少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第63話 ロシュオとの邂逅 ②
『お前がこの森を探る者たちの長だな?』
「そうだ――いや、そうだったと言うべきか」
貴虎はなりゆきとはいえ職場を放棄した。それ以前に、凌馬たちから事態に関わるなと脅され、プロジェクトアークを押しつけられた傀儡と化した。
裏切りは、どちらが早かったのか。
「お前は何者なんだ」
『我らはフェムシンム。かつてこの世界に栄えた民の末裔だ』
息を呑んだ。ではこれが、凌馬たちが、そして貴虎が探し出そうとしていたオーバーロードインベス。このヘルヘイムの森の支配者。
「フェムシンムっていうんですか、おなまえ」
がくり。碧沙の問いはあまりに平和的だった。
『それは民の名だ。我が固有の名はロシュオ。かつて民の王であった』
「何故私たちの前に現れた」
『聞いてみたくなった。ジュグロンデョを連れたお前の話を』
「じゅぐ……?」
『我らにとっての“天翔ける者”だ』
「へ~。オーバーロードのコトバってオモシロイねっ」
「ねえ」
この少女と妹は本気でそう思っているらしい。
未知は面白さ。奇妙は楽しさ。――そういう感性を貴虎が失くしたのはいつの頃だった?
――“えー!? 何で!? 分からないほうがワクワクするじゃないか!”――
(ああ。そう思えなくなったから、凌馬の心は俺から離れて行ったのか)
『ジュグロンデョよ。お前たちはかつて我らの前にも現れた。お前の姿と、お前の翼を持つ者が、かつて私を民の王と定めた。太陽の花の翼を翻し、天よりの使者のようであった』
碧沙の容姿と、咲の翼。
(そういえば、初めて変身実験に成功した時、妙な夢を見た)
――“ あなたは 運命を選ぼうとしている ”――
白い女が現れ、貴虎に告げた。まるで変身に警鐘を鳴らすように。
あの白い女と碧沙は雰囲気が似ているし、翼を持つなら、咲のヒマワリフェザーが最も似合う。
するとロシュオは何かを取り出した。黒光りするそれは、まぎれもなく量産型のドライバー。
『この道具の使い方を』
差し出された量産型ドライバーを受け取った貴虎は、碧沙と咲をふり返った。咲は戦極ドライバーを持っている。ならば。
「碧沙、着けなさい」
「え、わたし?」
「“森”に入ってから何も食べてない。腹が減ってるだろう?」
「で、でもそれは、兄さんだっておなじじゃないっ」
「俺はいい。元から食は細いほうだし、大人だから、一食抜いても死ぬほどじゃない。だがお前は育ち盛りの子供だ。兄さんの心配を一つ減らしてくれ」
碧沙は悲しげに眉をひそめたが、黙って量産型ドライバーを受け取り、腹に装着した。
「いい子だ」
貴虎は碧沙に向けて微笑んだ。もうずいぶんと笑顔など忘れていた気がするのに、この妹は容易くそれを思い出させてくれる。
「ヘキサ、これっ。とちゅうでとったのイッパイあるよ」
「ありがと、咲」
碧沙は咲からロックシードを一つ受け取り、覚束ない手つきでバックルにセットした。
「こうで、いいのかしら」
「そうそう。よかったぁ。これでヘキサもお兄さんもおなかだいじょーぶだね」
貴虎はそれらを見届けてから、ロシュオを改めてふり返った。
「こうすることで、実を食べることなく、養分だけを体に取り込める」
『なるほど。よく出来ている』
ひげを撫ぜるような仕草をしてから、ロシュオはこちらに背を向けた。
ここで去られては堪らない。貴虎はすぐさま、碧沙と咲を連れてロシュオを追った。
着いたのは、石で隔離された小ぢんまりとした一画。
そこに石の玉座があり、ロシュオはそれに座った。
後書き
ヘキサの秘密の次は咲の秘密です。もっともこれは咲自身のというより、咲を取り巻くものの問題という感じですが。
実は勝利の女神的存在だった咲なのでした。
そしてまず妹の空腹を心配して妹にドライバーを渡す貴虎さんマジ貴虎さん。
貴虎のとこに始まりの女が現れたというのは完全なる捏造です。これで実は接触なしだったら作者はorzになります。
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