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そらのおとしもの~それぞれの思い

作者:絃城恭介
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ぷろろーぐ
  Prologue〜そらのおとしもの

 
前書き
始まりはいつも同じ場所、同じ夢の中

僕たちの望んだものはどこにあるのだろうか?

というわけで始まります。無理な人は戻ることをお勧めします 

 
 俺は夢を見る。誰かを助け、自分も救われ、守るべき少数のために多数を捨てた人間の夢を。前世に果たせなかった理想を貫いた男の夢を

 その男の名前は絃城恭夜。絃城の家系の一人らしいがこの世界には存在していない。なぜならこの夢を見ている俺が絃城の後継者である絃城恭夜なのだから。絃城の家系は代々夢を通して並行世界に通じるらしい。そして俺も現在それを経験することになっている

『模倣』の魔眼、それが俺の引き継いだ絃城による能力だった。俺の現在見ている夢に出てきた『絃城恭夜』の能力は『創造』、歴代最強の血縁者であった『初代』を超えた化け物。彼は神と同化したのだ。

もともと彼は絃城の能力を受け継いではいなかった。だが、あることを切欠に能力を覚醒させた。

それは『転生』

彼は一度死んで別の世界に甦ったらしい。俺はそんなことがあることが未だに信じられない。

現実に存在することは事実として認識されるが現実にありえないことは非現実となる。つまりこの世界にありえないことは別世界にもありえない。

なぜならそれはあくまで『可能性』の世界なのだから

けれどそれはありえたのだ。確かに現実としてここに存在している。『俺』という存在がその証明になるらしい。不完全ながらも俺も『創造』を使えるようだからだ

ここからは俺の話をするとするよ。この物語の主人公は夢の男『絃城恭夜』ではなくこの世界の『絃城恭夜』、俺の物語なのだからさ


◆◇◆◇◆◇


俺は幼い頃に不思議な夢を見ていた。ある男の子と女の子、そして俺が三人で手をつないで広い草原に立っている夢を。

俺たちはいつも楽しく遊んでいた。けど、夢には必ず終わりというものが訪れる。

決まって彼女は俺達二人の前で空にさらわれる。その泣き顔に俺達二人は必死に手を伸ばして、その手を掴もうとするが間に合わない。

そして彼女は言うのだ

『――――――』

届かなかった手を俺は固く握り締め、悔しさを忘れることはなかった。俺の隣の彼は、空に舞い上がった少女を見て泣いていた。

夢はいつもそこで終わる

けど、不思議なことにその夢は忘れる事はない。そして俺はいつものように目を覚ます

「ふぁぁぁ〜、よく寝たなぁ」

そう一言、欠伸をしながら呟く。殺風景な部屋の片隅に置かれたベッドから立ち上がり居間に向かう。棚から食パンを取り出し口にくわえる。

ただ一人、広い家で朝食を食べるほど虚しい事はないだろう。普通の家庭ならば、朝には『おはよう』と家族に言い、皆でわずかな時間の朝食を楽しむのだろう。

けど、俺は違う。お察しの通りだろうが家族はいない。父曰く『魔術は秘蔵すべきものだ。基礎を習得し、絃城の全てを教えたお前はこれから一人で生きなさい』

だ、そうだ。俺にはそんなことは関係なく家族と暮らしたかった。

小さい頃に暮らしていた空美町は父のせいで引っ越してきてしまった。空美町で俺と仲良くしてくれた彼は元気だろうか?

「まぁ、こんなこと思っても現実は変わらないよな」

食パンを飲み込み朝食を終える。実に数分の朝食の時間が終わり、再び自室に戻ろうとしたとき、そこに一本の電話がかかってきた。
こんな朝早くから誰だろうか?そんなことを思いながら受話器を手に取り耳に当てると、意外な人物からの電話であった

「はい、恭夜ですけど」
『父だ、突然だがお前は空美町に引っ越してもらう』
「はい!?」
『お前はこれからそこで自由に生きなさい。転校の手続きもしてお
いた、これが私からの最後の贈り物だ』

がちゃん、ツーツー。耳に電話が切られたときの音が響く。

もう少し会話を楽しんだっていいじゃないか、なんて思う暇もなく俺は呟く

「どういうことだよ、親父殿?」


◆◇◆◇◆◇

「トモちゃん、トモちゃんっ」

これで何度目になるのか分からない揺さぶりを布団にもぐるトモちゃん……桜井智樹へ仕掛けるのは隣に住む幼馴染である見月そはら
であった

「起きてよ、遅刻しちゃうよ、トモちゃんっ」

彼女は快活そうな印象を与えるポニーテールを揺らしながら、再度、智樹の布団をゆすってみるが、もうちょっと、もうちょっとの一点張りで効果がない。

彼女、そはらは自分の用事が無い限りは、彼、智樹と一緒に登校するのが日課であった。それは子供の頃からの習慣であり、今更、中学生になったからといってやめるなどという考えなどは無かった。

その彼女の顔にうっすらと施された化粧は、決して惰性だけで彼を起こしていないということを証明していた

「むぅ」

可愛らしい小さな唸り声を上げたそはらは、幾分、焦るように自分の時計を確認した。この時間ならば優等生でなくとも普通に登校する時間であるが、遅刻常習犯である智樹にとっては関係のないことであった

本来ならばもう少し速く智樹を起こしに来ているのだが、今日はどうしてもリボンの結び目が納得行かずに時間がかかってしまったのだ。

いくら揺すっても起きる気配のない智樹に彼女は最終手段をとった

「こうなったら……えい!!」
これ以上は時間の無駄だと踏んだ彼女は、智樹の寝ている布団を引っぺがした。こうすれば寒くなって自然に起きる。そう考えていた彼女は、寝転がっていた智樹を見ると

(え、これって……//////)

一瞬の沈黙。だが、彼女の顔は即座に赤く染め上がり

「きゃぁぁぁぁぁ!!」
「な、なんだ、どうしたそはらっ?」

突然の悲鳴に驚いた智樹が起き上がると、目の前のそはらは口を手で隠し、つぶらな瞳はまっすぐ何かを見つめていたそれは寝起きで寝癖のついた智樹の顔でもなく、彼のお気に入りのパジャマでもなく、ずっと下を見ていた

………つまり、男性的なアレ

「これは茶柱デス。立っていると、朝からエンギがとても」
「いぃぃやぁぁぁぁ!!」

そはらの右手が素早くチョップに固められると、そのまま智樹の頬に直撃した。それは一度ではなく数回繰返され、桜井家と書かれている表札の家から鈍い音が鳴り響いたのである

数分後、何とか着替え終わった智樹はそはらに連れられて学校に向かっていた。

彼、桜井智樹の住む空美町は人口七千人位の山に囲まれた町だ。決して楽しい町ではなく、本来なら中学生には暇で仕方ないところだ

「トモちゃんの馬鹿、変態!!」

実に、今日四度目の謝罪に四度目のそはらの変態という言葉そはらの表情から察するに別に本気で怒っているわけではないのだろうけど

(すぐに機嫌が直ってくれればいいけど………何も本気で殴らなくてもいいのに)
そんなことを考えながら、智樹はあぜ道から見える風景に視線を送る。そして思うのだ

(今日も平和だ)

平和、平穏、普通、彼にとっては退屈を表すものではなく幸福を示す言葉である

彼はそんな生活を死ぬまでこの町で送りたいと思っている

「あれ、なんだか校門のほうが騒がしいね」
「ん?」

そはらの声に智樹は目の前に迫った校門に目を向けると、確かに校門に人が集まっているのが見えた

そんな時彼の耳に入った言葉は、飛び降りだってよ、屋上からさ、え、マジかよ。誰だよそいつ。なんて声が聞こえた

「はぁ!?飛び降りぃ?」

智樹とそはらを追い抜いていったカップルの後を追って校門に入ると、確かに屋上に一つの人影があるのが確認できた

やめろ、飛び降りるな。早まるな、希望はまだあるって!!という声に誘われるように前に二人が足を進めると、徐々にその姿が見えてきた

まず、男子学生であり何かをぶつぶつと呟いている。そしてその横には飛び降りるといわれていたがグライダーが置いてある

「あ、あれ。守形先輩じゃない!?」

隣のそはらは声を躍らせながら言う

「守形先輩?」
「ほら、『新大陸発見部』の、変わり者で有名な」

(そういえばそんな人いたっけ)

智樹も噂にだけは聞いたことはあったが、学校の屋上からグライダーで飛ぼうなんて考えを起こすような人物は自分の日常を崩すだけのトラブル製造機な存在なので、なるべく関わりたくない人物だと思っていたので顔すらまともに知らない

「あらあら、やっぱり守形君」
「やけに楽しそうに見えるんですけど?」
「あら〜、転校生君。それは気のせいよ〜」

隣で聞き覚えのある声と、昔どこかで聞いたことのあるような男の声が聞こえた。

智樹がそちらを見ると、周りの女子よりもいくらか大人びた印象を与える、適度に整った体つきの女性と、転校生と呼ばれた背が高く、顔が整っているどこか懐かしい少年がいた

「あ、生徒会長おはようござ」
「あらぁ、スケベで有名な桜井君とその幼馴染の見月さんじゃない
?今も二人でお風呂に入ってるって噂の」
「朝から随分な会話ですね。もはや朝の会話じゃないですよ?」
「あら〜、随分ってどんな意味かしら転校生君?」

転校生君と呼ばれる少年は「ぐっ」と呻くとそのまま静かになってしまった

「それで、どうなのかしら?」
「え、いや、違います」
「見月さんの下着を桜井君が選んでるって〜」
「ち……違います」
「朝の元気な男の子を嫌がる見月さんに無理矢理見せたんですってね。そういうのはまだ早いと思うわ」
「いや……あの、見てたんすか?」
「見てたってどういう意味かしらぁ。会長、意味が分からないから教えてくれる?」
「す……すみません、謝りますから許してください」

その場で土下座をして謝ると、転校生と呼ばれた少年に

「なんか、見ていて不憫だ……」

と、言われて少し泣きたくなった。

「で、守形君だけど、本気で飛ぶみたいね」

この学園の生徒会長、五月田根美香子は謎の笑みを三人に送ると屋上にいる守形のいる屋上に向けた

「か、会長って確か守形先輩の幼馴染ですよね?だったら早く説得して止めてくださいよ」
「ううん、確かにそうね。彼にナイフを説得と称して突きつければやめるでしょうね。けど……」
「分かってるなら止めましょうよ?」

転校生の言葉を無視して会長は屋上を見て言う

「面白そうだから、このままにしましょう」
「か、会長?先輩が心配じゃないんですか?」
「あら、心配はしているわぁ」

そういうと制服の中に手をいれ、黒い何かを取り出す

「なんで?」
「か、か、会長。まさかそれって」
「ええ、チャカよ。ハジキとも言うわね」
「いや、そうじゃなくって。それ、本物じゃないですよね?」

そこからは会長の娯楽のために、屋上から飛び立った守形先輩は乾いた音とともにグライダーに穴が開き、校庭に墜落させられたのは言うまでも無い。

事が終わり、俺らは自分の教室に向かう。そして、何事もなかったかの様にホームルームが始まった。いつもならば事後連絡と出席を取りホームルームは終わるのだが今日は違った。

「今日は転校生の紹介もある。入ってくれ」

ドアが開き、朝の少年が入ってくる

「隣町から引っ越してきたらしい。それじゃ、自己紹介して」

少年は「ハイ」と答え、黒板の前に立ちチョークで名前を書き込んでいく

「絃城恭夜です。小さい頃はこっちに住んでいました。これから仲良くしてもらえると嬉しいです」
「それじゃ、絃城。席は……桜井の前の席が空いているからそこに座ってくれ」
「分かりました」

黒板の前から自分の席の前まで歩いてきて席に座った。そして

「席、前になったからしばらくよろしくな。えと……桜井」
「あ、ああ。よろしく。えと」
「恭夜でいいよ。桜井」
「じゃあ、俺も智樹でいいよ」

その時、頭の中を何かがよぎった。それは幼い頃の記憶

「恭兄?」

そう呟くと、恭夜は驚いた顔をして指を指しながら聞いた

「なんで……まさかトモ坊?」

二人で大笑いしてしまった。もう会うことはないだろうと思って最後に大喧嘩して別れたのにこうして再開を果たしたからだ
そして、彼らはこう思った

((今日も平和な一日だといいなぁ))

◆◇◆◇◆◇
ホームルームが終わり、授業が始まると智樹と恭夜は二人して居眠りをしていた。

もともと恭夜は頭がいいので問題ないが、智樹はその逆でできないから居眠りをする。

そして、恭夜は久しぶりにあの夢を見ていた

広い草原で三人で手を繋いで立っている夢を。唯一つ、彼女と彼らが違うことは、彼女には翼が生えているということ。

そして彼女は彼らを置いていくように空へと舞い上がる。唯一ついつもの言葉を残して

―――たすけて。空に……つかまってる

恭夜は諦めずに手を伸ばし、その手を掴まんと飛び上がるが届くことは無かった。そして、いつものように隣の彼は泣いていた。

それを慰めようと、自分の無力さ加減を謝ろうと彼に近づくと、いつもそこで夢はそれを拒むように強制終了される…………はずだった。しかし今回はいつものように夢は終わらずに彼に話しかける事ができた

『悪い、俺の手がまた届かなかった。お前は悪くないんだよ?』
『いいや、俺がしっかり手を伸ばさなかったから……』

聞き覚えのある声、つい最近見たような気がする姿。恭夜と彼はお互いの顔を見ようとしたときに………目の前が暗黒に包まれ夢は終わった

あの夢を見るとどうしても悔しさで目が覚めてしまう。恭夜は自分の不甲斐なさ、無力さを思い知らされているような気がしてたまらない

恭夜が完全に目が覚めると授業終了10分前。恭夜は机に出しておいたノートに手早く黒板に書いている内容をまとめ授業を終わらせた。

恭夜の後ろでは未だに寝ている智樹の姿、それを見かねたそはらは声をかけていた

「トモちゃんっ!」

その声に反応するように智樹は目覚めたのか、そはらに向かって呟く

「………すみません。すぐ起きますんで、殺人チョップは勘弁してください」
「殺人チョップ?見月はいつもそんな起こし方をしてんのか?」
「ち、違いますよ?そんなことしないよ?それにトモちゃんも寝ぼけてるんだよ、きっと!!」
「まあ、別に気にしないんだけどさ」

そんな会話の中、ふと恭夜は智樹の顔を見た。恭夜はその顔をみて驚いた、その両目からは涙が流れ出ていたのだから

「トモちゃん、またあの夢、見たんだね?」
「へ!?」

智樹が頬を触ると微かに水気を感じた。それは紛れも無く、すでに冷えてしまった涙の痕だった。しかし、このようなことは智樹にとって今に始まったことではなく、智樹はごしごし顔を擦って、それを拭い取ってしまう

「なんだ、またか」
「またか、じゃないよ。トモちゃん子供の頃からずっと……何か心配だよ」
「子供の頃からずっと?」

恭夜は顔をしかめた。彼の夢の中の少年もいつも泣いていたからだ

「どうかしたの?」
「いや、智樹さ、もしかして夢の中で女の子に会ってないか?」
「え!?」

智樹は驚いた、何故彼がそれを知っているのかというように。そして恭夜も確信に近づいたかの様に納得している

「恭夜、何で?」
「いや、なんとなくだよ。確かに少し心配だなぁ、病院でも行ってみないか?」

はぐらかすかの様に恭夜が勧めると、そはらも便乗したのか勧めた

「そうだよ、トモちゃん。絃城君の言うとおりだよ」
「は、はぁ!?ば、馬鹿いうな、病院でなんていうんだよ!俺は夜に眠れない子供か、もう中学生だぞ」

そはらは「でも」と呟き、恭夜は「ははっ、そうだよな」と言っていた。そはらの場合は本気で智樹のことを心配しているのが分かった。けど恭夜の場合は冗談にも取れるので今回はそっちのほうが嬉しかった。

けど、こういうときの彼の嫌な感は当たることが多い。そう、そはらが変な事を考えている気がしてならなかった

「そうだ、じゃあ。守形先輩に相談してみたらどうかな?」

智樹の予感は的中していたのだった。

そう、全ては彼女が望む方向に進むのだ。 
 

 
後書き
◆◇◆◇◆◇

モニターがいくつも並ぶ部屋のベットの上で、翼の生えた少女は微笑む。

それは忘れてしまわぬためなのか

一時の幸せに逃げ込んでいるだけなのか…… 
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