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少年少女の戦極時代Ⅱ

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禁断の果実編
  第70話 蛇と鍵


 体中が痛い。その痛みで紘汰は目を覚ました。むしろこの傷の痛みで麻酔もなく眠っていられたほうがありえない。

「紘汰! 大丈夫!?」
「戒斗は……街はどうなってる?」

 紘汰はどうにか上体を起こす。舞に止められたが、聞き入れられる状況ではない。

「怪物は一旦逃げ出して、今みんなで探してるって」

 立ち上がる。舞はそれでも紘汰に当てた両手を離そうとしなかった。彼女の心配に応えてやれないのだけが心苦しい。

「ねえ紘汰。あいつが紘汰が言ってた」
「ああ。オーバーロードだ。…………みんな? なあ舞、まさか咲ちゃんも! ……っつ」

 紘汰は痛みで簡易ベッドに座り込んだ。

「だめだよ! ひどいケガなんだよ!?」

 思い出す。赤いオーバーロードの言葉、戒斗の言葉――

「何で憎み合うしかできないんだッ! 俺たちが戦う理由なんて何もないはずなのに!」
「――そいつは嫉妬ってやつさ」

 はっと、紘汰と舞はガレージのドアを見上げた。
 いつからいたのか、上段には、DJからかけ離れた格好のサガラがいた。

「自分の種族が滅び去る悲しみ。取り返しのつかない後悔。お前には理解できないだろう。奴らの憎しみは」

 舞が紘汰を守るように横から抱き締める。紘汰は回された舞の腕を握りながら、サガラを睨み返した。

「あんた、知ってたのか。オーバーロードがあんな凶暴な連中だったって」
「デェムシュなんざ序の口だって。単なる破壊衝動。そんなの可愛いもんだよ」

 サガラは階段を降り、カウンターの席の一つに勝手に腰かけた。

「オーバーロードが人類を救うだなんて、あんたは俺を騙して――!」
「俺は何も嘘なんかついてない。オーバーロードは森を支配する力を持ってる。それを自分にいいように解釈したのはお前自身だろ? お前が見当違いなとこに駆けずり回ってる間に、室井咲なんか、自決しようとした親友と、ユグドラシルに飼い殺されてた呉島貴虎を、身を挺して救ったぜ」
「咲ちゃんが?」

 自分が一番知っていると思った相手の知らない奔走を知り、紘汰は狼狽するしかない。

「コドモと侮るな。あの娘はコドモだが、コドモが一番に見る夢を叶えうる存在だ」
「じゃあ、どうすりゃよかったんだよっ」

 サガラが片手を挙げた。サガラの姿に、一瞬、何かの民族衣装のような出で立ちが重なった。
 かと思うと、紘汰の体から傷の痛みが消えていた。

「お前は世界を救いたい。その力はオーバーロードだけが持ってる。だったら答えは一つだ」

 サガラは紘汰を指差した。


「お前がオーバーロードになればいいんだよ」


 受けた言葉の衝撃に、紘汰は何も言い返せなかった。

「あんた、紘汰にあんなバケモノになれって言うの!?」

 舞がサガラに食ってかかろうとした。しかし、サガラが片手を舞に向けるや、舞は蛇に睨まれたカエルのように動かなくなった。
 慌てて踏み込んだ紘汰もまた同じ目に遭った。体が石のように固まって動けない。

「知恵の実を求めるあらゆる者を退け、勝ち残り、お前が世界を制するんだ。救うも滅ぼすもお前の自由だ」

 理に適っている――ように聞こえる。けれど、本当にそれでいいのか。オーバーロードの件で文字通り痛い目を見た紘汰は、すぐサガラの言葉に肯けなかった。

「やめて、紘汰っ」
「舞…っ」
「いやな、予感がする…っ紘汰を、言いくるめようとしてるっ」

 す、とサガラから愉快げな表情が消えた。蛇の目を、していた。

「――ただの親切じゃないってのは確かだ。俺はあくまで俺の都合で動いている」

 サガラは席を立ち、テーブルにロックシードを置いた。
 今までのロックシードとは異なる。それは錠前ではなく、鍵の形をしていた。金地に色とりどりの果物のモチーフがあしらわれた、鍵。

「紘汰を、利用してっ、何をしようとしてるの!」
「どう転ぶか分からない奴に、一番大きな力を預けたいだけだ。お前というジョーカーが、このゲームをますますスリリングに盛り上げてくれるだろう」
「紘汰、ダメだよ!」

 こうしている間にも、あの赤い災厄と、戒斗や咲たちは戦っている。街は一秒を刻むごとに危険地帯になっていく。晶や阪東や、チームの仲間がいる、大事な街が。

 全てを聞いて呑み込んだ上で、紘汰は、金の鍵を――掴んだ。

 サガラは満足げに笑みを浮かべ、消えた。


 ――その覚悟に、後悔がないことを祈っている。オーバーロードと同じ存在を目指すなら、その意味をよおく考えながら戦うことだ―― 
 

 
後書き
 ここら辺はほぼ原作通りです。咲の行動がちょこっと説明入ったくらいですね。
 さりげにサガラの地の文に蛇っぽい描写をいくつか入れてみたりw 
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