騎士道精神
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第二章
第二章
「それでもなのですか」
「左様、国益とは何か」
ロットナー卿はこのことについても話した。
「それは何であるか」
「何であるかですか」
「では何と言われるのでしょうか、ロットナー卿は」
「国家の名誉を守ることであります」
それだとだ。質問に答えたのだった。
「だからこそ。ここは正々堂々とです」
「やれやれ、それだと利益があがらないぞ」
「ただでさえ今我が国は苦しいというのに」
「全くだ」
イギリスだけでなくEU全体がだ。アメリカや日本なぞ問題にならない位苦しい。二十世紀の世界恐慌に匹敵するとまで言われている状況だ。
しかも今のイギリスはあの時のイギリスとは違っていた。植民地を持っていない。自分達だけの市場を持っていない。ブロック経済も不可能になっていた。
だからこそ彼等も必死だった。それで中東のある国に対して英国の商品を高く売ろうとしていた。その国の足元を見たうえで、である。
ところがロットナー卿はそれを卑怯としてだ。今議会で言っているのである。誰もがこのことに辟易してしまっている状況なのである。
そして結局だ。この話はイギリス国民の耳に入りだ。議論になった。
「ここはロットナー卿が正しいだろ」
「なあ」
「アヘン戦争とかみたいなことは後で言われるからな」
「そうだよな」
そうしてこうも話される。
「ここは売るべきじゃないな」
「止めておくべきじゃないのか?」
「そうだな」
しかしであった。反論もあった。
「いや、政治ってそういうものだろ」
「国益重視だ、国益をな」
「だったら今は売るべきだろ」
「我が国もとにかく大変なんだぞ」
国益重視派の言葉である。
「そんな古い正義を言っていられるものか」
「戦争を売るわけでもその国を侵略する訳でもないんだぞ」
「だったらいいじゃないか」
「その通りだ」
こうした意見であった。結果としてこの話は国を二分する議論になってだ。イギリスはそのことで動きが取れなくなった。その結果。
その国にはだ。アメリカなり中国なりが進出した。
そしてイギリスはだ。当然の如く乗り遅れた。多くの者がロットナー卿を批判した。
「余計なことを言うから」
「全くだ」
「国益を損ねたぞ」
「それでいいのか」
こう文句をつけるのだった。しかしである。
卿は平気だった。そして言うのであった。
「だが彼等はどうなった」
「アメリカや中国のことか」
「そっちか」
「そうだ、彼等はどうなったのか」
こう批判者達に言い返すのである。
「その国から忌み嫌われ各国からも白い目で見られているではないか」
進出の結果である。もっともどちらの国もそうしたことを殆どというか全く意に介さない国々ではある。ある意味において凄いことではある。
「しかし我が国はだ」
「まあそれはありませんでした」
「評判は落としていません」
「むしろ」
考えてみればであった。そうなるのだった。
「そうした狡猾なことをしなかったせいで」
「そう、ちゃんとした値段よりも高めで売ってあいてに利益を与えているので」
「各国から評価されています」
このことは否定できなかった。
「騎士道的だと」
「昔のイギリスからは想像できないとも言われていますが」
実際にはイギリスも歴史的には相当なことをしてきている。このことを否定できないことは仕方ないと言うしかないのであった。
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