少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第64話 ロシュオとの邂逅 ③
「どうやって“森”の侵略を生き延びた?」
貴虎は一番聞きたかった言葉を投げかけた。
『私はこの“森”に選ばれた。“森”は挑む者を試し、世界を統べるに相応しい者を選ぶ。ただ一人の王を選定する。――だがそれも過ちでしかなかった』
「そんなことない!」
咲が貴虎と並ぶように前に出た。
「だって、あなたが生きてるから、あたしたち、こうしてお話聞けてるんだもん。だからゼッタイ、アヤマチなんかじゃないよ!」
(そうだ。人々の生に過ちなどない。世界中に愚かさと汚さが満ちていたとしても、妹やこの子のように無垢なものがある。俺はそう信じているから、人類全てを救いたいと思ったんだ)
『私が新たな世界の到来に向けて、弱き者たちを見捨てるのを善しとしたと知っても、そう言うか、ジュグロンデョよ』
はっとする。それはまさに、プロジェクトアークでやろうとしていた人口調整と同じではないか。
ロシュオは語る。フェムシンムという文明が、“森”の支配者となりおおせたこと。しかし、それらを当然の権利と誤解した強い者らが、支配後も身内で争い合ったこと。その結果、文明が滅びたこと。
「その弱い人たちの中には、あなたの大事なひともいたんですか?」
碧沙の不意を突いた問いに、ロシュオは黙して答えなかった。代わりに顧みたのが、石の玉座のさらに奥にある、一つの石の――棺。
「いたんですね」
想像する。貴虎がロシュオの立場で、あの棺の中に眠るのが光実や碧沙だったら――とても耐えられない。数百年と自責の日々を送るだろう。
そこで、貴虎の後ろにいた碧沙と、横の咲が飛び出した。
碧沙と咲は、それぞれロシュオの左右に立ち、彼の左手と右手を取ったのだ。
「ずっとさびしかったですね。大事なひとをなくして、それでも今日まで守ってきて、つらかったですね」
「だいじょうぶ! あたしたち、あなたの敵じゃないから。あなたの大事なもの、とったりこわしたりしないから。ね?」
まぶしい。貴虎はそう感じた。
そんな優しく暖かな言葉を、打算も裏もなく口にできる少女たちが、貴虎にまぶしくないわけがない。貴虎とて、なれるならばこうなりたかった。
(いや。今なら。ユグドラシルも呉島もない、ただの俺なら)
貴虎はロシュオの前まで行き、ロシュオと対峙した。
「その子たちの言う通りだ。俺たちにはお前に敵対する意思はない。お前の話を聞いたなら尚更だ」
まっすぐオーバーロードの王を見据える。
オーバーロードの成り立ち。フェムシンムという文明に起きた悲劇。それらはロシュオが語ったように、今のままではいずれ自分たちの世界にも訪れる未来だ。
『――この“森”には“知恵の実”がある。新たな世界を一つ蝕むごとに、一つだけ生る、禁断の果実だ』
ロシュオは唐突にその存在を明かした。
(まさか凌馬の――凌馬や湊やシドの狙いは、その“知恵の実”なのか)
『滅びのさだめを超えて、次なる進化に至る鍵。“森”に挑み、“森”に選ばれたただ一人の勇者にのみ与えられる褒美。かつて私も一度は手にした栄光だ』
その禁断の果実が存在するなら、人類を虐殺せず、ヘルヘイムに適応できる進化をもたらせる。地球の生態系を守ることができる。この情報を明かしたのは、ロシュオなりの譲歩なのかもしれない、とさえ思いかけたところで。
『だが諦めよ。“知恵の実”がお前たちの手に渡ることはない』
後書き
大人の貴虎とは違う視点で物事を見る子供の咲&ヘキサでした。
実際、王妃の死因は明らかになっていないので、美談にしていいのかは悩み所でしたが。
ロシュオの話す内容自体は原作と変わらないのですが、順番を前後させたりして、咲とヘキサが「いる」感を出してみるのが今回の挑戦でした。伝わったでしょうか?
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