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IS学園潜入任務~リア充観察記録~

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怪異の巣窟 前編

 
前書き
原作九巻ェ… 

 

「あっはははははははははははははははははははは!!」


「…頭、大丈夫?」


 薄暗い部屋で大きな笑い声を上げる茶髪でスーツ姿の男性。その男性の様子にドン引きしながらも、同じくスーツを身に纏った金髪の女性…スコールは声を掛ける。


「あはははははは!!…あぁ、すまない。セイスの報告内容が…笑え…て…ぶふぅ…」


「……いったい、何だというの?『フォレスト』…」


 犯罪組織『亡国機業(ファントムタスク)』。その一員であるスコールの目の前で、彼女と同等の立場にある『フォレスト』は、自室の椅子に座ったまま盛大に大笑いしていた。
 元々組織内きっての変わり者として有名な彼だが、それを踏まえてもここまで爆笑している姿は珍しいため、スコールは怪訝な表情を浮かべた。


「あぁ、ごめんごめん。とは言ってもね、ブリュンヒルデがマダオというだけでも充分に爆笑ものだけど、その時に関する追加資料は何度読んでも本当に笑えるよ?」


「…?」
 

 自分の知らない内容に思わず反応してしまったスコール。それを見たフォレストはニヤリと笑みを浮かべた。
 本来、亡国機業の構成員同士の関係と言うものは、良好なものであるとは決して言えない。しかし、この二人は利害関係を含めた諸事情により、現在は協力関係を結んでいる。その為、今のように互いに情報交換や合同作戦、更には雑談を気軽に交わすような間柄になっていた。
 どうしてこのような関係を築くことになったのかは、それなりに複雑な事情があるのだが、結構長くなるので別の機会に語るとしよう。 
 


 
「『ブリュンヒルデ』の件はセイスが君に話したかもしれないけど、“その後”に彼が経験した事は流石に知らないだろう…?」


「……“その後”ですって…?」


「まぁ、彼にとって黒歴史になるのは確定だね……ほら…」


「えっと、何々…?」



 『その時の詳細を誤魔化すことなく報告すること』というフォレストの指示に渋々ながらも律儀に従うセイス。そんな彼が送ってきた報告書を見せられたスコールは…




「ちょ、冗談でしょう!?」




 一週間はそのネタに飽きることなく笑い続けたそうだ…







◇◆◇◆◇◆◇◆◇





―――これはセイスがIS学園に潜入任務を開始したころ……4月の上旬の話である…。



「……盗聴器、感度良好。監視カメラ、異常無しっと…」


 IS学園校舎内にある消火栓の裏に造った隠し部屋。現在、俺はその内部でパソコンと向き合いながら学園中に仕掛けた仕事道具のチェックをしている。調子は概ね良好、問題は無い。


「それにしても、世界有数の重要施設の割にはチョロかったな…」


 うちの組織の技術力が半端ではないからというのもあるが、それを踏まえたとしても随分と甘い警備システムだ。実際、学園内に俺と言う侵入者が居ても気づかず、校舎の中にこんな部屋を造っても発覚する気配が無い…。


「これなら“ホワイトハウスに半年間”忍び込んだ時の方がキツかったぜ…」


 ここと比べたら断然に狭いくせして警備の濃さが半端無かったからなぁ……やっぱ本職の奴らと学園の職員じゃ格が違うね…。

 まぁ、その本職の方以上に“ヤバい奴”が学園の職員として居るけど…


「……それにしても、今日の“アレ”は…」


 そのヤバい奴のこと…世界最強の称号を持つ『織斑千冬』のことを思い出して作業中の手を止める。アレとは、本日行われた織斑千冬と観察対象の『織斑一夏』による短いやり取りのことである。盗撮カメラと盗聴器越しに確認したその光景は少なからず興味を持った…。


「ぶん殴ってまで会話を止めるとは…余程重要なことなのか…?」


 その日、織斑一夏はクラスメイトの女子達(女子しか居ねえけど…)に質問攻めにされるていた。その最中、一人の女子が『家庭での織斑千冬』について尋ねたのだ。
 それに対し、普通に答えようとした織斑一夏だったが『え?案外だr…』の辺りで本人が登場、出席簿の一撃を持ってして強引に会話を中断させたのである。


「……これは、何か臭うな…」


 先程はチョロい警備システムと評したものの、ここに置いてある情報やブツはとんでもなく貴重である。それらを集め続け、組織へと持ち出すのが俺の任務でもある。あくまで任務のメインは織斑一夏に関する情報収集だが、組織にとって有益なことは言われなくてもやるのが当たり前。

 
「今日の夜中辺りにでも行ってみるか…」


 仕事道具で事前に仕入れた情報によれば、今日は職員たち同士の飲み会があるらしい。つまり一番の脅威が外出中という絶好の機会なのだ。


「…んじゃ、夜に備えて寝るとしますかねぇ」


 なんせ『篠ノ之束』博士の親友である人物だ。博士に関する情報…下手すれば未登録のISコアがあってもおかしくない…。

 夜中の侵入作戦の計画を練りながら、セイスはゆっくりと眠りに入った…。







◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「……何なんだ…」


 さて、誰もが寝静まった真夜中のIS学園。意気揚々と目的の部屋へとやってきたは良いが……アレ?オカシイな、部屋を間違えたかな…?


「…何なんだこれは」


 念のため部屋の表札を確認するが、場所を間違えた訳では無い。表札に書いてある名前は確かにあっている。だからこそ、俺は驚いた…。


「何なんだよこれは…!?」



―――辺り一面ゴミの山…


―――散らばる書類の数々…


―――脱ぎ捨てられた衣服ども…



 一言で表すのならば、さしずめ『魔境』。殺生な言い方をするならば『ゴミ屋敷』。片づけられない、家事ができない、女としてどうなのよ?の、典型的な例が目の前に広がっていた…



「うわぁ…俺より酷ぇ……」



 俺の部屋は狭いくせに物がギッシリ置いてあるが、きっちり整理整頓がされているので見苦しいものでは無い。敢えて例えるなら『ネットカフェ』だ。パソコンや漫画、更にはゲームもあるし…
 ていうか、あの人ここで寝泊まりしてるのか?事前に仕入れた情報じゃあドイツ軍で教導官をやっていた時期があると聞くが、荒くれの海兵隊の方がよっぽどマシかもしれん。



「……どうしよ、帰ろうかな…」



 世界最強、全国の女子達の憧れ、IS操縦者達の理想像…そんな人間の人物像がものの見事に粉砕されたため、随分と萎えてしまった…。
 けれど、手ぶらで帰るのも癪なので結局は物色してみる。え?やってることが普通に犯罪者だって?馬鹿め、俺は犯罪組織の一員じゃボケェ。



「え~と…中間テストの試作品に予算帳簿、領収書の束、臨海実習計画案……」



 目に入った書類の類は全てどうでも良いものばかりだった。ここの学生にとっては重要な物ばかりかもしれないが、生憎俺が欲しいのはそんなのでは無い…。
 それにしても、漁れば漁る程どれだけ酷いのかよく分かる。しかも時たま捨てられたゴミに混ざって缶ビールがコロコロと出てくるのだが……それでいいのか、教師って…?



「…ん、これは?」




 もういい加減帰ろうかなとか考えていたら変な物が目に入った。思わず手に取ってそれを凝視してしまったが、普通にしょうがないことだったと思う。
 黒いオーラが蔓延するこの部屋において、“それ”はある意味異質な雰囲気を放っていた。だって、ゴミだらけの部屋にひとつだけ…。





―――“ピンクのノート”があったんだもん…。





 ゴミ部屋の中にそんなもんがある時点で違和感があるが、それ以上に忘れてはいけないのが…ここが『織斑千冬の部屋』であることだ。
 あのブリュンヒルデの部屋がこんな惨状であること自体に驚きだってのに、今度はまさかの桃色ノート。凛々しい白とか黒とかじゃなくて桃色…。



「……て、これ裏向きじゃねえか…」


 
 変に動揺したせいで逆向きにノートを持っていた。そのことに気付いてノートを表向きに…表紙の方に持ち替えてみる。





―――そしたら今日一番の衝撃が走った…





「……………え……?」



 
 この世に生を受けて十五年。俺は、ここまで絶句したことはあるだろうか?ここまで我が目を疑ったことはあるだろうか?思考が瞬時にフリーズし、そのまま1分は立ち尽くしていたと思う…。

 だって、ここは世界にその名を轟かす『織斑千冬の部屋』なんだぜ?ブリュンヒルデの称号を持っている『世界最強様の部屋』なんだぜ?




 そんな奴の部屋に置いてあったピンク色のノートの表紙に書かれていた文字が…









―――『ちーちゃんの絵日記☆第13号!! by織斑千冬』








「………。」


 
 もう何もかもに絶句する中、不意に思い出した昼間の光景。
 織斑千冬が弟の発言を阻止したのは、日ごろのだらしなさを暴露されたくなかったからなのだろう。そしてあんな性格であるものの、彼女は基本的に恥ずかしがり屋さんってことだ…。
 そんな世界最強の、明らかに自室の惨状以上に見られたくなさそうな物が俺の手に握られている。弟が暴露未遂しただけであの仕打ち……もしも俺のような輩がこれの存在を知ったとバレたら…。

 






  ミ タ ナ ?








「ッーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 幻聴まで聴こえてしまった俺は日記の…じゃなくてノートの中身を見ることも無くその場から全力で逃げ出した。幸い、部屋を物色する際に動かしたものは必ず元に戻す癖を付けてあるので痕跡は残していない。ノートも最初の状態に戻した。


(俺は何も見てない!!俺は何も見てないいいいぃいいぃぃぃ!!)


 ついでに、さっきのは見なかったことにしよう……うん、それが良い…。
 組織から支給されたステルス装置を稼働させ、学園の警備システムを掻い潜りながら俺は全速力で隠れ家へと走り続けた…。



―――しかし、俺は知る由も無かった……この後、二つの出会いが待っているということを…
 
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