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覇王と修羅王

作者:鉄屋
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自称王と他称王
  五話

「ノーヴェ、アレクさんは見つかった?」
「いや、まだ見つかってない」
「……そっか」

 早朝のランニング途中、立ち寄った公園でヴィヴィオはノーヴェに問い掛けるが、返ってきた答えに少し肩を落とす。
 一昨日のスパーの後、アレクは目にも止まらぬ速さで消えて行った。そしてその後は、ノーヴェもアレクに会えないでいる。昨日、一昨日とアレクの部屋にティアナ等と共に行ってみたが、帰ってきた形跡は無いらしい。
 ただ、直接通信こそ出来ていないが、メールの返答は全部ではないがあるという。

「一番新しいのは何て返ってきたの? 何処にいるか書いてあったの?」
「……暴風に飛ばされて風になりかけやした。もうちょっとで鳥に神化できるかも! だと。神化どころか鳥頭に退化したような内容だったよ。第一、神化じゃなくて進化だろうに」
「あははは、そうなんだ」

 何をしてるか判らないが元気でいるのだろう。
 だから悲痛することじゃないとヴィヴィオは思うが、一昨日スパーした後なので気になるし、話したいこともある。アレクの事や現状は勿論、同じくらいアインハルトとの間柄も知りたい。
 一昨日、アレクに襲い掛かったアインハルトの様子は普通ではなかった。ノーヴェからアインハルトの事情を聞いたので、とりあえずの納得はしている。恐らく、自分が弱すぎたからアレクに固執している、と。
 だが、何故アレクに固執するのかは、ノーヴェも教えてくれないので分からない。何か事情があるんだろうと聞かずにいるが、やはり気になってしまう。一応、アレクさんもまた誰かの血統だからかな、と何となく察しているとしても。
 どうにか会えないかな、と考えて……閃いた。

「ねえノーヴェ。アレクさんが持ってるの、普通の通信端末なんだよね?」
「ああ、あいつはデバイス持ってなかったからな」
「じゃあ連絡先教えて。わたしからだったら通じると思うの! ね、クリス?」
「なるほど、確かにな」

 任せろ、と胸を叩くクリスにノーヴェはアレクの連絡先を送る。
 受け取り終わったクリスはすぐに繋ぎ……ガッツポーズをとった。直接通信接続成功、ということだろう。
 そして表示されたウインドウを前に待つこと数秒。確実に半分以上寝ているアレクの顔が映った。

「アレクさん、お早うございます! ヴィヴィオです!」
『んあ? おはよう目覚まし……?』
「目覚ましじゃないですよ! 一昨日スパーしたヴィヴィオですよぉ!」
『お、おぅ? ……M女?』
「ほえ? えむじょ?」
「……まだ寝ぼけてるな」

 ノーヴェは一応無事らしいアレクの姿に安堵する。ただ、あまりにいつも通りなので心配して損した気分になってしまったが。
 次いで、ヴィヴィオの呼びかけで段々目覚めていくアレクに何か言ってやりたい気もするが、自分は後とノーヴェは静観を決め込もうとする。が、アレクの指先が好からぬ方へ向かっていたので声を荒げてしまう。

「って、通信切ろうとするな!」
「あっ、待ってください! アレクさんにどうしても聞いてほしい事があるんです!」
『……どうしても?』
「はい、どうしてもです! お願いします、聞いてください」

 ヴィヴィオの真剣な顔に、アレクは考えるように頭をガリガリ掻いてから「どうぞ」と項垂れながら端的に聞く胸を示した。

「あの、どうにかもう一度アインハルトさんと向き合って、ちゃんとした形で試合したいんです。わたしはまだまだ弱いけど、趣味と遊びでストライクアーツをやってるんじゃないんだって伝えたいんです」
『……同じガッコだし、普通に会って約束すればいいんじゃねえの?』
「でもヴィヴィオは目に入ってないというか、見向きもされない感じなんで……」
『だからアイツとの仲を俺に取り持ってもらいたい?』
「……はい。わたしが弱くてがっかりさせちゃったから、アレクさんに襲い掛かったと思うので……ダメでしょうか? もう一度、もう一度だけでいいんです!」

 ヴィヴィオの必死で真っ直ぐな訴えにアレクは呻きながら悩む素振りを見せる。
 そんな二人にノーヴェは後ろめたさを感じ少し影を落とした。ヴィヴィオとアインハルトを引き合わせたのは他ならぬ自分だからだ。
 会えば何か変わるだろうと対面させた結果、アインハルトは確かに変わりはした。ただ、望む方ではなく、悪い方へ、だが。
 今のアインハルトはアレクの事だけしか目が入らない。アレクの中に垣間見たらしい王を切望している。
 そして、その為にとった行動は……アレクに伝えておかなければならない。

「……アレク、あたしからもお前に伝えなきゃならないことがある」
『へい? まだ暴風圏に戻れませんよ』
「そうじゃない。一昨日のスパーの後、お前の家に行ったんだが……その時アインハルトも付いてきたんだ」
『今度はアイツが物色したんすか?』
「……ああ。ベッドの下にあった武具の手甲らしきもんを持って行きやがった」
『はあ……はあ!?』
「悪い、あたし等のミスだ。家の中を見回るあたし等の隙をついて掠め取ったみたいだ」
『え~……一応それっぽく察せるんですが、あえて訊きやす。あやつは、なして、そないなことを?』
「取り戻しにやってきた時に戦う為か、武具を装着させて戦う為、ってのがあたし達の見立てだ。昨日会った時も肌身離さず持っていたみたいだし」
『装着って、あれのサイズに合うまで何年掛かることやら……ってかアイツ、そこまで付き纏う気かっ!?』

 盗難被害でも出すか、とアレクは一瞬考えるが、出せば説明の為に自身も出頭しなければならないし、その時に顔を合わせて余計に拗れて面倒になる気がした。超メンドくせえっ、と頭を抱えて画面の端から端へ行ったり来たり、激しく転げ回る。
 ノーヴェもあの時はあまりに迂闊だったと渋い顔をする。無理にでも取り上げようか、とティアナ等と話し合いもしたが、実行した後にアインハルトがどんな行動に出るか予想がつかない。なのでアレクには悪いが少し預けて様子を見るといった方向でいるが、勿論アレクが返却を望むのなら手甲を取り戻す積もりではいる。
 ただ、アインハルトの愚行を止めるには、一度はアレクに手合いしてもらう必要がある。
 どうしようか、と其々悩む二人へヴィヴィオが合いの手を入れた。

「あのあの、武具のサイズが大きいなら大人モードになって合わせればいいとヴィヴィオは思うんですが……」
『大人モードってなんぞ?』
「えっと、そのまま大人の姿に成る魔法なんですが……。あ、クリス!」

 逆様の状態で首を傾げるアレクに、ヴィヴィオは見てもらった方が早いとセットアップを済ます。
 その途端、大きく成った姿を表すヴィヴィオにアレクはアインハルトも同じような事してたな、と理解を示す……が、また再び転がりだした。
 どうしたんだろ、今度はヴィヴィオが首を傾げてしまったが、ノーヴェには簡単に解った。

「確かお前、魔法の成績も悪かったな」
『……デバイス、特にインテリデバイスさえあれば……カンニングし放題なのに……』

 ヴィヴィオはノーヴェの呟きで項垂れるアレクの心中を若干苦笑気味で察するが、魔法にも向き不向き得意不得意があるので、デバイスが無いなら仕方ないなぁ、と思ったりもする。
 だが、変身魔法はさほど難しくない、とも思う。幸い、ヴィヴィオはベルカとミッドのハイブリッドなので、どちらの術式にも精通している。
 なので術式さえ渡せば解決するだろう。ヴィヴィオはそう思い、アレクにタイプを訊いた。

「あの、術式ならお渡ししますよ。アレクさんはミッド式ですか? それともベルカ式ですか? 適合する方で――」
『真正古代ベルカだけど、ある?』
「……えっと……ご免なさい、無いです」
『ぐわぁ』

 インテリデバイスを欲しがっていたのでてっきりミッドかベルカと思っていたが、まさか真正古代ベルカだったとは。自分が振った事でとうとうアレクが轟沈したので、ヴィヴィオはとても悪い事をした気分になってしまう。

『なんでこんな資質で生まれたし……』
「あっ、でもでも一家揃って真正古代ベルカ式の知り合いが居るのでなんとかなると思います! もしかしたらデバイスもなんとかしてくれるかもしれません!」
『術式はまだしも……デバイスはいいや』
「え!? なんでですか!?」
『いや、なんでって……』

 分からないと疑問を投げるヴィヴィオに、アレクも流石に苦笑した。
 一時期アレクもデバイスを持とうとデバイスショップに行ったことがある。ただ、年々増加するミッド式や近代ベルカ式に比べ、真正古代ベルカ式は衰退する傾向にあり、ショップを見回ったが扱っている所があまり無かった。漸く見つけた所でも身体資質に合った物の見積もりを出してもらったが、パーツの殆んどがオーダーメイドの一品物で、目が飛び出るかと思うくらいに高額だった。そこから更に微調整やらで値段が追加されたので、アレクはデバイス所持を断念した。
 なのでデバイスをくれると聞いても、アレクは簡単に飛び付く気になれない。一応一人暮らしをしているので尚更に。貰える物は貰う主義でも、見知らぬ人からの高額な物は遠慮したかった。
 だが、デバイスを貰ったヴィヴィオには金銭感覚が無く、手伝い感覚で言っているのでアレクが断る理由が分からない。それに、今迄の話を聞く限りやはりアレクも何処かの血統かもしれない、と察がついていたので、何か力になりたかった。

「あ~、ちょっといいか?」

 見兼ねたノーヴェが一端切る。二人の話がデバイス作成と明後日の方へ行き始めた事もあるが、少し気になることが出来た。
 今迄のアレクなら何かと逃げようとして、正面から向き合って話もしようとしなかった。
 だが、今回も最初は逃げようとしたが、此方の質問には答えていて通信を切ろうとはしていない。アインハルトに関する事でも、奇怪な言動は変わらないが逃げる様な素振りは見受けられなかった。

「アレク、お前はアインハルトと戦う気があるのか?」
『その積もりっす』

 あまりに何時も通りの口調なのでノーヴェは判断に困ったが、何故気が変わった等の追及はしなかった。下手に突いて逃げられた方が厄介だからだ。

「何時戻ってくるんだ?」
『ん~来週頭には戻れるペース……かなぁ?』
「じゃあ試合日は来週末でいいな?」
『たぶん問題無いっす』
「アインハルトにも伝えるぞ?」
『うい、お願いしやす。……あ、姐さん達は来るんすか?』
「ああ、間違い無く来ると思う。何か不味いなら席を外させるけど?」
『いえいえ、大丈夫っす。是非お越し下さいと言うついでに、姐さんには帰った時に是非殴らないで下さいと言っといてくださぁい』
「……まあ、一応言っとく」

 確約とまでは到底行かないが此処まで言うなら信じてもいいかな、とノーヴェは一応信用することにした。何処で何をしてるかは気になるが、それは帰ってきた時に聞けばいいだろう。ただ、学校をサボっているので、帰った後にティアナから説教されるかもしれないが、その事は黙っておこう。
 兎に角、ノーヴェは訊く事は訊いたと一歩引くと、ヴィヴィオが待ってましたと画面に食い付いた。

「アレクさん!」
『これは録画された映像であり、この発言の後、自動通信切断羅刹機アルクオフの気分で遮断されます』
「今まで話してたのに!? それに切るの結局アレクさんじゃないですかぁ!? あっ、あっ、待って下さい、切らないでくださーい!」
『だってデバイス貰ったってカンニング出来なきゃ意味ないし?』
「それ絶対にデバイスの使い方間違ってますよぉ! 大人モード使えなくていいんですかぁ?」
『大人モードは……確かアインハルトの奴もデバイス無しで使ってたな。あいつも真正古代ベルカだし、帰ってから姐さん挟んで訊いてみるわ』
「え、えぇー……」
『ところで、話は変わるがヴィヴィオちゃんや』
「はい?」
『かなり話してたけど、時間は大丈夫かね?』
「え? ……にゃー!? もうこんな時間!?」

 ヴィヴィオはアレクの指摘で漸く時間の経過に気付くと、挨拶もそこそこに愛機のクリスも忘れ、あたふたと駆けて行った。
 その背を画面越しに見送ったアレクは、思い出した様にポツリと言った。

『そういや、再戦取次の話はいいのかね?』
「今更言うか、お前」

 
 

 
後書き
ほんとは一巻ラストの戦闘突入してる予定でしたが、なんかグダグダ続いてしまいました…… 
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