戦争を知る世代
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第十一話 想う
前書き
こんにちは、mootaです。
昨日に引き続きいての更新です。
今回はこれまでで一番長い話になりました。ちょっと読むのがめんどくさいかもしれませんが、最後まで読んで頂ければ幸いです。
第十一話 想う
火の国暦60年7月8日 深夜~早朝 火の国国境 暁の森
ふしみイナリ
暁の森は背の高い木が鬱蒼と生えている。
その為、もっぱらの移動は木の上を飛び回る、という形になる。
時刻はまだ、丑の刻ー2時を過ぎたばかり。
森の中は、月明かりも鬱蒼とした葉で遮られ、とても暗い。
その中を僕たちはー第88小隊、第79小隊は補給物資を入れた大きなカバンを背負い、急いで移動していた。
結局、作戦は あさのは隊長が考案した“敵が暗闇に乗じて前線部隊の後背に展開する、ということを完全に無視し、普通に前線部隊の後背から行くルートでの補給”というものだ。
・・・ちょっと言い方が悪いと思うのは気のせいだ。
まぁ、そもそも前線部隊が後背を取られるというのは致命的なことだ。それを考えての補給など、前途多難でなかなか行動に移せないだろう。
本来、補給は前に展開する部隊の後ろからするものだ。その補給線を叩かれるというのは、敵に回り込まれるなどして奇襲された場合を言う。つまり、補給線を叩かれる事を想定し、それを叩かれないように最初から部隊を展開するのが常套手段である。補給部隊が敵の奇襲部隊を避ける、というのはあくまでも最終手段なのだ。
だが、今回の戦闘は小規模なものの、そこが想定されていない。敵と対峙し、膠着している前線の地形からして、敵が回り込んで補給線を叩く可能性が低いと安直な考えで部隊が展開されている。しかし、敵は補給線を叩ける力を持っている。つまり、補給線を叩かれる可能性が高い事が容易に考えられ、補給部隊は敵の奇襲部隊を避ける、という最終手段を取るか、全部隊の展開自体を変える方法を取らなければいけない。
でも、すべてはダメだった。
あさのは隊長は、自分の作戦を信じ込んでいる。
この戦場を俯瞰的に捉えてはいない。
さらには、大隊長だ。
今回の戦闘での大隊長は、あさのは隊長の先輩らしい。
ずいぶん、あさのは隊長と仲が良く、彼の作戦をそのまま鵜呑みにしてしまったらしい。
どうなるか分からない。
もちろん、このまま何もなく上手く行くかもしれない。
でも、
僕の心の内は・・・ずっと、警鐘が鳴り響いている。
それは、鳴り止まずに、
少しずつ
少しずつ
大きくなっている。
同時刻 暁の森 深夜~早朝
奈野 ハナ
私達は木の上を、枝から枝へ飛び移って移動している。
第88小隊、第79小隊の計8人で移動している。
暗闇でいまいち分からないけど、隣には イナリがいる。
少しだけ横を見る。
何となくぼやっと見えるシルエット。
・・・見覚えのあるシルエットだ。
つい先程のことを思い出す。
イナリが あさのは隊長に食って掛かっていった。
「楽観的ですね。相手は岩隠れ、土遁を得意とする忍ですよ。」
・・・びっくりした。
本当にびっくりした。
普段の イナリは仔犬みたいに愛くるしい笑顔でニコニコしていて、とても優しい。
たまに、いらないこと言うけど・・・
でも、苦しいこと、辛いことがあっても顔に出さない。
お父さん、お母さんを亡くしたショックで塞ぎ込んでいたところを回復?したあと、それ以降は一度たりとも辛そうな、苦しそうな顔を見たことがない。
それなのに、イナリはとても苦しそうな顔をして、隊長に食って掛かっていた。
私はそれが気になって、つい イナリに声を掛けて、肩に手を伸ばしたの。でも、彼は、大丈夫だよと言って笑いながら私の手をどけた。
その笑顔は・・・いつもの イナリじゃなかった。
どうして?
どうして、そんなに苦しそうなの?
そんな疑問が私の心の中で渦巻いていた。
でも、その答えはすぐに分かった。
「確かに・・・僕は怖いですよ。初めての戦場だし、自分の力に自信だってありません。でも、大切な人を失いたくないから、必死に考えているんです! とても・・・隊長のように楽観的にはなれません。」
彼は隊長のある問いかけに、こう答えた。
“大切な人を失いたくないから、必死に考えているんです!”
きっと、この部分だ。
これが彼を突き動かす気持ち。
“大切な人を失いたくない”
彼は“大切な人を失う辛さ”を知っている。
ううん、それだけじゃない。彼は恐らく・・・“一番”大切な人を失う気持ちを知っている。
その気持ちはきっと、今の戦争の時代でも、全ての人が経験するものじゃない。
本当にその人だけを必要としていて、自分の世界を構成しているパズルのピースのような“大切な人”、その人が自分を造っている人、自分そのものと言える人、それを失う気持ちなんてごく一部の人しか分からないんだと思う。
彼はそれを知ってるんだ、たぶん。
だから、より確実な方法をって食って掛かったんだよね。
でも、結局は あさのは隊長の作戦になった。
イナリはずっと暗い顔をしている。
緊張して、不安で、何かに怯えるような。
でも、私達の視線に気づくと彼は、いつものように笑おうとする。
それはとても痛々しくて、見ていられない。
私は、ここに来る前は戦争に出ることに不安でいっぱいだった。死ぬかも知れない、怖い。そんな思いだった。
でも、彼は自分の事じゃない・・・最初から皆の事を考えてた。皆が死んでしまうのが怖くて。
そんなことを思うと、自分の不安なんてどこかに消えてしまった。
今は、みんなで生き残る、私達を想ってくれる イナリの為に。
きっとそう、みんなもそう思っているはず。
少なくとも カタナはそう思ってる。
さっき、カタナにはこの気持ちを言っておこうと思って声を掛けた。そしたら、彼は・・・
「分かってるよ、だてに幼馴染みじゃないからね。」
そう言ってた。
大丈夫だよ、イナリ。
私達はそんな簡単に死なない。
みんなで一緒に、生き残ろう!
ね、イナリ?
同日 早朝 日の出前 暁の森
あさのはヤクジ
もうすぐだ。
もうすぐ、前線部隊と合流できるだろう。
後ろにうっとしいガキの気配を感じる。
おれの完璧な作戦にいちゃもん付けやがった。
何が・・
「楽観的ですね。相手は岩隠れ、土遁を得意とする忍ですよ。」
・・・だ。
本気で殺してやろうかと思ったぜ。
現在の敵状で、敵が動ける余裕なんてないんだよ。
何も知らないガキのくせに。
俺様は“あさのは ヤクジ”様だ。
中忍の中じゃ、今一番、上忍に近い男なんて呼ばれてるんだぞ。まぁ、言ってくれるのは後輩と おおがけ大隊長くらいだけど。
Aランク5回、Bランク55回、Cランク60回、Dランク30回という経験を持っている。
つまり、あんな何も経験のないガキが言うことと俺の言うこと、どちらが正しいかなんて分かりきってんだよ。
すっと目線を横に向ける。
木の枝に赤い布が巻いてある。
前線部隊の印だ、ここから勢力圏内であることを示している。さて、降りる準備をするか。
後ろのガキどもに向けて、手で合図をする。
“下に降りろ”
と
“集合”
の合図だ。
ガキどもに反応があるのを確認してから、下に向かって滑空する。
スタッ
地面に到着。
順番に俺の周りに奴らが降りてくる。
周りは何メートルもある木で囲われ、視界が悪いとこではある。さらには、日がまだ出ていないこともあり、とても暗い。周りをさっと見渡して、異常がないことを確認した。
その間に全員揃ったようだ。
「さて、さきほど上に前線部隊の印があった。ここは我々の勢力圏内だ。」
「ここから北上し、前線部隊と合流する。」
ちらっと横目にくそガキを見る。
キョロキョロと周りを見渡してやがる。
ちっ、いちいちムカつくガキだな!
「おい!くそガキ!話聞いてんのか!?」
イライラが頂点に近づいていく。
くそガキは反応しない。
まるで俺の言葉など聞こえないかのように、周りを見渡し続けている。
「お前の言ってた事は間違ってただろうがぁ、あぁ!?何ともなくここまで着いた!違うか?!」
もう、けっこう我慢の限界だ。
急にくそガキが俺の方を見る
「あさのは隊長!何か・・・敵が来ます!何となく、分かるんです!」
あぁ?何を言ってんだ、こいつは?
戦場の恐怖でとうとう頭イカれちまったか?
「お前、頭とろけちまったか?」
もはや付き合ってらんねーと思いながら言った。
その直後だ。
急に眩しい光が地面から飛び出して、自分の足元が少しずつ盛り上がるのがわかった。
そして次の瞬間には、
地面が爆発した。
とてつもない身体の痛みと熱を感じ、とっさに身体を丸め込んだ。それと同時に目を開けていられなくなり、ぎゅっと力を込めて閉じた。
な、何だ!?
くそ、何も分からねぇ、痛てぇ!
しばらくして、
強烈な全身の痛みで目を覚ました。
まだ、目がしっかりと開けられず、しかも少し開けるだけとてつもなく眩しく感じた。それでいて、耳はキーンという音が鳴り響いている。
くそ、なんだ?
何が起きた!?
眩しくて目も開けれねぇ。
耳も耳鳴りがひどくて何も聞こえねぇ。
どうなってんだ!?
そうこうしているうちに、少しずつ視界が開けてきた。
ゆっくり、ゆっくりと目を開けたそこに、映っていたものは・・・・・
大きなクレーターだった。
もうもうとクレーターの中心から煙が上がっている。
なんだ・・・これ?
さっきまで森だったところに大きなクレーターができている。
頭が現実の状況に理解が追い付かない。
ふらっと身体を支えられなくなり、その場にペタリと座り込んだ。
べちゃ
ん?
何か座り込んだ時に手がなにかの液体を踏んだようだ。
首をゆっくりと回してそちらを見た。
そこには腕があった。
腕だけがあった。
血の池を作り、その中心には、手から肘までしかない腕があった。
同時刻 暁の森
ふしみイナリ
太陽はその明るい光を撒き散らしながら、昇っている。
周りがよく見える。
もうもうと土煙が立ち昇っている。
一体どれほどの高さまで昇るのか、もう何十メートルもの高さまで立ち昇っている。
せっかく昇った日の光を土煙が隠そうとしていた。
その土煙の下には大きなクレーターが出来ていた。さきほどまで鬱蒼と何メートルもある木が生えていた森は跡形もない。木は吹き飛び、土は掘り返され、えぐれていた。
何が起きたのか?
そんなのはこれ以上になく、明白だ。
ー地面が爆発した。
僕たちがー第88小隊と第79小隊が あさのは隊長の合図で地面に降り、状況を確認していた時にそれが起きた。
あの時、僕は誰かがこちらに近づいてくるのが何となく分かった。それも一人じゃなく、複数で。
それを あさのは隊長に伝えて、その場を離れたかったが隊長は僕の言うことを信じていなかった。
当たり前だ、ついさっき言い合いをしたばかりだし、何の根拠もなく、術を使っていると言うわけでもなく、“敵が来た”なんて言葉を信じるはずがない。
ー何より、時間がなかった。
何かがー敵がー近づいてきたことに気づいたのはけっこう近くになってからだ。隊長達を説得して、その場を離れる時間なんてなかった。
・・・あったことを思い出している場合じゃない。
爆発で吹き飛ばされ、どこかで全身を強く打ったらしく全身が骨折しているのではないかと言うくらい痛い。でも、爆発に巻き込まれた割には火傷をしていない。
どういうことだろう?
とにかく、痛みを我慢して周りを確認する。
舞い上がった土煙が少しずつ落ちてきているのか、視界が少しずつ悪くなっている。
目を凝らして、誰かいないかと探す。
自分から2時の方向に2つ倒れている影が見えた。
!?
誰か倒れている。
全身の痛みをグッと我慢して影の方に走り寄る。
そこには無傷とは言えないが、概ね軽症と言える程度の怪我をした ハナと カタナがいた。
でも、少しおかしい。
ううん、少しじゃない。とても信じがたい光景だった。
倒れている二人は、青い炎に包まれていたのだ。
燃えている・・・そんな感じではない。
僕は・・・この炎を知っている。
あの夜ー両親が死んだ夜に見た炎だ。
何故だか分からない、でもこの炎が二人を守ってくれた。
そう感じた。
青い炎は風で揺れる事もなく、その場でゆらゆらと二人を包み込んでいる。僕がそれに触れようとすると、ふっと消えた。
この炎は一体、何なんだろう?
僕に関することなのか。
分からない、何も手掛かりがない。
そんな場合でもなかった。
僕は二人に話しかける。
「ハナ! カタナ! 大丈夫?!」
ハナの身体を揺すりながら、二人に声をかける。
「「んん、うぅ・・・」」
二人とも反応があった。
よかった・・生きてる!
炎が守ってくれたのだと感じても、不安で不安でどうしようもなかった。もし、僕の勘違いだったら、二人が死んでいたら・・・怖くて怖くてしょうがなかった。
よく見ると、ハナの身体を揺すっていた手は震えていた。
「くそ、身体がバカみたいに痛いな。」
カタナが身体を起こしながら悪態をついている。
カタナは大丈夫そうだ。
よかった。
「ハナ? 大丈夫?」
まだ横たわっているハナを揺する。
「・・・い」
ん?何か言っている。
ー刹那、
僕の顎目掛けて、アッパーが飛んできた。
そして、見事に・・・クリーンヒット!
「がはっ!」
顎に強い衝撃を受けて、耐えきれずにそのまま後ろに倒れこんだ。
「痛いって言ってるでしょーが!バカちん!」
ハナが・・・叫んでる。
顎を擦りながら起き上がる。
「痛い、痛いよ ハナ。」
「 イナリが悪い。どー考えたって悪い。」
じとーっとした目で ハナが僕を見ている。
よかった。大丈夫そうだ。
うん、二人とも大怪我はしていないし、比較的問題ない。
心から安心した。
暖かくて、柔らかい気持ちが自分の心の中に広がっていくのがわかる。・・・本当によかった。
「わっ、ちょっと何で泣いてるの、イナリ?痛かった?」
ハナが心配そうな声をあげる。
気づくと頬を熱い何かが流れていた。
あれ?何で・・・・。
安心して、油断しちゃったかな。
何だかそんなのが可笑しくなってきて・・・
「ふふふ、ふはは!」
笑い出してしまった。
それを見た二人は最初はびっくりした様子だったけど、すぐに笑い出した。
「「「ふふ、ふははは!」」」
三人で笑っていた。
お互いが生きていて、安心して、笑ってしまった。
よかった。
ドォン!
少し向こうで爆発が起きた。
そうだった、まだ終わったわけじゃない。
まだ、何かに襲われたままで、何も解決していなかったことを思い出す。
「何?何が起きたの?」
ハナが爆発した方を見ながら口にする。
「戦ってる?そんな感じに見えるな。くそ、土煙で視界が悪い。」
カタナも爆発した方を凝視している。
もうもうと昇った土煙が少しずつ落ちてきていて、視界が非常に悪い。先程の爆発で、その周りが吹き飛んで少しだけクリアになったが、それでも視界が悪いのには変わらない。空もその土煙のせいなのかとても薄暗い。
「味方と敵が戦ってる。たぶん、前線の攻撃部隊だ。」
僕が答えた。
「分かるのか?!」
「分かるの?!」
ハナと カタナが声を揃えて聞いてきた。
「何となくわかるんだ、何となくね。はっきりとじゃないけど。」
そう、何となく分かる。
自分の頭のなかにイメージが出来るのだ。
自分を中心として、周りに光るものが見える。その光は敵意があるものは赤色に、それ以外は緑色に見える。あくまでも、何となくのイメージだけど、それがアタマのなかで勝手に作られるのだ。それは集中すればするほどはっきりと見えるような気がする。
「攻撃部隊はたぶん、前後挟まれてる。」
「お前が言ってた通りになったってことか。つまり、俺達は攻撃部隊に奇襲を掛けようとしていた敵に見つかり、攻撃された・・・そういうことだよな。」
カタナが僕に確認するように問いかけてくる。
「たぶん・・・そうだと思う。」
状況的には最悪だ。
敵は僕が考えていた通りに前線の攻撃部隊を迂回し、後背に出て、奇襲を掛けようとした。僕たちはその奇襲しようとしていた部隊に突っ込んだような形だろう。いや、そもそも補給線を叩くつもりだったかもしれない。丸一日戦っていた部隊に補給するのは当たり前だ。補給が来ることは予想出来ていただろう。補給線を叩きそのまま攻撃部隊の後背から奇襲をかける。僕ならそうする。
敵は補給線を叩き、攻撃部隊の後背から奇襲、そして川を挟んで対峙していた部隊を一気に総攻撃させた。味方は浮き足だっただろう。油断していたところに完璧なアッパーを食らったのだから。まだ、総崩れになっていないだけマシだ。
ん?そういえば他の皆はどうした?
うちの隊長や第79小隊の皆は。
首をブンブン回して周りを確認する。
不安な気持ちが戻ってきた。
僕たちは無事だった。でも、だからと言ってほかの皆が無事とは限らない。落ち着いた心臓の鼓動がまた忙しなく動き出す。
あの青い炎が他の皆も守ってくれただろうか?
いや、信じがたい。そもそも、あれは僕の意思じゃない。
どうなっているのか分からない。
「イナリ?どうした?」
首をブンブン回してるのが気になったのか、カタナが質問をしてくる。
「二人とも、隊長や79小隊の皆は見た?」
声が大きくなる。
「!? そういえば見てない!」
二人も僕と同じ現実に気づいたのか、首を回して確認する。
・・・ここから見える範囲には居ないようだ。
そもそも、視界もいいほうではない。
移動しようか、そう考えた時だった。
「あれ?まだ生きてるやついるじゃん。」
後ろから、声がした。
はっとして後ろを振り向く。
そこには岩隠れの忍が4人立っていた。
後書き
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
アクションも難しいのてすが、キャラクター同士の会話も何だか書きにくい、そう思ってしまう今日、この頃です。
そろそろ、原作キャラもちゃんと出してはおきたいなぁと思っちゃいますね。
ありがとうございました。
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