鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。
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プロローグ
前書き
以前ハーメルンで執筆していたものです。
以後よろしくお願いします。
出来たら読んだ後感想をお願いします。
批判でも構いませんが、その場合はただ非難するのではなく、「こうした方が良い」と言った理由をつけてください。
その日の事を、俺は鮮明に覚えている。
新しい世界、新しい景色、それらが一気に目の前に広がった日。
そして、その後の俺の人生を決定付た日。
西暦1992年 8月9日
「……かずは…一葉、起きるんだ」
「…んぅ?」
6歳の誕生日。
その日、俺は海軍で提督として働く父に連れられ、ある場所を目指していた。
黒塗りの高級車の後部座席で眠っていた俺の肩を揺する父に起こされ、目頭を擦りながら起き上がる。
「おとうさん……どうしたの?」
「ほら、着いたぞ。 お父さんの仕事場だ」
窓の外を指差す父に導かれる様に窓の外を見た。
そこにあったのは青く輝く海と、隣接する工廠や建物。
そして一際目立つ、青い海に浮かぶ軍艦。
「あれがお父さんの艦隊の主力、戦艦長門と金剛だ。
その隣が重巡洋艦の加古と軽巡洋艦の木曾、あっちが軽空母の隼鷹だ」
「わぁ…おっきいね、おとうさん‼︎」
「そうとも、日本帝国海軍の誇る軍艦だからな」
車の中で盛大にはしゃいで居たのを覚えている。
初めて見る海と、実物の軍艦は途轍もなく巨大で、雄々しかった。
親父の書斎で見せられた写真に写る戦艦や空母が目の前に聳え立ち、その塔のような艦橋が太陽を遮り、黒いシルエットのように浮かび上がっていた。
鎮守府の正門で車が止まり、親父と2人で敷地内を練り歩いた。
親父の執務室に工廠、会議室。
軍港初体験の俺はさぞかし煩かっただろう。
そんな俺を笑いながら手を引いていた親父の背中を、今でも鮮明に覚えている。
「あら……提督、戻っていたの?」
何てことはない鎮守府の廊下で、後ろから声を掛けられ、振り向いた。
「……先日仰っていた息子さん?」
「ああそうだ、仲良くしてやってくれ。
一葉、彼女は正規空母の加賀、お前の面倒を見てもらう事になってる。
あまり迷惑を掛けるんじゃないぞ」
これが彼女との……俺が軍人を志すきっかけになった艦との出会いだった。
22年後 UC.0100
ラグランジェ4 暗礁宙域
アーガマ級改修型強襲巡洋艦1番艦 リンドヴルム
メインブリッジ
「提督……起きろ提督、おいカズハッ‼︎」
肩を強く揺すられて目が覚めた。
鉛の様に重苦しい身体を宇宙の無重力に包まれて目覚めた感想は、御世辞にも良いと言えるものでは無かった。
「……ッ⁉︎ ああ……なんだ?」
「なんだじゃ無いだろう、また気絶していたぞ。
ここ最近碌に休んで無かっただろう? お前は休め、後は私達に任せろ」
「いや、艦隊司令の俺がしっかりしないと……」
「その艦隊司令がハードワークで過労死なんて笑い話にもならん、いいから休め」
俺の座る副長席の隣、艦長席に座っている、リンドヴルムの艦長、〝フィカーツィア・ラトロワ〟が、心配そうに肩をつかんで揺すりながら顔を覗いていた。
艦隊司令であり、提督でもある俺の最も信頼する副官であり、Jr.スクールからの付き合いになる同僚だ。
「……わかった、後を頼む」
「真っ直ぐ帰って寝るんだぞ。
間違ってもMSデッキに行くなよ?」
「わかってるよ、餓鬼じゃあるまいし」
メインブリッジから出て真っ直ぐ自室へ向かう。
思えば、あれから20年以上経っているのか……。
加賀や隼鷹は達者にしているだろうか。
加賀はともかく、赤城はボーキサイトのつまみ食いの癖は治したのだろうか?
案外空母勢を巻き込んでいそうではあるが……。
親父も元気で居ればいいが…。
22年前、俺は親父の鎮守府に半年間世話になった。
そこで演習に無理を言ってついて行ったのが、俺の運命を大きく変えることとなった。
深海棲艦の急襲で、俺の乗船していた加賀は多数被弾、運悪く俺の目の前の隔壁を敵の砲弾が貫き、爆発。
俺は死んだ。
死んだ筈だった。
だが俺は生きていた。
この世界に、この似て非なる世界で、確かに生きていた。
何故かは知らない。
でもここにも俺の親父が居て、何故か知らないが妹も出来た。
既に霞みはじめた記憶に残る、鎮守府の皆……。
皆と交わした約束を守る為に、俺はこの道を選んだ。
宇宙世紀0100年、ジオン共和国が地球連邦政府へ自治権返還。
俺がこの世界に来てから、22年が経った。
◉◉◉
翌日 8月9日
地球連邦宇宙軍第8艦隊特別即応艦隊。
艦隊名〝エインヘリアル〟。
宙賊や反連邦武装勢力など、明確な敵意を持つ、MSを不正所有する危険分子の討伐を目的に結成された艦隊だ。
艦隊は3隻の艦艇により構築され、艦隊旗艦は俺の座乗するアーガマ級改修型強襲巡洋艦リンドヴルム。
嘗てグリプス戦役を戦い抜いたエゥーゴの旗艦、アーガマ改修型そのものであり、グラナダのグリプス戦役終戦記念館にモスボール処理されて居たものを、月のフォンブラウンにあるアナハイム工廠で近代化改修を施した艦だ。
第1次ネオジオン抗争時に装備されたハイパーメガ粒子砲は勿論、対艦ミサイルを始めとする各種弾頭を発射可能なVSLも1基から3基に増設。
メガ粒子単装砲の出力向上、対空機銃の増設、MSの搭載機数も、両舷デッキ各4機から各5機へ変更され、約3個小隊が運用可能になった。
ザンジバル級機動巡洋艦ユグドラシル。
1年戦争時にソロモン宙域で中破した2隻のザンジバル級の内の1隻を改修した艦艇だ。
もう1隻はエゥーゴによって運用されたが、ユグドラシルは連邦軍に保管されて居た為、状態が良かった。
その為エインヘリアル結成時に艦隊に編入されることになった。
武装は従来の前方固定式偏光型メガ粒子砲4門、火薬式実弾連装主砲1門を廃して、2連装メガビームキャノン1門、新型対空機銃15門、リンドヴルムと同型のVSLを2基増設。
MSデッキは9機から3機に減少した代わりに、各種弾薬や機体パーツの製造設備を備え、艦隊の兵站の殆どを賄っている。
アイリッシュ級戦艦9番艦ヴィドフニル
クラップ級への更新によりエインヘリアルに回された艦で、主に索敵や情報収集、敵の撹乱などを担当する艦だ。
MS搭載数はリンドヴルムと同じく約3個小隊を運用可能だが、ヴィドフニルの役割上、機動力の高い機体が多数搭載されている。
武装は単装メガ粒子砲5門、連装メガ粒子砲2門、対空機銃5門、ミサイル発射管はリンドヴルムやユグドラシルと同規格のVSL2基に変更されている。
この3隻によって構築されたエインヘリアルは、UC0094年に編成されて以来、満足な補充も無く任務に従事している。
それは、この艦隊の特色故だ。
何故なら、この艦隊にいる連中は連邦上層部と一悶着起こした奴や、元ジオン兵が殆どだからだ。
汚職や賄賂などを強要され、それを拒否した連中の寄り合い所帯なのだ。
増員されてくるのは俺たちと同じく左遷されてきた善良な奴や旧ジオン兵のみ。
回されてくるMSも旧式が多い。
それでも戦い続けるのは、一種の意地の様なものだ。
『提督、起きてるか? おい、カズハ』
自室のインターホンから響く声で目を覚ます。
最近寝て居なかったのもあり、ぐっすり眠れたので目覚めは快調だった。
「……ああ、今起きた。 どうした〝ラリー〟」
『お前飯まだだろ? 一緒に行くぞ。
ラトロワの奴に〝お前等〟連れて来いって言われてんだよ。
早く着替えてくれ』
「済まん、2分で出る」
『おう、待ってるぜ』
リンドヴルムの重力ブロックにある自室に、人工の重力が掛かっている。
今日は非番の日だった様だ。
身体をベッドにくくりつけていた無重力用の寝袋を外し、手早く着替えて自室を出る。
外には金髪の大男が腕を組んで壁に寄り掛かって俺を待っていた。
「よう相棒、まだ生きてるか?」
「ったりめぇだ、お前等残して過労なんぞで死んでたまるかよ」
「ははは、そりゃ嬉しいな」
こいつは〝ラリー・フォルク〟。
エインヘリアル艦隊のMS隊の指揮を一手に引き受ける凄腕の指揮官であり、連邦軍士官学校でラトロワと俺の同期だった。
俺より約20cmもデカい191cmの大男だ。
因みに俺は170cmジャスト。
……恨めしい。
「そういやMSの補修作業はどうなった?
今回は随分手こずったみたいだが」
「ああ、相手も腕の良い奴が多かったからな。
こっちも無傷じゃすまなかった。
特に〝シロガネ〟と〝ブリッジス〟の機体が1番酷い」
「ウチのエース2人が? そんなに手酷くヤられたのか」
「あ〜、いや……受けたダメージより無理な機動で負荷かけ過ぎって意味だ。
なんせ俺のリゼルで追いつくのがやっとだからな。
クゥエルでよくあんな機動が出来るぜ、あの2人。
普通ならコックピットでミンチになってるぜ?」
「……人間やめてるからなぁ、あの2人。
ってかまたやらかしたのか彼奴ら……くそっ、修理費用が…」
新しい頭痛の種に頭を押さえる。
ただでさえ最近は資材の搬入をして居ないと言うのに。
また整備班から大量の書類が上がってくるのかと思うと眩暈がしそうだ……。
「……忘れよう、うん忘れよう。
さて、〝まりも〟起こしてさっさとPX行くか」
「そうだな、ラトロワ待たせんのも、ちっとばかし恐ろしいし……」
自室前から移動し、すぐ隣の部屋の前で止まる。
「……はぁ」
「早く行って来いよ〝お兄さん〟」
「ええい侭よッ‼︎」
これから起こる惨事にゲンナリしながら、重い足を前に進めた。
空気の抜ける音と機会の駆動音と共に扉が横にスライドした。
「おはよう兄さん、ご飯にする? お風呂にする?
それともわ・た…」
パシュゥッ…
最速で扉の横に備えられたパネルを片手で操って閉める。
俺は何も見て居ない、裸エプロン姿の妹なんて見て居ないんだ……。
「……ラリー、まりもは調子が悪いみたいだ、先に行こう」
「……そうか、じゃあ行くか」
「待ってよ兄さん‼︎ 私の渾身のギャグを無視しないでぇ‼︎」
「えっ⁉︎ あれギャグだったのか⁉︎」
「本心よ?」
「神は死んだッ‼︎」
この裸エプロン姿から一瞬で制服に着替えた変t……女性士官は、〝神宮司まりも〟。
紛れもなく俺の義理の妹だ。
歳は俺と同い年で、士官学校では俺とラトロワ、ラリーの4人で仲良く同期生だ。
因みに余談だが、4人とも同じ訓練小隊だった。
俺の副官(自称)で、事ある毎に俺を罠(即成事実)に嵌めようとする困った奴だ。
エインヘリアル艦隊旗艦リンドヴルム所属のヴァルキリー中隊の中隊長で、階級は中佐。
パイロットとしての腕ならエインヘリアルで1、2を争える腕を持っている。
あと巨乳で俺より10cm身長がデカい。
そんでもって、いきなり後ろから抱きついたりしないで欲しい。
正直言って目のやり場に困る。
「大丈夫よ兄さん、いつでも見て良いし私はどんな時でも受け入れてあげるわ」
「勝手に人の心を読むなッ‼︎ ってか何言ってんだ⁉︎」
「任せて、兄さんの⚫︎⚫︎⚫︎も、兄さんの⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎もちゃんと食べてあげるからッ‼︎」
「お前口縫い合わせてやろうかッ⁉︎」
「お前等兄妹って本当に仲良いよな」
まりもとラリーと一緒にあ〜だこ〜だ話しているうちにPXに着いた。
中は朝食の為に集まった奴らがちらほら見えるだけだ。
他の連中はもう食べたらしい。
「あっ、提督っ‼︎ おはようございますっ‼︎」
「おはようございます提督」
「おう、〝武〟と〝響〟か、おはよう。
あとよくもやってくれたな武この野郎」
「はっ、へ?」
「…おい白銀、お前何やらかしたんだ?」
「いやいや龍浪さん、俺にもさっぱり…」
「クゥエルの駆動系がズタボロとかマジで笑えないぞ?
お前俺を過労死させる気か?
前回だって整備班から大量の書類が上がってきたんだぞおいこの野郎」
「あ……あ〜…すいません」
この2人はリンドヴルムのヴァルキリーMS中隊に所属する〝白銀武〟と〝龍浪響〟。
中隊長であるまりもと比べても遜色無い操縦技量を持つ。
因みに中隊には2人ほど化け物がおり、その1人がこの武だ。
なにせ一般パイロットがやったら確実に死ぬレベルの加重力機動をこなしてケロッとした顔をしている程だ。
エインヘリアルでは〝人間やめたバカ〟や〝グラビティ・マゾヒスト〟、〝トラウマ製造機〟なんてあだ名がある。
因みに最後のあだ名は、機体整備の最終チェックの為に白銀機に同乗した整備兵が割と真面目に心停止を起こしかけたからだったりする。
龍浪は俺と共に苦行を耐え抜いた戦友だ、身長的な意味で。
こちらもパイロットとしては一級品だ。
白銀は立体的な戦闘、とりわけ空間機動が得意だが、龍浪は突撃戦などに定評がある。
こと乱戦時においてはこの2人とあと1人によって編成された第2小隊は、エインヘリアルでも塁を見ない連携と戦果を上げている。
「…まぁ、責めてるわけじゃ無い。
だが覚えておいてくれ、機体は破損したら直せばいい。
けどお前等は1人しか居ない。
絶対に無理はするな、いつも通り出撃して、必ず帰ってこい……いいな?」
「「……了解ッ‼︎」」
如何せん堅っ苦しいのは嫌いなので、目の前で直立不動で最敬礼する2人の肩を叩き、その場を後にした。
ラリーとまりもがクスクスと後ろで笑っているが気にしない。
券売機で豚角煮定食を大盛りで購入。
買った券をカウンターに立つ糧食係に差し出して、定食の乗ったトレイを受け取る。
豚角煮の香ばしいタレの香りに、腹の虫が騒ぎ出した。
「…ん? 提督、今日は早いな」
「提督、おはようございます」
「おはようございます提督」
「おう、お前等か。 相変わらず女性陣は堅いな。
口調崩せよ、気が休まらんだろ」
トレイ片手にPXの奥に進むと、またもやパイロット陣の〝ユウヤ・ブリッジス〟、〝篁唯衣〟、〝伊隅みちる〟に出くわした。
伊隅と篁はヴァルキリー中隊の第1小隊隊員で、まりもの部下だ。
こうして見るとパイロット陣に日系人が圧倒的に多いのは気の所為だろうか?
そしてユウヤは、先程会った白銀と共に化け物扱いされている2人のうちの1人だ。
ユウヤは白銀程機動力に突出した能力は無いが、狙撃を含めた射撃戦や近接戦闘に高いポテンシャルを持つ。
俺もパイロットとしてMSを駆り、前線に立つことが殆どで、それなりの腕はあると自負しているが、はっきり言って俺でも勝てるかわからない。
特に近距離での白兵戦は全く勝てる気がしない。
それとまたまた余談だが、篁とユウヤは恋仲らしい。
らしいと言うのは、本人達が否定しているからだが、見かけるたびに2人で仲睦まじくしている。
確実に付き合っているだろう。
「そうそうユウヤ、白銀には話したが…もう少し機体を大事にしてくれ。
書類整理と〝巌谷少将〟宥めんの大変なんだぞ?
過労死しそうだ」
「あー……すいません、無理です」
「はっきり言いやがったなこの野郎……」
ため息を吐きながら「善処してくれ」と言い残しながら手を振ってその場を後にした。
「クックックッ……苦労が絶えないな、艦隊司令殿?」
「そう思うなら手伝ってくれ、ラリー」
「だが断る」
「デスヨネー……」
「大丈夫よ兄さん、私が徹夜で付きっきりで手伝ってあげるわ」
「強襲されそうなので遠慮します」
「チッ‼︎」
「今舌打ちした⁉︎舌打ちしたよね⁉︎」
そんなこんなでラトロワの元に辿り着いた時には料理は冷め切っており、ラトロワもお冠で肝も冷やしたのは致し方ない事だ。
◉◉◉
2時間後 リンドヴルム 艦長室
「…ってなわけで〝ヘイズル〟のテストは順調です。
ただ欲を言うなら、あの試験型長刀の稼働時間を延長したいですね。
超高周波振動装置を稼働させてない状態の耐久性に難があります」
「そうは言うがなぁ……あれはここで作れる中では1番性能の良い試作品だぞ?
そもそも設計段階から搭載できるギリギリの大きさまで小さくしてある。
その上で外装連結式エネルギーCAPユニットを積んであるんだ。
このCAPユニットを機体依存式に変えても見ろ。
超高周波振動装置を稼働させるどころかものの10分で機体のジェネレータがカツカツになっちまう」
「…ですよねぇ〜……いっそのこと刀身をガンダリウムγ製にでもしませんか?」
「それはそれでアリなんだが、コストが跳ね上がるぞ?」
「却下ですね、ウチの艦隊にそんな金無いですし……」
リンドヴルムの艦隊司令執務室。
読んで字の如く、艦隊司令である俺の執務室だ。
というか俺の自室。
その自室に備え付けられたキッチンに立って、趣味の洋菓子作りに励みながら、俺は溜息をこぼした。
それを見て、自室の中央に置かれた机に座る男性将官が「お互い苦労するな」と笑った。
この壮年の男性将官は、〝巌谷榮二〟少将。
ザンジバル改級機動巡洋艦ユグドラシルの艦長で、エインヘリアル艦隊の整備部隊を指揮する歴戦の勇士だ。
パイロットとしても指揮官としても、とても優れた人物だ。
俺よりも階級は高いが「俺のような老害がでしゃばる場じゃ無い」と言って艦隊司令の座を俺に譲っている。
「そういや、地球に降りるそうだな」
「はい、艦の補修も兼ねて補給と慰安をと思いまして。
最近は連戦続きでしたから」
「うむ、なら艦とMSを有重力下仕様にしておかんとな。
最近は海賊が横行していると聞くし……」
「地上軍は何してるんすかね……治安維持は軍事の基本なのに。
っと、クッキー焼けましたよ。
紅茶も飲みますか? あ、コーヒーの方が良いですか?」
「いや紅茶で構わんよ、君の紅茶は格別だからな。
しかし君の紅茶は本当に美味い、誰かに習ったのか?」
「ええ、姉に習いました。
暇さえあれば「ティータイムの時間ネーッ‼︎」って感じで毎日拉致されてましたよ。
それでいて、そんじょそこらの店より美味いもんだから、味を占めちゃいましたよ。
それで自分から習ったんです」
古き良き記憶に浸る。
金剛型弩級戦艦1番艦、金剛。
英国生まれの陽気な人…いや、艦だった。
彼女の作る洋菓子も格別で、3時のおやつ刻には金剛の部屋に行くのが日課だった。
特にスコーンが美味かった。
あの味は22年経った今でも、未だに再現出来ない。
「それは是非一度味わいたいものだな」
「……そうですね」
もう2度と逢えない、その事実を知っているから、俺は感傷に浸ることしか出来なかった。
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