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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep9テスタメント対策部隊『特務六課』~The 6th Extra Force~

夕日が地平線へと沈もうとしている時間、8隻の巨大帆船“スキーズブラズニル”が、黄昏の空をゆっくりと翔ける。その8隻の甲板上には無数の人がたむろしている。
“テスタメント”幹部によって様々な管理世界で回収された“レジスタンス”達だ。自分たちが乗る帆船に巨大さに驚愕している者、知り合いの“レジスタンス”を見つけては肩を抱き合っている連中もいる。

その8隻の後方からゆっくりと近付いてくる新たな巨大帆船。それに気付いた“レジスタンス”達は指を差しては口々に「アレを見ろ!」と叫んでいる。
次第に細部まで視認できるようになったその帆船を見た彼らは、自分たちが乗る“スキーズブラズニル”より大きく、心を魅了する美しさを有するその帆船に畏怖と敬意を抱いた。その巨大帆船の名は“フリングホルニ”。“テスタメント”幹部が旗艦とする帆船だ。

『ようこそレジスタンスの諸君。我々が反時空管理局組織テスタメントだ。私はテスタメントのナンバー2・ディアマンテという。諸君たちに会えて嬉しいぞ。今日は我らが指導者・ハーデが不在のため、私が君たちレジスタンスを歓迎しよう』

それぞれの“スキーズブラズニル”の甲板に巨大モニターが展開され、ディアマンテが“レジスタンス”に向けて声明を出した。

『さて、我々の目的は管理局の現体制への異議の申し立てだ。本日、正午に流した我々の声明を聞いてもらっていることを前提として話を進めさせてもらおう。これより1ヵ月間、我々は独自で次元世界に蔓延る事件を解決していく。そして管理局に示してやるのだ。魔導にだけ頼っている貴様らのやり方でない方法で世界を救ってやったぞ、と』

それを聞いた“レジスタンス”は暫し沈黙し、ディアマンテの言葉を理解出来た瞬間に「おおおおおお!」と雄叫びを上げた。

『君らが手にする武装はすでに用意してある。そして任務地において、君らはそれぞれ幹部たちについてもらうことになる。どの幹部についていってもらうかはこれより決める予定だ。それでは明日より行動開始だ。今日は艦内に用意してある部屋で各自好きに過ごしてくれたまえ』

ディアマンテがそう締めくくり通信を切った。“レジスタンス”は興奮冷め止まぬまま各々艦内へと入り、身体を休めることにした。

・―・―・―・―・―・

会議室に置かれている円卓に座っているのはグラナードとサフィーロ――ルシリオンの2人のみ。他の幹部たちはすでに各自の部屋へと戻っている。

「あ~あ、やっぱりオレの危惧したとおりになったわけだ」

「ああ、ヴォルケンリッターを見て、カルド隊が見事に暴走した」

グラナードは頬杖をつきながら苦笑している。それに応えるのはルシリオンだ。心底呆れたかのように溜息を吐いている。

「それで? カルド隊は今どうしてんだ?」

「船底の蔵で謹慎中だ。私の命令に3度逆らい、その上私を業火に叩きこむとほざいた。カルド・イスキエルドだけはまだマシだったため、自室待機を命じている」

「あー、そりゃダメだな。お宅に逆らったら消されるってことを忘れてんのか、あいつら?」

グラナードは円卓に置いてある酒の入ったグラスを手に取り、一気に喉に流し込む。「ぷはぁっ」っと大げさに息を吐いてルシリオンに「お宅も飲むかい?」と勧める。しかしルシリオンは「結構」とだけ返し、席を立った。グラナードは「美味いのにな」と小さく零した。

「だからと言って、すぐに消してやるなよ、サフィーロ。アイツらもまたそれなりのものを背負ってんだからさ」

「それくらい承知している」

そう言ってルシリオンは会議室を後にする。会議室に独り残されたグラナードは立ち上がり、窓へと歩み寄って外を眺める。夕日が落ち、赤い月が見えるその空を。

・―・―・―・―・―・

病室のベッドに眠る家族を見つめるのは、頭に包帯が巻かれたはやて。彼女の目の前のベッドで眠っているのは、今日の戦いで撃墜されたシグナムだ。包帯が巻かれ、痛々しい姿で横たわる姿を見ながら、はやても今日撃墜されたことを思い返す。
相手は5年前にこの世界を去った親友の1人で、今はサフィーロと名乗るルシリオン。戦闘開始直後においてはリインフォースⅡとユニゾンしていたはやてが押していた。しかし、そこで傍観していたもう1人の白コート、ノーチェブエナが動いた。

そのノーチェブエナがルシリオンとユニゾンした。そして判明したノーチェブエナの正体。それは、はやての未来を守り去っていった愛しき家族、初代祝福の風リインフォースだった。
はやては、リインフォースがノーチェブエナと名乗って、“テスタメント”幹部として存在していたことがショックだった。自分ではなく親友のルシリオンとユニゾンしたことにもショックだった。そのショックから立ち直れずにはやては為す術なく撃墜された。

「リインフォース・・・」

はやては知らず今は敵として存在する家族の名を口にする。撃墜したはやてにトドメを刺そうとしたルシリオンからはやてを庇うように立ち塞がったリインフォース。彼女は夢で見た通り、純白の騎士甲冑と背に二対の白翼のある姿だった。

「はやてちゃん。マリエル技官から連絡がありました。リインちゃんとアギトちゃんが目を覚ましたって・・・」

病室の扉を開けて入ってきたのはシャマルとザフィーラだ。シャマルは背を向けたままのはやてに、撃墜のショックで意識を失っていたリインとアギトが目を覚ましたことを報告する。はやては「そうか。良かった」と心底安堵した。

「リインには謝らんとアカンな。私が不甲斐無いばかりに無茶させてもうて、その所為で意識不明になって・・・。私はリインのマスター失格や。こんなん・・・」

はやては歯がみし、痛む両手を強く握りしめる。ショックの所為で呆然自失になってしまった自分の代わりに、リインフォースとユニゾンしたルシリオンからの攻撃を全て防いだリイン。決して軽くはないルシリオンの攻撃を受けきったその無茶の反動でリインは意識不明に陥っていた。

「はやてちゃん・・・」

「主、そろそろお休みになってください。御身体に障ります」

シャマルは何て言っていいのか判らず、はやての名を口にするしかなかった。そしてザフィーラははやての身体を気遣ってそう提言するのだが、はやては首を横に振るのみ。

「ヴィータの様子も見たいしな。それに考えたいこちもあるんや。今日はもう眠れそうにもあらへん。そやから私は・・・」

そう言ってはやては、シャマルとザフィーラの脇を通り過ぎて病室を後にする。シャマルとザフィーラもはやてに続いてシグナムの病室を後にした。3人が向かうのは、シグナムと同様に眠り続けるヴィータの病室だった。会話は無く、はやて達3人は静かにヴィータの病室へと入っていった。

「ヴィータ・・・」

ベッドの上で眠るヴィータ。はやてはベッドの近くへと歩み寄り、椅子に腰かける。家族のシグナムとヴィータ、友人のセレスを撃墜した“テスタメント”幹部。
はやては“ヴォルフラム”の医務室で治療を受けている時に、腹部に負った火傷の治療を終えたフェイトからの連絡で3人の撃墜を知った。そしてもう1つ。3人を撃墜したカルド隊の目的が守護騎士への復讐だということも知った。

「今回の事件は、八神家(わたしら)にとって辛いものになるな」

はやてがヴィータの前髪を手で梳きながらそう呟いた。後ろに控えるシャマルとザフィーラは何も言わずにただ頷いた。シャマルとザフィーラにもはやてからすでに伝えられている。初代リインフォースが“テスタメント”幹部の1人として生きていることを。

「脅威対策室はテスタメントに何らかの対策を立てるやろ。たぶん私ら元機動六課のメンバーが招集されるはずや」

“テスタメント”幹部に対抗できる戦力はそれしかないとはやては考えている。5年前に“聖王のゆりかご”を墜とした奇跡の部隊と謳われた“機動六課”。管理局上層部はおそらく“機動六課”を再編しようとするだろうと。

「必ずリインフォースとルシル君を連れ戻す」

はやては音を立てないようにゆっくりと立ち上がり、いつ部隊編成命令が来てもいいように動き出す。
翌日、はやての元に脅威対策室からある辞令が来た。内容ははやての予想通りのものだった。反時空管理局組織“テスタメント”対策部隊・“特務六課”の指揮官への任命。構成部隊員には、やはり元“機動六課”メンバーだった隊員の名が連ねられていた。

・―・―・―・―・―・

高町家の玄関前で、なのはとフェイトとヴィヴィオが話をしていた。

「それじゃあヴィヴィオ。なのはママとフェイトママ、ちょっとの間出張に行ってきます」

「うん。ルシルパパと・・・戦いに行くんだよね・・・?」

「・・・うん。今のルシルのことを知るために、やっぱり戦うことになるかもしれない。ううん、まず戦うことになる。だけど、だけど必ず連れて帰るつもりだよヴィヴィオ」

朝早くになのはの元へとはやてから連絡があった。脅威対策室から“テスタメント”対策部隊・“特務六課”の編成命令が来た、と。聖王医療院から近いここ高町家に泊まりに来ていたフェイトにもそれが伝えられた。

「本当に? 本当にルシルパパも一緒に帰ってこられる・・・?」

正直なのはとフェイトにもそれは判らない。何しろルシリオンの現状が何1つとして判らない状態だ。連れ帰ることが出来るのか。今回も何かしらの契約で世界に呼ばれたのか。ルシリオンに関しては全てにおいて状況不明だった。

「大丈夫。絶対にルシル君を連れて帰ってくるよ」

「今度こそ、きっと。ママ達と一緒にヴィヴィオのところに帰ってくるよ」

なのはとフェイトは確約できない約束をヴィヴィオとした。してしまった。しかし、約束したからにはどんな手を使ってでも連れ帰る、と2人は決意する。5年前のようにヴィヴィオを悲しませないと。

「それじゃもう行く時間だから。ヴィヴィオ、いってきます」

「ヴィヴィオ。いってきます」

「いってらっしゃい! なのはママ! フェイトママ! ルシルパパと一緒に帰ってきてね!」

ヴィヴィオに見送られながらなのはとフェイトは往く。“テスタメント”を止めるため、ルシリオンを連れ戻すために。

・―・―・―・―・―・

幾つもの長テーブルが並べられたここ第5会議室になのは達の姿があった。今、ここ第5会議室には各部署から招集された元“機動六課”の前線メンバー達が居る。その全員が沈痛な面持ちをしており、第5会議室に漂う空気は激しく重かった。静寂を打ち破るかのようにはやてが声を発する。

「今日は突然にも関わらず集まってもらってごめんな。集まってもらった理由は他でもない。今朝送った招集命令通りや。脅威対策室からのテスタメント対策部隊を任された。私に、みんなの力をまた借してほしい」

はやては立ち上がって、1人ひとり見回していく。なのは、フェイト、スバル、ティアナ、エリオ、キャロの6人を。それぞれがはやての言葉に力強く頷いて応える。それを見たはやては「おおきにな」と感謝を述べた。

「早速やけど本題に移させてもらうわ。状況はあまり良うない。もう知っての通りやと思うけど、反時空管理局組織テスタメントとレジスタンスが合流した」

はやてはテーブルで囲まれたモニターを出し、とある映像を映し出した。

「戦力においては管理局のエースクラスの魔導師が揃い踏みのテスタメント。そこに数であるレジスタンスが傘下に入ってしもうた。レジスタンスの脅威は現状そう高いものやないけど、テスタメントの幹部に至っては問題ばかりや」

それは昨日ミッドチルダの南部海上で行われた戦闘だった。

「昨日、私とルシル君との戦闘と、フェイトちゃん、シグナム、ヴィータ、そしてセレス・カローラ一佐と、カルド隊っていうテスタメント幹部との戦闘がミッドであった」

新たに展開されたモニターに映し出されたのは、ルシリオンと戦うリインとユニゾンしたはやてだった。重かった空気がさらに重くなる錯覚を得るこの場に居るなのは達。
砲撃フレースベルクに散弾砲撃、はやての射撃魔法を受け、白コートを自ら剥ぎとりその素顔を曝したルシリオン。目まぐるしく変化していくはやてとルシリオンの戦闘。ここ第5会議室に再び流れた重い静寂を破ったのは・・・

「やっぱり、本当にルシルさんなんですね」

「キャロ・・・」

震えた声でそう呟いたキャロだった。親友のはずのはやてとルシリオンが熾烈な戦闘を繰り広げているその光景に、キャロは静かに涙していた。キャロは、幼い頃にフェイトと共に色々してくれたルシリオンが敵であるという事実に苦しんでいた。そのキャロの隣に座るエリオが、彼女の肩にそっと手を置いた。
ルシリオンが押されつつあるその戦闘に変化が訪れる。今まではやてとルシリオンの戦闘を傍観していた祝福なる祈願者ノーチェブエナが、彼の一声によって動き出したのだ。

『『ユニゾン・・・イン!』』

その言葉と同時にその姿を変えたルシリオンに、この場に居る全員が驚愕した。融合騎が敵にいて、しかもそのマスター、いやロードをルシリオンとしている。
スバルとティアナ、そしてエリオとキャロはそれだけの驚愕だったが、なのはとフェイトの2人だけは違う意味で驚愕していた。次にはやてが口にした言葉でなのはとフェイトは確信し、スバル達はさらに混乱することになる。

『リイン・・フォース・・・、リインフォース!』

「「「「え?」」」」

「「やっぱり・・・!」」

なのはとフェイトははやてへと視線を向けた。はやてはただコクリと頷いただけだったが、それだけでなのはとフェイトは判ってしまった。再びモニターに映るはやてとルシリオンの親友同士の戦闘を見つめる。
そんな中、ティアナの眉がピクッと動く。本局の侵入犯と同じ魔法が使われたからだ。それを報告し忘れていたことも思い出した。ルシリオンの再臨によるショックで忘却してしまっていたのだ。もし忘れずに報告していれば、はやてが撃墜されることは無かったのではいかと後悔する。全ては後の祭り、後悔先に立たずだった。

(あたしがちゃんと報告をしていれば、八神司令が墜とされることがなかったかもしれなかった・・・)

そのティアナの後悔を余所に、はやてとルシリオンによる戦闘映像は続く。スバル達は何故はやてがルシリオンを“リインフォース”と呼んだのかが判らない。ただ黙ってはやてがルシリオンによって撃墜される場面を観ているしかなかった。
“ヴォルフラム”の甲板へと墜落し、その身体を叩きつけられることとなったはやて。そこへと迫るルシリオン。全員が判った。はやてにトドメを刺そうとしているのだと。トドメを刺すまであと少しと言うところで状況が変わる。
ルシリオンの意図とは別にしてユニゾンが解かれてしまったのだ。“ヴォルフラム”へと着艦したルシリオンに遅れて降り立った白コートの無いノーチェブエナ。彼女の露わとなっているその素顔を見て、今度こそスバル達は理解した。何故はやてがそこまで動揺しているのかを。

「リイン司令補の大人版・・・!?」

「瞳の色は違うけど間違いないよ・・・!」

キャロとスバルが声を上げる。ティアナとエリオもまた同じことを思っていた。そんな彼女たちの疑問を晴らすのは、なのはだった。

「リインのフルネームは判るよね・・・」

「え? リインフォース・・・あ、ツヴァイ!」

「リインフォースⅡ! え!? ということは、ルシルさんとユニゾンしていたのは・・・!」

スバル達は、はやてを庇うかのようにルシリオンの前に立ち塞がるリインフォースを見る。白を基調とした騎士甲冑は、色は違えどはやての騎士甲冑と酷似している。瞳の色を蒼に変え、目の鋭さを柔らかくすれば、間違いなくリインの成長した大人版と言えるその姿。

「そうや、この娘の名はリインフォース。初代祝福の風とも言える存在でな。もうどこにもいないはずやのに、リインフォースはまたその姿を私の前に現した。しかもテスタメント幹部の1人、管理局の敵として・・・」

「はやてちゃん・・・」

「はやて・・・」

なのはとフェイトが俯いているはやてへと声をかける。ただでさえ親友(ルシリオン)のことだけで大変なのに、そこにはやてたち八神家のとって大切な家族(リインフォース)が敵として現れた。それがどれだけはやての心を苦しませているか。なのはとフェイト、それにスバル達から心配そうな表情で見られていることに気付いたはやては微笑を浮かべた。

「あー、私なら平気、大丈夫や。確かにリインフォースが敵やったのはすごくショックやったし、辛いよ今でも。でもな・・・」

はやては自分の右手を見る。昨日、リインフォースの腕を掴み、そして彼女の手が触れた右手を。夢でも幻でもない。たとえ敵であったとしてもそこに存在するリインフォース。一晩ひたすら思考したはやては決意した。

「ルシル君と違って、リインフォースはたぶん私のことを憶えとる。だったら話をするまでや。そして今度こそその手を離さへん。必ず守ってみせる」

はやての目にはリインフォースと戦ってでも話をするという決意と覚悟が表れていた。なのは達ははやての瞳に宿るその決意と覚悟を察し、自分たちもその手伝いをすることを決意し、頷いた。

「・・・次は北部で起こった戦闘や」

流れる映像は、昨日ミッドチルダ北部に現れた“テスタメント”幹部のカルド隊の3人。そして場面は、現在治療中で席を外しているシグナムとヴィータと、“テスタメント”幹部カルド隊との戦闘へと入る。

「召喚魔法陣。召喚士・・・?」

「ゼルファーダ・・・。生物なんですか? これは・・・?」

カルド隊の足元に生まれた大きな赤紫の召喚魔法陣を見たキャロがそう呟いた。エリオはモニターに映るカルド隊を飲み込んだ闇色の炎を見て戦く。明らかに危険な存在だと理解できたからだ。

「なに、この人たち・・・怖い・・・」

キャロがそう怯えた直後、戦闘開始してすぐにカルド隊が告げたその目的が流れる。“闇の書”、“守護騎士たちによる殺人”、“復讐”。カルド隊の口からは物騒なキーワードばかり出てくる。事情を知るなのはとフェイトは何も言わずに沈黙を貫く。
スバル達とて“闇の書事件”のことは多からず知ってはいた。六課時代に少しばかり話を聞いたからだ。しかしその全容を知っているわけではない。

「ホンマは機密なんやけど、みんなには知ってもらわなアカンと思うんや」

はやてが語る“闇の書事件”の全容。はやてと出逢う前の守護騎士たちが犯した様々な罪。はやてと出逢ってからの守護騎士たちの過ごした時間。“闇の書”。本当の名を“夜天の魔導書”と呼ばれる魔導書の終焉。はやて達の未来を守るために、初代リインフォースが自らの終焉を選択し逝ったこと。それからの八神家のこと。はやては語れることを全て語った。

「これが、今までみんなに黙っとった真実や」

はやてがそう締めくくった。スバル達は何も言わず、ただはやてから語られた話を頭の中で反復していた。そして1つの答えを出した。

「八神司令たちは十分に罪を償ったじゃないですか。確かにシグナム一尉たちの犯した罪は許されないことだけど、それでも今は立派な人たちです」

スバルの言葉に頷くティアナとエリオとキャロ。決して許されることのない罪を今も背負って、平和のために戦い、懸命に生きている守護騎士たち。だから復讐によって殺されることなんてない、とスバル達は言う。死ぬことで罪から逃れるより、罪を背負って生き続けることの方が重く楽ではない償い方だ。それが判るからこその今の八神家だった。

「だから僕たちは今までどおりですよ、八神司令。これからも八神司令たちのことを好きで居続けます」

最後にエリオがそう締めくくり、それを聞いたはやては本当に嬉しそうに感謝の言葉を告げた。そしてこの言葉をこの場に居ない家族たちにも必ず聞かせてあげたいとも思った。

「えっと、その・・・なんや。さっきの続きに行くな」

重く圧し掛かっていた空気は今は無く、はやては“テスタメント”対策会議を再度進行し始める。止まっていた映像が再生される。シグナムとヴィータとセレスが撃墜される場面だ。なのは達もその光景には絶句するしかなかった。桁違いに強かった。攻撃が通らない。その反面、カルド隊の攻撃は確実にダメージを負わせてくる。

「強い・・・!」

「あんなにもあっさりとシグナム一尉とヴィータ教導官を落とすなんて・・・」

「アギトとユニゾンしている状態でこんな・・・!」

「確かカローラ一佐って、ヴィータ教導官と同じAAA+なのに・・・」

カルド隊の2人と戦ったシグナムとヴィータ、セレスが撃墜された場面を見たスバル達は戦慄した。シグナムとヴィータとセレスの歴戦の騎士としての実力を、訳の解らない力でねじ伏せるカルド隊。
なのは達がモニターからはやてへと視線を移す。はやてはその視線の意味を察してコクリと頷き、シグナムとヴィータとセレスの現状を告げる。

「シグナムとヴィータのことならここに来る前にシャマルから連絡があった。2人はまだ意識を取り戻してないんやけど、念話に応えてくれるまでは回復しとるそうや。そやけど火傷の方が思っとった以上に酷いらしくてな。しばらくの戦闘行為はドクターストップらしいんや」

命に別条がないことを知り安堵するなのは達。シグナムとヴィータが復帰するまでの間は自分たちがはやてを護ると決意を固める。

「リインとアギトは、マリーさんと一緒にこっちに向かっとる最中や。セレスに関しては主治医の居る医療院に運ばれたんやけど、意識を取り戻したって今朝連絡があった」

それを聞いたなのは達は、あれ程の攻撃を受けてそれだけで済んだことに安堵の息を吐いた。下手をすれば間違いなく死んでしまうかのような激しい業火の攻撃。スバル達は正直戦いたくない相手だと微かに思った。が、すぐにそんな弱気を振り払った。

「カルド隊の相手は私たち八神家が担当する。シグナムとヴィータもそのつもりやし、私もそのつもりや」

はやてもはやてで覚悟していた。カルド隊の守護騎士(かぞく)へと向けられる憎悪を、最後の夜天の主として背負うのが務めだと。
そして今度は、フェイトとカルド・イスキエルドの戦闘に介入したルシリオンが映し出された。任務を放り出し好き勝手したカルド隊を一瞬で倒した光景が映し出された。そのあまりにも呆気ないカルド隊の消滅に放心するしかないなのは達。

「でもルシルさんはカルド隊に謹慎するように言ってるんですから、また現れるんですよね」

「どれくらいの期間は判らないけど、すぐにカルド隊と戦闘になるってことは無いと思う」

「これを見たら、はやてちゃんに押されていたルシル君が何だったのか判らないよ」

なのは達は思ったことを口に出していく。場面はフェイトとルシリオンの短過ぎる会話へと移る。ルシリオンの発した言葉で、彼が全てを完全に忘れていないことを全員が知った。少なくともフェイトのことは少なからず残っているようだと。さらに謎が深まるルシリオンだった。
ミッドチルダでの戦闘はこれで終わり、映像が途切れる。さらにモニターが幾つも展開され、様々な世界の様子を映し出した。

「テスタメントが現れたんはミッドチルダだけやない。ほぼ同時刻に第3管理世界ヴァイゼン。第4管理世界カルナログ。第18管理世界ユークトバニア。第44管理世界オーシア。さらに時間を開けて、他の管理世界にもテスタメントは現れた」

モニターに映る“テスタメント”の幹部たち。場面が変わり、映し出されたその光景に息を飲むなのは達。管理局所属の空戦・陸戦魔導師たちを一蹴していく白コートの幹部たちが映し出された。
マルフィール隊の3人が、“レジスタンス”との合流を妨害する航空部隊を完璧に統制のとれた空戦軌道で撃墜していく。グラナードは、召喚した無限の永遠ラギオンと共に航空部隊をかく乱し、手玉に取る。高らかに笑い声を上げるその姿が激しく印象に残ってしまう。

「この人の動き、ストライクアーツ・・・?」

スバルがある1人の白コートの動きを見て呟く。女性幹部の1人であるアマティスタだ。第18管理世界ユークトバニアの陸戦魔導師を拳打や蹴打だけで吹っ飛ばしていく。
ストライクアーツとは、ミッドチルダで最も競技人口の多い格闘技で、広義では『打撃による格闘技術』の総称のことだ。アマティスタの攻撃方法はまさにそれだった。
だがスバルは彼女の動きにぎこちなさを感じていた。何かが抜けているかのような感覚だ。それがハッキリしない。そしてそれがハッキリしたとき、スバルは思い知ることとなる。アマティスタこそスバルが乗り越えなくてはならない相手だと。

「遠距離からの支援射砲撃がすごい・・・!」

ティアナが正確な射撃と砲撃による支援攻撃を放つ白コートを見て、純粋に称賛した。その白コートの名はアグアマリナ。彼の両手には2挺の銃が握られている。
片方は白い大型のハンドガン。S&W M500と呼ばれる銃に酷似した物だ。銃身の下部には銃と同様に白い50cm程の刃が取り付けられており、黄色の魔力を纏っている。もう片方は銃身が90cmはあろうかという黒いライフルだ。銃身の上下には1mくらいの黒い刃が取り付けられており、白銃の刃と同様に黄色の魔力を纏っている。
アグアマリナはその特徴的な白銃で射撃魔法を、黒銃で砲撃を放っている。狙いは正確。アマティスタの動きを邪魔しないように撃ちこまれる。
それぞれが管理局員を一蹴し、悠々と“レジスタンス”と合流する様が映し出される。そして“テスタメント”の幹部たちはポケットに手を突っ込み、何かを取り出した。

「帆船のおもちゃ・・・?」

なのはが呟く。“テスタメント”の幹部たちが取り出したのは帆船の模型だった。それを空高く放り投げ、キーワードを口にした。

『目醒めの刻。スキーズブラズニル!』

蒼の光が発せられたと同時にモニターが激しいノイズに乱れる。次第に蒼の光が収束していき、モニターのノイズも治まる。そしてモニターに映るその光景に、なのは達はまたも絶句するしかなかった。

「これって、まさか!」

「み、見たことあります。ルシルさんとシャルさんの記憶の中で・・・」

モニターに映るのは巨大帆船“スキーズブラズニル”。それはかつてルシリオンとシャルロッテに見せてもらった2人の真実(きおく)の中で出てきた、アースガルド同盟軍の有する巨大戦艦だった。

「こんなものまで持ち出せるんか、ルシル君は・・・!」

ミッドチルダ南部でも同様に“巨大帆船スキーズブラズニル”が現れたとの目撃情報はあった。だがそれを捉えた映像が無かった。リインフォースの放ったアイゼンゲホイルの影響の所為だ。ジャミング効果もあるその魔法によってサーチャーが機能しなかったのだ。そして“テスタメント”と“レジスタンス”が合流を果たし、その姿を消してく場面に変わる。

「これは本格的にまずいな。再誕神話時代の戦艦となると、やっぱり神秘いうんがあるんやろね」

はやての口にしたある単語に、口にした本人であるはやてを含めた全員が言葉を失うほどに衝撃を受けた。“神秘”。現代の次元世界には無い力。その単語1つで複雑なパズルが組み上がっていく感覚を全員が得ていた。
早く気付くべきだったとなのは達は思った。ルシリオンがこの世界にいる時点で真っ先に思い出すべき単語であることを。はやてがコンソールを操作して、再度、各管理世界に姿を現した“テスタメント”達の戦闘シーンをモニターに映し出した。

「グラナードのラギオン。カルド隊のゼルファーダ」

「フェイトさんとシグナム一尉とヴィータ教導官の攻撃が入らなかった理由が神秘によるものなら納得がいきますね」

映し出された異形の存在、ラギオンとゼルファーダ。今ある謎に神秘というピースを当てはめていく。

「リインフォースさんもラギオンもゼルファーダも、全部ルシル君の使い魔かもしれない」

「エインヘリヤルでしたっけ。ルシルさんの使い魔は」

「カルド隊の命令より、ルシルさんの命令でゼルファーダは還りました。決めつけるの早いかもしれないですが、それで間違いないかもしれませんよ」

「ルシルが魔法や能力・武器を複製したと同時に、その使用者の複製を使い魔とする力。ルシルは初代リインフォースの魔法を複製してたはずだよ、はやて」

ラギオンとゼルファーダがルシリオンの使い魔、“異界英雄エインヘリヤル”なら、もちろん神秘を有しているはず。それならあの異常な強さにも納得が出来ると全員が思った。しかしそれと同時に思い知る。相手は神秘を有する集団で、こちらにはそれに対抗する術が無いと。この推測が当たっていれば、敗北は必至だということに。

「諦めるんは早いよ、みんな。どちらもまだどうにか出来る。グラナードとラギオンを引き離すことが出来ればまだ勝機はある。そしてゼルファーダ。カルド隊がゼルファーダを召喚する前にカルド隊を落とす。ルシル君も言うてた。“ゼルファーダがいなければ何もできない”って。これはかなり無茶がある策やけど、絶対に無理な話やないはずや」

はやてが苦し紛れに出した策だったが、それが実現不可能な策ではないことが判るなのは達。なのは達も沈んだ気持ちを何とか出来るという前向きな気持ちへと切り替える。

「そうだね、まだ諦めるのは早い」

フェイトが全員を見回す。

「逆に言えば、ルシルさんをどうにか出来れば勝てるってことですし」

「ティアさんの言う通り僕たちの推測通りなら、確かにそれで僕たちの勝ちに出来ますね」

ティアナの言葉にエリオも賛同した。優先順位が決定したことで、為すべきことが判りやすくなった。何としても最初にルシリオンを捕まえる。まずはそれからだと。モニターに今日までのルシリオンの行動が映し出される。まず映し出されたのは本局での戦闘だ。

「本局では飛行せずに跳躍と走行だけの移動。それでもフェイトさんとクロノ提督の動きに対応出来ていますね」

「魔力弾や魔力刃、魔力流による攻防。使われた属性は今のところは炎熱だけ」

「それでも防御力や反応速度はやっぱりすごいです」

キャロが、フェイトとクロノの同時攻撃を受けきり、迫るプラズマランサーを真っ向から魔力で構成された大鎌で迎撃していくルシリオンを見て驚嘆する。

「でもやっぱりルシル君はおかしい。ちゃんとした魔術を使う形跡が全く見られない」

本局でのフェイトとクロノとの戦闘で得られた情報。そして次は南部海上でのはやてとの戦闘シーンが映し出される。

「ミッドとカルナログを襲った散弾砲はルシル君のもので間違いないね」

「魔術のようだけど、でもこれはまだ魔法の域かな・・・? 魔術だったらこんなにも簡単に迎撃できるわけないし・・・」

なのは達は知らない。昨日と2日前にルシリオンが放った次元跳躍散弾砲撃ペカド・カスティガルと呼ばれる散弾砲が本当の威力ではなかったことを。

「今回はちゃんと飛行してるけど、でも空戦形態にはなってない」

「それは私もさっき見た映像で気付いた。ルシル君、空戦形態になっとればフレースヴェルグだって簡単に回避できるはずやのに、アンピエルだけで対処しとった」

「それに、確か“我が手に携えしは確かなる幻想”っていう呪文の後に使うのって複製された魔法とかですよね?」

「うん・・・。もしかして昔のように使えないのかも・・・」

なのはの口にした昔という言葉に、?と首を傾げるその当時を知らないスバル達。

「なのはちゃんの言う通りかもしれへんな。闇の書事件以前、ルシル君は界律に制限されてて攻撃用の魔術が使えなかったんやろ?」

なのはとはやてが話す隣で、フェイトがスバル達へと補足している。当時のルシリオンは魔術のほとんどが碌に使えないほどにその力を制限されていたことを。

「はやてちゃんに押され始めても魔術を使う様子は無いね。そして選んだのが・・・」

「リインフォースとのユニゾン、ということやね」

「使われたのはリインフォースさんが使っていた古代ベルカ式の魔法。やっぱりルシル君の魔術じゃない」

「これはチャンスかもしれへんね。魔術が使えへんのやったらそれだけでも十分に脅威レベルが低くなる」

なのはが頷き、なのはとはやてに視線を向けられたフェイト達も頷いた。ルシリオンの脅威はまずバリエーションの豊富な魔術にある。その魔術がすべてと言わずとも制限されていることは、なのは達にとって都合の良いことに違いなかった。
そして最後に北部においての戦闘介入の映像へと切り替わったそのとき。

『特務六課へ緊急出動要請。第39管理世界エルジア・魔導紛争地域内にてテスタメントを発見。至急、第39管理世界エルジアへ出動してください。繰り返します――』

「エルジアの紛争地域!? 管理局でも下手に手が出せないのに!」

世界名を聞いたエリオが驚愕の声を上げた。

「話は後や! ヴォルフラム、出航の準備は出来とるか!?」

『こちらヴォルフラムのリインフォースⅡですっ! はやてちゃん、ヴォルフラムはいつでも行けますよっ!!』

モニターが展開され、映り出されたのは“ヴォルフラム”の艦橋だ。はやての呼びかけに答えたのはリインだった。隣に立つアギト共々すっかり回復した様子だ。はやては少し笑みを見せ、これから共に戦う仲間へと告げた。

「よしっ! 特務六課、この事件を必ず解決するよ!!」

「「「「「「了解!!」」」」」」 
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