大事なんだから!」
「一大事でも何でもない。今のはアリシアの冗談だ。俺にはアリシアの彼氏になった覚えはない」
「いやいや一大事……って、冗談?」

 今までが嘘のようにエイミィから慌しさが消える。彼女が視線で再度確認してきたため頷き返すと、アリシアへと視線が移った。それに気が付いたアリシアは、舌を少し出しながら謝る。

「ごめんね♪」
「も、もう……驚かせないでよ」

 アリシアが根本的に悪いが、エイミィも驚き過ぎだと思う。俺とアリシアの付き合いがどれくらいなのか、彼女はある程度知っているはずなのだから。
 というか……冷静に考えてみると、年齢的にはそう変わらないがアリシアの背丈は小学校低学年の子と大差がない。俺との身長差はかなりのものだ。一緒にいても兄妹や親戚にしか見えないのではないだろうか。

「えっと、じゃあ話を戻そうか。なのはちゃん、身長とか体重をちゃちゃっと入力しちゃって」
「あっ、はい」
「入力し終わったら動かないでね。カメラがトレースするから」

 全ての工程が終了し、無事にカードが完成する。出来上がったカードに少女達は興味深々だ。

「これが私のカード……あのアリシアちゃん」
「カードのこと?」
「うん」
「そうだねぇ、わたしが説明してもいいけど……そこにいるお兄さんに説明してもらって。あんまり話してないみたいだし」

 気が遣える女、と言いたげな顔をするアリシア。別に俺が説明するのは構わないが、最後の部分は余計だろう。そもそも無理に話す必要がないのなら、話しづらい相手と話させる必要はないと思う。

「あのショウさん、説明してもらってもいいですか?」
「ああ、構わないよ。それはパーソナルカードと言って一番の基礎になるカード。ブレイブデュエルではカードの強さが自分の操るキャラクター……《アバター》って言うんだけど、その性能に関わってくるんだ」

 説明のときにカードを拝見させてもらったが、高町のカードは制服姿のカードだった。ランクはN+のようだ。

「このN+って言うのは?」
「それはカードの強さを表す《カードランク》だよ」

 カードランクには《N》、《N+》、《R》、《R+》の4段階があることが確認されている。この上にも存在しているらしいが、今のところ誰も入手できていない。このこともきちんと伝えて、さらに続ける。

「ちなみにNのカードはコレクション用に近いカードだから、ゲームで使うのはN+以上のものを使うようにしたほうがいいよ」
「それって、この武器みたいなものを持ってるからですか?」
「ああ、それはデバイスといってゲームの説明や君達の補助をしてくれる。簡単に言えば、相棒と言ったところかな」

 プレイヤーデータをリセットしない限り自分のことを覚えていてくれるため、親しみやすいように名前を付けるプレイヤーもいる。
 ということも言ってもいいのだが、少女達が早くやりたくて仕方がないとうずうずしているのは見ていて分かる。彼女達の気持ちは理解できるため、説明は最低限に抑えるべきだろう。

「N+にはそれ以外にも防具を着たものがあったりするし、ランクが高くなればアバターの能力も高くなるからゲームを有利に進められる。ランクを上げるにはカードの合成や強化が必要になる……わけだけど、まあ遊んでるうちに覚えるだろうから説明はこれくらいにしようか」

 すると、すぐさま少女達は肯定の意思を示す。特にバニングスは何度も頷いていたため、よほどやってみたいようだ。
 高町以外のふたりのカードが出来上がると、俺は彼女達をカプセル型のゲーム機に案内し、アリシアとエイミィはそれぞれオペレーターの位置に着いた。きちんと真ん中に立つように伝えると、少女達から元気な返事が返ってくる。彼女達とは今日が初対面であるが、アリシアよりも好感が持てる子達かもしれない。

「あっちの準備はOKだ」
「よっしそれじゃあ……ブレイブシミュレーター」
「スイッチオン♪」
「あっ……私が押したかったのにぃ」
「にへへ」

 エイミィはアリシアの肩を掴んで揺らし、揺らされる側は楽しそうに笑っている。

「バカやってないでさっさと進めろよ」

 本来ならば高町達のほうに意識が向くはずなのだが、子供じみたやりとりをするアリシア達にそう言わずにはいられなかった。看板娘とチーフがこんなんで大丈夫なのか、と思いもしたが今は言わないでおくことにする。ふたりの意識をこちらに向けると少女達が待つことになってしまうだろうから。

「みんな、どぉ~?」
『凄いね。こうふわーっとして』
『まさかゲームで無重力体験しちゃうなんて驚きだわ』
『何だか不思議な感覚……』

 高町や月村はいいとして……バニングスは驚いているというよりは楽しそうに見える。3人の中のリーダー格だと思っていたが、案外一番子供なのかもしれない。
 アリシアは高町に『3人プレイ』で『フリートレーニング』、ステージは『雲海上空』を入力するように指示した。入力したと返事があると、次なる指示を出す。

「おっけー、それじゃあブレイブホルダーを胸の前にかかげてコールしてみて」
『コレを……』
『胸の前にかかげて……』
『ブレイブデュエルスタンバイ!』

 コール終了と同時にプレイヤースキャンが開始される。アリーナ上のランダムな位置に少女達のアバターが生成され始め、続いて彼女達がそれにダイブされていく。
 エイミィの前にあるディスプレイに無事全ての工程が完了したと表示されると、目を閉じていた高町達に指示が飛んだ。

『なっ……』
『え……』
『うそ……』

 高町達が驚きの声を上げたのも無理もない。彼女達は今仮想とはいえ、広大な空の上にいるのだ。初めてプレイする人間ならば、大抵彼女達のような反応をするだろう。

『なにこれ……どどどどうなってんの、雲の上じゃない!?』
『わわわたしたち、う、浮いてるよアリサちゃん!』
『…………』

 栗毛と金髪の子、グランツ研究所の人間が見たら喜びそうなくらいに良い反応をしている。ひとりだけ落ち着いているように見えるが、あれはどちらかといえば呆気に取られているといったほうが正しいかもしれない。

「新鮮な反応ありがとう。これが当店目玉、体感シミュレーションの最新鋭にして最高峰の《BRAVE DUEL》!」
「なのはちゃんの視覚・感覚は今、シミュレーター中央のアリーナにいるアバターと完全にリンクしているんだよ!」

 言っていることはいいとして……なぜ無駄にポーズを決めて言う必要があったのだろう。そんなことをする暇があるのなら少女達に次の指示を出すなりすればいいものを。
 ……というか、あの子達もあんまりふたりの話を聞いてるようには見えないな。風の感覚を味わってたり、浮いてることに微妙な心境になっているように見えるし。

「ここまでくれば、あとは遊びだけだよ」
『……って言われても』
「大丈夫だよ。デバイスが基本的なことは説明してくれるから」
『あっ、そうでした』

 3人はそれぞれデバイスと話し始める。デバイスにも性格があるため、どのような説明の仕方をしているのかは分からないが内容的には同じはずだ。彼女達の性格ならば、理解できなかった部分はあとで質問をしてくるだろう。
 高町は唸っていたかと思うと飛び始め、才能があるのか初めてとは思えないほど自由自在に空を駆けている。月村はそれを見ながらも、デバイスからしっかりと説明を受けているようだ。バニングスはといえば、何を言われたのか剣を振り回しながら高町へと攻撃の意思表示をした。彼女が困惑したのは言うまでもない。

『ちょっと待ってよアリサちゃん』
『問答無用よ! トリガーを引いてから……鞭を打つ感じで、斬る!』

 バニングスが思いっきり剣を振ると、炎の刃が飛び出した。どうやら彼女のカードは炎の属性を持っているようだ。
 迫り来る炎の刃に高町は慌てた様子だったが、案外さらりとかわして見せた。思ったよりも簡単に避けれると言ってしまったらしく、バニングスの顔に怒りの色が現れる。ムキなった彼女に高町は何度も攻撃されるが、ものの見事に全て避ける。

『ちょっと! 大人しく当たりなさいよ!』
『そんなの無茶だよ!』
『あぁもう……これならどうよ!』

 一度に3つの炎刃を飛ばすバニングス。さすがにそれには高町も動じてしまったようでその場から動こうとしない。
 直撃した――かに思えたが、爆煙が晴れると氷を纏ったシールドを展開している月村が現れた。どうやら彼女が高町を守ったらしい。

『もう、ダメだよアリサちゃん』
『た、対戦ゲームなんだし……いいじゃない練習よ!』

 逆ギレしているようにも思えるが、動揺が見えることから先ほどの攻撃はさすがにやりすぎたのだと自覚しているのだろう。
 バニングスと月村は攻撃と防御に別れて練習を始めてしまい、残された高町はデバイスと話し始める。何を言われたのか分からないが、彼女は次第に落ち込んでいく。今のところふたりとの違いを上げるとすれば属性の有無だろう。落ち込んだのはそれが原因なのかもしれない。
 とはいえ、高町はすぐに元気を取り戻し楽しそうにデバイスと話し始める。立ち直りの早さから問題はないだろうと判断した矢先、アリーナ上に乱入者を知らせる表示が現れた。

「何で乱入者が現れ……最後の部分の説明」
「うん、早く始めたくてすっかり忘れてたよ。あはは」
「いや~、お姉さんうっかりしてた」

 笑って誤魔化すふたりには、怒りより呆れを感じてしまった。看板娘とチーフがこれでこの店はきちんとやっていけるのか不安になる。
 とはいえ、そのことを話し合っていても仕方がないため、俺はふたりに3人のサポートをするように言ってシミュレーターへ向かい始める。
 ――開店の初日から乱入なんてするのは腕に自信のあるロケテスト参加組くらいだ。おそらく乱入してきた人間は、同じロケテスト参加組だと思っているはず。そのままじゃ一方的にやられる展開になる可能性が高い。
 それが原因であの子達に「もうブレイブデュエルをしない」と言われたら堪ったものではない。空いているシミュレーターを探すのは大変だがどうにかしなければ。フェイトはまだ現状を知らないはず。どうにかできるのは俺しかいないのだから。


 
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