リメイク版FF3・短編集
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友のために・年少編
前書き
9才~11才あたりの展開。姫は14才前後? みんながほぼ幼馴染みみたいな話。
イングズの一人称、「自分」
「 ──── スキありっ!!」
こいつ……、城に忍び込んだあげく、自分に勝負を挑みたった今負けたくせに、後ろから不意うちするとは……!
──── 自分としたことが、気づいた時には持っていた木刀を放り投げ、殴りかかって"そいつ"と取っ組み合いしてしまった。
姫さまの目の前で ──── 何たる愚行。
その後、二人して兵士長にこっぴどく叱られ、あいつは一人城から放り出された。
……自分は挑発に乗った精神的弱さを指摘され、いつも以上に厳しい鍛練を積まされる。
そうして、幾日か過ぎたある日────
「あの子……、最近お城に忍び込んでこないわね。他の二人も、時々一緒だったりするけど」
「……あいつは城をただの遊び場としか思っていません。むしろ来なくなって清々するというものです」
「でも、あなたにせっかくできた年の近いお友だちよ。大切にしなきゃ」
「そんなものは要りません。自分には、姫さまがいれば ──── 」
「……ふふっ、そう云ってくれるのはうれしいけど ─── ダメよ、わたししか心の許せる人がいないのは。あなたには、同じ男の子のお友だちが必要なのよ。城では、年の離れた兵士ばかりでしょ? あなたが裏で、厳しい扱い受けてるの、知ってるんだから………」
「 ────── 」
サラ姫とサスーン王に殊更ひいきされた、見習い兵士の小僧 ──── それは、自分のことだ。
周りがどう云おうと、自分は姫さまを守るためだけに、兵士として強くなればいい。
………この時は、そう思っていた。
「 ──── そうだ! ねぇ、今からこっちがお忍びであの子のいる村に行ってみない?」
「は……? な、何をおっしゃるんですか…!?」
「仲直りよ、なかなおり!………そうと決まったら、さっそく秘密の裏口から出ましょっ!」
「ひ、姫さま? お待ち下さい……!」
この方は、こうなると自分ではとても止められない ─────
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ウル村にやって来ると、のどかな村の様子が少し慌ただしくなっており、村入口付近では見覚えのある少年と少女が云い争っていた。
「大人も行きたがらないのに、あんた一人で行ったってどうにもならないでしょ……!?」
「じゃあこのまま黙ってあいつをみごろしにしろってのか……?!」
「 ──── どうしたの二人とも、何かあったの?」
「……え、あっ、サラ姫さま!? あなたこそ、どうしてここに……??」
「なんだよ、見習い兵士もいるじゃんか。何しにきたんだよっ」
──── いつもヘラヘラしていると思えば、今回は珍しくイライラしているらしい。相変わらず姫さまを前に、無礼なヤツだ。
「ルーネス、あなたとイングズを仲直りさせに来たの。あのまま、ケンカ別れしてほしくなかったから………」
「はぁ? 今そんなことしてる場合じゃないんだよ! アルクゥが……アルクゥが高熱病で、もう何日も熱が下がらないんだ……!!」
アルクゥ ───こいつと同じ村育ちの気弱そうな少年か。……そんなことになっていたとは。
「お医者さまによると、高熱病に効く特効薬の材料になる薄桃色の花が今不足してるらしくて………。それを取りに行こうにも、あのドラゴンの住む山の山頂にあって、今はちょうどそのドラゴンの産卵期だからって、村や町の大人たちは行こうとしてくれないの……!!」
少女が涙目ながらに訴えてくる。レフィア……、この少女はカズスの町の出で、ウル村とも近く交流もある。……心配するのも当然か。
「なんですって……! それはいけないわ、イングズ! すぐ城に戻って、兵をドラゴンの住む山へ出兵させましょうっ!」
「は、はい……!」
「そんなの待ってられるか! どうせ城の連中も尻込みして行こうとしないんだろ……! 大人になんか任してられない、おれ一人でも行く!!」
「待ってルーネス! だったらあたしも……!?」
あいつは既に駆け出して村を出てゆく。────放っておくわけにもいかないな。
「待て、レフィア。……君はここに残れ、自分があいつを追う」
「え……? イングズ、あなたまさか……!」
「姫さま、自分はあいつと共にドラゴンの住む山へ向かい、特効薬の材料となる花を見つけてまいります」
「何を云ってるの……?! 城の兵たちを待つべきよ!」
「大丈夫です。ドラゴンと相まみえてしまっても、いざという時はあいつを連れて逃げます。兵法のひとつ………、引くことも心得ています」
「だからって、あなたはまだ見習いで……!」
「城へ戻る際は、村の者を何人かお連れ下さい。ドラゴンの住む山でなければ、快く引き受けてくれましょう。───ではサラ姫さま、行ってまいります!」
「待って、イングズ……!?」
─────自分はこの時、もう振り返ることはなかった。
「 ──── なんだおまえ! 付いてくんなっ」
「………気にするな、お前は前だけ見てろ」
ドラゴンの住む山 ──── 一度訓練で訪れたことはあるが、その時は姿を見なかった。
今は産卵の時期とかでいるにはいるだろうが、たまたま巣を離れている可能性もある。
それに掛けたい所だが………。
「アルクゥ、まってろよ、もうすぐ薬の材料みっけて持ってってやるからな……!」
「薄桃色の花、だったな。山頂付近まで行かないと見つからないという………」
「わかってるっての! ドラゴンが出てきたって、へでもないぜっ」
こいつはドラゴンの恐ろしさを知らないな。自分も兵士長から話を聞いただけで、実際にまみえたことはないが ────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はぁ、はぁ………。さんちょーふきん、まだかよ……?!」
「だいぶ登ってきたはずだが、まずいな………もう日が傾き始めている」
まだ今の所、ドラゴンがいるような気配は感じられないが………。
「 ──── あっ、見ろよあれ! 薄桃色の花!!」
その希望に満ちた声に目をやると、崖すれすれに三輪まとめて風に揺られながら咲いている。………何も、あんな所に生えなくても。
「よっしゃ! 今抜き取ってやるぜ……っ」
「おい、気をつけろ。勢いあまって崖から転落でもしたら ──── 」
ふと上空から、いやな風が巻き起こる。………目をやると案の定、灰色の鱗に覆われた大きなドラゴンが ─────
「取ったぜー!!……って、うわあぁ?!」
ドラゴンの羽ばたきで巻き起こる強風のせいか、あいつが崖から落下………!
すんでの所を自分が何とか片足をつかみ留める。
──── しかし状況は悪くなるばかりだ、すぐ上にはドラゴンが強風を起こしながら自分たちを睨みきかせている。くそ、何とかしなければ………!?
──── いや、できなかった。するヒマさえ、与えられない。
ドラゴンは長い尻尾で、自分達をなぎ払い落とした。
二人もろとも、崖下へ落下してゆく ─────
《マダ……シンデハナラナイ………オマエタチニハ……ヤルベキコトガ……… 》
う……? なんだ、今の声は ────生きて、いる?? 体中の、あちこちは痛むとはいえ、あの高さから落ちて、よく生きていたものだ。
山の、ふもとの森……? かなり、暗い……。日は暮れてしまったか────そうだ、あいつは……!?
暗がりに目をこらすと、少し離れた場所で三輪の花を守るように、両手を祈るように合わせたまま、横向きに倒れている。
「おい、お前……、しっかりしろ……!」
「……うっ、ん ────」
呼びかけに反応して、微かに身じろいで意識を戻す。
──── 良かった、こいつも生きていた。小雨もぱらついてきたな………、いつまでもこんな所にはいられない。
高熱病に苦しめられている少年のためにも、一刻も早く特効薬の材料となる花を、届けなければ。
「お前……、立てるか? ムリなら自分が背負っていく」
「おれの、ことはいいよ……。はやく、この花……、アルクゥに届けてやってくれよ……。動けるおまえなら……、すぐに持ってけるだろ……。おれ、走れそうにないから────体中、めっちゃ痛いんだ……っ」
「お前一人置いてくわけにいかない。それに……、自分一人戻った所でお前の幼なじみが喜ぶはずもない。……花も自分が持とう、よこしてくれ」
半ば強引にそれを受け取った上で、有無を云わせずそっと腕をとって自分の肩に回し、背負いの姿勢をとる。
──── なるべく速く歩こうと努めるが、自分も少なからずダメージを負っているのとケガ人を背負っている手前、足早とはいかない。
………ふと、うなだれていた銀髪頭から耳元に問いかけられる。
「おまえ、さぁ……、名前、なんて云うんだっけ………」
「自分はお前に名乗った覚えはないが、姫さまから聞いていなかったか? ──── イングズだ」
「そう、だっけ……。おれって名前、教えたっけ………?」
「初めての出会いがしらに、お前から名乗っていただろう。『おれはルーネス! ウル村出身だ! おまえ、おれとジンジョーにしょおぶしろ!!』────などと云ってきたな」
「それ……、マネしてるつもりかよ……。けどおまえ……、さいしょは全然あいてしてくんなかった、よな………」
「手合わせしてみたら、と………姫さまに云われるまでは、な」
─── また少し間を置いて、銀髪頭が話し出す。
「アルクゥ、さ………おれが目をはなした隙に、村の悪ガキに連れられて、ふざけて湖に落とされたんだ……。おれが探しあてたときには、もうおぼれかけてて……。何とか引き上げて家に帰ったけど────
そのあと高熱出して寝込んじまって………。何日たっても、熱下がんなくてさ……。おれの、せいなんだ……。おれが、ちゃんとアルクゥ守ってやれなかった、から────」
「こうして姫さまの元を離れている時点で、自分も守りきれていないな………」
「 え …… ? 」
「どんなに強くなっても、常にそばにいて守り続けることなんて、できないのかもしれない。───だからって、強くなることをやめるわけにはいかないけどな」
「よく……、わかんないよ。おまえって、めんどくせ~……っ」
「ふ……、そうだな」
「おれも………強くなりたい。守れる時に、ちゃんと守れるように」
「あぁ………時々なら付き合うよ、手合わせくらいは、な」
「うん………いっしょに来てくれて、ありがとな、イングズ────」
「………! おい、ルーネス?」
眠った、のか? いや、また意識を失って……! 早く、村に戻らなければ。
だが……、ここはどの辺りなんだ。雨も少し強くなってきた………視界も悪い。このままだと────?
なんだ、向こうに、青緑色の、光が………? 思わず、吸い寄せられるようにそこへ行く。
──── 透明な、青緑色の光を放つ六角長形の石が、浮かんでいる……?
大きさはそれほどでもないが、その清らかな光に触れんばかりに近づいた────その瞬間。
雨が、やんでいた。まだ森の中だったはずなのに、いつの間にか夜空に星が瞬く平原に自分はルーネスを背負ったまま立っていた。
………そして闇夜の地平線から、幾つかの灯りがこちらに向かってやって来る──── ?
「お前たち……! 無事か?!」
サスーンの、兵士たち………?
「全く、子供だけで無茶しおって! 姫様もかなり心配しておられたぞ、さぁ戻るぞ! ……ん、背負っている子供の方は、大丈夫なのか?」
「 ──── そうだ、これを……!! この花を、高熱病で苦しんでいるウル村の少年に……! 特効薬の材料となるんです、早く……早く、届けてあげてください……!!」
「何と……?! お前たちだけで、本当にドラゴンの住む山まで行き取って来たのか! 相判った、すぐに届けさせよう!」
「よ、かった………これ、で ─────」
「お、おいイングズ、しっかりせんか……!?」
この時自分は、気を失っているルーネスを背負ったまま、前のめりにくずおれ、意識が遠のいていった ──────
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「 ──── ルーネス、イングズさん、二人ともケガしてまでぼくのために、本当にありがとう……! おかげで高熱も下がって元気になったよ!」
「もう、ほんとによかった……! アルクゥは寝込んでたし、あんたたち二人までボロボロになって帰ってきた時は、すっごく心配したんだからねっ!」
「あれくらいヘッチャラだってレフィア! ケガなんかサラ姫が白マホーで治してくれたんだしさ! ………でもなんで白マホーってケガには効くのに、アルクゥみたいな病気には効かないんだろうなっ?」
「白魔法で治せない病気というのは、それなりにあるものなの。だから、お医者さまがいるのよ」
「ふ~ん……、まぁとにかくアルクゥも治ったことだし、あのわるガキどもに仕返ししてやるかっ!」
「やめてよルーネス、そんなことしなくていいんだ。ぼくはもう、気にしてないから。二人が無茶してくれたってだけで、十分だよ……!」
「っはぁ~、アルクゥはほんと優しいやつだよなあ! ほらおまえも……、イングズもなんとか云えよっ」
「きゅ、急に話をふるなルーネス。まぁ、何と云うか………友の、ためと、いうやつだ」
「お……? なんだってイングズ、もっとハッキリ云えよ!」
「う、うるさいな。───サラ姫さま、もう城へ戻りましょう」
「あら、何云ってるの? 今日はウル村に泊まりに来たのよ」
「は? 自分は、聞いてませんが………」
「いーじゃん! アルクゥも元気になったんだしさ? "友だち"なら、泊まってけよっ!」
「 ──── いいだろう、だが姫さまに指一本でも触れたら承知しないからな」
その数年後 ───── 自分たちが………私達があのような旅に出る事になるとはこの時、思いも寄らなかった。
END
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