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そらのおとしもの~それぞれの思い

作者:絃城恭介
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ぷろろーぐ
  智樹とそらのおとしもの

 
「何、夢だと?」

 あの後、智樹には選択肢は与えられなかったようだ。

 新大陸発見部と書かれたプレートの掛かる教室に足を踏み入れた三人は、すぐに、机に座り何かの美少女フィギュア………おそらく噂のプリティーの着ているセーラー服のリボンを爪で結びなおしたり、スカートのプリーツのしわを直していたりしていた守形に出会うことができた
 
そんな彼を見た瞬間に智樹は逃げ出そうとしたが、そはらに首襟を掴まれており失敗に終わった。そんな彼を見て、恭夜は苦笑していた
 
 智樹は後ろで立ち上りつつあるオーラにびびりながらも、目の前の眼鏡を掛けた男……朝は遠めで分からなかったが、おそらく美形という部類に入る姿に一から十まで話したところであった

(なぜ、俺はここに?)

 肩を落とす智樹に反して、守形に恭夜とそはらは答えを求めていた。

 尤も、恭夜の場合は少し違うようなのだが

「学説では……夢とは脳が記憶を整理する際に発する電気信号だと言われている。ある願望や―――ある学者はこの定説において―――」

(何か言ってるけど、ますます危ない香りがしてきている気がするのは俺だけなのか?)

 視線で恭夜に智樹は訴えると、彼もそう思っているらしく安心した。

「だが、そんなものは『現実』の理論でしかない」

 まだ、続いていたのかと耳を傾ける

「『現実』の理論では『非現実』の説明はできん。違うか?」

 守形はおもむろに机のパソコンを弄り始めると、ある画面を呼び出す。それを三人に見えるように智樹に向けると、恭夜は呟く

「これは……ラピ○タ?」

 いや、ラピュ○は無いだろ。と彼は心の中で突っ込んだ

「いや、ラ○ュタではない」
「やっぱりそうですか……」
「これをよく見ろ。地球は北極と南極を軸とした磁力、所謂地磁気をまとっているが……これが何か分かるか?」

 守形がゆっくり指差したのは、その映し出されている地球の地図を

 ゆらゆらと移動する穴のような黒い円であった。

「いや、全然」
「私も……」
「いや、わかんないし」
「そうだ」

 守形は画面から指をどけると、腕を組んだ

「分からないんだ」
「分からないなら見せんなよ」
「ちょ、恭夜?」
「え?分からないってどういう?」
「数多くの学者がこれを突き止めようとあらゆる観測機や果ては航空機まで出して調べたんだが何も見つけられなかった。つまり、結論は『分からない』だ」

 そう言っている間にも『分からない』大穴はゆっくりとだが動き続けている。

「だがな、俺にはこの穴の正体は分かっている、そして無論、お前の夢も……全ては」

 彼の眼鏡がきらりと光ると、その奥の鋭い視線で彼らを貫いた

「新大陸っ!」

 その時、智樹は思った

(駄目だこいつはっ。トラブルの塊どころか、トラブルで作られたような奴だ。こんなのに関わったら俺のへ、平和が………)

「桜井智樹、絃城恭夜。お前らは運がいい。今日の深夜十二時、この新大陸は空美町を通過することになっている。一緒に行くだろう?」

 守形は智樹と恭夜の肩をがしっと掴んだ

「いや、俺は遠慮しときます」
「そうか、俺を信じろ。お前の夢は必ず俺が見つけてやる」
「はい、俺は遠慮しますんで智樹と行って下さい」
「ちょ、恭y!?」

 その後、結局智樹にせがまれて恭夜も行くことになったのは言うまでも無い。

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「あれ?」
「おい」

 現在、深夜十二時近く。場所は大桜の根元、風が吹くたびに黒い波が立つ草原の中、そこの集まるはずだった四人の男女の姿は無く。代わりに桜を背もたれに立つ絃城恭夜と、何故か制服で三角座りをしている桜井智樹の姿しかなかった

「あれ?」
「おい、なんで嫌がってた俺とお前しかいないんだよ?」

 再度呟く彼に恭夜は聞く

「いや………」
「まあ、いいや。トモ坊、のど渇いたから何か飲みもん買ってくるけどコーヒーでいいか?」
「あ、うん。コーヒーでいいよ」
「了解、んじゃ、おとなしく待ってろよ」

 恭夜はそのまま歩いて自販機のあるところまで歩いていってしまった。

「ああ、ついに一人かぁ」

 そして、智樹だけが集合場所に残されたのである。まあ、恭夜の場合は気を使ってくれたのだろうが……

「って、ふざけんな!!お前らが来いって言ったのに!!俺は帰るぞ、俺は」

 智樹は立ち上がる。

 ―――空に捕まってる


 しかし、ふと思い出したのはあの夢の少女の言葉。悲痛な、助けを呼ぶ声。何故かそれが耳に聞こえた気がした

 智樹が携帯を確認すると、既に深夜十二時五十八分。新大陸の通過まで後、二分

「空に、捕まってる、か」

 彼はその場に座り込んだ。どうかしている、そう心で呟きながら

 そして、ついに携帯電話は十二時を示した

「……そろそろか?」

 回りを確認してみるが、大した変化は見られない。そのまま一分、二分と過ぎたとき、智樹は悟った

「ほら、やっぱり何も」

 突如、彼の携帯電話は鳴り響いた。まるで彼を監視していたように

「ど、わ、え、えと、な、もしもし?」

 あわてて電話に出ると、そこからは守形の声が聞こえた

「な、何すか、先輩。驚かせないで下さいよ」
「智樹、すまん。恭夜もいるなら伝えろ。やっと今までのデータが まとまってな……今、大急ぎでそっちに向かっているんだがよく聞け」

 電話の守形は一旦言葉を切ると、すぐに大きなしっかりした声で、智樹に伝えた

「今すぐそこを離れるんだ」

 少し時間は戻る。

 飲み物を買いに行くといってその場を離れた絃城恭夜。彼は二人分の缶コーヒーを自動販売機で買い、それを取り出そうとしたとき、彼の頭を過ぎる言葉があった

 ―――空に捕まってる

 あの少女の酷く悲しそうな言葉。助けてと叫ぶ悲痛な声に、必死になってそのか細い腕を掴もうとして結局届かない

「空に、捕まってる………か。」

 彼はふと空を見上げる。見上げたその黒い空は星で埋め尽くされていた。なんら変わりのないいつもの星空

「さ、トモ坊も待ってることだし早く戻んないとな」

 彼は缶コーヒーを手に再び大桜に向かって足を進めようとした時、彼の魔術師としての感が働いた

 ―――何かが近づいて来ていると―――

 彼は眼を強化し夜空を見据える。その眼には星々を食い尽くしたような黒い塊と白い何かを捕らえることができた落下予想地はちょうど、智樹のいる大桜付近と予測された

「このままだとトモ坊が危ないな」

 このとき時間は深夜十二時ジャスト。手に持った缶コーヒーをその場に投げ捨て、脚に強化の魔術を掛け、大桜まで疾走する

(間に合ってくれよ!!)

 残り三十秒、一段とその落下物が大きく見えるようになった。そして、落下まで残り一秒。

 彼は大桜の約五十m前から叫んだ

「トモ坊!!そこを今すぐ離れろ!!」

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

「トモ坊!!そこを今すぐ離れろ!!」
「うおっ!?」

 それに気が付いたのか智樹はその場を仰け反るように後ろに飛ぶと、彼が今まで座っていた場所に光の帯、いや、質量を持った何かが墜落してきて、その場に突き刺さったのである

「な、何が」

 その間に絃城恭夜は智樹に近づくことに成功していた

「大丈夫かトモ坊?」
「だ、大丈夫だ。これって……」

 智樹が指差すので、二人は一緒に穴を覗き込む。大きく削られた地

 面の中には水蒸気のような煙が立ち込めている。それが少しずつ晴れてきたとき、彼らは見つけた

 まず、見えたのは、女性の胸らしき部分。胸元がぱっくり開いた大胆な衣装であるが、紛れも無く、それは女性の胸………

「人?いや、ち、違う」

 智樹が脅えたように唇を振るわせた。

「人に……生えている訳が無い」
「アレは……翼か?」

 水蒸気が消え去り、落ちてきた彼女の全体像が見えてくる。彼女は鎖の切れた露出の多い衣装と多少変わったいでたちをしているとはいえ、普通の少女と変わりない姿であった。

 そう、背中に生える淡い桜色をしたそれ以外は………

(人に、羽なんて生えていない!)

 仰向けになって眼を閉じている少女の背中からは紛れも泣く、彼女の数倍はありそうな……まるで飛んでそれを羽ばたくことを想定したような大きな翼があった

「こ、こいつはトラブル臭が凄過ぎる!て、撤収!!」
「あ、おいトモ坊。どこ行くんだよ!!」

 智樹は自己完結したようで踵を返して走り出そうとした。が、恭夜に腕をつかまれそうになる前にあるものに気が付いた

「え?」

 間抜けな声を出すと、空気を切り裂くような音とともに、自分のいる場所に何かが落ちてきた

「おい、動くなトモ坊!!」

 自分が昔、兄と慕っていた恭夜が叫ぶ

「うおぉぉぉ?」

 思わずその場にへたり込むと、目の前に柱……まるで○ピュタにあるような巨大な石柱が大地に深く突き刺さり、地面が衝撃で揺れた

「トモ坊、お前はその少女を早く助けろ!!」
「まって、恭兄はどうするんだ……よ?」

 彼の前、正確には穴の上に立つ恭夜に彼は問いかける

「大丈夫だ、問題ない!!」
「何が問題ないんだよ!?問題だらけだろーが!!」

 にこやかに問いに答える恭夜に智樹は怒鳴っていた

「と、まあ。冗談はさておき、早くその子をそこから引きずり出せ」

 恭夜はどこからか木刀を取り出すと細かい石屑を弾く

「くそ、分かったよ!!やればいいんだろ!!」

 彼はぐいっと彼女の両腕を自分の肩に掛けると、身体の小さい彼はできる限りの力でその場から離れていく。のろのろとした動きだが確実に一歩ずつ進んでいる。

 しかし、そんな彼の足取りを妨げるかのように再び、ひときわ大きな石柱が彼の上空に現れた

「あ……」
「トモ坊!!」

 後ろから恭夜が走ってくるのが見える。しかし、間に合ったところでどうにもならないだろうと智樹は諦めた

「う、うわぁぁぁぁあああ?」

 ……その時、羽を持つ彼女が眼を覚ました

「え?」

 突然の浮遊感に智樹は目をつぶった。何かに引っ張られているように彼は感じた。再び彼が眼を開いたとき、彼は空に浮かんでいた

(あ、俺、空を飛んで……死んだのか?)

「トモ坊〜!!お前はまだ生きてんみたいだぞ〜。後ろ見てみろ〜!!」
「って、はあ!?」

 彼は下から聞こえる声に反応して後ろを見た。

 そこには、先ほどの少女の姿があった。そして

「インプリンティング、開始」

 少女がそう呟くと、彼女の首輪の鎖が修復されるように徐々に伸び始める。それは智樹を守るように一周し、そして智樹の右手を見つけたといわんばかりに鎖が伸びると、しゅるしゅると巻きついてしまった。

「え?」

 もう柱も何も無くなった先ほどの場所まで降りると、智樹はまきついた鎖を眺める。握り締めると、じゃらっと言う鈍い金属音が鳴った。

「何、これ?」

 下りてきた智樹の言葉に恭夜はニヤニヤしながらこう呟く

「ペットに繋ぐ鎖みたいだな。トモ坊にそんな趣味があったなんて知らなかったぜ」
「ちょ、恭兄誤解だって!!な?」

 智樹が彼女にそう振ると、彼女はそれに答えるようにこう述べた

「初めまして。私は愛玩用エンジェロイド、タイプアルファー、イカロス」

 彼女……イカロスと名乗った少女の首輪の鎖が静かに揺れる

「貴方が楽しめる事をなんなりとご命令ください……マイマスター」

 それを聞いた恭夜は顔をしかめる

「おい、トモ坊。流石にそれは………いや、なんとも言わないけどよ」
「あ、あの。なんで距離をとっているんですか恭兄?」
「俺も最初は冗談のつもりだったんだが、まさか本当だったとは……」
「い、いや。だから」

 智樹は必死に少ない語彙を探しながら誤解を解こうとしていた。が、その必要は無かったようだ

「まあ、冗談だ。それより、そこの彼女、早くお前の家に連れてくぞトモ坊」
「え、あ、ああ」
「と言う事だ。よかったなイカロス」

 その言葉に、彼女……イカロスは頷いた

 こうして、少年の空から落ちてきた未確認生物との暮らしは始まるのだった 
 

 
後書き
◆◇◆◇◆◇◆◇

「良かった……無事についたみたいね」

 ふぅと儚げな息をはき少女は胸を撫で下ろした。

「この世界はきっと―――」 
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