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騎士道精神

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第三章


第三章

 しかしだ。今は、であった。
「では。このことは」
「成功でしょうか」
「やはり」
「そうだそうだ」
 ここで卿の支持者達が言うのであった。
「ロットナー卿はイギリスの誇りを守ったぞ」
「これはいいことじゃないか」
「素晴しいことじゃないか」
 こうそれぞれ言って彼をフォローするのだった。
「ロットナー卿は正しかったんだ」
「本当の国益をイギリスに与えてくれたんじゃないか」
「そうじゃないのか?」
 またしても話が二分されることになったのであった。ロットナー卿のやることは常にこうなった。とにかく前時代的ではある。ドン=キホーテである。しかしだった。
 その反面そうした人格が評価されていた。こうした人物である。
 無論賄賂やそういったものとも無縁で女性を尊重する。紳士でもあった。
 清廉潔白であった。政治家としては稀なまでにだ。そしてだ。
 彼は教育者でもあった。常にこう言っていた。
「正々堂々とだ」
 自分が理事長を務める学園の生徒達に実に口やかましく言っていた。
「そして折り目正しく。卑怯なことはしないことだ」
「うわ、また理事長が言っているよ」
「騎士道騎士道って」
「女の子にも言うし」
「困るわ」
 その女の子達にははっきりと辟易されていた。しかしであった。
 彼は言い続ける。あくまで。
 その結果学校は常に清潔で生徒のモラルは保たれている。遠い日本からも提携を申し出る声がやって来る程度であった。
 その学校とはだ。彼はその提携を申し出る手紙を己の執務室で見て言う。後ろはガラスが一面にあり下はビロードの絨毯、机と椅子は樫である。何処までもイギリス風だ。
 そのイギリスの中でだ。彼は日本からの手紙を見ていた。その彼に執事のアルマーが言ってきた。
「八条学園とはです」
「日本でも有名な学校なのか」
「はい、幼稚園から大学院まであります」
 こう主に話していく。主の前に立ってだ。
「そしてどれもかなり大規模でして」
「ふむ、マンモス校か」
「はい、そうです」
 その通りだというのであった。
「そうした学園です」
「そこからの申し出か」
「御主人様のことを御聞きしてです」
「私のか」
「はい、御主人様のその騎士道精神を御聞きになられ。あちらの理事長自らです」
「そうか、わかった」
 ロットナー卿は執事の言葉を受けて頷いた。
「それではだ。この申し出はだ」
「どうれされますか」
「受けるとしよう」
 そうするというのであった。
「あちらが私を評価してくれるというのならばな。是非な」
「是非ですか」
「受けなくてはなるまい」
 そうだというのである。
「だからこそだ」
「わかりました、それでは」
「そしてだ」
 彼はさらに言うのであった。
「日本といえば武士だな」
「はい、かなり廃れているとも聞いていますが」
「しかし日本には武士道がある」
 彼は厳しい顔で己の執事に話す。
「それを見てみたいものだな」
「しかし御主人様」
 アルマーはいぶかしむ顔になって主に言ってきた。
「このイギリスで騎士道が最早殆どなくなっているのと同じく」
「日本でもか」
「そう聞いております」
 そしてそれは事実であった。
 
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