FAIRY TAIL 友と恋の奇跡
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第179話 “想いの力”と“固い絆”
前書き
紺碧の海です!
今回は大魔闘演舞3日目のバトルパート最終試合の最中、高速の弾丸の魔道士、レガフに聖剣で刺されてしまったリョウ。果たして、リョウの運命は・・・!?
ナレーション風に書いていきます。
それでは、第179話・・・スタート!
会場のど真ん中には、不気味な笑みを浮かべて聖剣、『花錦剣』を握っているレガフと、目を見開き、体が小刻みに震えているリョウがいた。2人の足元には、リョウの腹部から滴り落ちる真っ赤な鮮血の水溜りが広がっていた。
観11「キャーーーーーッ!」
観12「せ・・聖十のリョウが・・・さ、刺されたあぁああぁぁあああぁあああああ!!」
観13「高速の弾丸の奴等は人殺しだぁーーーーーっ!!!」
観14「に・・にに、逃げろおおぉぉぉおぉおぉおおおおおっ!!!」
会場を埋め尽くしていた観客達は1人の観客の声と共に悲鳴を上げながら会場を一目散に飛び出した。会場は思いもよらぬ惨劇を招いてしまった。
そんな中、レガフがリョウの腹部から聖剣、『花錦剣』を乱暴に抜き取った。『花錦剣』の銀色の刃に付着したリョウの真っ赤な鮮血が太陽の光に反射して不気味な色に輝く。
リョウの体はぐらりと揺れ、力なくドサッと音を立てて真っ赤な鮮血の水溜りの上に倒れ込んだ。鮮血の水溜りの面積が更に拡大する。
ナ&マ&フ「リョウ!!!」
ウェ「ひっ・・ひぃっ・・・!」
ト「ぁ・・ぁぁ、ぁ・・・!」
エル「・・・・・」
ナツとマヤとフレイは叫び、ウェンディは目に大粒の涙を溜め目の前の光景から目を逸らし、トーヤは紫色の瞳を大きく見開き、小さな体を震わせた。エルフマンは目を見開き、歯を食いしばっている。
ル「いやぁあぁぁあああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」
ルーシィは涙を流しながら、再び悲痛な叫び声を上げる。
主1「し、試合は中止だっ!今すぐ試合を中止させろぉっ!!」
主催者側により、像の上にいる男が慌てた様子で銅鑼をゴォォォォォン!!と力強く叩いた。
チャ「こ・・ここで、レ、レフリーストップ!し、試合は、中断、されまし、たっ!」
チャパティ・ローラの声も歯切れが悪く、戸惑っているのが丸見えだ。
主2「早く聖十のリョウの救護しろっ!」
主3「だ、だが!会場には屈折壁が・・・!」
そう。
今、この会場には観客席を覆うように屈折壁が張り巡らされている。
そして、この屈折壁は―――――
―――――30分経たないと解除されない。
つまり、リョウを助ける事も、レガフを取り押さえる事も出来ないという訳だ。
ラ「そんな・・・!部隊も会場に入る事が出来ないのかっ!?」
ラハールは驚嘆の声を上げ、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。その隣でヤジマは腕組をし、小さく呟いた。
ヤ「なんて、不幸な運命なんだ・・・」
妖精の尻尾の待機場所では、さっきからナツが炎を纏った固く握り締めた拳でドガッ!ガコッ!と何度も何度も屈折壁を殴っていた。
ナ「くっそォ!何で壊れねぇんだよコレっ!!」
マ「ドランの拳でも壊れないって、いかれてるんじゃないのコレっ!?」
その隣で大熊のドランを呼び出したマヤが愚痴を吐いていた。
マヤが契約してる動物の中で一番の怪力を誇るドランも、さっきからナツと同じように大きな拳でバゴッ!ドゴッ!と何度も何度も屈折壁を殴っていた。
マ「ドラン!最大パワーでそんな壁、壊しちゃえぇっ!」
ド「グオォォオオォオオオオオッ!!」
エル「漢には、壊せない壁などないんじゃいっ!!」
その隣で右腕を鉄牛の腕に変えたエルフマンも、さっきからナツとドランと同じように鉄牛の握り締めた拳でガゴンッ!ドガンッ!と何度も何度も屈折壁を殴っていた。
が、屈折壁ビクともせず、亀裂1つ一切入らないのだ。
フ「どんだけ頑丈に作られてんだよ、コレ・・・」
フレイが憎たらしそうに愚痴を吐き捨てると、ガンッ!と鈍い音を立てて屈折壁を殴った。屈折壁は少し振動しただけだった。
フ「それに、こんな非常事態の時に、グレイ達はドコに行ったんだよっ!?会場の外に出てさえいなければ、この非常事態にも気づいてるはずだろっ!?何で戻って来ねぇんだよっ!!」
リョウとレガフの試合が始まる前から行方が分からなくなっているグレイ、エルザ、ユモ、ショールの4人。
4人が一体ドコへ行ったのか―――――?それを知る者は、リョウただ1人―――――。
ル「・・・・・」
ルーシィは涙を拭い、ずっと俯いたままだった。
ウェ「ルーシィさん、大丈夫ですか?」
そんなルーシィの顔を、心配そうな顔をしたウェンディとトーヤが左右から覗き込む。
ル「あ、うん。・・・大丈夫だよ。」
ルーシィは慌てて顔を上げて笑う。が、その笑みは見事に引き攣っていた。
ト「やっぱり、心配ですよね。リョウさんの事・・・」
トーヤの声は後半の方から聞き取るのが難しいほど小さかった。
ウェ「グレイさんとエルザさん、ユモさんとショールさんはどこかへ行ったっきり、戻って来ませんし・・・」
ト「屈折壁のせいで、誰も会場に、足を踏み入れる事が出来ない。このままじゃ・・・」
今度はウェンディとトーヤが俯いた。その2人の頭に、ルーシィは優しく手を置いた。ウェンディとトーヤはゆっくりと顔を上げる。
ル「大丈夫、リョウは絶対に死なない。リョウは、自分が死んだら、誰が一番悲しむか、分かっているから。」
誰が一番悲しむか―――その答えは、彼女であるルーシィはもちろん、妖精の尻尾の仲間達、今まで関わりを持って来た大勢の人々だ。
ル「リョウは、私達を置いて、1人で先に死ぬはずがないもの。絶対にね。」
ルーシィは薄く微笑んだ。
ル「それと、グレイ達が戻って来ない理由・・・もしかしたら、リョウに何か言われたんじゃないかな?」
ウェ&ト「え?」
ルーシィの言葉にウェンディとトーヤは首を傾げる。
ル「勘が鋭いグレイ、ギルド内ではまとめ役のエルザ、しっかり者のユモ、頭が良いキレ者のショール。この4人に、リョウが試合が始まる前に何かを言った・・・ううん、“何かを頼んだ”のなら、グレイ達は今、そのリョウに“頼まれた何か”をやっている最中なんじゃないかな?この会場のどこかで。」
レガフは妖精の尻尾の待機場所を見つめていた。そこには屈折壁を壊そうとしているナツとエルフマン、大熊がいた。
レ「おーい!そこの妖精のケツ共~!もしその屈折壁を壊して、こっちに来るような真似をしたら―――――」
そう言いながらレガフは倒れているリョウに歩み寄り、乱暴にリョウの腕を掴み、自分の方にリョウのぐったりとした体を引き寄せると、
レ「コイツの首を、スパァン!って切り飛ばすからな。」
リョウの首に聖剣、『竜風剣』の刃先を突きつけた。
因みに『竜風剣』は、聖剣の中で2番目に強い聖剣だ。
ナ「んだとぉ~・・・!」
マ「ド、ドラン、ストップ!」
エル「ぬううぅぅぅ~・・・!」
ナツは自身の吊り目を更に吊り上がらせ、マヤは慌ててドランを止め、エルフマンは接収を解除しながら、悔しさに拳を握り締める。
レ「まっ、俺的にはさっさとコイツを殺して、コイツの持ってる3本の聖剣を頂きたいんだけどな。」
レガフがリョウの腰にある3本聖剣、『銀覇剣』、『天力剣』、『嵐真剣』を赤い瞳で羨ましそうに見つめる。
レ「コイツの聖剣を頂けば、残りは聖剣の中でも最強の聖剣だけだ。俺はこの世界で、最強の魔道士になれる事だ出来るんだァッ!!」
これが高速の弾丸の魔道士、レガフ・リョニッタの野望だ。
ル「・・そんな・・・そんな野望の、為だけに・・命を・・・ユリの命を、奪ったって言うの・・・!?」
ルーシィが青い顔をして小さく呟いた。ルーシィの脳裏には微笑むユリの姿が浮かんでいた。
高い位置でポニーテールに束ねた若葉色の髪の毛を揺らし、茶色い吊り目を少し細め、小さく微笑むユリの姿を―――――。
ルーシィの頬を涙が一筋伝った―――――その時だった。
エ「お前のその下らない野望のせいで、私達の仲間の命が消えるのならば・・・」
レ「!!?」
燐とした声が会場に響いた。
レガフは声のした方に視線を向ける。その視線の先には、少女の緋色の髪の毛が風で揺れていた。少女が持っている銀色の剣の刃が太陽の光に反射してキラリと光る。
グ「お前の命で、償ってもらうからな。」
ナ「お前等・・・」
淡々とした声が会場に響いた。
ナツは声のした方に視線を向ける。その視線の先には、少年の紺色の髪の毛が風で揺れていた。少年の右手には冷気が纏わり付いていた。
ユ「でも、あなたとあなたの仲間は、何年も多くの命を奪い続けてきた。」
マ「抜け駆け、ずるいよ・・・」
透き通った声が会場に響いた。
マヤは声のした方に視線を向ける。その視線の先には、少女の横で束ねた水色の髪の毛が風で揺れていた。少女の左手には氷の剣が握られていた。
ショ「その償いとして、お前等全員、重い罰を受ける事になる。覚悟しとけ。」
ル「やっぱり・・・」
冷静を保った声が会場に響いた。
ルーシィは声のした方に視線を向ける。その視線の先には、少年の黒髪が風で揺れていた。少年の両手には白い光が煌々と輝いていた。
レガフがいない高速の弾丸の待機場所に、行方が分からなくなっていた4人の妖精の尻尾の魔道士、グレイ、エルザ、ユモ、ショールが高速の弾丸の魔道士達を取り押さえていた。
エルザとユモはガンオースとハビノの首に剣の刃を突きつけており、グレイとショールはライネドとリーキアズー顔の前で冷気と白い光を纏った拳を突きつけていた。
レ「ガンオースさん!ハビノ!ライネド!リーキアズー!」
レガフがリョウの首に『竜風剣』を突きつけたまま叫んだ。
リョウが一瞬だけ、小さく微笑んだように見えたのは気のせいだろうか―――――?
ガ「き・・貴様等・・・いつの間に・・・・!?」
エルザに首元に剣を突きつけられているガンオースが口を開いた。
エ「リョウとレガフの試合が始まって少しした後からだ。」
ライ「そ・・そんな前から、いたのかよ・・・!?」
グ「俺達はリョウに言われた通りに行動しただけだ。」
ハビ「聖十の、リョウが・・・」
ユ「リョウもよく、こんな無茶な作戦、考えたよね。」
リ「作戦・・・?」
ショ「俺でも全く考え付かない作戦を、あいつは俺達に実行させた。」
時は少し遡り、第4試合が終わった後の事だ。
リョウはグレイ、エルザ、ユモ、ショールを呼び出し、暗い通路で死者の仮面の魔道士達について語りだした。
リョ「死者の仮面の奴等は、20年以上も逃げ続けている闇ギルド、高速の弾丸の魔道士の連中だ。」
唐突に言われた時、4人はリョウが言ってる事にすぐには理解出来なかった。が、徐々に4人の目は見開かれていく。
ショ「う・・嘘、じゃない、よな・・・?」
嘘が嫌いなショールが問う。が、ショールの体は小刻みに震えていた。
リョ「本当だ。」
リョウが吐き捨てるように短く答えた。
エ「な、なぜ死者の仮面の奴等が高速の弾丸の魔道士達だと分かる?昨日の夜、『蜂の骨』でルーシィが持って来た、先週の週刊ソーサラーに載っていた高速の弾丸の魔道士達の顔写真と、死者の仮面の魔道士達は、見るからに全然違うと思うが・・・」
エルザの言うとおりである。だが、この問いにもリョウは答える事が出来た。
リョ「死者の仮面の奴等が着けているあの“仮面”・・・あれを外すと、奴等は週刊ソーサラーの顔写真の高速の弾丸の連中になる。恐らくあの“仮面”は、着けると自分の容姿が変化する容姿替の仮面バージョンだ。」
容姿替とは、闇市でよく売られている魔法道具だ。
リョウの的確な答えにエルザは何も反論する事が出来なかった。
リョ「それに、アイツ等の“名前”。例えば、死者の仮面の魔道士の1人、リノ・ハビュットの名前の文字を並べ替えると・・・高速の弾丸の魔道士の1人、ハビノ・リュットになるだろ?同じように死者の仮面の魔道士全員の名前の文字を並べ替えると・・・全員高速の弾丸の魔道士の名前になるんだ。」
オーガンス→ガンオース
リノ・ハビュット→ハビノ・リュット
レッタ・リガニョフ→レガフ・リョニッタ
コネティ・ラドゥ→ライネド・テコウ
アーキリーズ→リーキアズー
リョウが言ったとおり、死者の仮面の魔道士達の名前の文字を並べ替えると、高速の弾丸の魔道士達の名前と見事に一致する。
1人だけならただの偶然と思えるかもしれない。だが、全員の名前が見事に一致した。偶然だとしても、出来過ぎた話だ。
リョ「高速の弾丸がなぜ妖精の尻尾に復讐しようとしてる理由は分からねェけど、1つだけ、確実に分かった事がある。」
リョウは一旦話を区切る。
4人は気づいた。
リョウの体が、小刻みに震えているのを―――――。
この事から、今から話す事はただ事ではない事を4人には悟る事が出来た。
リョ「幸福の花の、ユリの、事は覚えて、るよな?」
リョウが口を開いた。
その声が妙に歯切れが悪い事に4人は気づいたが何も言わなかった。
グ「あぁ。お前とルーシィが戦った相手だよな?」
ユ「確か、リョウと同じ聖剣使いの1人で、契約してる聖剣は『花錦剣』。」
ショ「大魔闘演舞には出場してないし、姿が見えないけど・・・」
エ「ユリが、どうかしたのか?」
リョ「殺されたんだ、2,3ヶ月前に・・・」
グ&エ&ユ&ショ「!!?」
リョウの口から放たれた言葉に、4人は目を見開いたり、顔を青ざめたり、口元に手を当てたりした。
“殺された”
リョウの口から放たれたとは思えない言葉に、4人は声にならない驚嘆の声を漏らす事しか出来なかった。
リョ「そのユリを殺したのが・・・死者の仮面ではレッタ・リガニョフと名乗っている、高速の弾丸の魔道士、聖剣使いのレガフ・リョニッタだ。」
グ&エ&ユ&ショ「!!!」
4人は再び声にならない驚嘆の声を漏らした。
ユリを殺された事でも驚きなのに、殺したのが高速の弾丸の魔道士だったなんて・・・しかも―――――、
聖剣使い―――――。
リョウの頬を一筋の涙が伝った。
リョ「ユリは、自分と同じ・・・いや、『闇』の聖剣使いに、命を奪われたんだっ!『闇』の聖剣使いが、『光』の聖剣使いの命を奪ったんだァっ!!」
暗い通路に、リョウの悲痛な叫びが木霊した。
リョ「レッタ・・・いや、レガフの目的は、世界に7本ある聖剣を集める事だ。それを成し遂げる為に、アイツは人の命を奪ってまで、聖剣を手に入れようとしてるんだ。・・・俺は3日目の最終試合で、レガフと戦う事になっている。」
グ「んなっ!?」
ショ「そ、それって・・・!」
ユ「まさか・・・!」
グレイ、ショール、ユモの順で驚嘆の声を上げた。
エ「レガフがリョウを殺して、聖剣を手に入れようとする、そう言いたいんだな?」
エルザだけは冷静に、今までの話の結論を述べた。その言葉に、リョウは黙って頷いた。
5人の間に気まずい空気が流れ込む。その場にいる全員が今、俯いた状態のままだ。
仲間が殺される―――――。
その現実を誰よりも早く知ってしまった4人は、どうしたらいいのか分からなくなっていた。
リョ「安心しろ。」
そんな矢先、リョウが言った。その声に4人は同時に顔を上げた。そこにいるのは、さっきまで暗い表情をしていたリョウではなく、いつものリョウがいた。
リョ「俺はぜってェに死なねェよ。お前等やルーシィ、ギルドの皆を置いて先に、死ねる訳ねェだろ。俺はユリの仇をとる為、レガフを倒して、レガフと契約してる聖剣達を救う為に、死ぬ事は許されねェんだ。」
真剣な眼差しを4人に向けて、リョウは言う。
リョ「それに―――――」
そう言うと、リョウは近くにいたグレイとショールの腕を掴んだ。
グ「おわっ!」
ショ「えぇっ!?」
いきなり腕を掴まれたグレイとショールはバランスを崩し、そのバランスを保とうとする為に、グレイとショールは自分の隣にいたユモとエルザの腕を掴んだ。
ユ「ひゃあっ!」
エ「うわっ!」
いきなり腕を掴まれたユモとエルザも巻き沿いを食らい、いつの間にか5人は肩を組み合っていた。
リョ「俺はまだ、生き足りねェ。18で人生が終わるのって、いくらなんでもむなしいだろ?共に生きる仲間と共に、その仲間の為に、俺は生き続けるぜ。」
白い歯を見せてリョウが笑った。
リョウの笑顔を見て、4人は今までリョウが言った言葉を思い出しながら同じ事を思った。
―――――如何にも、リョウらしいな、と。
リョ「それで、お前等4人に頼みたい事があるんだ。」
グレイとショールの肩から手を離す。さっきまでの笑顔はどこへやら。リョウが再び暗い表情になって口を開いた。
リョ「最終試合の時、タイミングを見計らって、レガフ以外の高速の弾丸の奴等を取り押さえてくれ。」
そして現在に至る。
リョウの頼みを承知した4人は今、待機場所にいたレガフ以外の高速の弾丸の魔道士達を取り押さえる事に成功したのだ。
だが―――――、
ガ「俺達を誰だと思っている。」
エ「えっ?」
ガンオースが小さく呟いた言葉を聞き取れなかったエルザが聞き返そうとしたが、それより先にガンオースは行動し始める。
ガ「ライネド!」
ラ「おらぁあっ!」
グ「ぐぉあっ!」
ガンオースに名を呼ばれたライネドはグレイの顔面を思いっきり殴った。無防備だったグレイは何も出来ずに待機場所の端へと吹っ飛ぶ。
ライネドはその隙にどこからか指揮棒を取り出し、指揮棒を小刻みに揺らすと、
ラ「苦しめ。」
そう呟いた。すると、
エ「ゥ・・グァア・・・!」
グ「ァァ・・ツァア・・・・!」
ユ「ゥグ・・・!ゥアァ・・・!」
ショ「ヵハ・・・!グォアァ!」
エルザとユモは剣を手放し、頭を強く押さえ、グレイとショールは苦しそうに首を掴んだ。
エルザの手から落ちた剣はカランと音を立てて落ち、ユモの手から落ちた氷の剣はパキィン!と音を立てて粉々に砕け散った。
ウェ「グレイさん!エルザさん!」
ト「ユモさん!ショールさん!」
エル「アイツ、グレイ達の感覚を操ってるのかっ!?」
ウェンディとトーヤが叫び、エルフマンが思い出したように叫んだ。
コネティと名乗っていたライネドの魔法は指揮であり、指揮棒を揺らす事でライネドは『人間の感覚』を指示する事が出来る。
ショ「グゥ・・お、お前・・・ゥア・・ま、また・・・グアァアッ!」
ラ「イヒヒ。お前、また俺に指示されに来たのか。イヒヒ、命知らずな奴だな。」
ショールは『浮上板』の時も同じ事をされていた。
ショールを見てライネドはコネティの時と変わらない特徴的な笑い方をすると、指揮棒を小刻みに揺らした。
ラ「更に苦しめ。」
その指示通り、
エ「ウアァアァァアアアッ!」
グ「グオォアアァアアァァアアアッ!」
ユ「アアアアアアアアアアアッ!」
ショ「イギィイィィイイイイイッ!」
4人は呻きながら更に苦しみ始める。
ナ「止めろおおぉおぉぉおおおおおおおおおおっ!!」
待機場所からナツが叫ぶ。が、高速の弾丸の魔道士達はその叫びがまるで聞こえないかのように何も反応しない。
ガ「命知らずの妖精共だ。ライネド、指示するのを止めるなよ。」
ラ「分かってますよ、イヒヒ。」
ライネドは目を細めて不気味に笑った。
ガ「お前達、もっとこっちに近づけ。」
ガンオースはハビノ、ライネド、リーキアズーを自分の方に引き寄せると、3人を包み込むように黒いマントをひるがえした。
ガ「瞬間移動。」
ガンオースが呟くと、待機場所には地面に膝を着き、必死に苦しみに耐えるグレイ、エルザ、ユモ、ショールだけがいた。高速の弾丸の魔道士達の姿は、ほんの一瞬で大魔闘演舞の会場に移動していた。
フ「瞬間移動だとっ!?」
マ「ずる~いっ!」
フレイが未だ壊れない屈折壁に額と手を当てて会場にいる高速の弾丸の魔道士達の姿を見て驚嘆の声を上げる。その隣でマヤが頬を膨らます。
レ「ガンオースさん、皆、無事かっ!?」
レガフがリョウの首に『竜風剣』を突きつけたままガンオース達に駆け寄る。
リ「あんくらいの事で怪我なんかするかよ。」
ハビ「ライネド、ほら。」
ラ「分かってるよ、イヒヒ。」
ライネドは指揮棒を小刻みに揺らすと、
ラ「傷つけ。」
その指示通り、
エ「グハッ!」
グ「ガッ!」
ユ「キャア!」
ショ「ウガッ!」
4人の体は傷つき血が噴出す。
ル「もう止めてっ!お願いだからっ!!」
ルーシィが会場に向かって叫んだ。その叫びにライネドが反応した。
ラ「うるさい小娘だな。指示してやるか、イヒヒ。」
不気味に笑い、指揮棒をグレイ達からルーシィに向け、小刻みに揺らそうとしたその時―――――、
リョ「止めろ。」
レ「ぐはぁっ!」
ガンオース達が驚いて振り返ると、後ろにいたレガフが無様に顎を蹴り飛ばさされていた。レガフの顎を蹴ったのは、
ガ「リョウ・・ジェノロ・・・」
ガンオースは目を見開いた。
レガフが聖剣、『花錦剣』で腹部を貫き、さっきまでぐったりとしていたリョウがそのレガフを蹴り飛ばしたのだ。
レガフを蹴り飛ばした後、真っ先にライネドに近寄り、ライネドが持っている指揮棒を蹴り飛ばした。一瞬の事だったので、ライネドは何も出来ずにいた。
指揮棒がライネドの手から離れた事により、
エ「ハァ・・ハァ、ハァ・・・」
グ「ハァ、ハァ・・お、おい・・無事、か・・・?」
ユ「ハァ・・ハァ・・・ハァ、ハァ・・・」
ショ「ハァ・・・な、何とか・・・ハァ・・ハァ・・・」
指示されていたグレイ、エルザ、ユモ、ショールは解放された。
それを確認したリョウは、
リョ「来いぃぃい!!お前等ァァアアァアアアッ!!!」
腰から『銀覇剣』を鞘から抜きながら力任せに叫んだ。
ナ「おう!」
マ「今行くよぉ~!」
エル「漢ーーーッ!!」
ナツとマヤとエルフマンが皆の分まとめて返事を返す。
ウェ「ルーシィさん!」
ト「僕達も!」
フ「行こうぜっ!」
ウェンディ、トーヤ、フレイがルーシィに手を差し伸べる。
ル「うん!」
ルーシィは大きく頷くと、金色の鍵を1本手に取る。
ル「開け!金牛宮の扉、タウロス!!」
タ「MO-----!!」
巨大な斧を振り回しながらタウロスが姿を現した。
ト「我と、心を通わせ、姿を現せ!出て来い!死神!」
紫色の魔法陣から死神が姿を現した。
エ「私達も行くぞっ!」
傷だらけながらも、立ち上がったエルザが天輪の鎧に換装しながら言う。
ユ「この体で、何が出来るか分からないけど・・・!」
グ「いっちょ暴れてやっか!」
ユモとグレイが冷気を放出させる。
ショ「ほどほどにな。」
苦笑いをしながらショールは拳に雷を纏った。
妖精の尻尾の応援席で、その様子を見つめていた妖精の尻尾初代マスター、メイビスと妖精の尻尾6代目マスター、マカロフが呟いた。
メ「彼等の“想いの力”と“固い絆”は本物ですね、6代目。」
マカ「えぇ。ガキ共に素晴らしい物を、見せてくれましたわい。」
ナ「いっくぞおぉおぉぉおおおおおおおおおおっ!!!」
ナツが両手に炎を纏ったのを合図に、全員が飛び出した。そして―――――、
ナ「火竜の・・・煌炎ッ!!」
マ「ドラン!いっけぇーーーーーっ!!」
ド「グオォオォォオオオオオオオオオオッ!!」
フ「ファイアメイク、弓矢ッ!!」
ル「いっけぇーーーっ!!」
タ「MO----------!!」
グ&ユ「氷雪砲ッ!!」
エ「天輪・三位の剣ッ!!」
ショ「雷撃弾!!」
ウェ「天竜の・・・咆哮ッ!!」
ト「死神、呪霊殺!!」
死「ギリィイィィイイイッ!!」
エル「ぬおおぉらああぁあぁぁあああああっ!!」
同時に2つの場所でバキィィィン!と凄まじい音が鳴り響いた。屈折壁が破壊されたのだ。
主4「屈折壁が壊れたっ!」
主5「何て破壊力なんだっ!」
主催者達は驚嘆の声を上げた。
主催者達は間違った事を言っている。妖精の尻尾の魔道士達は“破壊力”で屈折壁を壊したのではない。
“想いの力”と“固い絆”で、屈折壁を破壊したのだ。
屈折壁が壊れた瞬間、リョウが小さく呟いた。
リョ「流石、俺の仲間だ。」
と。
ナ「だりゃあぁあっ!!」
リ「ぐほっ!」
ナツがリーキアズーを殴り飛ばし、
マ&ユ「てえぇぇえぇええいっ!!」
ハビ「キャアァアアッ!」
マヤとユモが息の合ったコンビネーションでハビノを蹴り飛ばし、
エル「漢ーーーーっ!」
ラ「ぐぉはっ!」
エルフマンが叫びながらライネドを殴り飛ばし、
エ「はああああああああああっ!」
ガ「うっ・・ぐあぁあぁぁあああっ!!」
エルザがガンオースを斬りつけた。
高速の弾丸は次々にやられていった。残るはレガフ、ただ1人。
当の本人レガフは妖精の尻尾の魔道士達に圧倒され、その場にへなへなぁ~と膝を着いて座り込み唖然としていた。
レ「(コ・・コイツ等、只者じゃねぇ・・・!妖精に化けた、化け物だ・・・!)」
目の前にいる化け物を見て、レガフの顔色は徐々に青ざめていった。その時―――――、
リョ「おい。」
背後から鋭く尖った矢のように降ってきた声にレガフは体を震わせた。振り向かなくても、背後から感じる怒りのオーラにレガフは歯をガチガチ鳴らす事しか出来なかった。が、覚悟を決めてゆっくりと振り返る。
レ「!!!」
レガフを息を呑んだ。
背後にいたのは両手に『銀覇剣』、『天力剣』を持ち、口に『嵐真剣』を銜えたリョウだった。リョウの茶色い瞳は鋭い光が宿っており、「裁き」の言葉しか映っていなかった。
リョ「お前は、聖剣使いの名を汚した。」
リョウの淡々とした声が会場に響き渡る。
リョ「聖剣で多くの命を奪い、多くの人間を悲しませてきた。お前は正真正銘の、『闇』の聖剣使いだ。」
リョウの怒りのオーラがさっきよりも濃くなったのをレガフは感じた。
リョ「俺の命、聖剣が欲しければいくらでもくれてやる。だが―――俺の大切な仲間を傷つけ、悲しませた事だけは、ぜってェに許す事が出来ねェ。お前も、お前の仲間もな。」
リョウが『銀覇剣』と『天力剣』を持った両手を構えた。『銀覇剣』が銀色の光り輝き、『天力剣』が淡い水色に光り輝き、『嵐真剣』が青く光り輝いた。
リョ「お前にはもう、聖剣を持つ資格はねェ。今まで犯してきた罪を償い、その誠心を改めろォッ!!」
レガフに『銀覇剣』と『天力剣』を振りかざした。
リョ「銀天嵐切ッ!!!」
レ「グアアァアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
リョウがレガフを斬りつけた。
その様子を見ていたヤジマが呟いた。
ヤ「聖なる剣を持つ『光』の剣士・・・まさしく聖剣士だねぇ。」
レガフがやられたのと同時に、観客席を覆っていた屈折壁が消え、王国の軍隊数名とラハールが仕切る第4検束部隊が入って来た。
軍1「さぁ立て。」
リ「放せっ!」
ハビ「触るな。」
軍2「おい、大人しくしろ。」
ラ「くそっ!」
レ「チッ。」
リーキアズー、ハビノ、ライネド、レガフは少々抵抗しながらも軍隊と部隊の者と一緒に会場を出て行った。2人の軍隊に連れられたガンオースとエルザの目が合った。
ガ「(これでただで済むと思うなよ。覚えてろ!)」
ガンオースの目が明らかにそう言ってるのがエルザには分かった。
グ「一件落着だな。」
ト「何か、すごく疲れました。」
フ「今日はしっかり休まねぇとな。」
マ「だねぇ~♪」
エル「漢はしっかり休むのも大切じゃい。」
妖精の尻尾の魔道士達にドッと疲れが押し寄せて来た。
リョウは幸福の花の観客席に視線を移す。スミレとサクラは大粒の嬉し涙を流し、ナデシコは2人の頭を撫でながら自分を嬉し涙を流していた。パンジーはツツジのお腹に抱きついて大声を上げて泣き喚いていた。ツツジとハマナスはパンジーの頭を撫でながら嬉しそうに微笑んでいた。
すると、幸福の花のギルドマスターであり、ナデシコ達5人姉妹の母親であるアカネと目が合った。アカネの瞳からも大粒の嬉し涙が流れていた。アカネはリョウと目が合うとリョウに向かって深く頭を下げた。それに対しリョウは小さく微笑み返しアカネに背を向けた。
その直後、リョウの視界がぐらりと大きく傾いた。
リョ「(ヤ・・ヤベ・・・)」
止血も一切していない傷口の影響が襲い掛かってきた。視界がぐらつき、霞み始める。呼吸するのも苦しくなり始める。
ユ「リョウ!?」
エ「そうだ。リョウは怪我を・・・!」
ショ「ウェンディ!治癒魔法を頼む!」
ウェ「はい!」
ナ「おいリョウ!しっかりしろっ!」
リョウの異変に気づいた仲間達が駆けつけて来る。
シェ「ウェンディ!私も手伝うよ!」
リオ「シェリア!?」
蛇姫の鱗の魔道士であり、天空の滅神魔道士のシェリアが待機場所から飛び降りたのが霞んだ視界の中で見えた。
マカ「ロメオ!ポーリュシカを会場に行かせるんじゃっ!急げェェ!」
ロ「分かった!」
妖精の尻尾の応援席からマカロフとロメオの声が意識が遠のく中で聞こえた。
足元がふらつき、まともに立っている事さえ出来なくなってきたリョウの霞んだ視界の中に、一際目立つ金髪が飛び込んで来た。それがだんだん近づいて来る。
ル「リョオオオオオ!」
茶色い瞳に大粒の涙を溜め、自分の名を叫ぶ愛する少女、ルーシィだった。リョウはルーシィの方に顔を向け、引き攣りながらも、精一杯の力を振り絞り笑みを浮かべると―――――、
リョ「ルー・・・シィ・・・・」
愛する少女、“ルーシィ”の名を口にした。
それと同時に、リョウのボロボロになった体はドサッと音を立てて地面に倒れ、リョウの意識もそれと同時に完全に途切れた。
大魔闘演舞3日目がゆっくりと幕を閉じた。
後書き
第179話終了致しました!
勝った!高速の弾丸に勝ちましたよぉ~!だがしかし、リョウが大変な事になってしまった!ど、どどど、どうしよぉ~!?
リョウの異名発覚!『聖剣士』、考えてくれた緋色の空さん、ありがとうございました!
次回は大魔闘演舞3日目が終わった直後の出来事をお送りします。
それでは、また次回です!
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