魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第50話 カーニバル襲撃
「はああああああ!!」
大きな声と共にバルトマンが零治に向かって突貫する。
「うわっ、痛そう」
そう言って転移し、その場から消える零治。
「バルトマン、後ろだ!!」
「えっ!?」
零治が現れ、斬りかかるより前にエローシュとユニゾンしたエクスが声を上げ、バルトマンはその声と共に振り向いた。
「余計な事するな!!」
「うるさい!奴は必ず仕留めなくてはいけないんだ!!」
『おい!相手は零治さんなんだぞ!!』
「もう本人の意識はない!ホムラの人形になっている以上元に戻ることはない!」
『おいそれって………』
「まさかこの時代にも私に詳しい人がいるとは思わなかったわ………先ずは貴方を最優先で!!」
「行かせるか!!」
エローシュに向かおうとした零治に後ろから斬りかかるバルトマン。
それを零治は予期していたかの様に縦に振り下ろした斧を体を逸らしてかわし、バルトマンの腹部に蹴りを打ち込んだ。
「うぐっ!?」
「良い筋肉ね。そのまま壁になって頂戴!!」
蹴った勢いを乗せ、エローシュへ向かう零治。
「あたっ!?………何?」
しかし進む途中で透明の何かにぶつかり、その勢いは止まった。
「これは………壁?」
『エローシュ!!ちゃんと考えて設置しろ!!』
「分かってる!!」
そう答えながら展開したキーボードを高速で操作するエローシュ。
コンコンと確認してみる零治の後ろにユラリと鬼の形相をしたバルトが斧を振り上げて迫っていた。
「があああ!!」
獣の咆哮の様な雄叫びと共に斧を振り下ろすがそこには零治の姿は無かった。
「野蛮ね………そんな力任せの攻撃じゃ私は………」
「行け、ボルティックランサー!!」
そう叫ぶと上空から雷の槍が零治目掛けて飛んでいく。
「なっ!?いつも間に!!だけどそんな攻撃じゃ!!」
「こんな攻撃でいちいち驚いてるんじゃねえ!!」
ボルティックランサーを刀で弾く零治に向かって再び斬りかかるバルトマン。
しかしそれと同時に転移で零治はその場から逃げた。
「逃がすか!!」
それでもバルトマンは追撃の手をやめない。
再びボルティックランサーを零治に向かって飛ばし、攻撃する。
「何度も同じ手を………」
「ボルティックブレイカー!!」
前と同じく雷の槍を刀で対応しようとした零治にランサーごと飲み込む斬撃が零治に向かって放たれた。
「嘘っ!?」
既に迎撃しようとしていた零治はバルトの攻撃に逃げることが出来ずそのまま斬撃を喰らい、倉庫の壁に吹っ飛ばされた。
「あぐっ!?」
背中からろくに受け身も取れずぶつかった零治は変なうめき声を上げ、ずるずると地面に落ちた。
「何ダウンしてるんだよ!!テメエはこんなもんじゃねえだろうが!!!何良い様に操られてんだ!!!目を覚まさねえとそのまま殺すぞ!!!!」
怒りをぶつける様に叫ぶバルトマン。
「うわっ………展開したクリスタル全部消された………」
『奴が暴れている間は魔力の浪費だな………』
呆れながらも零治の様子を見続けるエローシュ。
しかし零治はバルトマンの言葉を聞いても様子は変わらなかった。
「うるさいわね………ポンコツはポンコツらしくさっさとやられれば良いのに………まあ良いわ、手加減は終わり。最初からこうしてれば良かったわ」
そう言って刀を持ったまま目を瞑る零治。
そして………
「神速………」
バルトマンの目の前から忽然と消えたのだった。
「なっ!?」
そして気がつくと腹部に刀が突き刺さっていた。
「なっ………くっ!!」
電気を放電し、突き刺さった刀と共に零治が距離を取ったが、腹部の血は流れたままで止まらない。
「あれは………!!」
『超高速移動………!!俺すらも反応出来ない速さ………まさかあんなことが出来るとは………だがあんな超高速移動をして身体が無事で済むはずが………』
エクスが驚きながら呟く言葉を聞きながらエローシュは零治から視線を外さなかった。
自分も同じ様に狙われれば対応出来ないと思ったからだ。最も上手くいくとは思っていないのでどうすれば良いか考えを巡らせていた。
「うん?変ね………いや、違うわね。………流石、身体がポンコツでも戦闘のカンは衰えていないのね。あの状態で咄嗟に身体を動かすなんてね………」
バルトマンは咄嗟に体に電気を流し、身体を逸らした事で急所から狙いを外すことに成功した。
「こ、この………!!」
流れる血を手で抑えながら立ち上がろうとするバルト。いくら急所から避けられたとしても戦闘継続は不可能な程のダメージを負い、立つのも精一杯だった。
「まあ良いわ。トドメを………!?」
そう言って刀を振り上げたと同時に誘導弾が零治に向かって飛んでいった。
すぐに反応した零治は誘導弾を避けながら向かってくる誘導弾を刀で消し去った。
「真白ちゃん!?」
「やらせない………!!サンライトバスター!!」
『バカな!!何故逃げない!!』
誘導弾を消し去られたのを確認した後、砲撃魔法を放つ真白。
「うるさいわね………あなたは別に眼中に無いのだけれど、邪魔をするのなら………!!」
転移して一気に距離を詰めた零治は真白の目の前に現れた。
「燃え尽きなさい、魔王……」
「させん!!」
そんな零治の前に立ちふさがったのはリクだった。
「お父さん!!」
「娘をむざむざ殺されてたまるか!!」
大剣で鍔迫り合いをしながらそう叫ぶ。
「いいわ、あなたもろとも斬り裂いて………」
『ホムラ、あなた今何処にいるの?』
そんな時、零治に対して通信が入った。
「イクト?どうしたの一体?」
『どうしたのじゃないわ、もうそろそろ始まるけど、準備出来てるの?』
「もうそんな時間!?そうなると何時迄も遊んでいるわけにもいかないわね………」
そう呟くと鍔迫り合いをしていた状態から力を抜き、後ろへ逃げる零治。
「逃がすか!!」
「遅いわよ」
逃げたと思ったリクは大剣を振り上げ、追撃に出た。
しかしその大剣は振り下ろされることはなかった。
「お父さん!!」
「横薙ぎに斬り裂いた筈だけど、またズレた?………まあ良いわ。その状態でも暫くは動けないでしょうし………さて急がなくちゃね」
「この!!」
再びサンライトバスターを発射した真白だが転移され難なく避けられる。
「………私の事を知っているあなたは今の内に消した方が良さそうだけど………まあ後回しで良いか。じゃあね」
そう言って再び転移してその場から消えたのだった。
「エクス!!」
『この場から離れていく………本当に行ったみたいだ』
エクスの言葉を聞いてエローシュは深く息を吐いた。
「お父さん、しっかりして!!」
しかし真白の叫び声で再び抜けた気を引き締めた。
「真白落ち着け!!エクスどうだ………?」
『バルトマンも真白の父親も共に致命傷ではない。………だが手当てをしないと大変なことになる』
「だがどうする?真白のお父さんはともかくバルトマンは………」
零治がいなくなったと同時に仰向けで倒れたバルトマン。
血は止まる事は無く、手で抑えているが流れは止まっていない。
「私に任せてもらおうか」
「えっ!?」
『いきなり出現した!?』
現れたのは紫の髪の男性と茶髪の眼鏡を掛けた女性、そしてマントを羽織り、巨大な銃を持った茶髪の女性が現れた。
「貴方達は………?」
「私はジェイル・イーグレイ。零治君の親友だよ………」
「そろそろ始まるわね………」
カーニバルも盛り上がりを見せる中、一緒に回っているティアナとスバルだったが、とある時間になり、露店が並ぶエリアから離れてエキシビションマッチが行われるスタジアムの方へやって来た。
「えっと………ヴェリエ・マーセナル元帥の演説だったね。一体なんだろう?」
「そうね。でもこの一般人を集めたこのカーニバルで発表するのだからすごく大事な事なんじゃないかしら?」
「ふ~ん」
対して興味無さそうに素っ気ない返事で手に持っていたたこ焼きを頬張るスバル。
「美味しそうね………」
「露店を見て、はやてさんに『ここは行っておくべきや!!』って教えてもらったお店のだからね。ティアも食べる?」
「食べる!!」
そんな緊張感の無い休日の会話をしながらヴェリエ元帥の演説の時間がやって来た。
会場の至る所に映像が流れ、何処にいても確認できる様になっていた。
『皆さん初めまして、管理局元帥ヴェリエ・マーセナルです。本日は管理局主体のカーニバルにお越しいただき誠にありがとうございます。今回この様なお祭りを開催したのは我々管理局のイメージアップと犯罪検挙率が去年と比べて20%上がった事、それに伴い発生率は10&減り、更に任務での殉職者が0と今までに無い結果を残し、その活躍を祝っての事で開催致しました。………近年皆さんの信頼を裏切った来た事を改めてここにお詫びします。ですが我々管理局はこれからもこのミッドチルダで起こる事件から管理世界の治安の為懸命に努めていこうと思います』
そこで歓声が会場から沸き上がった。
「へえ………初めて見たけど結構若いんだね………」
「あんた………仮にも管理局員なんだから食べながら聞くのは止めなさい………」
呆れながらも映像からは目を離さず、演説を聞くティアナ。
『そして、今年から取り入れた新バリアジャケット、バリアアーマーの稼働により先に述べさせて頂いた様に近年まれに見ない結果となりました。………しかしそれでも犯罪者はその対応に同じバリアアーマーを流用したりと徐々に我々に対抗する術を得ていますが、それを一気に打開する研究成果を我等管理局の技術者達は得る事が出来ました。………それがこれです。バリアアーマー、『ブラックサレナ』!!』
「えっ!?」
「それって………!!」
そんな驚愕する2人の見つめる映像に2人が実際に戦った者よりも厚い装甲に包まれた黒い鎧が現れました。
『これが最新バリアアーマー『ブラックサレナ』です、この厚い装甲だけでなく、バリアフィールドと今現存するバリアアーマーと比べてもかけ離れた防御力を誇り、その防御を突破するのは困難と言えるアーマーです』
そんなアーマーの説明をするヴェリエ元帥だったが、会場は様々な人の会話でざわざわと騒がしくなっている。
『皆さん疑念に思った事があるでしょう。………実はこのブラックサレナは過去に傭兵として活躍していた『黒の亡霊』のバリアジャケットを似せた物であり、更にこのブラックサレナはバリアアーマーの開発者、クレイン・アルゲイルによって流用された事で、一部のテロリストも使用としていた経緯があります。それが大事にならなかったのは現在試験運営中の機動六課と七課の活躍もありますが、それでも!!我々は研究を重ね、遂に最高のバリアアーマーを生み出しました!!』
自身満々にそう訴えるヴェリエ元帥の言葉に会場も徐々に落ち着きを取り戻し、皆、再びヴェリエ元帥の言葉に耳を傾けた。
『殉職者を減らす為にと言うのが開発のきっかけとなったバリアアーマーですが、それには1つ欠点がありました。それはその鎧の重量。………かなり力自慢の者でもそれを動かすのは至難を極め、恐らく人では操れないほどの重量となりました。………しかしそもそもの前提、殉職者を出さないためにはどうすればいいか。そこで思いついたのが操るの者を人ならざる者にする事です』
そこで再び会場にざわめきが起こった。
「何を言っているの………?」
「………」
スバルが何も言わず少々睨めつける様に画面に注目している事にティアナは気が付いていなかった。
『そこで私は閃きました。人の形をしたロボット、『アンドロイド』を使ってのブラックサレナの稼働。そうすれば任務で殉職する局員を減らし、更に危険な任務でもアンドロイドであれば行動出来ると。そうすれば更に検挙率も上がり、発生率、殉職者の人数も減っていくでしょう。そうすれば近いうちにミッドチルダは完全な平和の世界へと変わっていきます。だからこそ私はここに宣言します。アンドロイドによるバリアアーマー『ブラックサレナ』の力で、このミッドチルダを何時か犯罪の無い世界を………』
『それは無理な話ですよヴェリエ元帥』
それはいきなりだった、映像の上に更に映像が上書きされて映し出された。
『初めまして皆さん。私はクレイン・アルゲイル。バリアアーマーの創始者にして、アンドロイドの設計者でもあります』
「クレイン・アルゲイル博士………?」
「でも何でこのタイミングに………それにさっき元帥がブラックサレナを流用したって………」
そしてこの後、このミッドチルダに大きな事件が巻き起こる………
演説が始まる5分前………
『星君達、準備は良いかい?』
「はい、こっちはOKです」
カーニバルの会場の近く、星達有栖家5人は皆一緒にミッドチルダに来ていた。
『私はもう少ししたら着くが、別行動にするよ。まあこれはもし私がスカリエッティだと気が付かれた場合、共犯者と思われない為の措置だ』
「はい、了解です」
『そして戦力はノーヴェ達含む妹達は大悟君の提案通り、機動六課付近に居てもらった。もしあちらに零治君が現れた場合は予め設置しておいた転移装置で移動しておくれ』
「はい」
『最後に、絶対に無理をしない様に………』
「分かってます。でも私もライも夜美も優理もアギトも絶対に諦めませんから」
そう言って星が皆の顔確認するが皆しっかりと頷いた。
『そうか。………私の方で先に接触した場合も直ぐに連絡する。幸運を祈るよ』
そこで通信が切れた。
「………それじゃあ改めて流れを確認します」
そう言って小さく固まった5人。それを確認して星は話し始めた。
「私達の目的はレイの確保です。そして役割ですが、前に説明した通りです」
「僕が先頭でレイと一騎打ちだね!!」
「私は皆の盾になりながらライの援護」
「アタシは星とユニゾンして夜美と共にバインドで捕まえる」
「それで捕まえたのを確認した後、皆で一斉にバインドで動けなくするだな」
「はい。いくらレイでも動けなくなれば神速を使っても無意味でしょうから」
星達の作戦は実にシンプルだった。ライが零治の動きを止め、星と夜美がバインドで動きを止める。そして止める事が出来たなら優理も含めて全員でバインドで身動きが出来ない様にする。それまで優理は防御とライの援護に徹し、アギトは星とユニゾンする運びだ。
「唯一の問題はレイがバインドをどう解くか………だな」
「はい。前のレイならブラックサレナやアーベントの鎧を着る、または解除によってバインド系の魔法を回避してきましたが………それに神速に転移と回避する方法は様々ですので、1回目で成功しないと2回目以降は成功確率が一気に難しくなるでしょう………」
「と言う事は1回目でバインドで必ず捕まえてそれで逃げられない様にしっかり捕まえないといけないってわけだね」
「キツイな………」
ライの言葉に険しい顔で呟くアギト。
「やるよ。どんなに難しくたって絶対にレイを助ける」
「優理………うん、そうだね!!」
「絶対にやり遂げます。そしてこれからもずっとレイと一緒に生きるんです」
「そう、我等はレイと共にこれからもずっと………」
「そうだな、アタシにとってもやっと見つけたマイスターなんだ。あの時、助けてくれた様に今度はアタシが助ける!!」
そう互いに意思を確認した後、カーニバル会場に目を向けた。
「………そろそろ演説が始まると思います。恐らく敵も動くでしょう。皆、準備を」
「通信を乗っ取られました!!」
「修復を急げ!!それとどこから配信しているか逆探知も忘れるな!!」
「は、はい!!」
付近の魔導師達に指示を出した後、クレインの映像に目を向けるヴェリエ。
「クレイン、何故今頃………!!」
拳を握りしめながら小さく呟いた………
『いきなり演説に割って入って失礼しますね。私も皆に伝えたい事があり、こうして公然の場に顔を出した訳ですが………私は興味がある事には必ず確認しないと満足できない性格でね。どうしても見たい物があるんだ』
「何を言ってるんだあの科学者?」
「分からへん、一体何を考えておるんや?」
はやてやヴィータが呟いた様に、いきなりそんな事を言われ会場の皆も不思議そうに映像を見ていた。
『さて、いきなりだけど皆は『ゆりかご』を知っているかい?かつて古代ベルカの戦乱期に聖王が使った超大型質量兵器であり、それが引き金となって戦争が終結したとも言われる代物なのだが………実は数年前に私はそれを見つけてね。それを機動しようと思うんだ』
そう言ったクレインの言葉を聞いて、まるで人が居ないのでは無いかと思えるほどの静寂が会場を飲み込んだ。
『まあそう言うわけだからミッドチルダから逃げる事をお勧めするよ。………と言っても何処へ逃げてもそう変わらないと思うけどね。………と言うわけで、ブラックサレナ!!』
そう言うと会場を囲むように大量のブラックサレナが転移してきた。
『邪魔をされない様にここ地上本部を壊滅してくれ』
その1言からブラックサレナ達は攻撃を開始した………
「どうなってる!!」
「わ、分かりません!!ブラックサレナが勝手に動き出して………!!」
「こっちの緊急停止コードを受け付けません!!」
「クレイン・アルゲイル………!!!」
攻撃を受け、揺れる地上本部内でヴェリエは怒り任せに机を殴った。
「今会場にいる魔導師全員で迎撃と来賓の一般人の避難を徹底させろ!!」
「は、はい!!こちら地上本部指令室………」
(何故こうなった………)
血が流れる拳を気にすることなく、ヴェリエは混乱する会場の映像を見ながら立ち尽くしていた………
「会場の武装隊敷地内へ!!急いで!!」
フェイトが上空から大声で叫びながら逃げる観客を守っていた。
「テスタロッサ!!」
フェイトに向かって行くブラックサレナの突貫に気が付いたシグナムがシュランゲバイゼンで勢いと機動をずらし、フェイトが避けやすい様に時間を作った。
「はあああ!!」
避けたフェイトはそのまま回転し、勢いと共にザンバーを斬りつけた。
「くぅ!!」
重く、固い衝撃を感じながら斬り抜くフェイト。しかし装甲には傷がついた程度にしかならなかった。
「固い………!!」
「なるほど、確かに味方ならばかなり頼もしいが敵となると相当厄介な敵だな………だが、まだ量産されなかっただけ幸運だったな」
シグナムの言う通り転移してきたブラックサレナは30機ほど。現在空を飛べる魔導師によってそれぞれ対応出来ており、実質会場にはまだ被害がそれほど及んでいなかった。
「もう直ぐ地上部隊のバリアアーマー部隊も戦闘に加わるみたいです!!」
そう伝えたのは地上で避難を誘導していたギンガであった。
「だったら制圧も時間の問題かな………」
「そうであればいいが………」
「シグナム?」
どうしてもシグナムには納得出来な事があった。
(あんな大掛かりな演説をしてこれだけなのか?もっと別に何か………)
「えっ、どうして!?」
「どうしたのギンガ?」
「地上部隊のバリアアーマーがこちらに対して攻撃を開始しているみたいです!!」
「バリアアーマーが!?全員なの!?」
「はい!!通信にも問い掛けにも何も答えず、全員がこちらに攻撃を開始しています」
「全員だと………!?ちょっと待て、地上部隊のバリアーアーマーは現在殆どの部隊で使用されている筈だ………」
「その大多数が敵………」
茫然となる3人だったが、近づいてきたブラックサレナに我に返った。
「とにかく、私達は私達で出来る事をしましょう!!」
「あ、ああ了解した!!」
「はい!!」
「ギンガ、他の六課メンバーと連絡を!!私達はこの場で避難している人達を死守します!!」
フェイトの指示の元、シグナム、ギンガ共に動き出した………
「フリード!!」
突貫してくるブラックサレナを正面で受け止め、取っ組み合う形でブラックサレナの動きを止めた。
「ガリュー!!」
そんなブラックサレナの横腹に拳をぶつけるガリュー。
「バリアブレイク!!」
拳に込めた魔力をぶつけ炸裂させた。
「エリオ!!」
「はあああああああ!!」
その後すかさず、勢いを付けたストラーダの突きを喰らわせるエリオ。
「!?!?!?!?」
その突きはガリューの攻撃によって僅かに崩れた鎧の隙間を貫き、中へと突き刺さった。
「ライトニングランス!!」
そのままストラーダを通し電気を放出。エリオの電撃は機械であるブラックサレナのアンドロイドに通り、そのままショートさせた。
「よし!!これなら行ける!!」
人では無いアンドロイドの体はロボット。頑丈な分、様々な機械で出来た体は高圧の電流には弱い部分がある。そう考えたエリオの一撃は見事ブラックサレナを撃破する事に成功した。
「だけどガリューの一撃でもあれくらいしか出来ないなんて………」
「でもああやってフィールドを張らせない様にすれば攻撃も何とか通る!時期にエローシュと真白ちゃんも来てくれる。僕達だけでもここは死守してみせる!!」
そう気合を入れて周囲を警戒するエリオ。
「………」
「エリオ君カッコ良いね」
「なっ!?キャロもしかして………」
「?」
「大丈夫そうね」
不思議そうに首を傾げるキャロを見てそう思うルーテシアだった………
「ウルフ2来るぞ」
「了解っす!!」
返事と共に、リーガルは魔力刃を展開したブラックサレナの攻撃を避け、カウンターと同じ要領で腹部にステークを叩き込んだ。
「よし!!ウルフ3、地上部隊のバリアアーマーは………」
「やっぱり敵に操られているみたいでレジアス部隊長の方も大混乱みたいです」
そう言って桐谷の問いに答えるリーネ。
「でもどうして私達のバリアアーマーは平気なんでしょう〜?」
「それは俺のアルト、ゲシュペンストがイーグレイ博士が開発したものだからだ」
フィーネの問いに桐谷が答える。
正式に採用されたゲシュペンストであったが、実際にロールアウトされるのは来年とまだ採用されたばかりで、そのテストパイロットでもあるリーガル達のゲシュペンストのデータを解析している状態であるため、どの部隊もゲシュペンストが配備されていることは無かった。
(しかし………現在動けるバリアアーマーは実質5機………クレインめやってくれる………!!)
舌打ちしつつ周囲に目を向ける。
その場から見てもバリアアーマーを着た地上部隊が管理局の魔導師を襲っている。
「これははやて達六課に協力して当たるしか無いかもな………」
「隊長、それはレジアス部隊長が認めないと思います」
そんな桐谷の呟きにウルフ1のボウカーが真っ先に反論した。
「ウルフ1、部隊長の指示を煽る余裕は無い、現状地上部隊が更に悪い状況を作っている以上、機動六課に協力を依頼して協力するのがベストだ」
「ですからそれを決めるのも部隊長です。勝手な行動は………」
「ボウカー!!」
大きな声でボウカーに怒鳴る桐谷。
「この部隊の隊長は誰だ?」
「………加藤桐谷、あなたです」
「レジアス部隊長が機動六課を良く思っていないのは俺も重々承知だ。だが、今の状況はそんな些細な事を言っている場合じゃない」
「些細な事………ですか?」
「ああ、些細な事だ。管理局員は何の為にいるんだ?今最も優先しなくてはいけない事は何だ?それはこの事態を早急に鎮静化し、これ以上民間人に被害を出さない様にするのが目的だろ。部署なんて関係ない、同じ管理局員として協力するべきなんだよ!!」
そんな桐谷の言葉に何も言わずただ黙っているボウカー。
「隊長!!他の地区に地上部隊のバリアアーマーが集中!!今の魔導師部隊じゃ抑えられそうにないです!!」
「ウルフ1、ここの指揮は任せる。六課への連絡も俺がするし、俺の独断だからお前の不手際じゃない。だから今の現状を打開する事を最優先に考えろ」
ウルフ3リーネの報告を聞き指示を出す桐谷。
「………了解です」
渋々ながらボウカーは返事をした。
「俺は今から連絡のあった地区へと向かう。ここは任せたぞ?」
「隊長!?」
「何を言ってるんですか!!1人で行くなんて危険です!!」
そんな桐谷の言葉にリーガルとリーネが揃って反論した。
「ここの守りもこれ以上減らせない。ウルフ1なら俺が居なくてもしっかり指示を送れる」
「そうじゃなくて………」
「俺は大丈夫だ。アルトアイゼンはどんな敵でも墜ちたりしない」
そう自信満々に答える桐谷にリーガルもリーネも何も言えなかった。
「ウルフ4もこの2人のサポートしっかり頼むな」
「隊長も気を付けて~」
「ああ」
そう返事をしてブースターを解放し、その場を離れたのだった………
「ディバインバスター!!」
地上部隊のバリアアーマーを砲撃で無理矢理吹き飛ばし、射線上を開けたなのは。
「今です行ってください!!」
「ありがとうございます!!」
なのはの言葉に感謝しつつ、駆け足で逃げる3人の家族。
「バルトさん!!ヴィヴィオちゃんを何処かに逃がしませんか!!」
「駄目だ!!今こいつから離れるわけにはいかねえ!!」
「ですけどこんなに敵が多いと私達じゃフォローしきれませんよ!!」
「くそ!?地上の部隊も余計な事をしてくれたもんだ!!」
現在、2人の居る場所には他に戦える魔導師はおらず、何とか2人でこの場所を守っている状態であった。
「はやてちゃん達もそれぞれ別の場所で戦闘を行っていてこっちの援護は難しそうです!!」
「機動六課は!?」
「あっちにもバリアアーマーが出現しているみたいで、あちらも戦闘中です!!」
「くそっ、これじゃあ本当に大悟の言っていた状況と同じじゃねえか!!」
そう叫びつつ、怒り任せに斬り裂くバルト。
「ブラックサレナ、来ます!!」
「邪魔だ!!クリティカルブレード!!」
雷撃を纏った斧の一閃は大きな衝撃と共に現れたブラックサレナの魔力刃ごと斬り裂いた。
「ちっ!?」
しかし完全破壊には至らず、装甲を抉ったものの、腰のレールガンにより、速射砲が放たれ何とか斧で受け止めた。
「バスター!!」
しかしその直後、なのはがバルトの抉った装甲の部分に砲撃魔法を直撃させ、ブラックサレナを完全に沈黙させた。
「やるな!!」
「任せて下さい!!」
「2人共凄い!!」
そんな2人から離れすぎず、なお確認し、相手にも見つかりにくい物陰から様子を見ていたヴィヴィオが自分の事の様に嬉しそうにしながら呟いた。
「私もあんな風に戦えたらな………」
「それが出来るとしたらどうします………?」
「えっ?」
聞いた事のある声で声を掛けられたヴィヴィオはそちらを見るとそこには前にも見た事のある男がいた。
「レイだ!!どうしてここに居るの?あっ!!もしかしたらバルトのお手伝いに来てくれたの!!」
「いいえ、『鍵』を回収しに来たんですよ」
「『鍵?』」
不思議そうに首を傾げたヴィヴィオを見て、零治の顔はまるで恨みを持つ人間を見ているような顔でヴィヴィオを見つめていた。
「全く、忌々しい………!!あの女のクローンだから多少は似ていると思っていたけど、ここまで面影があるとは………!!」
「ひっ!?」
速い動きで刀を首筋に当てられ、ヴィヴィオの頭は何故こうなっているのか状況が理解出来ずごちゃごちゃになっていた。
「レ……イ?」
「まだ殺さないわ。………あんたみたいな女でも使い道があるんですからね」
そう言ってゆっくり刀をヴィヴィオから離す零治。
「レイ………どうしたの?おかしいよレイ!!あぐっ!?」
腹を拳を入れられ、気を失うヴィヴィオ。
「さっさと連れて行って、後は………」
「ヴィヴィオ!!!!」
ヴィヴィオを担いだ所で上空から零治に向かって急行下してくるバルト。その勢いは隕石そのものだった。
「零治!!!!!」
「あら?気づかれちゃった?」
「テメエ!!やはり零治の体を!!!」
「バルトマンと同じ反応ね、つまらない………」
「!?テメエ、バルトマンを!!」
「バルトさん!!」
そんな中、バインドで零治を拘束したなのは。
「えっ、零治君!?」
「あなたが高町なのはね。魔法少女リリカルなのはの主人公………あなたを殺したらこの世界がどうなるのかも興味があるけど、取り敢えず今はあなたに興味がないわ」
「何を言ってるの零治君………そんな口調気持ち悪いし、ヴィヴィオちゃんを何処へ連れていく気なの?」
「なのは、こいつは零治じゃねえ………今のこいつは零治を使って好き放題しているデバイスの意識だ」
「デバイスの意識………?バルトさん、一体何を………」
言っている意味が分からず確認しようと再度聞こうとしたなのはだったが、バインドを破られた事で、直ぐに零治へと視線を戻した。
「………さて、目的の物も回収できたし、後はこの鍵をクレインに届けるだけなんだけど………」
「ヴィヴィオちゃんを物扱いしないで!!」
「あらあら、この時代でも愛されるのね………羨ましくて直ぐにでも殺してやりたいわ」
ニヤリと笑みを溢しながらそう答える零治。
「させない………!!いいからヴィヴィオちゃんを返しなさい!!」
「星達には悪いが、ヴィヴィオに手を出す奴はだれであろうがぶっ殺す!!」
互いに並んでデバイスを構えるバルトとなのは。
「………本当にイライラするわ………あのクソ女のクローンだけじゃなく、あの人のデバイスまで使ってるなんて………いいわ、ここで消してあげるわバルト・ベルバイン………!!」
「ねえ孝介、あなたはこことは別の世界の存在を信じる?」
「別の世界?」
授業を終え、近くの小さなカフェでエリスとお茶をしていた時である。
ふと上の空状態だったエリスが俺にそんな話をしてきた。
「あなたと私、2人で今の世界じゃ考えられない様々な出来事を乗り越えていくの!!時には笑って、時には喧嘩して、時には死にそうになって………」
「いや、最後のは勘弁だな………」
「でも楽しそうじゃない。今じゃ見た事の無い世界が私達を待っているの!!」
「………アニメの影響か?」
「バレた?」
下を出しながらそう答えるエリスに俺は何も言えなくなってしまった。
「………だけど、まあいいよなそう言うの。まだ実際に見た事無い景色は別世界だけじゃなくてこの世界にはまだまだ一杯ある。日本だけでもそうだし、世界の景色だってそうだ。人間はその全てを見る事は出来ないだろうな」
「そうね………」
「………まあ別世界で今は居ない空想上の生き物を見たり、魔法なんかある世界を冒険するのも楽しいかもな」
「でしょ!!」
そう言ってウットリと空を見上げる。
「空を飛んだりできるかもしれないしね………飛んだらどんな気分でしょうね………」
「空か………」
そう呟きながら空を見上げる。
(………あれ?)
ふと頭の中に浮かぶビジョン。
『………レ…、……、……、競争だよ!!』
『負けません………!!』
『いや、……や……には我はスピードでは………』
『逃げるの……?』
『なっ!?我は逃げはせん!!いいだろう、勝負だ……!!』
(何だこれ………?)
誰かとの会話、加奈や桐谷じゃない誰か。俺は全く知らない覚えのない会話なのだが、妙に懐かしい。
「孝介、大丈夫………?」
「えっ、何が?」
「だって泣いてるよ………?」
「泣いてる?誰が?」
「孝介………」
そう言われ、俺は目を拭うと確かに涙が流れていた。
「あれ?何で………?ゴミでも入ったかな?」
「大丈夫?」
「ああ、でもちょっとトイレ行ってくるわ」
「うん………」
そうエリスに伝え、席を離れる。
(何となく、この感覚はあの時と似ている………確か桐谷と最初の登校日に一緒に電車に乗った時だ………確か………魔法少女リリカルなのは。………調べてみるか)
俺はそう思いながら目を洗い、トイレを出たのだった………
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