少年少女の戦極時代Ⅱ
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オーバーロード編/再
第45話 二人目の同志
何故か苦しげな様子で退却した赤いオーバーロードを追って、咲と紘汰、そして貴虎は、ヘルヘイムの遺跡近くまで来た。
「人類とは異なる知性体か。だが我々はファースト・コンタクトに失敗したようだな……」
微かに調子を落とした声で、貴虎が呟いた。
「諦めんのはまだ早い。俺たちはまだ出会ったばかりだ」
咲もこくこくと大きく肯いた。紘汰にように励ませればよかったのだが、コドモの自分ではオトナの貴虎相手に話をこじらせるかもしれないと考えて。
「あんたが俺たちの言葉を信じてくれて助かった」
「――貴虎だ」
「え?」
「名乗るのが遅れたが、礼を言う前に間に合った」
(そういえばあたしは、ヘキサのお兄さんだからヘキサに名前聞いて知ってたけど、紘汰くんは知らないんだった)
「絶望以外の選択肢をもたらしてくれたこと、感謝する」
そう言った貴虎は、うっすらと笑んでいるようにさえ見えて。
紘汰が嬉しそうに右手を差し出した。貴虎は応えて、二人は握手した。
(まさかユグドラシルの人が、しかもヘキサのお兄さんが理解してくれるなんて。こんなに、たのもしいことってない)
紘汰との握手を解いた貴虎は、紘汰の横を通り抜け、咲の前に片膝を突いた。
咲が首を傾げていると、貴虎はその骨張った大きな掌を咲に差し出した。
「いいの? あたし、コドモなのに」
「誠実に戦う者に、大人も子供もない」
誠実。今まで長く月花として戦ってきたが、初めての言葉だった。
咲はおずおずと右手を差し出した。貴虎は咲の手を強く、それでも痛くないよう加減して握り返してくれた。
(ヘキサがお兄さん大好きなの、分かった。こんなお兄さんなら好きでもしょうがないや)
ふいに貴虎が握っていた手を思いきり引いた。咲はバランスを崩したが、紘汰が受け止めてくれたので転ぶことはなかった。
「いた、あそこだ!」
「追うぞ!」
紘汰がオレンジの、貴虎がメロンエナジーのロックシードを開錠する。咲も遅れてドラゴンフルーツのロックシードを構え、鎧武と斬月に一拍遅れて変身した。
その中で出遅れた月花の腹、ドラゴンフルーツのロックシードに――桃色のソニックアローが的中した。
月花は倒れ、その姿を解かれる。鎧武が慌てたように咲を抱え起こした。
『咲ちゃん!』
「ハッ、く…だい、じょうぶ…!」
狙ったようにロックシードしか壊れていない。こんな芸当ができるのは、ユグドラシルには一人しかいない。
そこへ案の定、マリカが飛び出した。
マリカの狙いは鎧武。鎧武は無双セイバーでマリカの弓による斬撃を捌いた。だが無双セイバーはマリカの弓によってあっさり弾き上げられ、鎧武は無手になった。
『湊! やめろ!』
間に斬月が入り、マリカの弓を弓で受け止めた。
『何故です。葛葉紘汰と室井咲はドライバー回収対象者ではなかったのですか』
『状況が変わった。とにかく私の話を聞け!』
また攻撃しようとしたマリカを、斬月は腕と弓を掴んで止めた。
『行け、葛葉、室井! お前らは奴を追え!』
『っ、分かった!』
鎧武が駆け出す。咲は追うべきか留まるべきか悩んだ。
――思い出す。初瀬がインベス化した時も、似たような台詞を戒斗に叫ばれ、咲は紘汰を追った。
(紘汰くんも貴虎お兄さんも、一人にしちゃダメって気がする。でもいっしょに行けるのはどっちか一人)
鎧武が走って行った方向を見、変身解除して睨み合う貴虎と湊を見――咲は、貴虎に歩み寄った。
後書き
ここ、例えばADVとかだと、紘汰と貴虎とどちらを追うか選択肢が出て、選んだほうによってストーリーが大きく変化するほどの場面ですよ。
咲が選んだのは貴虎でした。
紘汰を追うと原作通りでしたが、ここで貴虎を選んだことで、次回以降、咲はユグドラシルの闇を覗き込むことになります。
余談ですが、咲の貴虎への呼び方にちょっと困りました。「くん」付けはいくらなんでも似合いませんので、「友達のお兄さん」というニュアンスで「貴虎お兄さん」になりました。
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