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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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紅蓮色の戦慄


豪邸があった。
ハートフィリア邸と同じくらいかそれ以上の大きさの豪邸が、青い瞳に映っている。
視界を広くするように帽子を上へと上げ、アイスブルーのショルダーバックをぎゅっと掴む。
ネコを思わせる、大きくてつり気味の目が睨むように細くなった。

「・・・お祖母様」

独り言のように呟く。

(―――――戦ってみせる、どんな手を使ってでも)

自分の中の戦闘意志を確認して、ティアは1歩踏み出す。
もう、後には戻れない。
否、戻るつもりなんて毛頭ない。
何を犠牲にしてでも戦う覚悟があるから、彼女は今ここにいる。

「変なの」

ふと足を止め、呟いた。

(孤独には慣れてるし、好きなのに)

チーム結成時は単独行動が出来なくなるという事に湯気を発するまでに苛立った。
孤独が好きで、誰とも関わらずに生きていけるなら間違いなくそっちを選ぶ。
気高き誇りの一匹狼―――――ミスコンでつけられたキャッチコピーは自分に合っていると思っていた。
なのに、何かが足りない。
何か忘れ物をしてきた訳ではなく、何か心残りがある訳でもなく。

「・・・ま、いいか」

ティアは考えるのを止めた。
何が足りなかろうが、戦う事に変わりないんだから。
気のせいだと結論付け、ティアは屋敷へと向かう。


――――――ギルドで、もう1つの問題が起きているとも知らずに。












「久しぶりだね・・・アルカンジュ」

目の前に立つカトレーンの使い――――闇ギルド『血塗れの欲望(ブラッティデザイア)』ギルドマスター直属部隊、暗黒の蝶(ダークネスファルファーラ)のリーダーである男は、どこか嬉しそうに微笑んだ。

「くだらねー事やってんじゃねぇよ――――――――親父」

それに対し、呆れたようにアルカは答えた。
声から大きな感情は感じられないが、その表情は怒りと苛立ちに染まっている。
立った青筋とギラギラ輝く目が感情を剥き出しにしていた。

「え?」
「親・・・父?」
「つー事は・・・」
「アルカの・・・お父さん!?」

まさかの状況に戸惑いと驚愕を隠せないギルドメンバー達。
ルーは目を見開き、信じられない物を映すかのように瞳を揺らす。
リーダーは芝居がかった仕草でお辞儀をした。





「自己紹介がまだだったね、私はエスト・イレイザー。いつも息子がお世話になってます」





リーダー『エスト』はそう言うと、微笑む。
微笑みもアルカそっくりだ。

「・・・親じゃねぇよ、こんな奴」

その戸惑いの空気を一気に消し去るように、アルカが呟いた。
ただでさえ鋭い目に鋭い光を宿す。
ガシガシと髪を掻き毟るアルカに、エストは笑みを崩さず肩を竦めた。

「ひどいなぁ、私は一応、戸籍上ではお前の父親だよ?」
「戸籍上の話だろ。オレはお前も母さんも親だなんて認めねェ」
「・・・あの事を根に持っているのなら謝るよ。お前には酷い事を・・・」
「違ェんだよクソがッ!」

ガン!と。
近くの椅子が思いきり蹴飛ばされた。
椅子は壁に直撃して、そのまま形を崩して床へと落ちる。
怒りに体を震わせながら、アルカは叫んだ。

「んな事はどうだっていいんだよ!オレの事なんざどうだっていいんだ!俺が言いてェのはな、姉貴の事なんだよ!テメェ等が連れて行った姉貴の!テメェ等は姉貴の葬式に来なかった!親を名乗るなら何で来なかったんだよ!」

ミレーユ・イレイザー。
それがアルカの姉の名だった。
ルーシィと同じ星霊魔導士であり、日の出(デイ・ブレイク)の依頼を受けてエバルーに殺されている。

「ミレーユの葬式?・・・ああ、そういえば出てなかったね」
「姉貴はテメェの娘だろ!?親名乗るなら姉貴の墓行って手ェ合わせてきやがれ!」

自分の中に溜まった苛立ちや怒りを全て声に混ぜ合わせ、ぶつける。
だが、その怒りや苛立ちはエストには届かない。

「・・・ミレーユは邪魔な娘だったよ」
「は・・・?」

ポツリと呟かれた言葉に、アルカは思わず呆然と目を見開く。
ナツ達も言葉を失う。
キャトルとパラゴーネは何も言わない。
その空気に気づいているのか否か、エストは続けた。

「私達が暗殺依頼を受けるのを、彼女は反対してね・・・家族だから殺したくはなかったが、シグリットはミレーユを許さなかった。だから受けてもらったのさ・・・正規ギルドとしての、最後の依頼を」

冷たい何かが、背筋を走る。
アルカの体が、怒りとは違う意味で震え始めた。

「まさかエバルー公爵が本当にミレーユを殺すとは思わなかったけど、結果的に私達のギルドは大きく成長出来たんだよ」

薄く笑みを浮かべ、エストは語る。
震える声で、アルカは紡いだ。
絶対に認めたくない、父親が語った事実を。


「そ、それって・・・姉貴があの依頼に行ったのは、偶然じゃ・・・ねェって事か?最初から・・・仕組まれてたって言うのかよ!」


最後はもう、投げやりだった。
ありったけの感情を詰め込んだ声を、声のままに投げ付ける。



()()



そして―――――エストはそれを肯定した。
1番認めてほしくなかった事を。
よりにもよって、息子の前で。

「――――――っ!」
「アルカ!」

一気にズタズタにされた気がした。
どんな魔法を受けて喰らった痛みよりも大きく、深い傷が一瞬で刻み込まれる感覚。
慌ててミラが支えてくれなかったら、アルカは膝をついて倒れ込んでいた事だろう。
それほどまでにショックだったのだ。

「テメェ・・・自分の娘を殺したのか」
「言い方を改めてくれないか?ナツ・ドラグニル君。私は娘を殺してなどいないさ。殺したのはエバルーだろう?」
「そういう問題じゃねーんだよ!」

床を蹴る。
銃から放たれた弾丸さながらの勢いで、ナツはエストへと向かって行く。

「うおおおおおおおおおっ!」

雄叫びを上げながら、ナツが炎を纏った拳をエストへと向ける。
その瞬間、ナツとエスト、2人の間で焦げ茶色の髪が揺れた。

「!」
魔法籠手(ガントレット)暴拳形態(ナックルモード)威力増幅(パワーアップ)

ナツが目を見開いたのも束の間。
一瞬にしてエストを守るように割り込んできたキャトルは魔法籠手(ガントレット)の形状はそのままに、威力増幅の魔法をかける。

「統帥には指1本触れさせない・・・金牛宮の拳(タウロスナックル)!」
「がぐあああっ!」

ルーシィと同じような背丈の細身の少女から放たれたとは思えないほど高威力の拳が、ほぼ零距離でナツに命中する。
その拳を喰らったナツは勢いよく吹っ飛び、壁へと叩きつけられた。

「金牛宮は怪力を持つ・・・星霊魔導士がいながら、そんな事も知らないのか」

チラリとルーシィに目を向け、キャトルは呟く。
彼女は直属部隊の“金牛宮”。
その名に恥じぬ力を持っているという事だ。

「ナツ・ドラグニル。ティア嬢からは“バカナツ”と呼ばれる。熱血漢で単細胞、火竜(サラマンダー)の異名を持つ炎の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)

機械めいた口調でパラゴーネが言い放つ。

「単調な攻撃のみ可能とされ―――――――」
「・・・黙れ」
「――――――ん?」

音1つ立てず、言葉を続けようとしたパラゴーネの首筋に光を反射して鋭い煌めきを放つ刃が添えられた。
目線だけをそっちに向けると、別空間から魔法剣を取り出したエルザが剣を構えている。

「エルザ・スカーレット。ギルド最強の女魔導士とされ、妖精女王(ティターニア)と呼ばれる。騎士(ザ・ナイト)の使い手・・・なるほど、確かに最強と呼ぶに相応しい魔力を感じる」
「黙れと言ったはずだ。貴様等がカトレーンの使いだか何だか知らないが、闇ギルドの人間である事に変わりはない」
「・・・全く、正規ギルドはこれだから困る」
「何?」

ピクリ、とエルザの眉が動く。
だが、それに構わず、パラゴーネは紅蓮の瞳でエルザを見上げ、呟いた。



「この程度で、天秤宮を司る私の動きを止められると思った?」



ただ一言。
それだけを口にしたパラゴーネ。
そして、ゆっくりと右手を動かす。

「!?なっ・・・」
「ほら」

開いた掌を、握りしめる。
誰にでも出来るような動き。
それだけで、パラゴーネはエルザの持つ魔法剣を()()()()()()()()

「私は天秤宮のパラゴーネ・・・重力を形作る魔導士。天秤宮を名乗っておきながら、重力で剣1本曲げられないなんて・・・おかしいでしょ」

折り畳むように魔法剣を曲げ、パラゴーネはエルザから距離を取る。
すると、周囲をゆっくりと見回していたエストが口を開いた。

「・・・どうやら、ティア嬢がいないというのは本当のようだよ」
「え?」
「統帥?」
「彼女の気配や魔力を一切感じない・・・今の今まで気づかなかったけどね」

困ったようにエストは笑う。
キャトルとパラゴーネは顔を見合わせ、小さく肩を竦めた。

「まぁ、いないのなら仕方がない。シャロン様にもそう報告するか・・・引き上げるよ、2人共」
「承知」
「了解」

エストが赤い髪を、キャトルが焦げ茶色の髪を、パラゴーネが淡い桃色の髪を風に靡かせ、くるりと背を向ける。
そのまま3人が立ち去ろうとした――――――その時だった。





「待て貴様等・・・どこに帰るつもりだ?」





『!』

その声に込められているのは、圧倒的な威圧感。
威圧感の中の静かな怒りに、3人の足は自然と止まった。
振り返ると―――――そこには、怒りを表情に浮かべたマカロフの姿。

「うちのガキにこれだけ手ェ出しといて・・・無傷で帰れると思うなよ、貴様等ぁ・・・」

その体から放たれる殺気は、ティアが放つものとは比べ物にならないほどに強かった。
ティアの放つ殺気が可愛く見えるほどに。
そんなマカロフの後ろに立つのは、ナツやグレイ、エルザを筆頭としたギルドメンバー達。
全員の表情は怒りそのもの、怒気が放たれていた。
姉の死の真相を知って力の抜けていたアルカも、早くも復活している。

「マスターマカロフ、私達だって大事にしたくないんですよ。シグリットだってティア嬢を連れて来るだけでいいと言っている。別にギルド同士で抗争しようなんて、幽鬼の支配者(ファントムロード)みたいな真似はしませんよ。キャトルもパラゴーネも牽制程度の攻撃しかしていない・・・見逃しても問題ないと思いますけどね」

だが、エストは笑みを崩さない。
どこまでも楽しそうで嬉しそうな笑みを浮かべたままだ。

「牽制だぁ?これのどこが牽制じゃ。牽制なら、威力増幅(パワーアップ)は必要ねぇんじゃねぇのか?」

マカロフは怒りを放ったまま告げる。
エストはやはり優雅な笑みを浮かべたまま、答えた。

「その点に関しては謝罪しますよ、マスターマカロフ。キャトルは戦闘系ですからね。手加減を知らないんです・・・そちらのティア嬢と同じく」
「うちのガキとテメェんトコのを同類にするのはやめてもらおうか」
「おやおや」

クスクスと笑うエスト。
そんな父親の姿を、アルカは睨みつけていた。
様々な感情を込めた瞳で。

「素敵ですよ、マスターマカロフ。あなた達の絆は。思わず惚れ惚れするほどに」

乾いた拍手をしながら、エストは称賛する。
そして―――――――





「・・・まぁ、私は―――――絆とか、大嫌いですけどね」





ふっ、と。
その顔から、初めて笑みを消した。
氷のように冷たい目が、真っ直ぐにナツ達を見つめている。
その目はティアに似ているようで、何かが違った。

「エリアルドの奴もそうだった・・・絆を語り、仲間を語り・・・私達の邪魔をした」
「!父さん!?」

憎々しげに紡がれた名に、ルーが目を見開く。
エリアルド・シュトラスキー・・・それがルーの父親の名だった。

「だからね、エリアルドを消そうと思ったんだ・・・彼が大切にしていたアマリリス村ごと。まぁ・・・1人生き残るとは思ってもみなかったけど」

ルーに目を向け、エストは語る。
口元には作ったような微笑を浮かべて。
目は笑う仕草のカケラさえ消し去って。

「そんな、理由で・・・っ!」
「そんな?何で言い切れるんだ?君達にとってはその程度でも、私達からすれば大きな理由だったんだよ」
「でも、だからって村を滅ぼしていい理由になんてならないじゃない!バッカじゃないの!?」
「ルーシィ・・・」

エストを睨みつけながら、ルーシィが叫ぶ。
そんなルーシィにエストは目を向けると、口角を上げた。
笑った訳ではない。ただ、口角を上げただけだ。

「自己満足の為にギルド同士の抗争を起こした社長の娘に言われたくないね」
「・・・っ!」
「っお前!」
「何だい?私はティア嬢と同じように正論を述べただけだよ」

自分の父親、ジュードの事を言われ、ルーシィの表情が歪む。
それを見たルーがキッと睨みつけるが、エストは不思議そうに小首を傾げるだけ。

「貴様・・・」
「怖いなぁ、マスターマカロフ。そんなに睨まないでくださいよ」

薄く笑みを浮かべたまま、エストは肩を竦める。
そして、パチンっと指を鳴らした。
その瞬間――――――

「!」
「な、何だこれ!?」
「機械!?」

ギルドの入り口、エスト達が立つ場所の後ろから、数えきれないほどに大量の機械が突入してきた。
大きさはバスケットボールくらい、どこか彫刻具座のカエルムにも似た機械の1つに手を添え、キャトルは告げる。

「これは我らがギルドマスター、シグリット様が開発し製造した魔導式兵器(マジックウェポン)・・・デバイス・アームズ」

デバイス・アームズの数は軽く100を超える。
それぞれが赤い光を放っており、魔力を帯びている状態だ。
中には針鼠のように刃が全体に生えていたり、砲口が付いていたりするものもあった。

「装置武器の名の通り、敵地に設置する事でその効果を発揮する。命令しなくても己の存在理由を知り行動する、完全自律型の魔導式兵器(マジックウェポン)
「完全自律型だと!?」
「ウソよ!そんなの、評議院でさえ開発に失敗してるのに・・・!」
「・・・全く、正規ギルドはこれだから困る」

パラゴーネが溜息をついた。
足元のデバイス・アームズを小さく蹴って口を開く。

「リーダーの妻でありギルドマスターであるシグリッド様の頭脳を、そこいらの石頭と同類にしないで。こんな兵器を創る事なんて、シグリット様にとっては息をするのと同じくらいに簡単な事」

そう呟く間にも、デバイス・アームズの数は増えていく。
瞬く間にギルドの床が全く見えなくなるほどにデバイス・アームズが現れ、ギルド中を埋め尽くした。

「ま、ここはデバイス・アームズ達に任せて、私達は帰るとするか。ティア嬢はいないようだしね」
「待て貴様等!このまま逃がすとでも――――――」

キャトルとパラゴーネに告げ、ギルドを出ていこうとするエストにマカロフが向かって行く。
その右腕が伸びたと同時に、エストの手には変わった形の杖が握られた。
そして視界にマカロフを捉え、ゆっくりと杖を振るう。

「そうだね・・・鎖で動きを止めてもらおうか」
「!」

誰に告げる訳でもなく呟かれた言葉。
それと同時にマカロフは違和感を覚えた。

「な・・・何じゃこれはっ!?」
「マスター!?」

マカロフはいつの間にか床から出現した魔力の鎖に絡め取られ、動きを封じられていたのだ。
デバイス・アームズに気を取られていたエルザが目線を向け、目を見開く。

「ふぅ、これでいいかな」
「問題は皆無。この隙に帰還しましょう、リーダー」
「了解」

マカロフは拘束され、他のメンバー達はデバイス・アームズが囲っている。
ギルドに帰るチャンスは今しかない。
3人は顔を見合わせ頷くと、背を向けた。

「・・・ああ、そうだった」

だが、途中でエストが足を止めた。
その顔に柔和な笑みを浮かべながら、残酷な一言を口にする。


「デバイス・アームズ達はプレゼントするよ・・・あと30分で全て爆発するオマケつきでね」

「!」

エストはそう言って最後に微笑むと、瞬間移動系の魔法で姿を消した。
それを待っていたかのように、デバイス・アームズの放っていた光が赤から青へと変わる。
機械音がギルドを埋め尽くした、瞬間―――――

『爆発マデ、アト29分』

全てのデバイス・アームズが同時に音を発した。

「ガキ共!デバイス・アームズを1つ残らず破壊せいっ!ワシはこの拘束をどうにかする!」
『おおっ!』

拘束を解こうとしているマカロフの指示に、全員が同時に返事をする。
そしてそれを合図にメンバー達はそれぞれの魔法を駆使してデバイス・アームズの破壊を始めたのだった。









一方・・・カトレーンの屋敷の近くに、ある建物があった。
それなりに大きい建物の中には、赤い髪を靡かせたシグリットがいる。

「教えちゃったんだ・・・エスト。ううん、正確には知ってたんだよね、アルカンジュ」

ポツリと呟く。
その右手には、掌サイズの魔水晶(ラクリマ)
輝きを失ったそれは、本来映像録画用の魔水晶(ラクリマ)だった。

「仕方ないね・・・ここまで着たら」

彼女は呟く。
その目に闘志を滲ませて。
力強く、よく通る声で。

「あの方の命令の邪魔をするのなら・・・妖精も欲望も、まとめて血に塗れさせるよ」 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
時間かかった話だった・・・投稿日の前日から書いてたのに、2日間かかった・・・。

そして最近、ココロの灰竜が地味だったかなと反省。
でも紅の竜とかだとブレスがナツっぽくなるし、青の竜だと青=ティアのイメージなんで被るし・・・緑の竜とかよかったかな?

感想・批評、お待ちしてます。
・・・タイトル、悩みながら付けたけど、変かなぁ。 
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