箱庭に流れる旋律
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打楽器奏者、隷属する
いままでガロロさんの後ろに隠れてた子が、そう言いながら頭を下げてくれたんだけど・・・全くもって現状がつかめないんだけど・・・
「えっと、ガロロさん・・・」
「あー・・・悪いな。どうにも、緊張してるみたいで」
「緊張・・・ですか?」
一体何に緊張してるのか・・・
「コイツ、人見知りするんだよ。まあ、今回のはそれだけじゃねえみたいだけど」
「はぁ・・・」
一体、何を緊張しているのだろう・・・
「ほら、ロロ。早いとこ説明しないと、向こうも戸惑ってるぞ?」
「え、あ・・・。ゴメン、パパ」
「いや、謝るのは俺じゃなくて向こうにだろ・・・」
「あ、そ、そうだった」
なんと言うか・・・見ていて心配になる子だな。
「えっと・・・こんな感じになってしまってごめんなさい・・・ロ・・・私、ちょっと感動してて・・・」
「・・・うん、一回落ち着いて。ほら、深呼吸でもしてさ」
「は、はい・・・」
と、そこでロロロちゃんは深呼吸を・・・って、あれ?過呼吸になってない!?
「おいロロ!落ち着くための深呼吸で過呼吸になってどうする!」
「え、あ・・・ゴメン、パパ」
「いやだから・・・ああクソ!予想はしてたとはいえ、面倒だな!!」
そんな光景を見ながら、僕たちは僕たちで話をしていた。
「えっと・・・これは、そういうことですよね?」
「ええ、そうでしょうね。素が、あれなんだと思います」
「だね~。ユイはすっごくかわいいと思うよっ」
「まあ、一緒に過ごすのは少し大変そうっスけどね」
「ですね・・・少なくとも、僕にはあの状態をどうにかすることは出来そうにないです」
落ち着くためにすることをして、かえって大変な状況になってしまうとなると・・・僕がとれる手段なんてもう・・・
「はぁ・・・もうオマエ、あれだ。一曲演奏しろ」
「え!?でも・・・恥ずかしいし・・・」
「だから、だよ。オマエにとってはアレが一番恥ずかしいんだから、それさえ済ませちまえばそれ以降のことはそうでもないだろ」
「あ、荒療治過ぎるよぅ・・・」
「あ、あの・・・そんな無理にしなくても・・・」
さすがに、涙目になってきているところに追い討ちをかけるのはマズイ気がして、僕はそう申し出た。
「ああ・・・いや、こっちとしても預ける前に問題ないくらいにはしときたいんだよ。娘のことで人様に迷惑をかけるのはな。それに、これが一番分かりやすく、こいつのことを知れるんじゃねえか?」
「それはまあ、そうですけど・・・」
僕がはっきりと否定できないでいると、ロロロちゃんももうどうしようもないと判断したのか、ギフトカードから一つの小さな太鼓を取り出す。
その小太鼓は、ロロロちゃんの手に触れると形を変えていき・・・ドラム一式になる。
「えっと・・・ガロロさん、あの太鼓は・・・」
「ああ。アレはロロの至高の一品だ」
「えと・・・なんですか、」
それ、と続けることは出来なかった。
なぜなら・・・何も喋れないほどに情熱的な、力強いドラムの音が聞こえてきたのだ。
さっきまでのロロロちゃんの態度からは考えられない、力強く、激しいドラム。
かと思えば、優しく包み込むようなドラムも聞こえてくるのだが、油断した隙に一気に力強くなり、幾度となく衝撃を受ける。
周りを見ることは出来ないが、おそらくラッテンさんにユイちゃん、レヴィちゃんも同じように一言も発せないでいるとおもう。いや、できるはずがない。
僕の音楽が奇跡を歌い、ラッテンさんの音楽が人を誘惑し、ユイちゃんの音楽がその強い欲を体現するのだとすれば、ロロロちゃんの音楽はその誰とも違う。
猫のような俊敏さ、隙を逃さない容赦のなさ、自分より大きな相手にすら牙を向く肉食獣の力強さを、体現する音楽なのだ。
「イエーイ!!」
そして、音楽が終わると同時にロロロちゃんは一切の曇りのない満面の笑みで、ステッキを持った片手を挙げながら、そう叫んだ。
そして・・・
「あ・・・」
少し間をおいて冷静になったとたんに、ロロロちゃんは顔を一気に紅くした。
そしてそのまま、顔を抑えて地面にうずくまる。
えっと・・・僕たちはどうしたら・・・
「あー・・・ま、こうなるわな。予定通り」
「・・・ガロロさん、アレは?」
「・・・簡単な予想だと、音楽を奏でている最中は性格が変わる、ってところかしら?」
「おう、ラッテンのが正解だ」
あー・・・まあ、分からなくいはないけどね。
僕も、少しそう言うところあるし。
ステージに上がってからは、基本的に別人になるくらいのつもりではいる。
「で、本人はそんな状態の自分を見られるのがかなり恥ずかしいんだよ」
「それであんな感じに・・・あの・・・ロロロ、ちゃん?」
「・・・はい?」
僕から声をかけると、ロロロちゃんは顔を抑えながらも、少し指の隙間を開けてこちらを見てくれた。
「あの、さ。恥ずかしいのは、まあ分かるんだけど・・・僕も、ステージ下りてからステージでの自分を思い出すと、少し恥ずかしくなるし」
「あなたも、なんですか?」
「うん。こう・・・後から自分が何をしてたのかを考えると特に、ね」
そこでようやく、ロロロちゃんがしっかりとこちらを見てくれたので、僕も膝に手を当てていたのをしゃがむ形に変えて、出来る限り目線を合わせる。
「だからさ、恥ずかしがらないのが無理なのも出ないように我慢するのが無理なのも分かるし、共感できる。その上で一つアドバイスをすると・・・終わってすぐに恥ずかしがるのは、やめたほうがいいかな?」
「そう・・・なんですか?」
「うん。後々に、お客さんの前でそんな態度を取ったことを思い出すと・・・うん、軽く十倍はきつかったね・・・」
これが、僕の初めてのステージでの話。
あのときのことは・・・思い出すのはやめておこう。
「・・・・・・・・・ですか?」
「はい?」
「いまでもそう・・・なんですか?」
ああ、そういうことですか。
「もちろんですよ」
「えっ・・・」
「そんなに驚くことかな?」
「その・・・あんなに、その・・・格好良く歌ってたので、少し意外で・・・」
「そっか。そう言ってくれると嬉しいよ」
「え・・・あ、いえ!その・・・」
「でも、ね」
ロロロちゃんは何か言おうとしてたけど・・・ここは、話を続けさせてもらおう。
「確かに、いまだに恥ずかしくはあるんだよ。でも、最近は和らいできてると思う」
「どうして、ですか?」
「一緒に演奏する人たちが出来たから、かな」
その存在は、かなり大きい。
「そのおかげで、僕は完全に消えることはなくても、かなり和らいできてる。だから、さ。ロロロちゃんもきっと、少しはましになるんじゃないかな?」
「え・・・」
「あ、もちろん、無理にとは言わないよ。一緒に来るか来ないかもロロロちゃんが決めることだし、演奏に参加するかどうかも、ロロロちゃんが決めること」
「・・・一緒に演奏、出来ると思いますか?」
「僕は、できると思う。ラッテンさんとユイちゃんはどうですか?」
僕は、そのまま後ろにいた二人に話しかける。
「私は、別に問題ないと思うわ。あの演奏は、とってもすばらしかったもの」
「ユイも、いいと思うよっ。一緒に演奏してみたいなっ」
そして、二人の言葉で決心がついたのか、ロロロちゃんもはっきりとこちらを見てくる。
「・・・一緒に演奏、したい・・・です」
「そっか。じゃあ、これからよろしくね、ロロロちゃん」
そのままロロロちゃんの手を取って立ち上がるのを手伝い、しっかりと向き合う。
先ほど、演奏の最中にガロロさんから「連れて行くなら隷属も込みで」といわれているから、何をするのかは分かっている。
「ロ・・・私、“メオの打楽器奏者”ロロロ=ガンダックは“奇跡の歌い手”天歌奏様に隷属します。えっと・・・皆からはロロって呼ばれてるので、皆さんも、それで。それから、その・・・これから、よろしくお願いします!」
「はい、その隷属、受けます。これからよろしくね、ロロちゃん。それと・・・一つ、いいかな?」
「えっと・・・なんで、しょう?」
いや、一つだけ、言っておかないと・・・
「その・・・呼び方、なんだけど」
「なにか、お気に触りましたか・・・?」
「そうじゃなくて・・・ちょっと。トラウマで、さ。様付けは、やめてもらえないかな?」
そう言うと、ロロちゃんは慌てて頭を下げてきて、
「も、申し訳ありません!そうとはつゆ知らずに・・・」
「いや、そこまで謝らなくてもいいから。ただ、呼び方だけ変えてもらえれば」
「えっと、じゃ、じゃあ・・・一つ、呼びたい呼び方があるんですけど・・・いい、ですか?」
「どんな呼び方?」
「その、ですね・・・お兄ちゃん、って・・・」
・・・なんで、それを選んだんだろう・・・
「そ、その。私って、兄は何人かいるんですけど、皆兄って感じではなくて・・・それで、ですね。あなたは、ロ・・・私の理想の兄、そのままだったんです・・・」
これは・・・勝手に判断していいレベルじゃないような・・・
そう思ってガロロさんに救いを求めて視線を送ると・・・
「ああ・・・悪いな。ウチの男どもは時期頭首を決める関係で色々あってな・・・あんまり、兄っぽくはなかった」
「そうなんですか・・・なら、僕なんかでよければ、いいですよ」
そう言うと、ロロちゃんの顔が一気に明るいものになった。
こんなことで笑ってくれるのなら、良かったな、って思える。
「ところで・・・ロロ、オマエはなんで私、って言ってるんだ?」
「ちょ、ちょっとパパ!それは・・・」
「何かおかしいんですか?」
「ああ。コイツ、普段は自分のことロロって言ってるんだよ」
「パパ!言っちゃダメ!!」
ロロちゃんがここまでの大声を出したことにかなり驚きつつも、ガロロさんの話の内容を理解していく。
「だ、だって、その・・・せっかく今まで何度も歌を聴いて、話してみたいと思ってた人と会うんだし・・・子供らしいのは、って・・・」
「そうですかね?かわいくていいと思いますけど・・・」
「ほえ!?」
つい口から漏れてしまった言葉に、ロロちゃんが反応する。
しまった・・・
「えっと、その・・・」
「あははっ。お兄さんはもう少し、考えてから話さないと、ね」
そう言いながら、ユイちゃんがロロちゃんの前にしゃがむ。
「うんうん、別にいいとおもうよ?ユイも、ユイのことユイって言ってるし」
「そ、それは・・・ユイ様、かわいいですし・・・」
「ありがとうっ。でも、ロロちゃんもかわいいよ?」
「そ、そんなことは・・・」
「大丈夫大丈夫!ユイ達が保障するから!あ、それと。ユイのことも様はつけなくていいよ?」
「え?じゃ、じゃあ・・・なんとお呼びすれば・・・」
「お兄さんみたいに、お姉ちゃんとか♪」
「あ、自分もそんなかんじの希望っス」
「私はお姉様のほうがいいわね」
最後一人、何かおかしいですよ。
「じゃ、じゃあ・・・ユイお姉ちゃんにレヴィお姉さん、ラッテンお姉様で・・・」
そして、しっかりとそう呼ぶロロちゃんも、いいこだなぁ、と思った。
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