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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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As 14 「闇の書の意思」

 高町やテスタロッサの協力もあって、拘束していた魔法をどうにか打ち破ることができた。
 はやての元へと向かった俺達の目に映ったものは、闇色の光の柱。高町がレイジングハートを初めて起動させたときに見たことを思い出すが、目の前のそれは高町のよりも濃密な魔力を感じる。
 いったい何が起きているのか、はやては無事なのかなど様々な思考をしつつ近づいていると、突如闇色の柱が爆ぜた。それに伴って発生した衝撃波によって停止させられる。

「……また……全てが終わってしまった」

 闇色の羽根が舞い散る中、同色の魔法陣の上に長い銀髪の女性が立っていた。漆黒のバリアジャケットに、魔法かバリアジャケットの一部と思わしき翼。はやてとは全く似ていないが、状況から考えてはやてなのだろう。
 管制人格が搭載されている闇の書は、ユニゾンデバイスと呼ばれるものにも分類されるはず。本来は主の姿をしているらしいが、主に問題があったりした場合は管理人格の方が表に出るといった情報を調査の一環で見た気がする。
 管制人格の隣にはナハトヴァールと闇の書の姿がある。王の傍に控える側近のようにも見えるが、一定時間が経過すれば管制人格ではなくナハトヴァールが主導権を握る。そうなれば破壊の未来しか訪れはしない。
 あいつが王に成り代わる前に管制人格と話し合わなければ……。

「我は魔導書……我が力の全てを」

 管制人格が右手を高く上げると、闇色の球体が出現する。豆粒ほどにしか見えなかったそれは、飛躍的な速度で肥大化した。

「忌まわしき敵を打ち砕くために……」
「……ショウ!」

 距離を詰めようと前に出た瞬間、テスタロッサから制止の声がかかった。何だ? と思いもしたが、管制人格が発動させようとしているのが空間攻撃だと悟る。
 これまでに蒐集された膨大な魔力を使用するのならば、距離があろうと充分な威力があるはず。距離を取りたいところだが、すでに発射直前だ。いまさら大した距離は稼げない。
 となると防ぐしかないが、俺の防御力で対応できるだろうか。いや、やるしかない。高町に防御してもらうほうが安全だろうが、前に出てしまったために不可能。それに個人的には大問題だが、客観的に見れば俺が戦闘不能になっても高町とテスタロッサが無事ならば希望はある。

「闇よ……沈め」

 闇色の球体が小さくなって行ったかと思うと、圧縮されたと思われる膨大な魔力が一気に拡散する。高町は、防御を捨てていたテスタロッサを守るように位置を取って防御魔法を展開。俺も可能な限り多重で防御魔法を展開した。
 膨大な魔力が防御魔法に衝突。俺の展開していた防御魔法は次々と壊れていく。破壊されるにつれて、腕に伝わる衝撃や胸の内にある負の感情が強くなっていく。

「はぁ……はぁ……」

 衝撃で後退させられたこともあって、どうにか紙一重で防ぎきることができた。カートリッジシステムがなかったならば、俺は今頃沈んでいたことだろう。
 高町はレイジングハートを一旦テスタロッサに預けて右腕の感覚を確かめ始める。

「なのは、ごめん。ありがとう」
「大丈夫、私の防御頑丈だから」

 俺と同様に負荷があったようだが、優れた防御力を持っているだけあって彼女はテスタロッサからレイジングハートをすぐに受け取った。テスタロッサは回避が難しい空間攻撃のことを考慮してか、バリアジャケットを普段の形態に戻す。

「ショウくんは平気?」
「……まあ……大丈夫かな」

 左腕に力が入りづらくなっているが、俺は右利きであり剣も片手で持てる重量だ。他の形態となると話は別だが、今の状態のままならば問題はない。

「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。心配かけて悪い」
「謝る必要はないよ。でも無理はしないでね」
「それは……状況が状況だけに善処するとしか言えないかな」
「それなら、普通に善処するだけでいいと思うよ」

 変に真面目だよね、と言いたそうにテスタロッサは笑っている。その笑顔は、どことなくはやてが俺に向けるものと同じに見えた。
 ……そういえば高町が会話に入ってこないな。いつもなら真っ先に俺の言ったことに何かしら言うのに。
 視線を高町のほうへ向けると、彼女は何やら不思議そうな顔で俺とテスタロッサを見ていた。

「なのは、どうかした?」
「え、ううん何でもないよ」
「何でもないようには見えなかったけど……」
「えっと、ほら今はそんなことよりもあの人だよ。あの人は……いったい?」

 うやむやにしようとしているように見えるが、彼女の言っていることのほうが優先事項だ。

「彼女はおそらくベルカの融合機だよ。簡単に言えば、主と一体化して戦う人格型管制ユニット……」

 と言ってからある疑問が湧いた。
 テスタロッサはまだしも、魔導師になってから1年も経っていない高町に言って分かるのだろうか。ベルカとかは魔法体系でもあるから分かるだろうけど……いや、彼女だって闇の書に関する情報は耳にしているんだ。はっきりとは理解できていなくても、何となくは理解しているはず……。

「ショウくん?」
「ん、あぁ何でもないよ。本来なら彼女は、主をサポートする役割のはずだから表には出ないはず。なんだけど……」
「現状は表に出てるよね。ということは……おそらくはやては意識を失ってる」
「だろうね」
「助けるには?」
「分からない……」

 そう、テスタロッサの言うように方法は不明。だが彼女がメインである今はまだ可能性が残されている。方法が分からないといって諦めるのは愚かだ。

「なら話してみればいいだけさ。彼女が一番情報を持ってるだろうから」
「うん!」
「そうだね!」

 俺達は広範囲に結界を発動させた管制人格へと近づいていく。彼女が結界を張り終えるのとほぼ同時に到着。全く怖気づいていない高町が口を開く。

「あの、闇の書さん!」
「…………」
「私達、はやてちゃんやヴィータちゃん達を……」

 そこで高町は口を閉じることとなった。管制人格が彼女の言葉を遮るように話し始めたからだ。

「我が騎士達はお前達を打ち破り、ナハトの呪いを解き主を救うと誓った。そして主は、目の前の絶望が悪い夢であってほしいと願った。……我はただ、それを叶えるのみ」

 確かにシグナム達ははやてを救おうとしていたし、閉じ込められている間にはやては嫌な光景を見たことだろう。
 だが闇の書の完成は全ての終わりを意味する。重要なシステムの一部である彼女ならば、そのことは理解しているのではないのか。

「……叶えてどうするんだ?」
「どうする? ……私はただ騎士達や主の想いを叶えるだけだ」

 叶えたからといって、シグナム達が戻ってきたりはやてが解放されるわけではない。いったい誰が幸せになるというのだろう。
 そんな想いを思わず口にしそうになる。しかし管制人格の瞳を見た瞬間、口に出そうとした言葉は霧散していった。彼女の瞳に視線を釘付けにされたからだ。あの瞳を俺は知っている。
 両親を失ったばかりの頃の俺と同じ目だ……いや、俺よりももっと深く絶望しているように見える。……それも当然か。彼女はこれまでに数え切れないほどの主を失ってきたんだ。
 力を欲していた主が多かっただろうが夜天の書と呼ばれていた頃の主の中には、はやてのような優しい心を持った主だっていたかもしれない。大切な人との別れというのは、たった一度でも心をズタズタに切り裂いて破壊する。それを何度も経験したとすれば、心が壊れてしまうのは当然だ。
 だから彼女は……きっと諦めてしまっているんだ。闇の書が完成してしまっては、もう未来は変えられないと……。

「……ただお前は主にとって大切な存在だった。そして騎士達にとっても……騎士達はお前と敵対していたが、本当はお前を傷つけたくはなかっただろう。今すぐここから立ち去ってくれ」
「それは……できない。俺は最後まで諦めないと決めたんだ。はやてを救う可能性がある限り、俺がここから立ち去ることはない」
「……そうか。では仕方がない。主には穏やかな夢の内で永久の眠りを……そして、我らに仇なす者には永遠の闇を」

 管制人格の足元に魔法陣が出現したかと思うと、地面から炎の柱が次々と現れた。街中の至るところに立っているためランダムか思いきや、的確にこちらの居場所にも噴出してくる。俺達は散開を余儀なくされた。回避運動を続けていると、あることに気が付く。
 ――徐々に高町達から離されている。あいつ……俺だけ遠ざけて全てを終わらせる気か。
 距離を詰めようにも絶妙な位置に炎柱が出現し邪魔をする。遠目に見えるのは、高町の上空へと移動し攻撃を繰り出す管制人格。高町はどうにか受け止めたが、撃ち出された魔力によって吹き飛ばされた。

「なのはっ!」

 テスタロッサは管制人格の進行方向に割り込むように加速し、身体の正面を上空の方に向けながら空になった薬莢を排出。すかさず新たなカートリッジを詰め込むと、デバイスを鎌状に変形させて接近する。

「クレッセントォォセイバーッ!」

 鎌から撃ち出された三日月型の魔力刃は、回転しながら管制人格へと飛んで行った。管制人格はそれを左手で受け止める。それとほぼ同時に、テスタロッサは彼女の背後へと回った。何度見ても驚異的なスピードだ。
 だが驚かされたのはテスタロッサの移動速度だけではなかった。管制人格は彼女の存在を一瞬にして感知し、受け止めていた魔力刃を振り向き様にテスタロッサに向けて放つ。テスタロッサも即座に反応し受けきったが、そこに管制人格が追撃を加えた。
 圧倒的な戦闘能力だと言わざるを得ない。だが高町達の心は折れてはいないようだ。

「コンビネーション2! バスターシフト!」
「――ロック!」

 高町は砲撃を準備しながら、テスタロッサは体勢を立て直しながら管制人格の腕をそれぞれバインドした。
 打ち合わせをしたようには見えなかったが……それだけあの子達は通じ合ってるということか。
 単純に考えても総合力は俺が最も下。管制人格を説得するにも戦闘を行いつつになる……俺が今すべきことはあの子達のフォローだろう。あの子達が戦闘不能になるのと俺がなるのとでは明らかに前者の方が重大だ。

「「シュートっ!」」

 桃色の閃光と雷光のような砲撃が放たれる。見ただけでどちらも強烈な威力を持っている魔法だと分かる。直撃すれば、いくら管制人格とはいえダメージが皆無ということはないはずだ。
 しかし、ふたつの砲撃が命中する直前、管制人格がバインドを破壊。両手を飛来してくる砲撃へと向けて防御魔法を展開する。
 管制人格の張った防御魔法は、高町達の砲撃を受けてもびくともしていない。

「……貫け」

 拮抗している、と思ったのもつかの間、管制人格は砲撃を防ぎながら高町達に魔力弾を放った。その数はそれぞれに10発以上。爆煙で高町達の姿は確認できないが、彼女達の魔力反応にあまり変化が見られないことから即座に砲撃をやめて防御魔法を展開したようなので直撃は避けたようだ。

「…………」

 闇の書が開いたかと思うと、管制人格の両手の先にオレンジ色の魔法陣が展開された。そこからそれぞれ複数の鎖状の魔力が出現する。この魔法はアルフが使用する拘束系魔法だろう。
 高町達を捕獲した管制人格は、彼女達を地面に叩きつける。そして、桃色と金色のバインドで拘束した。

「これ……」
「私達の魔法……」
「……私の騎士達が身命を落として集めた魔法だ」

 管制人格の口が閉じるのとほぼ同時に、彼女の頬を涙が伝う。

「闇の書さん?」
「お前達に咎がないことは分からなくもない。だがお前達さえいなければ、主は騎士達と静かな聖夜を過ごすことができた。残りわずかな命の時を温かい気持ちで過ごせていた……」

 確かに俺達がいなければ、はやてはシグナム達と今日という日を静かに過ごせたことだろう。だが明日はどうだ……明日になればシグナム達は蒐集を再開したのではないのか。それでは上げてから落とすようなものだ。はやてはより寂しさを感じて、苦痛に耐え続け……死を迎えることになったのではないのだろうか。
 あいつらは必死にはやてを助けようとしていた。だが結果的に、はやての首を絞めてしまっていた。はやてはただ一緒に過ごせれば、たとえ命の灯火が消えようとも幸せに逝けると思っていたんだろうな。何でこうも現実はすれ違ったり、残酷なんだ……。

「はやてはまだ生きてる! シグナム達だってまだ……!」
「もう遅い……闇の書の主の宿命は、始まったときが終わりのときだ」
「まだ終わりじゃない、終わらせたりしない!」

 ……そうだ。高町の言うとおり、まだ終わってなんかいない。俺達は全員戦えるし、管制人格だって健在だ。ナハトヴァールが主導権を握ったわけじゃない。そもそも、彼女は泣いているんだ。本気で諦めているのならば泣いたりなんかしない。
 そう思った瞬間、俺は無意識の内に動いていた。
 高町達の傍に降り立つの同時に、管制人格の放った砲撃が飛来してくる。高町達を守るようにカートリッジを使用して防御魔法を展開。威力を軽減することは出来たが、部分的に通過してしまった。だが大したダメージではない。

「……お前はこれまでに何度も大切な人を失ってきたんだよな。俺も……経験があるから、お前の諦めたくなる気持ちも分かるよ」

 後ろからふたつ息を呑む音が聞こえたが、今はそれを気にしている場合ではない。意識を向けなければならないのは、無言でこちらを見ている彼女だ。

「でも……泣いているのは悲しいから。諦めたくないって想いがあるからじゃないのか? 本当に諦めてる奴は泣いたりなんかしない」
「…………」

 管制人格の頬をひときわ大きな涙が伝って左腕に落ちた。彼女は返事をすることはなく、左腕をこちらへと向けて闇色の魔力弾を放つ。
 今度は防御魔法ごと撃ち破る威力だろう、と推測した俺は高町達の方を見る。するとテスタロッサと視線が重なり、彼女が何かしら行動を起こす気配を感じ取った。この場から離れる準備をしつつ、少しでも時間を稼げるように防御魔法を展開する。
 爆発が生じた直後、爆発の威力に見合った量の煙が立ち込め始める。それを眼前で見るようにしながら後方へ下がり、高度を上げて行った。飛行スピードが劣っている高町は、バリアジャケットをパージしたテスタロッサが引っ張ったことで回避できたようだ。

「……主や騎士達が愛した少年、ここから立ち去ってくれ」
「断る。俺ははやてを……いや、はやてだけじゃない。シグナム達――」

 彼女はこれまでに何度も主を失ってきている。闇の書が完成してしまったら全てが終わる、主を救ってやれないという呪縛に囚われているはずだ。これは変わることがない事実なのかもしれない。だが変えられる可能性だってあるはずだ。

「――そして、お前のことも助けてやりたい。だから何度立ち去るように言われても、俺の答えは変わらない」

 視線は重なったままだが、沈黙が流れ始める。高町やテスタロッサも俺と同じように様々な想いを抱いているはずだが、俺に任せてくれているのか黙ったままだ。
 彼女の返事を待っていると突如道路がひび割れ始める。街中の至るところが隆起し、岩の柱のようになっていく。その光景はまるで

「崩壊が始まったか」
「なっ……」
「私も直に意識を無くす。そうなればナハトがすぐに暴走を始める……少年、これが最後だ。ここから立ち去れ」
「さっき言ったはずだ。はやて達やお前を助けると!」
「……ならば仕方がない。私は意識がある内に主や騎士達の望みを叶えたい。お前が邪魔するというのなら容赦しない」

 管制人格が手を伸ばすと、それに従うかのように闇の書が開く。不気味な色の魔力弾が20以上生成される。
 ――頑固者だな……だが俺も自分の意思を曲げるつもりはない!
 素早くカートリッジを装填しなおし、すぐさま3発リロードする。剣の形状が、より洗練されている肉厚な片手両刃直剣へと変化。それと同時進行で、新たな剣が形成され始める。
 刀身部分は薄く、レイピアほどではないが細い。刃の色は右手の剣とは対照的に純白であり、眩い光を放っている。柄の部分は青味がかった銀色をしており、簡潔にこの剣を表現するなら『やや華奢で美しい剣』といったものになるだろう。
 二振りの剣を握り締めた俺は、テスタロッサに教えてもらった高速移動魔法を使用して管制人格へと向かっていく。それとほぼ同時に、彼女はこちら目掛けて魔力弾を放ち始めた。

「う……おおぉぉ――――ッ!」

 テスタロッサほどの機動力がない俺では、飛来してくる魔力弾を避けることはできない。両手の剣に魔力を纏わせ、進行の邪魔になる魔力弾を斬り裂く。
 左腕を前に突き出し、右の剣を肩の高さで構えて限界まで引き絞る。刀身に纏っていた魔力が弾けたかと思うと、灼熱の炎へと変化した。
 それを目撃した管制人格は、防御魔法を展開する。
 俺に彼女の防御を撃ち抜くことができるか……いや、弱気になるな。今はできることを全力でするだけだ。

「撃ち抜くッ!」

 身体を捻りながら右手に握り締めた剣を撃ち出すと、魔法で加速を掛けたこともあってか撃ち出した瞬間に爆音が響いた。紅蓮の炎を纏った一撃は、闇色の防御魔法に激突し大量の衝撃音と火花を発生させる。
 今までで最高の威力で撃ち出したと自負できるブレイズストライクだったが、撃ち抜くどころか完全に静止させられてしまった。高町達の砲撃を防いだ防御力は伊達ではない。

「お前は……主と共に眠るといい」

 ――不味い!
 そう思った次の瞬間、俺は後方へと下がり始めていた。最初は何が起きたのか理解できなかったが、こちらに微笑みを向けているテスタロッサを見た瞬間に全てを悟った。
 テスタロッサの身体は、闇の書に飲み込まれるように光の粒子なって消えていく。一瞬で感情が溢れたために、咄嗟に言葉が出てこない。

「……フェイト!」

 唯一言葉にできたのはそれだった。消え行く少女が驚いた顔をしたが、すぐにまた微笑んで口を動かした。言葉を聞き取ることはできなかったが、俺には「大丈夫」と言っているように聞こえた。
 闇の書が閉じるのと同時に、静寂の時間が流れ始める。
 俺の胸の内はテスタロッサへの気持ちで溢れてしまい、それによって噛み切ってしまったのか口の中に血の味を感じた。

「対象が変わってしまったが、彼女にも心の闇があった。問題はない……」
「…………」
「主もあの子も覚めることのない眠りの内に……終わりなき夢を見る。生と死の狭間の夢……それは永遠だ。お前も夢の中で過ごすといい。そうすれば幸せなまま、知らない内に全てが終わる」
「…………言ったはずだ。俺ははやて達を助ける」

 楽になってしまいたい。そういう思いはある。
 だけど、ここでそれを選ぶのは許されない。主の正体を知りながらも隠し続け、高町達を危険に晒してきたことへの自責の念や、はやて達を助けたいという想いがそうさせている。
 だが最大の理由は、これまでのことを責めるどころか背中を押してくれた……俺なんかを身を挺して庇ってくれたテスタロッサに申し訳が立たないからだ。俺は彼女を助けたい……いや、助け出す。

「お前の提案どおりにすれば、今感じている苦しみや恐怖から解放されて幸せだけを感じることができるのかもしれない。だけどそれは……逃げだ。永遠なんてない……たとえどんなに辛くても、苦しくても。俺は……現実を生きていたい」

 震えそうになる身体をどうにか抑え込み、剣を構え直した。
 ネガティブなことを考えすぎたせいか、吐き気にも似た感覚に襲われている。それを紛らわせるように、意識を管制人格の動きへと集中する。
 管制人格は瞼を下ろし考える素振りを見せる。時間にしてほんの数秒であったが、答えが出たのか彼女は瞼を上げた。

「ならば……お前も私の敵だ」


 
 

 
後書き
 フェイトが飲み込まれたことで、止められるのはなのはとショウだけとなった。だがふたりは圧倒的な力を持つ闇の書の意思に、強い想いで挑み続ける。

 次回 As 15 「騎士達の帰還」

 
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