少年と女神の物語
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第三十五話
「よし、とりあえず聞こう。マジか?」
「おう、マジだ!」
マジだった。
まあ、戦う意思はないみたいだからいいけど・・・三連戦は、何が何でも避けたい。
まつろわぬ神と三連戦とか・・・勝てるかもしれないけど、可能性は低すぎる。
「どうぞ、粗茶ですが」
「ああ、どうも・・・なんで抹茶?アンタら、日本の神格じゃないよな?」
「羅刹の君に合わせさせていただきました。お口に合えばよいのですが」
「それはまた、器用なことで」
俺は飲もうとしてみるが・・・あいにくと、両腕が使えないために飲めそうにない。
「・・・悪い。飲めん」
「ご心配なく。念ずれば勝手に動きますゆえ」
「便利だな・・・あ、本当に動いた」
試しに念じてみれば、確かに器の方が勝手に動いて俺の口元に来る。
そのまま中身を飲んでみると・・・普通に美味かった。でも、これは何か混ざってるよな・・・
「あ・・・傷が治っていく」
「はい。まことに勝手ながら、治癒の霊薬を少しばかり混ぜさせていただきました」
「いや、助かるよ。・・・まあ、シヴァの破壊の権能で壊された腕は、治りそうにないけど」
外側から力をかければ完全に直る“沈まぬ太陽”も、シヴァの持つ破壊の属性までは打ち消せなかったようだ。
治すには、シヴァを殺すしかないんだろうな・・・権能も、そうすれば戻ってきそうだし。何が何でも、あいつを殺さないと。
「さて・・・で?俺をここに呼んだのは何でだ?まさか、俺が死にそうだったから助けたって訳じゃあるまいし」
「まあ、んなわけないわな。用事があったのは、槍のことだ」
「羅刹の君が所有している二振りの槍、“ブリューナク”“ゲイ・ボルグ”のことについてでございます」
「ああ、やっぱりか・・・その前に、一ついいか?」
どうしても気になるところだったため、話をする前に言っておこう。
「ん?どうしたんだ神殺し?」
「いや、その呼び方やめてくれ。戦う相手にされる分にはまあいいんだが、そんな感じでもないし・・・」
「ああ、そうでしたか。では、どのようにお呼びすれば?」
「そうだな・・・まあ、少しくらいは名前も混ぜてくれ」
そう言うと、二人とも同意するように一つ頷いて、呼び方を変えてくれた。
「まあ、そう言うわけで神代武双。相棒たちを出してもらってもいいか?」
「ん、了解」
召喚の術でブリューナクとゲイ・ボルグをだし、目の前に転がす。
手渡したいところではあるんだけど・・・まあ、さっきも言ったように両腕が使えないし。
そして、二人は各々の槍を手にとって、眺めたり弄ったりしている。
「む・・・神代武双。コイツらは、どれくらいのことをしてくれた?」
「ってーと・・・普通の槍でできること以外でか?」
「当然だろ」
となると・・・
「ゲイ・ボルグは三十七に分かれて相手に襲い掛かってくれたな。ブリューナクは・・・ただ一直線に、目的のものまで飛んでくれたな」
ブリューナクの方は、あんまりそれっぽい事をしてくれた記憶がない。
そりゃ、神様を傷つけることはできたけど、そこで終わりだったし・・・
「ふぅん・・・となると、コイツは結構心を開いてくれたのか」
「逆に、こやつはそうでもないようですな。・・・いえ、というよりは私に遠慮している、といったところでしょうか」
「おーい。何の話だ~?」
全く持って話を理解できない。
頼むから、分かるように説明してくれ・・・
「ん?ああ、スマンスマン!つい話し込んじまった!」
「誰とだよ・・・」
「この、槍たちでございます、神代の王よ」
「いや、その呼び方・・・もういいや。で?槍と話してた?」
こいつら、喋るのか?
だとしたら、なんで今まで文句の一つも言ってこなかったのか・・・
「って、それよりも知りたいことがあったんだった。質問してもいいか?」
「おう、いいぜ。何でも聞いてくれや」
「じゃ、遠慮なく・・・なんでその二振りの槍は、地上にあったんだ?それも、十の破片になって」
そう、ずっと気になりつつも、気にしないようにして使っていたことだ。
これだけが分からなくて、何の想像もつかなかった。
竜骨なのかとも考えたけど、それにしては槍が強すぎた。
だから、何の結論にも至れないでいたんだ。
「ああ・・・懐かしいな、オイ。もう何年前になるか・・・オヤジは覚えてるか?」
「さすがに覚えてないなぁ・・・まあ、あのときのことはしっかり覚えておるが」
「うん、じゃあその時のことを説明してくれ」
「たいしたことじゃねえよ。いい加減に地上で暴れるのにも飽きて、親父と一緒に隠居しようか、って話になってな」
「とはいっても、ただ隠居するよりは何か面白いことを残してからの方が面白そうだ、という話になりまして」
流石はまつろわぬ神。面白そうだ、という理由で結構なことをやってくれたようだ。
「で、槍を二つとも残してからこっちにきたんだけどな」
「本人達としてはよく分からないやからに使われる気はなかったようで、勝手にぶつかり合って砕けて、色んなところに飛び散った、というわけでございます」
「それを、俺達が勝手に集めて勝手に元に戻した、って訳か・・・」
「そして、神代の王を十分な実力と認め、再び砕けることなくこうしてここにある、というわけでございます」
まあ、認めてくれたってのは嬉しいことだけど。
「ところで、コイツらはどうやって戻したんだ?人間だけの力じゃ、ここまで戻ることはないはずだぜ?」
「ああ、それか。アテに頼んだんだよ。ほら、アイツは蛇の属性も持ってるから鋼を鍛える側だし」
「ああ、なるほど。それでしたら納得でございます」
そうじゃなければ、完全に戻ることはなかったんだな。
だとしたら、アテがいてくれて本当に良かったな・・・いなかったら何回死んでたんだろう・・・
「さて・・・そういうわけだから、この際だし、正式に神代武双が持ち主になるか?」
「ん?いいのか?てっきり、返せ、って言いに呼んだんだと思ったが」
「別に構いませんよ。これも、使われるほうが嬉しいでしょうし」
ふむ・・・そういうことなら、ありがたく受け取っておくか。
「ま、そうすればコイツらも全力を出せるようになるさ。コイツらには、持ち主以外には使いこなせない、って属性があるからな」
「それゆえ、これまでも中途半端であったのでございます。ですが、正式にあなたが所有者となれば、」
「それもどうにかなる、ってことか」
まあ、今はかなり助かる。
攻撃系の権能が、もう一個しか残ってないし・・・発動条件も、まだ一個残ってるし・・・
「ま、そう言うわけだ。ほれ、これからもコイツのことはよろしくな」
「こちらのことも、存分に使ってやってください」
「軽!?」
実にあっさりとした、受け渡しだった。
「まあ、こいつらもオマエのことを認めてるからな」
「そう言うわけでございますので、どうかよろしくお願いします」
「はぁ・・・分かった。ありがたく、受け取らせてもらう」
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