リメイク版FF3・短編集
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
ミニマム・改
「ハハハ、2本の角は貰ったー! この角は[氷の角]、炎を退け火のクリスタルへの道を開くのだ!これであの力は俺さまの物よ……!!」
「このやろっ、そうはいくか!?」
盗賊グツコーに直ぐ様踏み込んで倒そうとするルーネスだが、相手の方が一瞬速くこちらに魔法を放ち、みるみる身体が小さくなる。
「わっ、<ミニマム>かよ…?!」
「ワハハ、只のミニマムじゃないぞ! 俺さまとっときの<ミニマム・改>だ! 連発できないのがネックだがな……。さらばだー!!」
「ちょ、待ちなさ……! なんて逃げ足の速さなの?!」
呆気に取られるレフィア。
「ふむ……、一度やられた振りをして"影"となり、我々の後を付けるとはやるな、あの盗賊」
「イングズ、感心してる場合かよ! おまえでもアルクゥでもいいから、早く白魔法のミニマムでおれを元に戻してくれよっ」
いつもより明るいキーキー声を上げるルーネスに、アルクゥが応じる。
「分かった、僕がやるよ。───えい!…あれ? <ミニマム>!………あれれ??」
「おい、どうしたんだよアルクゥ! おまえ白魔道師だろ? MP不足かよっ」
「ちゃ、ちゃんと白魔法掛けてるってば! おっかしいなぁ……?」
「イングズ、赤魔道師だからミニマム使えるでしょ? あなたがやってあげたら?」
ジョブはモンクの、見兼ねたレフィアが云う。
「………仕方ないな 」
────しかし、一向にルーネスは手のひらサイズのまま元に戻らない。
「アルクゥ、イングズ! おまえら……、おれに恨みでもあんのかっ?」
「違うってば! 白魔法はちゃんと唱えたよ、ねぇイングズ?」
「あぁ……、妙だな。そういえばあの盗賊、<ミニマム・改>だの云っていたが………?」
「ならこれよ! アイテムの[うちでのこづち]!! あたしがこれであんたを叩き治してやるわっ?」
「お、おいレフィア……、あんま強くやらないでくれよ……!?」
バアァンッ─────
「どうよ、これであんたも元通り………じゃないっ?!」
どや顔のレフィアだったが、当のルーネスは小さいまま俯せでペシャンコになっている。
「あ゙ー! しんじゃだめだよルーネス!? ケアルラ!!」
────ドワーフ達からはがっかりホーだの、ツメが甘くてダメダメホーだの云われ、散々な4人だがとりあえず宿屋に入る。
「う~ん?? 何が、起きたんだ……? うおぉ!? みんなしてでけぇ?!」
「よかった~、気が付いたね。僕の回復魔法は効いたみたいだ……!」
ルーネスが目覚めると、いつになく広々としたベットと心配そうに自分を見つめる、異様に大きく見える三人の仲間の顔に驚かされる。
「ごっめ~んルーネス、小人状態治ると思ったのに[うちでのこづち]でやりすぎたわっ……!」
謝るレフィアだが、どこか悪びれた様子がない。
「……てかおれ、何で小人から戻れないんだ?? これまでだって何度か小人にならないと入れない場所とかあったけど、同じミニマムの魔法使えばすぐ元に戻れたのにさ!」
「あの盗賊が使ったのは<ミニマム・改>……。恐らく、いつものやり方では治せないんだろう。───そういった場合、魔法をもたらした本人を倒せば大概済む話だ」
至って冷静なイングズ。
「な、ならすぐヤツを見っけて倒さないと…!って、どこいるんだっけ?!」
「落ち着きなよ、ドワーフの洞窟から北に炎の洞窟があって、そこに火のクリスタルがあるらしいからあいつはそこにいるはずだよ!」
アルクゥがそう教えてくれる。
「 ───待ちなさいよ、あんた小人のまま戦うつもり? 知ってるわよね、その状態だと今"戦士"のあんたは全く相手にダメージ与えられないのよ。黒魔法とかなら話は別だけど……、あんたってば面倒くさがって魔法系のジョブになろうとしないじゃない!」
「小人になり魔物の巣食う場所を通る際、お前はいつもシーフになって<とんずら>ばかりしていた程だからな」
「 ゔ……っ 」
耳の痛い事をレフィアとイングズから指摘されるルーネス。
「今からでも黒魔になって、少しでも熟練度上げれば対抗できるんじゃないかな?」
「え~、マジで~、メンド~だなー」
「………ならお前1人ここに置いて行くまでだ。小人状態でのダメージは厳しい、お前は足手まといだ」
「 うはっ、きっつ?! 」
「イングズの云う通りね、置いてかれるのが嫌なら黒魔になる事よ!」
「いてっ、突っつくなよレフィア……?!」
「うふふ、こうして見ると以外とかわいいわね……! つんつん」
「ちょ、やめっ、どこつついてんだよ…!?」
「あ、僕もやらせて……!」
「アルクゥまで?! イングズ、この二人止めてくれ~~っ」
「 ────知らん。勝手にやられていろ」
「ふふふ、あなたもやってみる?」
「……………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「で……、何でおまえと二人きりで森で修行しなきゃいけないんだよっ」
渋々黒魔道師にジョブチェンジしたルーネスは、相変わらず手のひらサイズでキーキー声を上げ、目の前の赤魔道師のイングズを精一杯睨み上げる。
「 ───レフィアとアルクゥは、これ以上ドワーフ達から疑念を持たれぬよう事情説明している。もう少しすれば必ず炎の洞窟へ向かい、ドワーフの宝である[氷の角]を取り返す、とな」
「だからって、おまえと二人きりじゃなくても………」
「つべこべ云うな。……今のお前はジョブチェンジしたばかりで更に能力が低下しているんだぞ。1人で魔物を相手にしてみろ、結果は見えている」
「う~、分かったよ! 早く何か出て来ねーかなぁ? つーか………何だよさっきから? おれの事見下してるってか、じっと見てるよな。────まさか、おまえも小人状態のおれを"カワイイ"とか思ってんのか!?」
「 ………そんな訳あるか、馬鹿者」
つと帽子の下から目を逸らすイングズ。
────そんなやり取りをしていると、一匹の木の根のような人型モンスターが二人の前に現れる。
「 ………相手にとって不足はない、お前は炎系黒魔法を唱えるようにしておけ」
「お、おぉ……!」
イングズは素早い斬撃で魔物に多少ダメージを与え、後はルーネスに任せようとするが ────
「ん~~……、<ファイラ>ぁ!………あ?」
「うッ…!お前……、味方に放つ奴があるか!」
「わっ、悪い!そんなつもりじゃ…うわぁ?!」
隙を突かれて後方のルーネスが魔物の標的になる。
「 ──── はぁッ!」
お手本の如く、イングズが<ファイラ>を放ってモンスターを倒す。
「さ、さんきゅ~!いやぁ、危なかったぜぇっ」
「………相手を良く見ないで魔法を放つからだ」
「悪かったって……! それより体、だいじょうぶか?」
「熟練度も満たないあれしきの魔法など、掠り程度だ。人の心配をしている暇があれば、標的を見誤るな。………次がお出ましだぞ」
───── 「お帰りなさい! どうだった……って、イングズ疲れてるわね。何かあった?」
若干ふらついて宿屋に戻って来たのを見て、レフィアが心配する。
「あいつが何度も黒魔法を誤るから……、さすがに回数も重なりダメージ量も増えた……。悪いが、もう休ませてもらう」
云うなり帽子を取って、ベットに横向きになるイングズ。
……そして少し後から、開け放したままのドアから小ちゃな黒魔の姿でちょこちょことルーネスがやって来る。
「ぜぇ、ぜぇ……、やっと戻って来れたぁっ、やっぱ小さい体って不便だな……!」
「それでルーネス、成果はどうだった? イングズの方が疲れてるみたいだけど………」
「あぁ! やっと標的にうまく当てられるようになってさ、その前にずいぶんイングズのやつに当てちまったけど……、自分で回復しながらおれに付き合ってくれたぜっ」
「 ───あたしとアルクゥは付き合わなくて良かったわねぇ」
「あはは……、でもこれなら明日すぐにでも炎の洞窟に行けそうだね! 今日はもう時間も遅いし、僕らも早めに休もうよ」
「そうね、でもその前に……!」
レフィアはつと屈んで黒ローブのマントをつまみ、小人ルーネスを持ち上げる。
「なっ、なにすんだよ……!?」
「うふふ、な~んかやっぱり、かわいいのよね~♪ つんつん」
「だ、だからそれやめろって~?!」
「みんなでミニマムになった時より、1人だけっていうのは………確かにかわいいよね。つんつん」
「ふ、二人してやめれ~~!! イングズ~、助けてくれよぉっ……?!」
………しかし、彼は既に眠りに入ったらしく、その晩ルーネスはひとしきりレフィアとアルクゥにつつかれるのであった。
───── 「で……、これから炎の洞窟に向かう訳だが、ルーネスの移動速度を考えるとそれだけで時間を取られる。誰かの手の上にでも乗せて、移動すべきだと思うんだが」
翌日、イングズがそう提案する。
「……ルーネス! あたしが持っててあげるわ、さぁいらっしゃい!!」
「ずるいよレフィア!……僕が連れてってあげるから、こっちへおいでよ!!」
「イヤだーっ! この二人は、イヤだーっ!!」
キーキー声を上げながら、ルーネスはとんがり帽子が振り落ちそうなくらい首をブンブンして拒否する。
「………なら私が連れて行こう。ほら、肩の上にでも乗れ」
「助かったぜ、イングズなら安全だ…!よっと!」
差し伸べられた手からちょこまかと素早く左肩に陣取るルーネス。
「何よっ、ズルいわねイングズ! 興味なさげに見えて、あなたもほんとは小人のルーネスがかわいくて仕方ないんでしょ!?」
──── 一瞬、間近で帽子の下からちらっと、青い瞳と小さな紫の目が合う。
「 ……… 下らん、もう行くぞ」
つとイングズが目を逸らした拍子に帽子の鍔に当たりそうになり、ルーネスは彼の肩でなるべく身を低くして両手でしがみつくようにしておく。
「うおっと……、ジャマだな~帽子っ。おれのとんがり帽外しとこうかな?」
「ちょっと~、待ちなさいよ~! なら交替制でどうっ?」
「レフィア、諦め悪いよ。僕もそうしたいけど…!」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「 ──── <ブリザラ>ぁ!!……よっしゃ、ザコげきちん!」
炎の洞窟では小人黒魔のルーネスが率先して魔法を連発する。
「……おいルーネス、今からそんなに飛ばしていたら、あの盗賊と相まみえた時魔力不足になるぞ」
「だってここのザコ敵、冷属性ばっか効くんだぜっ? 使わない手ないじゃん!」
間近のイングズに反論するルーネス。
「おかげで戦闘はすぐ終わるから助かるけど……、無理は禁物だよ。今の所MP回復できるアイテム持ってないんだから」
「それにあのグツコー、きっともう火のクリスタルの力奪って強力になってるんじゃないの? 丸一日も放っとくんじゃなかったかしら……」
そこの所、憂慮するアルクゥとレフィア。
「んな事云ったってしょうがないだろー? 修行の成果でいくらでも挽回してや……っ、うおわぁ?!」
意気込んだ拍子にイングズの肩から滑り落ち、崖縁のすぐ横を流れる眼下の煮えたぎる溶岩へと落下────する所を、咄嗟にイングズが片手で黒ローブのマントを掴み止める。
「全く……、世話の掛かる奴だ。同じ事にならないよう、私がお前を腕に抱えて行こう」
そう云って断りもなしに、小人のルーネスを片腕に抱き抱えるようにするイングズ。
「な、なんだよ。どさくさ紛れにつついたりすんなよっ?」
「………する訳ないだろう」
「ほんっとズルいわね~、独り占めしちゃって……!」
「あぁ、その状態ならつんつんし放題なのにっ」
レフィアとアルクゥはまだ口惜しそうにしている。
──── そうこうしている内に最深部となり、火のクリスタルの祭壇前には案の定、あの盗賊グツコー……、ではなく、紅い恐竜のような大型モンスターが立ちはだかっている。
「何、あれ……? 見るからにこれまでの魔物と違うわね……!」
「グツコーいるんじゃなかったのかよっ、あいつ倒さないとおれ小っこいままじゃん!」
「……あれって多分、元はグツコーだよ。火のクリスタルの力を奪って、完全にモンスター化したんじゃないかな……!」
アルクゥがそう推測する。
「───何にせよ、倒してみれば判る事だ。ドワーフの角2本も、取り返さねばならんからな」
「おれの事は二の次かよっ! もういい、放せ! おれが先制してやるっ」
「おい待て、先走るな……!」
イングズの片腕から飛び降り、ルーネスはちょこまかと前に出て冷属性黒魔法を放つ。
「どうせおまえも見た目からしてこれに弱いんだろ……! <ブリザラ>ぁっ!」
鋭利な氷塊がサラマンダーを直撃し、確かに効いているようではあるが、咆哮を上げて直ぐ様太く長い尻尾を鞭のように鋭く反撃して来る。
「小人が前に出るんじゃない、下がっていろッ!」
颯爽と間に割って入り、剣で斬り返すイングズ。
「あたしも行くわよ!……やあ!」
モンクのレフィアは、得意の体術で応戦する。
「援護するよ……!<エアロ>!」
風属性の白魔法を放つアルクゥ。
「よっしゃ! こうなりゃ畳みかけるぜ……、<ブリザラ>ぁ!───あれっ?」
ここまで来るのに中級黒魔法を使い過ぎたせいか、すぐ魔力不足に陥るルーネス。
「しょうがねーな、威力下がるけどこれで行くっきゃないか……、<ブリザド>ぉ!」
下級黒魔法に切り替え、他3人の連携攻撃も相まってサラマンダーを追い詰める。
──── が、その刹那、広範囲に及ぶ強力な<ファイアブレス>を放たれ、相当なダメージの為に4人共一時的に動きを失い、その隙を突かれて狙われた小人状態のルーネスは、サラマンダーの鋭い尻尾の一撃によって薙ぎ払われ、岩壁の方へ激突する。
「 ルーネス……!? くッ…… 」
「<ケアルラ>……!!」
イングズがルーネスに気を取られた所へ白魔道師のアルクゥが全体回復を行う。───しかし、だいぶ離れたルーネスには届かない。
「多分、戦闘不能状態になってる…! フェニックスの尾、あったよね。イングズ、使いに行ってあげて!」
「よくもやってくれたわね……! あたしとアルクゥで足止めするから、ルーネスをお願い、イングズ!」
「あぁ、判っている……!」
アルクゥとレフィアに後押しされイングズは、小人状態で壁に背もたれて項垂れ座り込んだまま動かないルーネスへと駆け寄る。
「これで意識を戻してくれ、ルーネス……ッ!」
イングズは貴重な[フェニックスの尾]を使い、ルーネスを戦闘不能から回復させる。
「う……っ、あ……、イン、グズ……??」
「今、回復魔法も掛けてやるからな……!」
白魔法のケアルラを使い、多少体力も回復させる。
「あっ……、おれ……!」
「お前はもう戦うな、離れていろ。サラマンダーは私達3人で倒す。───心配するな、必ずお前を元に戻してやるからな」
そう云って勇気づけるように微笑むと、イングズは片膝を付いていた姿勢からつと立ち上がり、赤マントを翻してサラマンダーの元へ剣を手に向かってゆく。
─── ルーネスはその大きく頼もしい背中を見送るばかりで、自分の不甲斐なさを痛感する。
(おれ、何やってんだ、結局………。小さくなったまま、守られてるばかりで……っ。おれは、守られたいんじゃない。守りたいんだ……! 本当に"小人"になってる場合じゃ、ないだろうが!!)
───── 光が迸る。
自ら<ミニマム・改>の呪法を解いたルーネスは瞬時に[戦士]へとジョブチェンジし、右手に長剣、左手に短剣の二刀流で疾風迅雷の如くサラマンダーへ踏み込みエックス斬る。
──── あまりの速度に相手は断末魔すら上げられずに絶命して倒れ込み、消え失せる。……後に残ったのは、ドワーフの宝である2本の氷の角。
───素早い展開に他の3人は呆気に取られており、当のルーネスは何事もなかったように二刀の剣を腰に収める。
「さってと、ドワーフの宝も取り返した事だし、火のクリスタルから力貸してもらおうぜ!……おぉい、どうしたよみんな? 口半開きだぞ」
「あっは、やるじゃないルーネス。ちょっと、見直したかも?」
「うん、何ていうか……かっこ良かったね」
やっと言葉が出るレフィアとアルクゥ。
「 ルーネス、お前────」
「あ、悪かったなイングズ! あんなカッコつけた事云わせといて、自分で<ミニマム・改>解いちまった! けど……なんてぇか、ありがとな? その……、うれしかった」
「 ──── フフッ、お前という奴は」
「わ? 笑うなよ! せっかく礼云ってんのに……!」
「こんな事なら私も、小さなお前をつついておけば良かったな」
「へ……? な、何だって??」
「フ……、何でもないさ」
END
ページ上へ戻る