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少年少女の戦極時代Ⅱ

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オリジナル/ユグドラシル内紛編
  第53話 紘汰にとっては謎


 咲はスマートホンの電話帳から目当ての人物の番号を呼び出し、通話ボタンをタッチした。
 背後には両肩を押さえる湊耀子。目の前には愉しげな戦極凌馬とシド、そして苦渋を浮かべる貴虎。

「もしもし? 紘汰くん? ――――。ごめん、そのまま聞いて。あたしも貴虎お兄さんも、もうオーバーロードをさがせない。だから紘汰くんも、オーバーロードをさがさないで。――――。そうだよ、ヘキサのこと。――――。うん。つたえて。もしそれでヘキサに何かあったら、ゆるせないからって」

 咲はスマートホンを耳から離し、電話を切った。

「まさか敵対宣言までしてくれるとはねえ。上出来じゃねえか、おチビさん」
「チビってゆーな」

 咲が睨むと、シドはわざとらしく肩を竦めた。

「後はこれから本当にオーバーロードを探さないようにしてくれれば完璧ね」

 湊が両肩を掴んだまま、後ろから囁いて来た。振り解きたかったが、それを許さないほど湊耀子が強いことを咲は知っていた。


 どう言い訳しても後戻りはできない。この時、咲はそう思った。
 室井咲は、葛葉紘汰を裏切った。


 …

 ……

 ………


「咲ちゃん!」

 テナントビルの階段から仲間と話しながら降りてきた咲に、紘汰は勇んで歩み寄った。

「紘汰くん……」
「ずっと話したかったんだ。メールも電話も、咲ちゃん出てくれねえから」

 咲、と彼女の横にいたナッツが呼びかける。咲は手を挙げてナッツを制した。

「場所、変えよう」




 咲が紘汰を連れて来たのは、近くの河川敷だった。
 ここに来るまで咲は無言だった。紘汰もどう切り出すべきか悩んで無言だった。

 思い出す。初めて二人きりで話したのもここだった。まだランキングもインベスゲームもあった頃。凰蓮のアマチュア論議を、分かる、と物憂げに語った咲――

「光実くん、げんきしてる?」

 はっと我に返る。気を取り直す。昔は昔、今は今だ。

「傷、そんなに深くなかったから、すぐ退院できそうだって」
「紘汰くんは付いてなくていいの?」
「今はザックとペコの時間だから。――それより咲ちゃん、どういうことだよ」
「なにが」
「オーバーロードのことだよっ。何で急に探すのやめるなんて言い出したんだよ。ヘキサちゃんに何があったんだよっ」

 紘汰が知っていることなど、咲がオーバーロードを探すのをやめたことと、それがヘキサに起因するということだけだ。具体的に何があったのか教えてもらわねば、咲を助けさえできないのに。

 咲は溜息をつくと、紘汰を見上げた。

「仮にヘキサがヒトジチにとられてるんだとして、紘汰くんはどうするの? ヘキサをたすけてくれるの?」
「当たり前だろ!」
「失敗したら?」

 咲の両目は今まで見た中で一番冴え冴えとしていた。

「ゼッタイなんてホショー、どこにもないでしょ。きっとヘキサ、ヒドイ目にあうよね。あたし、ヤダよ、そんなの。ちょびっとでもヘキサがキズつくなんて、ゆるせない」

 絶対はない、などと言われてしまえば、紘汰にも返す言葉がない。

「オーバーロードをさがそうとしても同じ。ドライバー開発の時みたいに、あたしたちの動きはユグドラシルにツツヌケ。“森”の中なんか特にそう。――あたしたちのせい、が、ぜんぶヘキサにふりかかる。もちろん、紘汰くんだってふくまれてる」

 ぞわ、と背筋が粟立った。無自覚の内に一歩引いていた。

 今の咲は次の瞬間にも戦極ドライバーを取り出しておかしくないくらいに殺気立っている。ヘキサと親友だと知っていたが、まさか、ここまで。

「紘汰くんは、ヘキサをキズつける人?」 
 

 
後書き
 ヘキサと紘汰を天秤にかけて咲はヘキサを選びました。

 さて。確かにヘキサは人質に取られましたが、紘汰だって晶さんを人質に取られたことがあります。その時との違いは何でしょう? 
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