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セロリ

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第三章

「言われるんだよ」
「食わず嫌いでも」
「言われるんだよ、けれど俺はどうしてもな」
「梅干は駄目なんだ」
「それでも言われるんだよな、いつも」
「そこは同じだね」
「一緒に暮らしてるとどうしてもな」
 同僚にしてもだった、このことは。
「こうしたことあるだろ」
「僕達だけじゃなくて」
「人間だとやっぱりそれぞれ違うよ」
 どうしてもだ。
「職場も違えば性格も違う、価値観とかもな」
「何もかもが違うね」
「信仰してる宗教だって違うだろ」
 同僚は僕にこうした話もした、丁渡今二人で倉庫の中で整理している本は宗教関係の本だったからだ。同僚はそのうちの一冊が目に入って言うのだ。
「本当にな」
「何もかもがね」
「完全に一緒の相手なんてな」
「いないね」
「いたらそっちの方が怖いだろ」
「確かにね」
 自分の完全なコピーだ、それこそだった。
「有り得ないだけにね」
「それだけで怪奇小説だよ」
「ドッペルゲンガーじゃあるまいしね」
「ドッペルゲンガーに会ったら死ぬぜ」
 俗に言われていることだ、ゲーテは会ってもそれからも生きていたらしいが。
「そうなるからな」
「全部同じ相手とかいないことだね
「そうだよ、いる筈がないんだよ」
 絶対にだった、同僚は僕に強い声で言う。
「本当にな」
「そうだね、それじゃあ」
「相手の色々な違いは認めてな」
「受け入れてだね」
「やってくしかないだろ、実際女房もな」
 いつも梅干を食えと言う彼の奥さんもだというのだ。
「豚の脂身のことと梅干のこと以外はな」
「言わないんだ」
「俺がギャンブルとか浮気とかヤクとかしないからいいっていうんだよ、借金もな」
「どれも人として絶対にやっちゃいけないことだけれどね」
「けれど実際にしてる奴いるからな」
 そうして破滅する、世の中そうした困った人もいる。
「どれも駄目だけれどな」
「そうだね、本当に」
「そういうことしないからいいっていうんだよ、女房は」
「君がだね」
「口は悪いけれど真面目だからってな」
「いい奥さんだね」
「口煩いしヤクルトファンだけれどな」 
 同僚は苦い顔になって野球の話もした。
「俺は阪神だけれどな」
「僕の方はね」
「御前もトラでな」
「彼女もトラだよ」
「じゃあそっちはいいな」
「いやいや、監督とかでは意見が違うよ」
 同じ阪神ファンでもだ、細かいところで意見の相違があった。
「僕は岡田さん好きだったけれど」
「彼女は違うのかよ」
「今の和田さんでいいって」
「そこが違うんだな」
「僕は投手陣重視だけれど」
 阪神はこの点伝統的に大丈夫だ、とにかくどんな弱い時代でも投手陣だけはいい。とにかく野球はまずピッチャーだと思ってる。 
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