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少年少女の戦極時代Ⅱ

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ヘルヘイム編
  第18話 7分の6の現実 ②



 光実は顔を上げた。地下シェルターに避難してきた市民の中から、舞を呼んだらしい声が上がったのだ。

「あ~、やっと抜けた~」
「舞ねーさん、おひさ」
「あ! あなたたち、リトルスターマインの」

 碧沙と咲を筆頭に4人の子供が、人の群れを潜り抜けて光実たちの前に現れた。

「みんなもフリーステージの下見に来たの?」
「はい。光兄さんから聞いて。でもちがったみたい。光兄さんのせいだからねっ」
「ごめんごめん。聞き間違えたみたい」

 何でもないように碧沙の演技に乗る。こういう時、状況判断力の高い妹には救われる。

「でもちょうどよかった。兄さん、ナッツたちのこと、おねがいしてもいい?」

 引っかかりを覚える。碧沙は「ナッツたち」と言った。ニュアンスからしてその中に碧沙、それに咲は含まれていない。

 屈んで目線を合わせ、どういうことかと問い直す。

「わたしと咲は、今から上にもどるから」

 光実は目を瞠って凍りついた。

 突然の様子に舞たちが首を傾げているのにも構わず、光実は碧沙と咲の細い手首を掴んで隅へと連行した。



「どういうつもり? 地上にいたらスカラーシステムに巻き込まれるんだよ」

 光実は片手ずつ、碧沙と咲の肩を掴んだ。

「知ってる。だから行くの。ね?」
「うん」

 咲はしれっと肯いた。この子ならもしかしたら自分と同じかもしれない、と少しでも感じた自分を光実は殴りに行きたかった。だが今は無関係なのでぐっと堪える。

「試せるだけ試したいの。貴兄さんが――」

 碧沙は胸の前で両手の指を絡め、小首を傾げた。


「わたしがいる地上を、貴兄さんが吹き飛ばせるのか、ね」


 愕然とし、妹の真意を理解した。この妹は、貴虎が沢芽市を焼き払うのやめさせるため、自らの命を抑止力にしようとしているのだ。

「馬鹿、な――」
「ばかなことでもいい。わたしの街だもの。守るためにできることをするのはおかしい?」
「碧沙、それは『できること』じゃない。ただの希望的観測だ! 兄さんは人類の存亡に関わるポジションにいるんだよ。この街なんて将来的な犠牲の3万分の1でしかない。兄さんがためらうはずがないよ」
「そうかもね。でも、やめない。咲も付いててくれるし」

 少女たちは笑い合い、可愛らしく「ね~」などと声を重ねた。

「どうしてだよ、碧沙……死ぬ、かもしれないのに」

 死ぬのは怖い。光実とて、切れ者だろうがただの男子高校生だ。舞が死ぬのと同じくらい、自身の死が怖い。
 それなのにこの妹は、少女たちは、自ら死地に赴くと言う。

「だって沢芽は、わたしたち兄妹が生まれて育った街で、咲たちと出会えた場所だもん。こんなことで無くなっちゃうなんてイヤよ」

 ただの感情論、ただのコドモの屁理屈なのに。光実の頭には碧沙を言いくるめられるだけの言葉が浮かばなかった。

「……だったら僕も行く。女の子二人きりじゃ危ない」
「だめよ。だって光兄さんが守りたいのは、舞さんたちでしょう? 兄さんは舞さんのそばにいてあげなきゃ。自分のキモチに、ウソつかないで」

 光実はつい離れた舞たちを顧みる。――不安げにこちらを見つめて目を離そうとしない舞。世界で一番、幸せでいてほしい人。

 手を取り合って碧沙と咲が駆け出した。一歩を踏み出したが、その後が続かなかった。
 小さな背中に光実は堪らず叫ぶ。

「碧沙!」
「じゃあね、光兄さん。()()()()

 妹は、光実とまた会えると全く疑わない笑顔で、光実の手をすり抜けて行った。 
 

 
後書き
 貴虎は弟(と拙作の妹)大好きです。そんな彼ですが、プロジェクトアークでの人類選別で光実(と碧沙)を生き残らせる気はあったのでしょうか? それとも弟(妹)が選ばれない7分の6になっても良しとしたのでしょうか?
 それともまさか……スイカやら何やらの時みたいにうっかりを発揮して弟妹のことは考えてませんでしたオチが来るのでしょうか(笑) 
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