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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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合宿編
  十三話

 なのはが放つクラスターの軌道をティアナは読み、速射で撃ち落す。スバルはその合間を通り、なのはへ一撃を繰り出した。
 一直線で突っ込むスバルは無謀に思えるが、持ち合わせた瞬発力とティアナの正確な予測射撃で、弾が一切届くことは無い。お互いに信頼しきっているからこそ出来るのだろう。
 対するなのはもスバルの拳をシールドで防ぐ様から攻められている様に思えるが、すぐに周りをシューターで囲んだので、逆に呼び込んでいたようにも見える。

「凄い……」

 アインハルトは無意識に呟いていた。
 ティアナとスバルのコンビネーションは基本の様だが、実行できるのは優秀な証拠。だが、その二人を一人で相手するなのはの実力も目を瞠る。
 次いで、一際大きい羽音が聞こえてきた。

「あれは……アルザスの飛竜!?」
「キャロさんは竜召喚士なんですよ」
「一緒に居るエリオさんは竜騎士なんですって!」

 古代から遥か辺境の地で生息していた竜種。
 気性は穏やかで人を襲う事が無いので特に気にする者はいなかったが、まさか今も生きていようとは……。
 跨る二人をコロナとリオが説明するが、アインハルトの目はフリードリヒに注がれていた。
 そして、隣に居るアレクもまた驚き呆けていた。

「姐さんが、射撃型……だと?」

 ――――全く別方向に、だが。
 アレクは鉄拳を放つティアナが射撃型だと微塵も思わなかった。手慣れたように鉄拳を放っていたので、てっきり格闘型だと思っていた。特に、最初に受けた延髄への一撃は、何かやっているとしか思えないくらい良い拳だったのだ。
 どちらかといえばスバルの方が後方だと思っていた。部屋を塗り替えられたテロ具合や、二週に一~二回ほどの頻度で冷蔵庫に食物テロを起こし蹂躙するので、後方から爆撃していると思っていた。

「ヴィヴィお嬢。ティアナの姐さんは……何かゴッツイの使えたりしないのかね?」
「ええと、ごっついというか凄いのを使えますよ」
「……やっぱりか」

 どうにも現実を信じきれず、近場に居たヴィヴィオに訊いてみたところ、やはりゴッツイのを持っているようだ。それも凄いというから、相手を粉砕するくらい凄まじい鉄拳なのだろう。
 射撃型と思わせといて、迂闊に近寄れば凄いゴッツイのが待っている。確か凶悪犯罪担当とか言ってたので、そのスタイルで何人も餌食にしたのだろう。
 流石は姐さん、鬼畜ぶりがハンパじゃねえ……、とアレクは戦慄しながら感嘆した。

「局の魔導師の方は……皆ここまで鍛えているのでしょうか?」
「そうだな。頻度の差はあっても、命に係わる現場で働いてるわけだしな。実力が無けりゃ助ける事はできねーし、自分の命だって危機に陥る。あと、なんで鍛えるかは……アインハルトも分るだろ?」
「……はい」

 スターズ戦が終わり、次いで始まった魔法訓練やフィジカルトレーニング。
 基礎に基礎を繰り返した土台作りは後の資本となることはアインハルトも重々承知だが、かなり高密度だ。それも休まず動き続けている様から、長期に渡って行ってきた事が窺える。
 だが、何故鍛えるかは訊くまでもない。後悔したくない為、苦しませたくない為、そして思いを成したい為に決まっているのだ。
 そんな姿を見ていると、身体が疼いてくる。

「アインハルトさん、こういうの見てると身体動かしたくなりません?」
「あ、はい……」
「よかったら、見学抜けて向こうで軽く一本やりませんか?」
「……是非、お願いします」

 アインハルトはヴィヴィオの誘いに頷く。そしてアレクの方を見るが、訓練観察に集中してるようなので、声を掛けず離れて行った。

 二人の姿を見送ると、ルーテシアが思い出したように手を打った。

「あ、そうだコロナ。内緒にしてたけど、例のアレもう完成してるんだ」
「え、ほんと!?」
「ほんと。あとはコロナが起動調整するだけだから、今の中にやっちゃおうか?」
「うん、するする!」
「ってな訳で、私達もちょっと抜けるね」
「ん、おう……?」

 ノーヴェは続いて抜けて行くルーテシアとコロナを見送りながら頭を捻る。コロナのはしゃぎ様から何か相当なものだと判るが、いったいなんだろうか。
 同じく見送ったリオに視線をやると、疑問を抱いてないことから何か知ってそうだ。

「リオ、何か知ってるのか?」
「たぶんコロナのデバイスだと思います。作ってもらってるって言ってましたし」
「へぇ、お嬢が……」

 眼下で使われているレイヤー建造物にアスレチックフィールド、加えてロッジの設計にデバイス作成、それに温泉掘ったとか言ってた気も……。
 多方面に才能を持ち合せているな、とノーヴェは感嘆するように呟いた。

「で、リオはどうする?」
「えーと、そうですね~……」

 ノーヴェの問いにリオは少し考える。
 このまま訓練風景を見ていてもいいが、やはり格闘技をやってる者としては身体を動かしたい。ノーヴェに頼めば相手をしてくれるだろうが、ヴィヴィオのように違う相手ともやってみたい。
 チラリと未だ訓練風景から目を離さないアレクを見る。必殺げしゅぺんパンチは出し惜しみか、と何か分からない事を呟いているが、疼いているようにも見える。

「ねえねえアレクさん。あたし達もスパーとかしませんかー?」
「ぬ? 何ゆえスパー? 他に相手してもらえば――――って、何時の間にか殆んど居ねえな」
「そうですよ。だから相手してくださいよー。ヴィヴィオとだけなんてズルいですー」
「……そこに親身なコーチ殿が居られるような?」
「あたしは今のうちに片付けておきたい事があるからな。相手をしてやってくれ」
「むぅ。必殺が見れんし……ま、いいか」
「やたっ! じゃあ向こうでやりましょー!」
「へいへい、了解しやした」

 早くー、と促すリオに引っ張られ、アレクもこの場を離れて行った。
 ノーヴェは姿が見えなくなるまで見送ると、ポケットからジェットエッジを取り出し明日のチーム表を映す出した。

「今のうちに決めちまうか」

 先ず一番高ランクのなのはとフェイトを分け、ティアナとエリオをそれぞれ対抗する形で置く。続いてルーテシアとキャロ、自分とスバルを割り振る。
 青組になのは、エリオ、ルーテシア、スバル。赤組にフェイト、ティアナ、キャロ、ノーヴェと此処までは良い。元より決まっていたようなものだ。
 だが、問題は此処からだ。
 ヴィヴィオの事はよく知っているのでいいが、コロナがデバイスを手に入れ、初参加が三人。どう振り分けるべきか。
 普段の練習の出来合いから、リオとコロナを当たらせ、ヴィヴィオとアインハルトを当たらせる。そして、アレクは……どうするか考えものだ。

「お嬢と組ませると……何仕出かすか分かったもんじゃねーな」

 思いこされるのは水遊びでの大惨事、その火付け人はルーテシアである。場合によっては、凄まじく荒れた泥仕合に発展しそうな気もする。
 やはり此処はティアナの支配下に置いた方が良い、とアレクを赤組に置き対抗者にガリューを置く。

「……いや、ダメか」

 割り当てた組で少し脳内でシュミレートしてみたが、結果予想は青組に傾いていた。
 個々の戦力はある程度バランスがとれているが、これはチーム戦。それにガリューを振り当てるという事は、ある意味召喚士も相手にしているようなもの。加えてライフポイントをDSAA公式試合タグで管理するので色々勝手が違うだろうから、初参加のアレクには荷が重いだろう。
 兎に角一戦目はその感覚を掴んでほしいので、チーム戦でもバランスを取れるようにしたい。なのでガリューを外し、フリードリヒを入れる事も却下。
 とりあえず、六対七の形で総戦力でバランスを取れるように持って行く。

「……最初はこれでいってみるか」

 入れ替えては戻しと繰り返し、何度もシュミレートを重ね、一応の納得いく振り分けが決まった。


◆ ◇ ◆


 日が沈みかけた頃、トレーニングを行っていた大人組はなのはとフェイトを残して上がり、各々に時間を潰していた子供組も合流した。
 だが飯時にはまだ早く汗を流そうということで、ルーテシアの天然温泉案内が始まった。

「で、行かんのかね?」
「行かないよ」

 そんなルーテシアを見送った男二人は、並んで湯に浸かっていた。
 男女湯の差は無く均等な作りというが、実の所はどうなのか。小悪魔は笑いながら見に来てもいいとかのたまっていたが、エリオは到底行く気にはなれなかった。

「行きたいなら一人で行けばいいじゃないか」
「はっはっは。んな事したら姐さんにヌッ殺されるわ」

 アレクは笑って言うが、行きたくないとは言ってない。
 オープンだなぁ、とエリオは思うが、止めようとしないあたり中々に男の子なのだろう。次いで、十二歳だとこんな感じなのかな? と思うくらいに。
 だが、次の質問には声を荒げてしまう。

「でも実際行ったらエリオは笑って許されそうじゃね? 特にキャロロさんとかに」
「は!? な、何言って……」
「いやだって、コンビで将来のパートナーなんしょ?」
「ち、違うよ!」
「え? じゃあ本命はルルさん?」
「だ、だから違うって! キャロは家族でルーは友達だよ!」
「へー、ほー、ふぅ~ん?」

 エリオは必死に否定するが、アレクの視線は全く信じていないことが容易に判る。なんで此処でも誤解を受けなければならないのだろうか。過去、実際に遭っただけに色々と必至である。
 だが、アレクにだけは、エリオも言えることがある。

「あ、アレクだって似たようなものじゃないか!」
「へ? どこが?」
「アインハルトがアレクの家に毎日通い妻してるってティアさんとスバルさんから聞いてるよ」
「……はあ!? 何だその誤報!?」
「それにヴィヴィオからもアプローチされてるんでしょ?」
「ちょ、待てっ! ヴィヴィお嬢は格闘煩悩でアプローチの意味が違い過ぎるわ! っつーかなんでんなこと知ってる!?」
「フェイトさんから、ヴィヴィオが気になる男の子が居るみたい、って聞いたから。ヴィヴィオじゃないと、本命はアインハルト?」
「あっちはご先祖関連だっつーの! 姐さん達から聞いてんなら様子見諜報員だと知ってんだろ!?」
「さあ、どうだったっけ? ……って、こんな感じになっちゃうから、この話題は止めない?」
「……全力合点全開承知。確かにこれは嫌だわ」

 完全なる意図返しに成功すると同時に、エリオは確信した。やはりアレクはこっちの素質もある。そのうち、荒レテ・犯ルヴァーカ、とか言われ始めるに違いない。
 だから、攻め過ぎは良くない。こんな不毛な会話で同士と成れる者を失う訳にはいかない。そう思い話を切る。
 すると、アレクも同意するように頷いた。なんとなく、この男は何かとこういった話題の種に成りやすいのだろうとも察していたが。
 だが、何時も一緒に居て、本当に何も無かったのだろうか? とアレクは気になった。

「でもさ、エリオ」
「……何?」
「四六時中一緒だと、こう……ムラムラきてちょこっと手ぇ出したりしてねえの?」
「ぶっ! な、何言って……」
「いや、真面目に気になった。で、どうなん?」
「あ、アレクこそどうなんだよ!?」
「当然ある」

 あるんだ……、とエリオは呆けるが、何処となく安心してしまった。やはり、男の子はそういう所があって当然なんだ、と。エリオも色々とヤバイ時がけっこうあったのだ。
 ただ、手は出していないので、アレクが何やらかしたのか、男としては非常に気になってしまった。

「……何やったの?」
「何って、独断身体検査に決まってんがな」
「……どんな?」
「主に胸部検査。偶にうたた寝するから、ベッドに寝かせるついでにやってる。あいつ、まだブラしてないからけっこう分かりやすいし」
「……そう、なんだ……」

 よく素面で言えるな、とエリオは思いつつもその場面を想像してしまい、顔を赤くさせる。
 しかし、此処まで聞いてしまったのなら、此方も言わなければならないのだろうか。そんな軽く揺れる思考の所為か、次の言葉と表現に口を滑らしてしまう。

「ちなみに、標高はこんぐらい」
「え、キャロより大きい……」
「なぬっ!?」
「……あっ!」

 エリオは顔を背け急ぎ口を塞ぐが、漏れた言葉は戻らない。もう何を言っても、取り返しがつかないだろう。
 いや、アレクも色々暴露してるし、開き直って全部吐き出してしまおうか。恐らく、アレクが故意にバラす事は無いだろう。
 これは真の同士にさせる為の試練。そう己に言い聞かせて向き直る。

「エリオ……」
「……うん。故意じゃないんけど……」
「十四歳であいつより小さいって、キャロロさんヤバくね?」
「実は僕も――――ってそっち!?」
「当たり前だろ、男としては」

 エリオが色々覚悟を決めて暴露しようとしたが、アレクの興味はもう他へと移っていた。
 どうせムッツリエロオはラッキースケベで事故処理だろ、とアレクは大まかに当たりをつけていたのでもう興味が無い。ムッツリ男の事より女の胸の方が断然面白いし、興味をそそられる。

「俺的に将来発展は絶望的だと思うんだけど、エリオ的にはどーよ」
「それは……その、身長とかもちょっと可哀そうかな……とは思うんだけど」
「あ~……やっぱりか。でも可哀そうってことは、エリオは大きい方が好み?」
「う、……僕はもう少しくらいキャロが色々大きくなってくれたら悩まないと思ってるだけで……アレクは?」
「無いより有った方が良いに決まってる。……キャロロさん本人はどう思ってるんかねぇ」
「……今の所は身長の方が気になってるみたいだけど……どうなんだろう」

 実際の所、キャロは何処まで育つのだろうか。将来を想像してみるが、スラリと背も伸びて祝福された実りが……二人揃って全く浮かばない。精々もう1.5cmくらい伸びたくらいで今と対して変わらない姿しか浮かばない。

「キャロは、幼い時に放浪させられたから……」
「それで、色々成長する力を生きる力に変えた……とか?」
「……かも」
「……せめて、胸だけでも育っててやってくれ……と思った俺はダメな奴かね?」
「……大丈夫、僕もちょっと思ったから」

 さぞかし壮絶だっただろう、と二人はキャロの過去を想像する。ただ、想像内容は旅より身体内部に偏っているので、キャロが知れば泣き怒ること間違いなしである。
 だが、野郎二人は其処まで気が回らない。胸だけでもどうにかしてやった方が良いんじゃないか、という善意しか頭にない。

「……そういや、揉むと大きくなるとか聞いたことあるような?」
「なんかそんな話があるよね。ほんとかどうか判らないけど」
「エリオ、キャロロさんで試してみれば?」
「えっ!? で、できないよ! 先ずアレクがアインハルトで試してみてよ!」
「あいつは……でっかくなるとけっこう膨らんでたから、やる意味あんまり無いような。でも揉むのが嫌なら……ミルクとか?」
「それもほんとか判んないけど……何より健全的でいいね。戻ったら身長伸ばす為にって勧めてみるよ」

 善意の下に野郎二人が頭を捻ってみた結果、牛乳を飲ませる事で落ち着いた。最早、身長が二の次に成っているが、野郎共は気付かない。

「……俺もちと言い訳とか工作とかしてアインハルトで実験してみるか」
「じゃあ経過は随時報告って形で」
「異議異論無し」

 
 

 
後書き

洗濯板「あのさ、お勧めの牛乳ってどれ?」

乳牛姫「楠舞印の無点火がお勧めです」
 
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