少年少女の戦極時代Ⅱ
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ヘルヘイム編
第14話 どう使う?
募金活動中にあったことをわいわいと話し合う。面白かったこと、むかついたこと、悲しかったことを共有するように。
笑いながら咲は、こんな時間がいつまでも続けばいいと願った。
(でも、いつまでも、じゃない。たくさんのことが変わったけど、ヘキサが来年でやめちゃうっていうのは変わらないまんま。一番変わってほしい現実がゲンジツのまますぐそこにある)
咲は俯いた。室井咲にとってはヘキサといられる時間が一番大事で、どんなインベスもアーマードライダーもユグドラシルも、それを叶えてくれないことだけが現実。
思い出を作れ。ダンススクールの講師は言った。今日のこともいつか「いい思い出」として語れる日が来るのだろうか。
その未来が来る前に――地球は滅びてはいまいか。
(紘汰くんと戒斗くんも、今頃戦ってるのかな。ユグドラシルと。あたしが一つ思い出を増やすごとに、紘汰くんたちもキズを増やしてるんじゃないのかな)
「――き、咲」
「っ、ヘキサ。なに?」
「むずかしい顔してる。どうしたの」
「聞いて、くれる?」
「もちろん。咲が聞いてほしいんなら、何でも」
ナッツらはナッツらで話に花を咲かせている。ならば自分とヘキサが多少しゃべっても聞こえまい。
「知ってるのに、ひとりだけ今まで通りでいいのかなって」
「ビートライダーズのままでいること?」
「うん。紘汰くんも戒斗くんも、ビートライダーズをやめてまで、ユグドラシルと戦おうとしてる。あたしも一度二人といっしょにつかまったことあるから知ってるの。ユグドラシルが何かよくないことしようとしてるっぽいって。ちらっと。ちょびっとだから。ほんと気の迷い的な。気にしないで」
「気になってるのね。葛葉さんと駆紋さんのこと」
「ん~……あ、だからってヘキサのお兄さんたちをどうこうしたいわけじゃないからね!?」
「分かってるわよ」
言うだけ言って咲は缶ジュースをぐい飲みした。
「――わたしだって、思うことあるもの。兄さんたち、どこへ行こうとしてるんだろう、って。ヘルヘイムって何なのか。ロックシードって何なのか。インベスって何なのか。そんなブキミなモノ調べてどうするのか」
「気になる?」
膝を抱えるヘキサは、小さく首肯した。
「だからってムヤミに知ろうとは思わないわ。貴兄さんがどんなキモチでやってるか分かっちゃったから。兄さんがナイショにしておきたいなら、いいってことにしたの」
ヘキサがここまで信頼するのだから、彼女の兄たちは悪人でない。でもなぜかユグドラシルとビートライダーズはぶつかり合う。
「あーあっ。やましいことじゃないなら最初っからオープンにしてくれたっていいじゃない。事情があるんだったらきょーりょくし合えるかもしれないのに」
ナッツはじめ、チームメイト全員が咲とヘキサ側の話題に参加した。
「そこはほら、オトナってムダにこんがらがるのスキじゃない」
「元はといえばインベスゲームをはやらせたのも、ベルトをバラまいたのも、ぜーんぶユグドラシルなんだよな。そのくせ、インベスが出ても助けてはくれない。なのにインベス事件はぜーんぶあたしらのせい、と」
「……ショアクのコンゲン」
「ヘキサのお兄さん悪く言うな」
「……ごめん。ヘキサ」
「いいわよ、チューやん。実際、貴兄さんのせいでいくらか悪くなったこともあるから――」
「でもってぇ、咲の話によると、葛葉のにーさんとカイトはそんなユグドラシルにケンカ吹っかけようとしてるわけだ。あれ、よく考えるとこれムリゲーじゃね?」
「モン太もそう思う? あたしもよ。ねえ、ナッツ」
「あたしもトモとモン太に一票。二人だけじゃきびしーんじゃないの」
咲は缶を強く握った。缶が小さく凹んだ。
不利な状況でも、性格からして紘汰も戒斗もやめないだろう。それを知っていながら、自分はのうのうとしていていいのか。
「――――、あの、さ」
声を上げると外れた音程になった。
チームメイトの目が一斉に咲に注がれる。強く握った缶が生温かくて気持ち悪い。
「これ、これからどう使おうか」
咲は6人の輪の中心に黒光りする戦極ドライバーを置いた。
後書き
思い出。それが室井咲のキーワードです。
みんなも紘汰と戒斗のしてることはうっすらと知っています。ムリゲーと言われて咲もどきっとしてしまいました。
でもこんな時でもヘキサ関連の悪口は許しません。
抗争が終わって使う必要のなくなった戦極ドライバーの使い道。仲間たちはどんな答えを咲に言うのでしょうか?
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