箱庭に流れる旋律
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歌い手、至高の一品を知る
アンダーウッド、収穫祭本陣営。貴賓室。
サラさんから、そろそろ皆が来るといわれたので僕とロロちゃんはそこで皆を待っている。
一応、新しく入ったメンバーのことは紹介しておかないとだし。
まあ、残りの三人は下で遊びまわってるんだけど・・・今回はいいかな。
特にやることがあるわけでもないんだし。
「あの・・・スイマセン、ロロのせいでお時間を取ってしまって・・・」
そう言いながら、僕の隣で申し訳なさそうに縮こまるロロちゃん。
余談ではあるけど、ユイちゃんの説得のかいもあってロロちゃんは一人称をロロにしている。
やっぱり、素が一番だよね。
「気にしなくていいよ、紹介しておいた方がいいと思うし」
「それは、そうなんですけど、その・・・ご迷惑をかけてしまいそうで・・・」
「迷惑?」
「はい・・・ロロは、人見知り・・・ですから・・・」
ああ・・・そういうことか。
それについては、僕が何とかしないと、なんだろうなぁ・・・
「・・・じゃあ、今のうちに聞いてもいいかな?」
「あ、はい。なんでしょう?」
「ロロちゃんのギフトネームなんだけど・・・」
「“メオの打楽器奏者”、ですか?」
「うん、それ。メオって、どんな意味なの?」
ずっと、これが気になってた。
何かの曲の関係で一回は覚えたんだけど・・・全然思い出せない。
「ああ、確かに気になりますよね。えっと・・・実は、そのまんま、なんです」
「そのまんま?」
「はい。お兄ちゃんがいた世界の、タイってお国の言葉で・・・猫、という意味です」
ああ・・・確かに、それはそのまんまだなぁ。
ロロちゃんって、猫族だし。
「じゃあ・・・猫の打楽器奏者?」
「そう、ですね・・・皆さんのようなものも、羨ましくはあるんですけど・・・でも、この名前も好きなんです」
「・・・そっか」
なら、いいのかな。
僕みたいに、持ち主に関わらず決まってるのに比べれば、かなりいいと思う。
「・・・あ、それと。もう一個いいかな?」
「・・・?はい、どうぞ」
では、自分の無知さを埋めるとしましょう。
「さっき、ガロロさんがロロちゃんの楽器を至高の一品って言ってたんだけど・・・これってやっぱり、“音楽シリーズ”関連の用語なの?」
「ああ、はい。“音楽シリーズ”の関連の用語ですね」
そう言いながら、ロロちゃんはギフトカードから先ほども見た小さな太鼓を取り出す。
「至高の一品・・・音楽シリーズのギフト保持者が、最も思い入れのある楽器・・・最もその効果を発揮できる楽器のことを指します」
「そうなんだ・・・ロロちゃんは、それが?」
僕はロロちゃんが膝の上においている小さな太鼓を見ながらたずねる。
「はい。・・・ポロロ君やキャロロお姉ちゃん、パパ・・・家族みんなが私の誕生日に送ってくれた、思い出の品なんです」
そう言いながらロロちゃんが楽器を持ち上げて床に置くと、様々な打楽器に姿を変えていく。
「・・・“音楽シリーズ”には、大きく分けて四種類あります」
そう言いながら、細かい説明を始めてくれるロロちゃん。
僕はこのギフトについてあんまり知らないし、“ノーネーム”の書庫にも今知っていること以上の資料はなかった。
「まず、“奇跡の歌い手”。これだけは不変で、音楽シリーズを率いることが出来て・・・あと、必ず担い手は男性になります」
「へぇ・・・歌い手は、それで一つの種類なんだ」
「はい。そして、次に来るのが“指揮者”の“音楽シリーズ”です。これは、歌い手と同様に音楽シリーズを率いることが出来て・・・男性、女性、どちらにもなります」
指揮者・・・今代は、“狂気の指揮者”。
性別は僕と同じ男だ。
先代も、男だったはず。
「先代・・・魔王が誕生したさいには、最後、歌い手と指揮者による音楽対決があって、それが終わって全ての音楽シリーズが集ったと聞いています」
「・・・となると、今回も・・・?」
「音楽勝負をすることになる、と思います」
・・・まあ、その時はその時かな。
なるようになる・・・はず。
「そして、次に来るのがロロやラッテンお姉様のような、こう・・・分類を示すものです」
「分類?」
「はい。こう、説明が難しいんですけど・・・打楽器奏者や笛吹き、弦楽奏者に金管楽器奏者、木管楽器奏者なんかもあります。・・・これで分かりますか?」
「うん、すごく分かった」
つまり、楽器をカテゴリしてそのカテゴリを指す場合、ってことなんだ。
「なので、ロロは打楽器なら何でも演奏できます。・・・それで、ロロのために準備してくれたのがこの楽器なんです」
「なるほど、ね・・・」
「・・・で、最後の種類が一つの楽器専門の場合です。・・・これは、ユイお姉ちゃんがそうですね」
こっちはすぐに理解できた。
ユイちゃんの場合はヴァイオリンがそうだし。
「で、ですね・・・例えば弦楽奏者の場合、いくつかある中の一つが欠番になります」
「あ、そうなんだ?一個だけ楽器がないの?」
「はい。それで、その代わりに弦楽奏者のギフトがある、ということになります」
「ああ・・・最終的には、全部の楽器で演奏、は出来るんだ」
「はい。一種類一人だけ、ですけど」
よく理解できた・・・
さて、話を戻して・・・
「じゃあ、至高の一品は僕以外、誰にでもあるものなの?」
「え・・・?」
「あ、でも・・・指揮者にもないのかな?指揮棒って楽器、って感じじゃないし・・・」
「あ、あの」
おずおずと、隣からロロちゃんの声が聞こえてくる。
「あ、うん。なに?」
「いえ、ですね・・・指揮者も、歌い手も・・・至高の一品はあります、よ?」
「え?」
このとき、僕はかなり間の抜けた声を上げていただろう。
「え、でも・・・歌、だよ?」
「はい・・・確かに、歌い手は“音楽シリーズ”の中で唯一、楽器がなくても発動できるギフトです。・・・指揮者も、指揮棒がないと発動できませんから」
あ、指揮者は指揮棒がないとダメなんだ・・・
なら、指揮者も指揮棒が至高の一品、なんだろうな。
「でも、歌い手にも至高の一品は存在するんです。・・・至高の一品でなければ、ないほうがいいですけど、至高の一品であれば、それまでとは比べ物にならない音楽を奏でることが出来るとか・・・」
そのあたりは曖昧なのだろう。
かなり語尾が濁した感じになっている。
「・・・じゃあ、歌い手のためのって、どんなものが・・・」
「・・・マイク、です」
ロロちゃんは、そう言っていた。
「マイクが、歌い手にとっての至高の一品となりえるんです」
「マイク、か・・・」
といわれても、これまでに思い入れのあるマイクなんて、なかったんだけど・・・
「ああ、奏。“ノーネーム”が到着したぞ」
と、そんな事を考えていたらサラさんがそう伝えてくれて、その後ろから皆が入ってきた。
・・・まあ、いいや。また時間があるときに考えよう。
そう決めて、僕は頭の中からマイクのことを追い出した。
ロロちゃんの説明をした後、黒ウサギさんがブラックラビットイーターがあると聞いて、地下の展示会場まで行ったりしたけど・・・まあ、うん。
そこまで気にするようなことではないだろう。
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