ストライク・ザ・ブラッド~魔界城の主~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第Ⅰ章:天使炎上編
03:第四真祖、監視役、番外真祖、あと王女
前書き
お待たせしました。『魔界城の主』天使炎上編第三話です。
「すまん!俺が悪かった!」
現在暁古城は、全力で頭を下げていた。理由は簡単。ベアトリス・バスラー(及びその陰にいると思われる叶瀬賢生)に騙され、無人島に置き去りにされた古城と雪菜。ねぐら代わりに打ち捨てられたトーチカ(戦争とかで立てこもるために使う建物らしい)を見つけた二人は、とりあえず次は食べ物を確保しようという事で合意し、食料の調達に出たのだ。そこで古城は、テレビでショック漁法とか言って電気で魚を捕まえる方法をやっていたのを思い出し、丁度いいのがいるじゃないか、と眷獣、《獅子の黄金》を放ってみたのだが……
結局漁には失敗。圧倒的な第四真祖の眷獣のパワーでまき散らされた海水が、思いっきり雪菜にぶっかかってしまった、と言うわけであった。
「はぁ……もういいです」
「ああ、ホントごめん……で、姫柊は何をしに来たんだ?」
「夕食の用意ができたので呼びに来たんです」
そんなわけで連れだって雪菜自作のかまどの近くまでやってきた古城達だったが――――並べられていたのは、全部ヤシの実で作られた料理だった。食えないわけではなかったのだが、どうやら雪菜はそこまで料理スキルが高いわけではないようだった。
料理スキルが低いと言えば――――浅葱の料理は壊滅的だったよなぁ……そんなことを思って、あ、と古城は声を上げる。
「やべぇ、浅葱に美術の課題手伝うって約束してたの忘れてた」
「藍羽先輩……ですか。……それはちょっと希望が持てましたね」
「ああ」
藍羽浅葱は、約束をすっぽかして何処かへ行った友人を黙って許すような人間ではない。間違いなく持ち前のハックスキルで古城の場所を特定し、追いかけてくるだろう。そして浅葱が来るのであれば、そこまで何らかの移動手段を引き連れてきてくれる可能性もある。
「けどヘタにメイガスクラフトに近づいたら浅葱が危なくなるような……」
「……先輩は、いつも他人の心配ばっかりですね」
隣で、雪菜がふふっ、と笑う。微笑を浮かべる彼女に、思いのほかドキドキさせられてしまう古城。やめろやめろ。こいつは中学生だぞ。その中学生に性的魅力を感じて吸血行為をしたのはどこの第四真祖だったか。いやいやあれは緊急措置だったはずで……。
「――――先輩のそう言うところ、ちょっといいと思います」
「え?」
「何でもないです」
雪菜が小さくなにか言ったような気がしたが、聞くことができなかった。問い返した古城には答えずに、雪菜は海を見る。
「……綺麗ですね」
「……ああ」
間もなく、夕日が沈む。
***
「あー、えーっとですね」
「はい、どうしました?魔城」
「あのですね?ラ・フォリア。これはどういう事ですか?いったい何をさせようというのです僕に?」
「簡単です。背中の洗いっこでもしようかと思いまして。日本では日常茶飯事の行為だと聞きました」
「いやそれは親子とか同性でやるのであってですね。年ごろの異性がやり合う事じゃないです」
「魔城はもう何十年も生きているのでしょう?」
「不死存在の精神は外見年齢に引っ張られるんです。僕の精神強度はよくて二十歳くらいです」
時・ところ変わって日が沈み、星が空に瞬き始めたころ、無人島の中央エリア。月齢の若い月は強い光を発せず、あたりは暗いままである。だがしかし、暁魔城の吸血鬼としての視力は、その白い肌を実にはっきりととらえていた。とらえてしまっていた。
アルディギア王国王女、ラ・フォリア・リハヴァインの。
「良いではないですか。私と魔城の仲ですし。いっそのことそのままあれよあれよというままになし崩しになって既成事実でも作ってしまいたいほどです」
「やめてください。……護衛位はしますけど、さすがに一緒に水浴びはお断りします」
魔城は苦い表情でその提案を却下する。この腹黒王女は一体どこまでが本気でどこからが冗談なのかさっぱりわからない。いや、頑張れば分からないことも無いのかもしれないが(というかきっとかつての魔城なら容易に分かったことであろう)、今はそれを考えないようにしている。魔城としてもそっちの方が楽しい。
「そうですか……残念です。それでは護衛、お願いしますね」
「あ、はい」
ラ・フォリアは少し離れたところにある湖に足を運ぶ。魔城はその近くの岩に座って、あたりを警戒する。
アルディギア王国の飛行艦船を襲撃した謎の魔族との戦いから数日。流れ着いた無人島には、偶然なのかはたまた必然なのか、ラ・フォリアも流れ着いていた(ちなみに彼女曰く運命だそうだ。魔城は性格悪い神のご都合主義だと思っている)。
幸いなことにアルディギア王室御用達の救命ポットのおかげで生活区域には困らなかったが(魔城は古城と違って、眠らなくても一か月くらい持つ)、困ったのはラ・フォリアの御転婆振りであった。ことあるごとに魔城を困らせてくる。
ちゃぷり、という水の音が、少し離れた魔城のところまで届く。それに合わせて
「魔城ー!のぞいてもいいですよー!」
というラ・フォリアの声。
「のぞきませんよー!」
「あら、それは残念!」
くすくすくす、という、軽やかな笑い声が聞こえる。
「まったく……冗談はほどほどにしてくれ……」
はぁ、とため息をつく魔城。直後、その表情が厳しげなものに変わる。魔城の鋭い感覚が、ラ・フォリアの物とは違う気配を捕らえたのだ。
一跳びで二人を遮っていた木々を飛び越す。湖の岸には、見覚えのある灰色の髪の毛。口元を抑えてうめくその少年は――――
「古城?」
暁古城。魔城の義弟、第四真祖の少年だった。彼は絃神島にいるはずだが、それがなぜ、こんなところに――――。
とにかく、今はラ・フォリアの回収が先決だ。古城のことは後でもう一度探し直すことにして、彼から視線を外す。
「ラ・フォリア、行きますよ」
「あ、魔城っ」
一糸まとわぬラ・フォリアを抱き上げ、水面を蹴る。その瞬間、自らに疑似眷獣の加護を授ける。
「『海よ、我に力を』」
疑似眷獣《ヴァナヘイム》が呼び出す、さらに下位の眷獣、《ニヨルズ》の加護が、魔城に水除けの術を付与する。湖の乙女を始めとする北欧の精霊たちのごとく、魔城は水面を駆け上がる。再び先ほどと同じく木々を飛び越え、その先、誰もいない場所へと着地する。
途中でラ・フォリアの白い肌が見えて思いっきり顔をそらすと、くすくすくす、というラ・フォリアの笑い声。
「見てもいいのに」
「遠慮しときます」
ラ・フォリアが着替え終るのを待っていると、ボォォォォ……という低い音がきこえてきた。これは――――
「汽笛?」
近場の岩の上に飛び上がると、海岸線の近くを凝視する。そこには、軍艦めいた黒い舟――――甲板に刻まれた文字は、《メイガスクラフト》。その揚陸用のゲートがバクン、と音を立てて開き、中から複数の人影が現れる。
こちらにくる……と思われたその人影は、しかし魔城達とは別方向に進んでいく。これは――――
「ラ・フォリア、船です。メイガスクラフトの。複数戦闘員を確認。メイガスクラフト製の戦闘用自動人形です。恐らく現在古城――――僕の弟と交戦中です」
「第四真祖ですね。……どうしますか?」
「恐らくあの船はあなたを追ってきたのでしょう。ですが……」
「……助けに行きますか?」
「可能なら」
「分かりました。行きましょう」
あまりにもあっさり、ラ・フォリアはうなずいた。な、と思わず絶句してしまう魔城。ラ・フォリアはアルディギアの王女だ。その身を危険にさらすわけにはいかない。ましてや魔城の個人的な理由でならなおさらだ。だが、ラ・フォリアはそんなことをまるで気にも留めないかのように、古城を助けに行くことを承知してくれた。
「私は魔城の意志に従いますよ」
「……助かります」
今だけは、この王女の好意に……たとえそれが見せかけの物であるかも知れなくても……すがっていよう。魔城はそう決めた。
***
「くそっ!何だこいつら……っ!」
吸血鬼の真祖として、全力で殴りつけても、メイガスクラフトの戦闘員たちは全く動じない。まるで痛みを感じていないかのように、悠々と立ち上がって再び襲ってくる。
眷獣を使うか――――?とも考えた。だが、下手をすれば相手を皆殺しにしてしまうかもしれないし、こちらにも被害が出てしまう。古城は生き返るから良しとして、雪菜は死んでしまったら蘇らないのだ。
「どうすれば……っ」
その時だった。久しぶりに聞く、その声が響いたのは。
「『そびえたて、《九曜の世界樹》』!」
緑色の波動が、戦闘員たちを弾き飛ばす。古城の後ろの茂みから、長い黒髪を一つにまとめた青年が姿を現す。
「魔城兄!?」
「二人とも、無事ですか?」
しかし声を返したのは、魔城ではなかった。魔城の後ろから、銀色の髪の美しい少女が姿を現す。初めて見る少女ではない。先ほど古城が雪菜を探している最中に遭遇した、叶瀬夏音によく似た少女だ。彼女は手に持った金色の銃――――呪式銃を放つと、戦闘員たちを吹き飛ばした。金属片があたりに散らばる。
「あんたは……?」
「ラ・フォリア・リハヴァインです。また会いましたね、暁古城」
にこり、と、ラ・フォリアと名乗った銀髪の少女は微笑む。
「どうして俺の名前を?」
「暁古城なのでしょう?第四真祖の。魔城から聞いていますよ」
「魔城兄から?」
古城が知る限り、魔城にこんな知り合いはいなかったはずだ。つまり、以前の二年間か、この数日間の間に知り合ったという事だろう。
「何なんだ、あいつらは……?」
「古城、眷獣だ。あいつらはラ・フォリアを追ってきた自動人形……いくら殴っても死なないよ」
「なるほど、そういうことか……」
先ほど金属片が散らばったことを思い出す。殴られても行動を停止しないのは、彼らが機械仕掛けだったからだろう。
「古城、あの船を沈めてしまおう。中に残っているオートマタが脅威だ」
「俺達も出られなくなるんじゃないのか?」
「どうせあの船を奪ったところで、母艦に操作されている揚陸船は使えません」
「そうか……」
黒い舟を見る。そのゲートから、さらに新たなオートマタが姿を現していた。
「先輩、来ます!」
「悪いな、そういう事だ――――――疾く在れ――――《獅子の黄金》!!」
雷の眷獣を解き放つ。雷光の獅子は雄たけびを上げると、自動人形たちを巻き込んで、軍艦を海の藻屑と化させた。
「凄まじい威力ですね。さすがは《第四真祖》、と言ったところですか……」
「……あんた、何者なんだ?俺が《第四真祖》だって知ってたり、魔城兄と知り合いだったり」
「ラ・フォリアだと名乗りました」
そのとき、雪菜があっ、と声を上げて目を見開く。どうやらラ・フォリアの正体に心当たりがあったらしい。というかそれを知らない俺って一体……いや、教育の違いか。と一人内心嘆息する古城。
だが、つぎの瞬間その古城も固まることになる。
「わたくしはアルディギア王国国王、ルーカス・リハヴァインが長女、ラ・フォリア・リハヴァイン――――アルディギアで王女の身にある者、そして――――」
そして、アルディギアの王女は、魔城の腕をに自らの腕をからめて、言い放った。
「この暁魔城の婚約者です」
「いやいやいやいやいや!?ちょっと待ってください違うでしょう!?」
魔城の悲鳴が響いた。
後書き
どうでもいいんですけど、アニメではラ・フォリア王女にお姉さんがいる設定があるんですよね。原作では長女なんだが……。
因みにラ・フォリアの一人称は他人の前では『わたくし』、魔城と二人きりのときは『私』となっています。ひそかなラ・フォリアの愛情表現?
ページ上へ戻る