| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

少年少女の戦極時代Ⅱ

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

オリジナル/ユグドラシル内紛編
  第46話 コドモ目線


「葛葉と行かなかったのか」
「紘汰くんは心配だけど、お兄さんも同じくらい心配だから」
「すまない」

 謝らなくてもいいのに。これは咲が選んだことなのだから。

「オーバーロードのこと、ちゃんと紘…葛葉さん、から聞いて、ます。伝えれ、伝えられると思い、ます」

 湊に睨まれる。「よけいなこと言ったら、分かってるわね、お嬢さん?」と目が語っていた。
 体は素直で、一歩引いていた。だが室井咲は根性で踏み止まった。

(だって、ここでお兄さんから目はなしちゃったら、お兄さん、クビにされるとか閉じ込められるとか、されちゃうかもだし。あたしがしっかりしなきゃ。ヘキサだって光実くんの横でがんばってるんだもん。あたしが貴虎お兄さんを守ってあげなきゃ)


「一度本社に戻って、凌馬とシドも呼んで話す。それが終わるまで、いや、終わってからも、葛葉紘汰と室井咲への敵対行動は禁止する」
「――、主任がそうおっしゃるのでしたら」

 湊は、第三者の咲だから分かる程度の小さな不満を呈し、貴虎に礼を取った。

「すまないが、室井くん、付いて来てくれるか」
「は、はい」

 湊が一番に踵を返した。続く貴虎。その大人たちを追う形で咲も歩き出した。




 ヘルヘイムの森からラボに戻るなり、湊のスマートホンが鳴った。
 湊は離れ、それに出て受け答えをいくつかしてから戻ってきた。

「申し訳ありません。プロフェッサー凌馬に急な来客だそうで。そちらの対応に行かなければいけなくなりました」
「分かった。それが終わったら、凌馬に私の部屋に来るよう伝えてくれ。もしシドに会えるようなら奴にも。私も会ったら伝えておく」
「畏まりました。失礼します」

 湊は足早に、真っ赤なラボを出て行った。

 湊はいなくなった。自分はどうすればいいのか? そんな気持ちを込めて咲は貴虎を見上げた。

「私のオフィスで待とう。付いて来なさい」

 貴虎が歩き出したので、咲は付いて行った。ラボ内の研究員の視線が落ち着かなかったので助かった。


 ユグドラシル・タワーに来たのは、紘汰や戒斗と捕まった時の一度だけ。こうして落ち着いて内装を見ながら歩くのは、咲には初めてのことだ。
 会社、という場をまず見ることがない小学生の咲からすれば、タワー内はまるで斬新なテーマパークだった。

「どうかしたか?」
「あっ、その…広くて、人がいっぱいで、すごいなあ、って」
「これくらい大したことはない。ここは支社だから人も多くないしな」
「……でもあたしにはめずらしーんだもん」

 ふて腐れてそっぽを向いた。ガラスの壁の向こうには、働きアリのように忙しなく動き回る人々。こんな景色はテレビでも教科書でも見たことがない。だからすごい、と素直に言っただけなのに。

 ぽん。

 頭に人の手が載った感触。咲は驚いて貴虎を見上げた。貴虎ははっとしたように手を引いた。

「すまない。妹の時の癖で」
「ヘキサに、こういうことしてるの?」
「あ、ああ……おかしい、だろうか」

 狼狽えている。咲より倍以上の大人の男である貴虎が。咲はつい笑った。

「ぜんぜんっ。ヘキサいいな~。あたし、きょうだいいないから、うらやましい」
「そう、か――そうか」

 貴虎は安堵したようで、それがまたおかしくて、咲はくすくす笑いを止められなかった。 
 

 
後書き
 新章が始まりました。ここはまずほのぼので。

 ここで謝っておきたいのが、原作通りの「裏切り」にはならないことです。
 テーマは「大人らしい訣別」です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧