戦争を知る世代
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第十話 初陣
前書き
こんにちは、mootaです。
今回は早い更新です。
オリジナル設定がバンバン出てきます。創作しすぎて怒られそうですが。
よろしくお願いいたします。
第十話 初陣
火の国暦60年7月7日 夕方 火の国国境 暁の森
ふしみイナリ
「冗談じゃない。なんで俺が後方支援で、しかも子守りなんだ。」
不機嫌な気持ちを隠しもしない口調だ。
その場の空気が何となく居心地の悪い感じになっていく。
目の前にいるのは、僕たちの小隊の隊長だ。中忍で“あさのは ヤクジ”という名前。外見は赤みがかった茶色の短髪で、きりっとした印象を持つ顔、それと何となく人を見下したような目が特徴的だ。
彼は僕たちとの初顔合わせから不機嫌だった。
というか、ずっと不機嫌だ。
緊急学徒動員策の説明を教室で受けて、チームを先生から発表された後、それぞれのチームの隊長と顔合わせをした。
僕たちも隊長と顔合わせをしたのだが、
彼から聞いた最初の言葉は・・・・
「はぁ・・・」
ため息だった。
それも盛大な。
しかも、僕たちを睨みながら。
そんな人を見て、この人に命を預けるのか・・・と不安に思った。
隣にいた“奈野 ハナ”も“うちは カタナ”も同じように思ったに違いない。
あ、そう、僕のチームは図ったかのようにこの二人はだった。
奈野 ハナは、体術が得意な活発的な女の子。肩までのさらっとした髪、色は栗色。僕とカタナと幼馴染み。花が咲いたように笑うのが特徴的で、その顔を見ると安心する。口癖は「バカちん!」
服装は、スカートのような白い半ズボンに、淡い黄色のくだけたような着物を着ている。僕は、黒の柄入りの半ズボンにくだけた着物だから似たような感じかな。
うちはカタナは、 青い色で、さらっと肩までかかる長い髪を後ろで結んでいる男の子。あの有名なうちは一族の一人。お母さんは戦争で失くし、お父さんと二人暮らし。ハナと一緒で幼馴染みだ。遊んだことはそんなに多くないけど、信頼できる友達かな。服装は、うちはのマークが入った紺色の首まで隠れる襟があるTシャツに、グレーな半ズボン。
話を戻して、
隊長は溜め息のあと、この小隊の今後の予定等を説明してくれたけど、彼の話は4割が不満、5割が自分の武勇伝、そして残り1割が予定等の説明だった。
今後の予定等で分かったことと言えば、この小隊は〈後方支援 補給任務〉が主体となること、近々出陣が予定されており、その際には《支援部隊 後方支援科 通常補給群 第88小隊》として参加する、ということだけだった。
あ、ちなみに木の葉の部隊は3つの部隊、5つの科、13の群によって構成されている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
攻撃部隊 ー 攻撃科 ─ 通常戦闘群
| └ 特殊戦闘群
|
ー 予備戦力科 ─ 通常遊撃群
└ 特殊遊撃群
支援部隊 ー 偵察科 ─ 通常作戦群
| └ 特殊作戦群
| └ 情報作戦群
|
ー 後方支援科 ─ 通常医療群
└ 特殊医療群
└ 通常補給群
└ 特殊補給群
暗殺部隊 ー 暗殺戦術科 ─ 通常戦術群
└ 特殊戦術群
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
現在、木の葉には75個小隊が存在するが、緊急学徒動員策により15個小隊が正式に追加配備された。そして、個々の小隊には番号が与えられる。作戦上はその番号で隊を区別するが、慣例的に小隊長の名前を付けて呼ばれることも多い。通常、役割をはっきりと区別している科、群ではあるが、戦力不足の木の葉では戦闘毎に、科、群が変わることが多い。
と、そんなことを考えている場合ではなかった。
今、僕たちは補給物資が入ったバッグを背負い、通常補給群の他の小隊とどのルートで物資を運ぶか検討しているところだった。周りにいるのは、僕たち第88小隊、第79小隊の2個小隊で、どちらもアカデミーの生徒の小隊だ。
ここは火の国国境 “暁の森”と呼ばれるところで、何メートルもの高い木が鬱蒼と生えている森である。前線では大きな川を挟んで、木の葉4個小隊と岩隠れ4個小隊が対峙している。本日の朝から始まった戦闘は丸一日掛けて行われ、夜になった今、お互いに隊を引いている。丸一日掛けただけに補給が必要で、本来なら前線への補給は特殊補給群が行うのだが、たまたま違う前線に赴いている間に急遽補給ということになった為、僕たち通常補給群が呼ばれた。
ー地図を開きながら隊長同士が話をしている。
「攻撃部隊は膠着状態に入ったままで、このままだと明日の朝まで動く気配はないと本部は考えているらしいです」
第79小隊の隊長が話している。
第79小隊は、隊長に中忍の“轟ゴウ”と、アカデミーの生徒の“トキ”、“アユ”、“ハカリ”の三人がいる。もちろん、同級生だ。
「ああ、それは間違いないだろう。戦闘が始まってから丸一日戦っていたからな。」
あさのは隊長が同意する。
「はい、そして前線は国境の火の国側の大きな川を挟んで膠着している。特に、ここの地形は川が山を削った形で、川の両岸が崖のようになっています。しかもそれが、数キロに渡って続いていますね。」
「そうなると、お互いに回り込んでの奇襲は掛けれないな。」
あさのは隊長が、顎に手を当てて考えている。
轟隊長が顔を上げる。
少し訝しげな顔をしているように見える。
「なぜ、そう言い切れるのですか?」
「はっ、もう少し勉強が必要だな。轟。」
声に侮蔑が含まれている。
「いいか、ここの地形は今、お前が説明した通り、両岸に崖があり、その間を川が流れている。つまり、開けているんだよ、そこは。そんなとこを人が通ってみろ?すぐ分かるだろ。」
開いている地図の川の部分を、すーっと指でなぞる。
「さらに、この地形はここまで続いている。これを迂回してまで回り込むというのもあり得ないだろう。」
な、わかったか?というような顔で轟隊長を見ている。
轟隊長は・・・びっくりしたように呆けている。
・・・なんて楽観的なんだ。
たったそれだけの理由でそこまで言い切れるだろうか。
そう、僕は思ってしまった。
そして・・・
「楽観的ですね。相手は岩隠れ、土遁を得意とする忍ですよ。」
堪えきれずに、つい声に出してしまった。
「あ?」
睨まれた。
「イナリ!」
隣にいたハナが僕の肩を掴む。
僕は一度ハナの方を見て、大丈夫だよと言って、微笑んで肩から手をどけた。そしてもう一度、あさのは隊長の方を見る。
「敵が必ず地面の上を通るとは限りません。もし、地面を潜るなどして川を渡り、攻撃部隊の裏を取ろうとしている敵部隊がいれば、私達は敵部隊に突っ込むようなものです。」
「はっ、下忍でもないアカデミーの生徒が生意気な!敵は丸一日戦っていたのだぞ?そんな気力はない!」
あさのは隊長の目が鋭くなっていく。
「ビビってばかりでは何もできんぞ、くそガキ!状況を多角的に認識し、大胆に行動する。わかるか?・・・お前はただ怖がっているだけだ。」
「確かに・・・僕は怖いですよ。初めての戦場だし、自分の力に自信だってありません。でも、大切な人を失いたくないから、必死に考えているんです! とても・・・隊長のように楽観的にはなれません。」
大切な人・・・その言葉を口にするだけで胸が苦しくなる。
もう、あんな思いはしたくない。
「はっ、何が大切な人だ・・・戦場も知らないガキが。お前は自分の妄想に酔っているんだよ、悲劇のヒーローみたいにな。」
バンっ
隊長が近くにあった木の幹を拳で殴る。
「戦場において、さらには忍として、そんな感情は不要だ。今の時間、天候、地形、敵状、それらを総合的に見て考える。どうだ? 俺の考えが正しい。そうだろう? 轟」
きっ、と轟隊長の方を見る。
目には、否定など許さないと書いてある。
「お前は俺の後輩だ。俺の考えが分かるだろ?」
轟隊長はぎゅっと目をつむり、ゆっくり開けてから答える。
「そうですね、先輩の言う通りです。」
ニヤリ、とあさのは隊長が笑った。
・・・この人は一体何を考えているのだろう。
僕の言ってたことは間違っているのか。
怖がり過ぎてるのだろうか。
?!
誰かが近づいてくるのが分かった。
この感じ・・・味方。
スタッ
木の上から木の葉の忍が私達の下に降りてきた。
「あさのは小隊長、大隊長が補給群の補給計画を直ちに知らせよ、とのことです。」
「わかった。すぐ行こう。」
あさのは隊長は前に出ながら答える。
二人はそのまま木の上に飛び乗り、あっという間に消えていった。
場が・・・静かになる。
木々の葉が擦れる音、虫の鳴き声、鳥の鳴き声、風が森を通る音、話しているときには聞こえなかった音が聞こえる。
「イナリ、大丈夫だよ・・・きっと。」
ハナが震える声で話しかけてくれた。
カタナは何も言わないけれど、ま、大丈夫だろ? みたいな顔をしている。
「イナリくん、大丈夫だよ。あさのは先輩が言ってた事は少し不安要素があるけど、間違いではないから。」
轟隊長が肩をすくめながら言った。
「そうだよ、大丈夫大丈夫!」
「ってかイナリって、あんなに言うタイプだったっけ?」
「俺がいるから大丈夫!」
アユ、トキ、ハカリも声を掛けてくれている。
よく見ると・・みんな震えている。
みんな、それぞれに不安を持っている。
僕たちは本当ならまだアカデミーの生徒だ。来年の3月に卒業試験を受けて下忍となる。そのあと、簡単な任務をこなしてから今やっているような任務につく。なのに、僕たちは色々なものをぶっ飛ばしてここにいる。
怖くない訳がない。
ーその瞬間、
あの光景が浮かぶ。
お堂で倒れている二人の姿。
ふるふると頭を振って、そのイメージを振り崩す。
何とかしないと。
同日 火の国国境 暁の森 岩隠れ側
???
岩隠れ側の陣地には、土遁の術で作られた塹壕が組まれている。その最奥に指揮官の指令所が設けられていた。
塹壕の中は暗く、明かりといえば空の暗幕に輝く月の明かりだけだった。
「敵はどうだ?」
低くドスの効いた声だ。
月明かりでぼやっと見える影が問う。
「はっ、偵察隊の話では今夜攻撃を掛けて来る様子はないとのことです。向こうは相当消耗したようですね。」
こちらは対照的に明るめで通る声だった。
「相手は油断しているか・・・。よし、土遁で地下を進み裏側から奇襲する。それと同時に地上の部隊も総攻撃だ。」
「わかりました。奇襲部隊を編成します。攻撃のタイミングはどういたしますか?」
「日の出だ・・・」
暗幕の中に輝く月に、
少しずつ、
少しずつ、
雲がかかり始めていた。
後書き
最後まで読んで頂いてありがとうございました。
オリジナル設定がすごいことになっていますけど、この辺りを決めとかないとなかなかしっくりこなくて。
これからも細々と書いていきますね。
よろしくお願いいたします。
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